No.549 爆弾フラグ
皆で復習パートですよ
「さて、バレンタインイベント直前だが、改めて明日の黒の女王討伐を前に、色々と現状をおさらいしようか」
そこはリアルのノートの自室。GBHWでの修行でツナとGingerの連携問題も一旦は良しと出来るレベルに仕上がったので、涅色の遺跡のボス、恐らく存在するであろう黒の女王の対策会議を執り行う事になった。
貴重なVRログイン時間を減らさないためにも、今日の会議はリアルのビデオ通話で行われている。
「まず、仮称黄土雲の都そのものについて」
ノート達が各々拠点としていた街の転移門の先のエリア『プエブレスヴァ渓谷』。
このフィールドの推奨ランクは50であり、発見当初から名前を閲覧出来ていた。
このフィールドはあまりに広大でグレゴリの探査能力を使用しても全貌が未だ特定不可。この渓谷には深霊禁山と同じように大きな亀裂が見受けられたり、遺跡や洞窟、更には転移門も確認されている謎多き土地だ。
この地の遺跡群の一つ、アンデッドの巣になっていた場所、その最奥のボスがいた部屋の壁に巨大な亀裂が走っており、そこに不自然に立ち込めた霧の先に黄土雲の都市は存在した。
「霧を境界として、座標軸の狂ったエリアに侵入可能、という特徴は赤月の都と非常に似ている。一方で少々異なる点も見受けられるな」
「赤月の都に侵入するためのエリアには門という人工物があり、天使が門番として存在していました。その上で非常に頑丈な封印も施されていました。また、その門のエリアの周囲にはアラクネ、ラミアと半人の特徴を持つモンスターが巣を形成していました。一方で黄土雲の入り口は特に封印処置がなく、天使の気配もありません。JKさんの証言により、墓所とそれを守るアンデッドとそのボス、亀裂の特徴が他の入り口でも確認できましたので、黄土雲の都への侵入経路はそれが基本であると仮定できます」
ノートの言葉に、今回助手を務めるネオンが補足する。今だ不慣れな相手だと口調が若干怪しいが、慣れている相手に原稿アリで話す分には問題なくスラスラと話せる。むしろそこだけ切り取れば優等生然とした感じで生徒会長を名乗っていても不自然ではない。
なお、いつもならこの手の補佐をするヌコォはノートと同棲中なので、ノートの膝の上でフンスと満足そうに踏ん反りかえっている。ユリンが呪い殺さんばかりにノートの映る画面を見ているがまるで気にしていない。
「ツナ―、大丈夫かー?ついてきてる~?」
「う、うん。がんばる」
現在日本時刻にして23時。オーストラリア在住のツナには大きな時差がない。
ただし、季節は日本と真逆。日本では2月と言えばまだ寒さが残る時期だが、南半球のオーストラリアでは暖かい季節。毎日ハードに海で練習して、その夜に軽い考古学の様な講義を聞かされているツナはかなり眠そうだった。
「ほら、起きる」
「おきでよ~おきでる~」
その為、今日はツナの寮にエロマが遊びに来ている。なんだかんだ言いつつ、リアルで一緒に遊ぶくらいにはツナとエロマの仲は深まっていた。エロマの方はこのような歴史関係は好きなこともあって目がしゃっきりしており、眠そうなツナの肩を揺すって眠らせないようにする。
「トン2も起きろー」
「ん~……」
「起きなさい。貴方が自分でこの時間で良いと言ったのでしょう」
同じ状態なのがトン2と鎌鼬。オリンピックまで残り半年。ハードな練習を終えて眠そうなトン2を半同棲状態の鎌鼬が起こす。
「何故天使勢力が黄土雲の方は放置したのかは知らんが、このアンデッドが根城とするエリア、と言う点では黄土雲も赤月も同じだ。黄土雲の場合、霧の外にもアンデッドがいるのは天使が封じてなかったせいとみられる。そのアンデッドが現地の生物だかを取り込み続けた結果が、俺達が知る亀裂を守るアンデッド達ってのが俺の見解。要するに、基礎的な部分は赤月の都とほぼ同じと考えていい。あの感じ、他にもつながってる場所はあるだろうな」
「次に、黄土雲の都についてフォーカスしていきます」
ノートはまだ赤月の都や渓谷に関して色々と言いたそうな気配があったが、それを話し出すと完徹コース行なのでネオンが上手く割愛する。この男は完徹が珍しくないせいで素のバイタリティーが常人と違うのだ。
「現在黄土雲の都はそれぞれ仮称赤銅、ベビーブルー、そして涅色の3つのエリアが確認されていますが、壁の湾曲具合からエリアは4つ存在するのではないかと推測されています」
今までの『都市』、ダンジョン化している物も含めて、地下帝国などの洞窟系以外だとその全てが円の形状とそれを描く高い壁で成立している。この黄土雲の都の外周の壁も円を描いていると考えて計測すると、ヌコォの計算ではもう一つエリアがあると考えられた。
「赤銅エリアの暗示は宗教と監視社会。赤の女王を絶対的な君主として形成されるフィールドです。徘徊する強めのアンデッドと、家の中にいる通常のアンデッド。これらは通常のアンデッドが市民、徘徊型が監視者と捉えることができます。一番の根拠はノートさんが鑑定で見たティアちゃんの記憶断片…………恐らく、あの刑務所擬きは収容所をモチーフとしています」
ブローチの記憶断片から推理はできるが、一体何の名目で人々が収容されていたかは断定できない。しかし収容された後の末路はその地下に存在する悍ましき研究所が教えてくれた。彼等は人を使って何かをしようとしていたのだ。
ティアもまたその犠牲者の1人と言えるが、彼女の場合は自我もあるし求めていた人形を取り戻しても問題解決して成仏するどころか新しくユニーククエストを発生させた。ティアがどのような末路を経て今の自我を残したゴーストになったのかは不明点が多い。
他特筆する点で言えば、ティア復活最後のキーとなった推定実験体が文字伏せ個体であり、天守閣に通ずる隠し通路を守護していた大寺院のボスに至ってはポリゴン片から復活し文字伏せ個体に化けると言うとんでもないムーブをしてきた。
この2体はおそらくティア参入時限定の敵である可能性が高い。
それはベビーブルーの遺跡にて示唆された。
改めてティアに関する情報共有をノートがしたのち、ネオンが赤の女王について説明する。
赤の女王。
黄土雲の都の1エリア、仮称赤銅遺跡の支配者であり、宗教的に崇められている事が寺院等から見てとれた。
主属性は火属性。一見焼死体が本体に見えるが、実際は杖であり付喪神型のアンデッド。
ボス戦では偽物を作り出す幻影、聴覚障害を引き起こさせパーティーを機能不全に陥れた。この点や直接接する機会のある部下たちに仮面をつけさせていた点に関して、ノートは最初に女王を確認した時の名前といい、女王が患っていたとある精神疾患の暗示ではないかとも述べたが、少し重い話だったのでこれも割愛した。
特筆すべきは女王の最終形態のウェディングドレス。唐突に感じたこの形態だが、ノート達が外壁を登って強引にショートカットした天守閣内を後日ケバプが探索したところ、赤いウェディングドレスと金鎧の騎士の絵画が発見された。
「続いて、ベビーブルーの遺跡について」
ベビーブルーの暗示は階級社会。強大な一部のアンデッドと、その一部として使役される弱小な存在。街の構造も赤銅の遺跡は寺院以外はどれも大体同じような質と大きさだったことに対し、ベビーブルーでは屋敷とスラムという大きな違いのある建造物が存在した。
また、赤銅の遺跡は監視体制を人員によって行っているのに対し、ベビーブルーは機構の形でも移動妨害を起こすギミックがあった。それはまるで、万が一反乱でも起きた時に鎮圧を楽にするための機構にも見えた。
この遺跡では一度JKがティアに相当すると思われる存在と出くわしているが、この時はソロだったために救出を断念。アサイラム加入後に再度訪れても発見できなかったため、クエストを発生させた一組織につきティアのような存在とは一体しか遭遇不可になっていると考えられた。なおこの存在がティアに似ていたような気がしなくもないとはJKは述べていたが、スクショなどで残していなかったので断定はできていない。
ノートの読みでは、複数ティアに類する存在が居て、ユニーク確定までは早い者勝ちだった可能性が高いと観ていた。
「その場合一つ聞きたい。もしJKがティアの救出に成功していた状態で、アサイラムと出会っていたらティアが二体にいる状態になってしまうが、この場合は?」
ノートの纏まりきってない分析を聞き、エロマが授業のように手を挙げて問う。
「これはだいぶ推測が占める要素が多いんだが、ティアは『特定の個人』の霊ではないんじゃないかと思っている。もちろんその中でも優先的にモデルになっている主人格的なものはあるんだろうがな」
「どゆこと?」
「全然わからん」
だんだん頭のエンジンがかかってきたのか、ツナとGingerが首をかしげる。
そこでノートはこのユニーククエストにまつわる現状の考察を教えると、ツナとGingerは何度か質問し、日本勢からもいくつか質問が飛び、補足を得てなるほどと頷いた。
「あー、日本勢には水子の霊っていえばわかりやすいよな。まあさっきのは不確定要素も多いから、ティアに余計なこと言っちゃだめだぞ。そのためにもリアルで情報共有してるんだから」
「Oh I see. I get it now.ティアちゃんって爆弾フラグだらけの子かもしれないってことだね?」
「JKの言い方が一番合ってるな」
ノートは首肯すると、ベビーブルーの遺跡の補足を続けた。
「渓谷攻略」と「黒女王戦」の間に「2年半の長距離蛇行」がたくさんある。




