No.554 生理的嫌悪感のパレード
今日もチェンソーマン映画観に行くぜー!
パソコン壊れてゲームのセーブデータが飛んでたーのしー(IQ3)
あ゛あ゛あ゛あ゛あああああ(嘔吐)
当たり前ではあるが、このチーム分けは単純な戦力バランスだけで行われていない。
誰と誰の相性が良く、誰と誰なら成長を促す事ができ、全体でどう動けば消耗を抑えてボス戦に挑めるか。
ノートはそれらを考えてチーム分けをしている。
場当たり的な効率だけを考えるなら少し賢いければ誰でもできる。しかし指揮官はより長期的な目線で動かねばならない。今だけではなく、これからの事も考えて集団を動かす。
信頼される指揮官とは、大きく勝つ指揮官よりも勝ち続ける指揮官である。今のノートはどちらかと言えば信頼を重要視していた。
戦闘員に難しい事は考えさせずストレスフリーで戦える様に心がける。各メンバーのストレスや希望、成長性、性格、得意不得意、視界の広さにタイプ相性に――――目に見えるパラメータだけを見るのではなく、脳で隠されたパラメータを観る。
ゲームで例えるなら、鑑定を行った時に閲覧出来る情報量が違う。優秀な指揮官ほど常人には感知できないパラメータの数々や隠し設定までもを見通す。
そこから更に取捨選択。見えている情報が多いという事はそこから導き出せる可能性も大きく広がるという事。
見えているパラメータ全てが相性100%になり得ないのは当たり前。見えている選択肢が多いという事は、捨てる選択肢も多いという事。故に見えている物が多い人間ほど常人よりも多くの割り切りをしないといけない。
その割り切る為の指針である基本的目標は何か。
指揮官は決してこの目標を見失ってはならない。
「――――――?」
「ああ、そこでいいから。イタズラはダメだぞ」
Ginger達が戦う一方、ノートはその真ん中に近い位置で前方にも後方にも気を配る。
ノートのコンビはティアだ。そのティアはノートの頭の上にティディベアと手作りアンビちゃん人形を乗せ、肩車の体勢でノートにくっ付いてた。
どこかに行ったのか見失ったり、気づいたら死んでたみたいな事故を避ける為の最善手を考えた結果、この形態に行き着いた。
本当にこれでいいのかという様にティアはお人形でポムポムとノートの頭を突くが、ノートは邪魔するんじゃないの、と手で人形をどかしていた。
『じゃましたらあかんでー!( ゜д゜)』
『そんな顔してもダメ!<(`^´)>』
ノートの頭の上で何をしているか不明だが、グレゴリがティアをあやしているのはグレゴリがわざわざ見せてくるメッセージでわかる。
今のアサイラムでティアと誰が1番仲が良いかと問われれば、満場一致でそれはグレゴリになる。ティアは皆が戦っていると戦いたがるが、ボス戦に備えて温存しておきたいというのがノートの考えだ。
不満を表明する様に今度は両耳をポムポムと人形で叩くティアを無視しつつ、ノートは先行して戦闘しているメギドに脳内で指示を出す。
「(まぁしっかし、遺跡ごとにテイストを変えるなんてご苦労な事だ)」
VRゲームはリアルに近づけ過ぎると、細かい小道具一つで工数が無駄に増える。よって企業レベルでもネット上に配布されている無料のアセットを少し弄った物を使うなんて珍しくない。
幾らAIがクリエイター業まで大体担える様になっていても細かいチェックは人力で、それを上手く配置したりバランスを考えたりとやり始めたらあまりに手間がかかる。
なので単純な飾りのオブジェや壁は壊れない様にしたりするのは普通のゲームなら当たり前の事だ。
なのに、第七世代というフリー素材無しの環境下で、リアルに近い物理演算に壁だろうがなんだろうがぶち壊せる自由さを与えてしまったALLFOなんて怪作が登場してしまった。そりゃ後追いのオンゲーが作れずに他社が頭抱えてるってのもわかるなぁ、と思いつつノートは壁に張っているパイプに手を滑らせる。
城の中はいよいよ工場といった様相であり、パイプに滑らせた指先には何かの薬なのか黒い粉が付いていた。
その質感はリアルのススそのもので、凝りすぎだろとノートは苦笑したくなるが、そのススを鑑定すればあまり呑気に笑っていられる状況でもなかった。
「ひゃぁ!?」
「……始まったかぁ」
適宜ノートがフォローを入れながら、先行チームに追いつかないくらいの距離でノート達が進んでいるとツナが悲鳴をあげる。
その異常は既に事前探索で知っていても、本能的忌避感は如何ともし難い。
ノートがツナの方に視線を向ければ、それを見計った様に眼前に毛虫やムカデ、ゲジゲジの様な不快害虫と形容できる何かが天井からボトボトと落ちてきた。その数と勢いは加速していく。足元が埋まっていく。
それはまさに不快害虫の豪雨。生理的嫌悪感のパレード。
背中に何か小さいものが落ちて這い回る様な奇妙な感覚がする。ゾワゾワとした寒気が身体を舐め回す様に身体を刺激する。足元から多くの何かが這い上がってくる。
男でも思わず悲鳴あげたくなる気色の悪い感覚だが、これがこの黒の女王の城で起きる幻覚の状態異常。青の女王の所では生き物ではないオブジェクトが生き物に見えたりと不安を煽る様な状態異常だったが、黒の女王は小さい羽虫というゲーム上はそこまで深刻ではない存在ではあるが感触のある幻覚を見せてくるという極めて悪質な幻覚を見せてきた。
「(中毒者の世界を体験させられた時に似てるな)」
VR技術の発展は医療にも大きく寄与している。
今までは実感を持って体験できない事をノーリスクで体験出来る。主観でしか味わえない感覚を他者にも体験させられる。
これはカウンセリング技術の向上に大きく役立った。
誰かに常に見られている様な感覚。
悪口を言われている様な感覚。
実体験を得る事で他者の悩みへの理解度が上がる。
しかし、その体験の中には精神的に頑丈でなければ心を蝕む様なものも存在する。
ノートは師匠のせいで本来専門でもない犯罪者へのカウンセリングもする為、心理状態を理解する名目で誓約書を書かないと体験する事を禁じられる様な体験もVRで色々してきた。
だからこそこの程度なら鼻で笑って流せる。
所詮はこんなもんかと。それにしてはだいぶやり過ぎだろとALLFOにツッコみたい気もするが。
「ティア、VM$のフォローしてやって」
『――――!』
ノートが体験させられた、腕をびっしりと虫が覆い、更に中に入り込んでくる様な。眼球の中を小さな細長い虫が蠢き脳の方へ這い回り、耳の中にも何かがこじ開けるように入り込んで鼓膜を破り脳に入り込んでくる。口の中で何かが這い回り食道、気管に潜り込み、臓腑を侵す。幾ら吐き戻しても一向に収まりはしない恐怖。いくら手で振り払っても、蟲は決して体から離れない。
そんな徹底して生理的嫌悪感を刺激して精神的に追い込んでくる感覚ではないが、苦手な人はとことん苦手な幻覚。
ツナみたいなビックリして悲鳴をあげても直ぐに立て直せるならいいが、メンタル面の深くにまで影響が出ると良くない。このメンバーは女性ばかりで多かれ少なかれ動きが悪くなっているが、その中でもノートはVM$が1番深刻そうに見えた。
本当にビビるとあまり声が出ないタイプ。常人よりも視野も広ければ感覚も鋭いので幻覚が的確に悪影響を及ぼす。人間不思議なもので、現実で遭遇したら確実に卒倒する様な人間大の虫とも何度も戦ってたら慣れてくるのだが、現実にいる類のサイズ感の虫を急に目の前に出されると身が竦んでしまう。
ゲーム脳になっていた脳が現実に引き戻されるのだ。
意外、とは思わない。
ツナはなんだかんだ牧場育ちで虫とかその類にかなり耐性が高い。ノートに自分の実家の話をした時には、楽しそうに虫の話もしていた。
Gingerも田舎育ちで肝の太さもトップクラスなので慣れている。家に出た虫も悲鳴一つあげず捕獲して家から追い出せるタイプの人間だ。
JKはメンタルの回復速度が異常なのでもう克服している。
エロマは苦手だろうが強がれる程度にはメンタルが安定している。強がりなのは何も悪いことではないのだ。
ゴロワーズは恐怖心が麻痺しているので気にしていない。他のゲームでの経験が豊富なのも大きい。
その点、生粋の都会育ちなVM$はお化け屋敷みたいなものにはきゃーこわーい!とノリでふざけて一緒にきた男に甘えてみせるくらい出来るが、恐怖の許容値が高い人に見える人ほどその許容値のボーダーを振り切った時に慣れていないので周囲が考えているよりダメージを受けたりする。プライドが高いせいで悲鳴を上げて恐怖を吐き出せもせず蓄積させてしまう。
ノートの要請を受けると、よし来たと言わんばかりにノートのローブのフードにお人形を突っ込み、ティアはえいやっと小さな両手をVM$に向ける。
ティアは出来ることがいっぱいある多彩な存在ではないが、ゴーストにしては珍しく回復系統の能力を持っている。それも精神系への回復魔法だ。
HP、MPが高くても、ALLFOは精神を破壊されて死ぬという事例は既に確認されている。というよりギガスタンピードでノートが盛大にやって日本サーバーを中心にその仕様は広く認知された。
その為ティアの様に精神を回復させる魔法は極めて貴重だ。
もちろんゲームなので感情そのものが前向きになったりはしない。幻覚による目に見えないものが見えたり感触を感じてしまう確率を大きく減らすのだ。また、体が少し暖かく感じる様にもする。
精神と肉体のつながりは強い。吊り橋効果がその中でも有名だが、程良い暖かさは人を前向きにしたり安心させる力がある。
咄嗟にノートの方を向いたVM$に対してノートは何も言わずにサムズアップだけする。
普段あまり手のかからないメンバーだ。周囲を助けを求めるという本能において重要な悲鳴を上げず、黙ってしまうのはプライドが非常に高い証。イジるのは悪手。かと言って下手に言葉で色々とフォローするのもプライドを傷つけるのでダメ。無言で大丈夫だと示すくらいでいい。
VM$は小さく頷き返し、再び前を向いて戦い始めた。
公認カウンセラーの試験の内容に『心理的負荷強度チェック』があります。
その一環で黒の女王の城での幻覚と同じクラスの体験をさせられます。一般人にかけていい負荷限度ギリギリがコレ。因みにこの幻覚、性質が悪いほどキツめの程が見せられるというお仕置き的な側面も。
ノートが先生にやらされてるのは一般制限を完璧に超過してるヤバいヤツです。
色んな症状の人の脳波データを同調させて追体験させるって事も7世代なら可能なんですね。
おまけ
「どうだった?」
「まあこれくらいなら余裕ですね。今日の夢見は若干悪くなりそうですけど」
「実際計測されている脳波から見ても問題はないだろうな。もう少し同調強度を上げてもいいかな?」
「先生って俺なら何しても大丈夫って考えてる節ありますよね」
「テスターをしても壊れないって信頼がおける精神強度を有し、尚且つ的確なフィードバックを上げられる信用のある人材がなかなか見つからなくてな。どこかにそんな便利な人材が落ちていないかい?」
「耐えられそうな人なら何人かは思い当たりますけど、万が一が合ったら不味いですから無理ですね。こっちの世界に関わらせたくないですし」
「そういうことだ」
「はぁ………しゃあないっすね」
そんな感じの師弟会話




