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No.544 1㎝オーバー

他作品のヤツを投稿するポカをやったのでお詫びに………

すまんな


「ふっ!」


 漆黒の直剣が振るわれる。

 

 大柄な死霊は分厚い鎧に身を包み、これまた分厚く大きな盾で防御をする。その盾には大量のスパイクが生えており、うっかり触ればタダでは済まない。

 形状は長方形で弧を描くように突き出している。古代ローマ兵が愛用したスクトゥムを原型としているのだろう。

 盾の厚さは10cmほど。幅は1mを軽く超え、高さも3m近い。湾曲したその形状は攻撃を逸らすのに本来適しているが、攻撃的なスパイクのせいで逸らす能力は若干下がっている。

 しかしこの盾のコンセプトは防御だけでなく攻撃に主眼を置いている為、それでも問題ない。

 防御でありながらその盾を自ら突き出せばそれは立派な攻撃にもなり得る。


 フィクションの描写のせいで誤解されがちだが、鉄製品は見た目よりも重く丈夫だ。

 この世界の鉄は現実の鉄と同じではない為に厳密な比較こそ不可能だが、プレイヤーのアバターの重量を基準に相対重量を割り出せば重さが大きく乖離しているわけではない事は小学生でもわかる。


 厚さ10cmの合金板と表せばそれまでだが、そもそも人類の身の回りにある鉄製品でも厚さ1cmですら早々ない。それだけ鉄製品は重くて丈夫なのだ。10㎝の厚さなどそれこそ使用される分野はかなり限定される。

 この盾をリアルの鉄の重量で単純計算すると余裕で2tを超える。その鉄の塊でど突かれると人は容易く吹っ飛ぶ。それこそドッチボールなどと言わず、保育園児が投げたボールのスピードですら2tの重量の物にぶつかられたら危険だ。


 ALLFOの世界に於いて、一部の技術は近世後期にすら届くレベルまで発展していながら銃関係の技術発展が異様にお粗末な事に考察勢は疑問を抱いたが、その答えは簡単だった。

 銃があまり役に立たないからだ。


 この世界には魔法やらスキルやらといったリアルにはない不可思議な力があって、防御力増幅などをされるとリアルでは必殺武器に近い銃弾が簡単に無力化されてしまう。

 加えて製作に手間とコストがかかる銃に比べて、魔法は一度習得してしまえば極論物質的なコスト無しで遠距離攻撃が出来る。

 銃より遠距離精密射撃可能な魔法を鍛えた方が早いという結論に至るのは難しい話ではない。


 無論、現環境で言えばリアル兵器の方が強いだろう。対戦車ライフルや重機関銃やロケランを持ち込めばモンスターを圧倒できる。所謂地球舐めんなファンタジーができる。

 しかし銃の歴史は何も一足飛びに今の現代兵器のレベルまで成長したわけではない。例えば、今当たり前のように使われているノートパソコンなども、最初は一室に配管と配線を張り巡らせた巨大な機械でやっとこさ電卓で一瞬で計算できる単純な計算を行うところから始まった。コンピュータの歴史を紐解いたとき、いきなり歴史の最初の方に突然ノートパソコンなどが登場したりはしない。

 あらゆる技術は、少しずつ進化して今のレベルに至ったのだ。

 

 その為、この世界では銃の技術発展が非常に遅れた。

 歴史の最初の方で重火器よりも圧倒的に利便性に優れた遠距離攻撃手段が存在していたからだ。

 加えて、物資の調達手段が限定されている世界であるが故に、物資を潤沢に使う技術の発展が困難だった事も理由として挙げられる。

 大砲に類する研究が進んでいただけまだマシだ。


 加えて防御方面もリアルのそれとは違う。スキルやら魔法などといったよくわからんパワーを使えば2t級の武装を人類がぶん回すこともできるようになってしまう。

 リアルで火縄銃が開発されて技術発展していったのは、その威力が鎧をぶち抜けるパワーを持っていたからだ。

 もしリアルの鉄製防具が全部厚さ1㎝オーバーの鉄製品で構成される世界だったら銃の歴史はリアルのそれとは大きく異なる歴史を辿ったはずだ。小型、軽量化、精密化よりもとにかく威力を上げる方に技術が発展したはずだ。

 

 2tを超える盾を構えてのシールドバッシュは防御でありながら矛でもある。

 対処法を知らないプレイヤーなら下手に受け止めようとして吹っ飛び、体勢を崩して盾に押し潰されてゲームセットだ。

 この世界にはスキルがあるのでカウンターなども可能だが、スキルはプレイヤーだけの専売特許ではない。敵も同じくスキルを使ってくるので競り負けたら終わりだ。


 ノート達は普段から自分たちのランクよりも格上の敵に挑み続けているために感覚が麻痺しがちだが、ランク差はスキルの競り合いになった時に如実に表れる。

 どんなものでも貫く矛とどんな攻撃でも防ぐ盾がぶつかり合ったとき、どちらかが勝つか。リアルであればそれは「矛盾」であると片づけられ、勝敗はつかないとされる。

 しかしALLFOにおいてはランクの高い方が優先される。

 ランクの高い方の人間の存在が優先される。

 

 なぜノート達以外のプレイヤーが推奨ランク以上の場所へ積極的に足を進めていないのかといえば、それは単純な話、戦闘に勝てないからだ。スキルを育てても魔法を育てても、基礎的なランクで劣っているなら敵の攻撃がこちらの防御を当たり前のようにぶち抜いてくるのだ。


 リアルであれば数の暴力は絶対的だ。どんなに個人戦闘能力が高い人間でも、槍を構えて囲んで攻撃し続ければ仕留めるのは難しくない。人外領域の戦闘能力を持つアサイラムの近接職メンバーでも、リアルであれば限界がある。

 ゲームであれば槍でなくとも、魔法で遠距離から囲んで一斉掃射で叩くこともできる。

 足止めに徹して、目潰しをし、感覚器官を徹底的に攻めれば、人間一人を殺すことなど容易だ。

 ではなぜ、第二ギガスピなどでアサイラムメンバーが撃破されなかったといえば、周囲のプレイヤーとアサイラムメンバーの間に圧倒的なランク差があったからだ。

 

 一般プレイヤーの攻撃の効果は半減未満になり、逆にアサイラムメンバーは理不尽を押し付けることができる。

 例えば格下のプレイヤーが攻撃を敵から受けてもやろうとした攻撃を強引にやり遂げるスーパーアーマー効果付きの攻撃を発動しても、格上の攻撃を受ければスーパーアーマーは無視される。ランクの格差とは斯くも理不尽なのだ。

 そうなると1対多でも戦闘が成立してしまうのである。


 ランク上の格上に挑むというのは、本来そのレベルの高難易度戦闘なのだ。

 

 ある種、絶望に近いその一撃。

 それを迎え撃つ存在は小さい。

 体格比で言えば倍くらい上にも横にもサイズが違う両者。

 直剣を振る方の人間は成人間近のアメリカ人女性の中でも小柄な部類に入る体格だ。特に身を屈めるでもなく余裕で大盾に全身を隠せる。


 バッシュ強化とスーパーアーマーに加えてスタン誘発を兼ね備えたシンプルにして強力なスキルによるシールドバッシュ相手に、気負うでもなく直剣は振り抜かれた。

 分厚い鉄塊の盾はスパンと紙をハサミで切るように斬り裂かれる。同時に重戦士の横から唐突に出現した爬虫類の尾が戦士を押して攻撃を逸らす。


 攻撃を受けても強引に事前に行っていた行動を続けるスーパーアーマーの特性は強力だが、その手のスキルは何かしら発動条件がある。

 今回で言えばシールドバッシュに紐づいた効果のため、シールドバッシュそのものが破綻すればスキルが成り立たなくなりスーパーアーマーの特性も消える。


 無論、本来その手の破綻を防ぐのがスーパーアーマーの為、滅多にこのような状態が起きる事はない。

 盾の判定を消失させるには明確な形で盾を破壊しなくてはならない。

 されどスキル強化が乗った状態の厚さ10cmの合金鋼を一撃で破壊するのは不可能に近い。

 故に発動条件はあってないようなものなのだ。

 ――――――相手がその少女でなければ。


 『天叢雲剣』の得意分野は武器破壊。厳密には物質破壊か。

 盾を切り裂き更には鎧も切断し本体まで一撃で切り裂く。


 重量型ファイターは装備破壊を得意とする天叢雲剣からするとカモでしかない。

 

 ただ、アンデッドは侮れない。普通の生物なら完全に致命傷級の攻撃を受けても、対象の殺害を優先して攻撃を継続する。

 尾で押しのけて回避したのは正しい選択だ。

 素早い足さばき。動きに淀みはなく、唐突な尾の横槍で姿勢を大きく崩した重戦士の背後に回り込むと新たに召喚した尾を踏み台に跳ね上がり、脳天から鎧ごとアンデッドを一刀両断する。


 アンデッドは致命判定が通常の生物とは違う。首を切り飛ばしても普通に攻撃を継続するなんてことはよくある。それこそ従来のよくあるゲームのようにHPゲージを削りきらないと止まらない。そんなアンデッドでも流石に一撃で真っ二つにされたら物理的に動きようがない。頭がなくても極論体は動くが、半身だけになったらバランスを保てない。派手に倒れた重戦士はそのまま赤いポリゴン片となって砕け散った。


「わあ!?アブなぁぁぁかーーー!?」 

 

 その少女の戦闘能力に評価をつけるなら花丸だ。一般的なプレイヤーならどうしようもない敵を少ない手数と時間で処理して見せた。

 ただ、それはこの戦闘が少女とアンデッド重戦士のタイマンならばの話だ。今はそうではない。

 甲高い声の方向に少女は視線を向けてギョッとする。自分がいるエリアに溶岩を纏うサメの雨が降り注ごうとしていたからだ。


 サメを放った張本人もあわてて軌道を変えようとするが、サメ召喚はDPSが高く集団召喚が可能な代わりに召喚後の制御能力がほとんどないという弱点を抱えている。一度方向を指定して放ってしまうとどうしようもない。


 少女は咄嗟に尾を複数召喚してシェルターのように展開。自分の身を守る。

 彼女の技量ならサメをすべて切り裂くこともできたが、溶岩サメはその手のカウンターを潰すためのサメでもある。切っても熱量自体が消えるわけではないので、防御力が高い敵にも通用しやすい。


「ごめんね!」

「うむ、いや、今のはうちも良うなかったの」


「そこ、反省はあと」 


 サメの雨をなんとか凌いだ少女に対し、サメフードが特徴的な少女が謝った。

 それを見て天叢雲剣を装備する少女も少し気まずそうな顔をして応えるが、そんなやり取りはあとにしろと無表情な指揮官が叱った。



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いいですか。悪役令嬢ですがジャンル:恋愛ではなく、戦国系です。

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― 新着の感想 ―
更新助かる いつのタイミングの戦闘訓練なんだろ てかジンジャーは初期特進化してんのかな?
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 戦闘訓練?
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