No.548 Loser mentality
隔離収容施設で
GBHW・Neoの一問一答を投稿しました。
好評なら第二段か、Neoのステージか、シナリオモードの解説でもしようかな………
ノートはこれも伏せていたが、そもそもこの2人は根本的な勘違いをしている。
この2人に必要なのは技術を磨く事ではない。単純な技術そのものはもうよくできている。
大事なのは人の話を聞く事。この2人は発信自体は得意だが、受信は苦手なタイプだ。上手く合わせたいなら、まず周囲が何を見ていて、何をしたいのか考える必要がある。普段の戦闘からどんな風に動いているか、ちゃんと覚えておく必要がある。それを考えてもないのにいきなり連携しようというのがまず無理がある。
ゲーム慣れしていなかったものの、ネオンはしっかりとその基本ができていた。だから加入したてでも難しいポジションながらしっかりとノート達に合わせることができていた。
加入当初のネオンと今のツナ達の技術力を測るなら後者の方が圧倒的に上だ。天と地の差がある。なのにいざ連携となるとまるでダメなのは技術力が原因ではない事の証明である。
とはいえ、ネオンの様に毎回律義に戦術記録を残して寝る前に脳内でイメトレをして予習復習を毎日するような真面目さまではノートも求めていないが。
自分の希望を伝えるのは大事な事。自己表現は2人とも良くできている。
そこから一歩進みたいなら、今度は周囲の人の希望を聞く必要がある。勘違いしてはいけないのは、希望は聞いても叶える必要はないという事だ。それをやりだすとただの大衆の奴隷になる。
高校生時代、ノートは結局トン2と鎌鼬に『人の話を聞く』という意識を能動的に植え付けることはできなかった。ノートもどうしたらいいか明確な答えを持っていなかった。聞くまでもなく察してしまうノートはむしろ何故こんなにもできないのかと愕然とした。そもそもやる気がないのでどうしようもないという根本的な問題に直面した。
最終的に2人がノートに恋をして、ノートの事をもっと知りたい、そう思う事で『人の願望に目を向ける』意識が根付いて解決したが、それは結果論に過ぎない。
その時よりもノートも多くの事を学んだ。だからあの時は出せなかったアンサーが出せる。
ここにきてようやくただただ場当たり的に連携を狙いにいくのではなく、言葉を奪われたからこそ心でお互いの事を理解しようとしたから、奇跡的に噛み合った一回がゴロワーズの策謀を超えた。
しかしまだまだ精度は甘く、その後はより入念に準備してきたゴロワーズに一方的にペシャンコにされてこの膨れっ面だが。
「トン2、鎌鼬。有望な後輩2名に何かいう事ある?アドバイスとか、大事な事とか」
ふらりとミニホームのリビングを通りかかったトン2と鎌鼬。
ツナ&Ginger(+エロマ)のGBHW強化週間なのは2人も知らされており、ゴロワーズのニコニコ顔と2人の表情で何となく状況を理解した。
ツナとGingerは期待するように2人に視線を向ける。
こと連携と言う点において、昔はともかく今のこの2人はずば抜けている。
いや、厳密には連携ですらないか。勝手にこの2人が合わせるのだ。
特に鎌鼬の人と人の間を縫うような変態スナイプは『連携』という概念から既に逸脱している芸当だ。少しミスしたら味方の背中を撃つ大戦犯ムーブになりかねないギャルブル、それをギャンブルにしないから鎌鼬のスナイプは許されている。
トン2も人間性はともかく、ツナとGingerにとって戦闘では非常に頼りになるお姉さんだった。同じ前衛で好きに動いても全く問題なく動くことができて、ピンチの時にいつの間にか近くに居て助けてくれる。どうやってその間合いを上手く測っているのか全然理解できない。
期待するように見つめる二人に、トン2と鎌鼬は即答する。
「「観察」」
それだけ言うと2人はリビングから去っていく。
鎌鼬とて最初から今の変態スナイプが出来たわけではない。数多くのノートとジアの命が犠牲になって会得した技術だ。
味方とぶつからない距離感で、それでいてフォロー出来る立ち位置をトン2が学んだのも「そこ邪魔」とノートとジアが何度も殺されて、殺し合って、死を以て学んでいった代物だ。
トン2と鎌鼬は人の心があんまりわからないというか共感しようとする気が薄い人たちなので、ノートとジアはとにかく観察しろと2人に言い聞かせた。感情を排し、理屈で戦術を仕込み、合理の鎚で鍛え上げ、数多くの仲間殺しの経験を以てして彼女達の『連携』は完成した。普通なら仲間に殺されまくったらキレて関係が完全に破綻してもおかしくないが、ノートとジアはこの2人が強くなる可能性に全賭けしていた。そして賭けに勝った。
トン2と鎌鼬は2人の共同最高傑作の1つ。どんな戦況でも起動する最強のキリングマシーンだ。
その二人がどうして強くなれたか。
観察だ。
敵を見て、味方を見て、動きを覚える。予測する。基本をとことん突き詰めた果ての超絶技巧なのだ。
「トン2!鎌鼬!」
「な~に~?」
「なにかしら?」
あまりにも端的なアドバイスにポカンとするツナとGinger。
ノートはそれを見かねてトン2と鎌鼬を呼び止める。
「明日、2人の引率頼んでいいか?」
「ん~……いいよ~」
「あなたの頼みなら」
言葉で理解できないなら、実戦で見せるのが一番。
そう思い、ノートは2人に教導をお願いする。
「アレ?その場合あたちは?」
「続行。あの二人もお前がガチッたら、GBHW環境であれば相性差で殺せるだろ?」
「え゛っ、無理無理助っ人希望!武器のクオリティ向上であの二人2段階ギアアップするのフォゲットしてませんキャップ!?殺るならキャップとユリン君プリーズ!」
「えぇ!?勝手にやってよぉ」
我関せずとソファーでイベント関連のスレを眺めていたユリンは急に巻き込まれそうになって不満の声を上げる。
「そうだな、俺は予定合って無理だけど、ユリンを入れるのは悪くない。3on3にするか」
相手の事をよく理解したいなら、実は最も適した位置は味方ではない。味方の立ち位置ではその人の顔が見えない。敵に回った時、ようやくその顔が見える。目線の動きが分かる。
アサイラム内でPvPが良く行われるのはただ殺し合いがしたいだけではない。相互理解の為に適したプロセスなのだ。味方である時以上に、敵に回った時、相手が何を考えているか、次は何をしようとしているか、味方である時以上に一生懸命に考えるのだ。
「ユリン、トン2、ツナVSゴロワーズ、鎌鼬、Gingerならバランス良さそうだな」
「うぇ~………」
「頼むよ、ユリン。先輩としてちゃんと後輩にGBHWでの立ち回りを見せてやってくれ」
ソファに近づくとユリンを撫でまわすノート。ユリンはしょうがないなぁ、とため息を吐く。
「手加減無しでいいんだよねぇ?」
「一番キルレ稼いだ人に何かご褒美でも用意した方が燃える?」
「それならOK。絶対に勝つ」
ユリンは紛う事なき天才だ。いや、天才と言う言葉で片づけられない領域に両足で踏み込んでいる。
素のスペックが常人とは違いすぎる。ノートと言う兄貴分がたまたま同じく常人離れした才覚を持っていた為に歩調を合わせる事ができたから、トン2の様に孤独に絶望しておかしくならなかっただけで。
自分が明確に常人と違うのだと理解するに至ったGBHWという世界。ユリンの奥深くにもGBHWは根付いている。
ユリンにとってオンラインゲーム、というよりゲームそのものの基礎は全てがGBHWにある。いわば、面白いとか凄いとかの評価基準がGBHWなのだ。ユリンにとって一番得意なフィールドは依然変わりなくGBHWなのだ。
大体の事は簡単に習得するトン2と鎌鼬が高校生に時に散々苦労して会得した技術を、ユリンは小学生の時に既に会得していたのだ。
そのユリンの動きを見るのはいい刺激になる、ノートはそう判断した。
「あの、私はどうすればいいんだ?」
翌日の予定が決まる一方、放置気味のエロマは思わずと言った様子で問いかけた。
「エロマは逆にソロ続行。エロマはもっと逆に自分を出しな。合わせるんじゃなくて圧倒的な我で周囲を巻き込むんだ」
「私のコーチと同じことを言うのだな」
「体操って自己表現のスポーツでしょ?エロマは審査員の目を気にしすぎなタイプだと俺は予測しているが、間違っているか?」
本当に自分のコーチと同じ事を言うノートにエロマはギョッとする。
そう。GBHWは空気を読まないと死ぬが、読んでばかりだと一生自分のしたいことができない。人の話を聞いているだけではだめなのだ。大声で叫んで周囲に言う事を聞かせる力も要るのだ。
そのどちらも最初から出来たからノートはあの世界で最悪のプレイヤーの一人と評価されたのだ。周囲の願いを見抜き、そしてそれを自分の我で上書きしてどデカイ騒動を起こすプレイヤーにはその才覚が必要なのだ。
「自分のフィールドに周囲を巻き込むんだ。観てもらうんじゃない。魅せ付けろ。私を見ろ、私だけを見ろって叫べ。常識に囚われて、恥ずかしがっているようじゃまだまだ。俺達に勝てない事を当たり前だと思うな。負けを自然と感じるな。簡単に妥協するな。その負け犬根性こそ深く恥じろ。相性では確実に上なんだぞ。その凝り固まった思考をGBHWでほぐすといい。その点で言えば、あの2人の方がよほどよくできているよ。今でも全く折れてない。悩んで、怒って、苦しんでも、勝利から目を逸らしていない。2人と違って自分は上手く周囲に合わせられている?違うね。エロマは妥協してるだけだ。全力を出し切った末の連携じゃない。だからエロマもやってみせろ。誰かに頼らず、ただ一人で。合わせるんじゃない、周囲を合わさせろ」
ガンバレと言わんばかりにポンポンと肩を叩かれ、硬直していたエロマの身体がビクッと反応する。
自分に何かが足りていない自覚があって、それでも何が足りていないか具体的に分かっていなかったソレをいきなり言語化され眼前に突きつけられた衝撃。遅れて苛立ちがゆっくりとやってくる。言うに事を欠いてLoser mentality呼ばわりとは、家族にも友人にも長く指導を受けているコーチにもされたことが無かった。
そうだ、そうとも、認めさせてやる。あの『なんでも分かってます』みたいな面をしている男に。
エロマの負けん気にもようやく火が付いた、ノートの想定通りに。
エロマの異能ピック
ライジン×カミカゼ×ポップ
ユリンがGBHW復帰時にピックしていた異能。別名、廃速駆動ビルド。
当たらなければどうという事はない!をモットーとしているが、パンピーが真似すると気づいたら壁のシミになっているパターンが多い。
普通はポップの代わりにライトハウスなどを使って思考強化したりとか、キャットでアクロバット強化して激突を避けたりダメージを抑えるとか、ベヒモスで硬化してダメージそのものを抑えるなどの対策をとる。そこを更に移動強化するポップをピックするのは常人では耐えきれないスピードで動くのにダメージを抑える手段をリアルプレイヤースキルに依存するという事。
そもそもカミカゼ単体でも練習しないと壁に熱いキスをして勝手に死ぬので、そこに運動強化のライジンでブースト付けてる時点で大分バカ。
車で言えば、ライジンがスポーツカーなら、カミカゼはロケットブースター。スポーツカーにロケットブースターを乗せるというアホ仕様だと思えばいい。
そのヤバいスピードの状態で反射壁を張りまくり自分をスーパーボールのようにして敵の反応速度を超えるスピードで接近して殺すというプロゲーマーでもほとんどまともに使えないようなビルド。(それを当たり前の様に初見で使っていたユリン…………因みにGingerなら同じ事が出来る)
エロマの運動神経でもカミカゼを恒常的に使いながら戦うのは不可能な感じだが、ノートとしてはとにかくエロマから常識の枷を脳から破壊しておきたいのでこのビルドを推薦した。
が、流石に死に過ぎて無理と真っ当なクレームが来たので、二日目からは
リヴァイアサン×カミカゼ×ポップにして
ライジンのブーストの代わりにリヴァイアサンの回復力を採用。エロマの初期特に近い状態にした。




