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No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 28



 今回の顛末。

 結論から言えばUADDは完全崩壊した。

 敗戦国の末路と言えばいいのか。誰が悪かったかで酷い責任の押し付け合い。DDの勝利宣言は虚言ではないのだと皆が受け止めた。

 あの拠点に引きこもってたせいでしばらく表舞台に顔を見せていなかったUADDの面々が突然街に全員死に戻りした時点でその宣言は正しいのだと皆理解した。

 なのにみっともなく彼等は「負けていない」「あれは罠だ」と言ってしまったものだから、関係ない人達にまで追及を受けて自爆した。


 前々からお前たちの方針にはついていけなかった。

 あんなに追い込む必要はなかった。

 アサイラムが出てくるなんて聞いてない。

 絶対に勝てると言ったはずなのに。

 

 誰も彼も自分勝手な事ばかり。

 あとはハゲタカが死骸に集るように引き抜き合戦が起きた。

 というより、抜けるタイミングを模索していた人が少なからず居た、というべきか。UADDという組織は元より破綻の兆しはあった。色々な団体がそう見込んで引き抜き工作をかけていた。

 それでもこの戦いで勝てれば、彼等はその名を強固にして飛躍したかもしれないけど、そうはならなかった。全てアサイラムによって台無しになった。


 無論、生産組組合とて黙って見ていた訳ではない。既に先生主導で引き抜きをかけており、今回めでたく生産組組合にアメリカ支部が正式に設立された。凡そ20人くらいは有望な人材を確保出来たと聞いている。半分以上はギャルズ三姉妹の知り合いらしいのが少し怖い。あの3人は一体裏で何をしているのやら。


 声のかからなかった連中、主に弱めの戦闘員は裏切り者だと怨嗟の絶叫をしていたが、生産職は良い素材を供給してもらえないと先細りするしかないのだ。生産組組合という生産職ファーストな団体に生産職が引き抜かれるのも至極当然だった。


 それにより、UADDは縮小ではなく完全解散となった。

 アサイラムが追い討ちの様に正式に支援した事を表明、及びレギオン結成を宣言。『DDに対する執拗な追撃は私刑に他ならず、ゲーム性を著しく歪めている』と強く非難した事がトドメとなったと思われる。


 アサイラムはPKプレイヤーという立場に寄らず、平等にDDとUADDの功罪を評価して、むしろ最初はDDの悪い点を指摘し続けて、その上でUADDはやり過ぎだと結論付けた。だから今回DDに手を貸したのだと。

 PKプレイヤーの抑制に役立っているから、という建前で見逃されていた悪行を詳らかに全世界に公表されたUADDが崩壊するのは当然だった。


 アサイラムは戦わずしてこの手段を取ることもできたはずだ。

 アサイラム統領が自分の名で掲示板にその見解動画を貼れば後は皆が勝手にばら撒く。今のアサイラムはそのレベルの存在にまで大きくなっている。それだけでUADDは動きにくくなったはずだ。

 けどそうではなく、DDと共同で完膚なきまでに叩きのめした後にこの動画を公開した。あまりにも悪辣だ。公開処刑にも等しい。


 力なき正義は無力である。

 正義なき力は暴力である。

 それは先生が弟子に必ず教えている言葉。

 

 UADDのやり方には正当性に疑問がつき始めていたが、それでも力があったから表立って批判されることはなかった。先にあの告発動画を公表してもUADDが完全に崩壊するまでには至らなかったはずだ。

 だからアサイラムは『力』という翼を先に捥いだ。

 『力』の権威を破壊してから、もう片翼の『正義』の翼も捥いでドブ底に蹴り落とした。


 力も無ければ正義も無い。

 であるならば、彼等が幾ら何を主張しようとそれは『雑音』扱いになる。

 無力未満のソレを人はどう扱うか。

 大衆は落ち目の存在に対して異常に冷たい。一度ドブに落ちた犬は囲んで棒で叩く。人気のない上位陣は落ちた時思い切り引きずり降ろされるのだ。二度と這い上がれないように。


 UADDの残党の末路は、一体どうなったのか。

 アサイラムは動画で言い放った。盟友に規則の範疇を超えて私刑を続けるカスに手を貸す者も同罪とし、優先的に潰す、と。その覚悟はして欲しい、我々も見つけ次第UADDと同じ事をその団体にする。そう宣言した。

 前例を盾にして運営まで牽制するそのやり方は悪魔そのものだった。


 アサイラムに『正義』は無いが、誰よりも『力』はある。暴力装置としてこれ以上になく評価されている。

 そして今回は公の場で功罪を平等に評価し、自分達に正義があると表明した。

 今のアサイラムには力も正義も揃った。

 その組織から睨まれたい物好きはいないだろう。セーフティーとして機能するはずの運営も、アサイラムを止めようとしたところで、ではなぜDDの時は止めなかったのかと批判されてしまえば回答は難しいモノとなるだろう。


 正直ここまでやるのかと思った。

 アサイラムは姿を隠していたからこそ強いのだと評価されていたけど、むしろ逆だ。大手を振って表舞台に出てきてからの方が余程恐ろしい。アサイラム統領はゲーム内政治に強過ぎる。


 今回の騒動は皆がアサイラムの、アサイラム統領の恐ろしさを理解する一件となった。

 例外は、多分先生くらい。アサイラム統領の実力をよく知っている先生だけはとても御満悦だった。

 何せ一切手を汚さずにヘイトその他諸々を背負ってアサイラムがUADD崩壊の後始末までつけてくれたから。先生は今回利益しか得ていない。弟子の完璧な仕事ぶりに見たことがないくらい御機嫌だった。表立って感情には出さなかったけど、相当UADDが鬱陶しかったのだと思う。


 さて問題は、UADD以外のアレ。

 映像として私と魔人バブゥさん、ギャルズ三姉妹が撮影してきたそれは、プレイヤーや怪物に関してはモザイクだらけだったが、アナウンスやその他諸々は全て映っていた。


 この映像に関して、先生はアサイラム統領と面識のある大幹部クラスにだけこの映像を共有すると決定した。一般公開するにはあまりにもインパクトが大き過ぎるという判断なのだろう。


 なお、私達からキルを取った謎の存在の正体は未だ不明。

 また、私達が殺されてすぐそのあと、あのエリアの近くで活動していた多数のプレイヤーから約10秒だけ視界が真っ暗になって感覚がおかしくなったという集団バグ報告があったが、運営はこれに対してバグではなくとある事象の影響であると回答。


 その後、元UADD本拠地に再度別部隊が偵察に赴くも、あの拠点は健在だった。


 そうなると結論は一つ。

 なんらかの方法でアサイラムはあのマグマ漬けドラゴンに勝ってしまったと考えるしかない。そうなると、集団バグ報告に対する説明になってない運営の回答の理由もわかる。運営が回答をぼかす時は大体プレイヤー絡みだから。

 そのバグ擬は、対フィールドを超えて対エリア攻撃をアサイラムが使ったと推測出来る。そうでもしないと倒せなかったのだと。


「対聖女との戦闘時よりも強大な力の行使が可能性が高い、か」

「今回真紅の甲冑を装備していませんでしたし、今まで見せていた力とは別なのではないかと」


 私の報告を改めて聞き、先生は暫し思案する。

 先生は敢えてなのか私と魔人バブゥさんで情報のすり合わせをさせなかった。だから魔人バブゥさんからはまた違った見解に基づいた報告されていると思う。


「君を殺した存在は、それを見せないようにするためと考えるべきか。しかしDDの面々は目撃をしたはずだ。さて、ノート君は如何に口封じをするかな」

 

 DDの構成メンバーは多い。

 対エリア攻撃をするのに共闘しているメンバーまで殺されるような事をアサイラム統領はするだろうか。結局のところ私達を殺したのが死霊だったのかそうでないかもわからないまま。もしかしたら全く関係無い可能性もゼロでは無い。逃走を選択しておいて逃走をしなかった私達へのペナルティと見ることもできる。


「そう言えば、ヌル君に会ったようだね」

「はい。死ぬ直前の動画にもありますが、最後にヌルさんと会話をしている間に殺されました」

「ふむ………………」


 ヌルさんは確実にあの時何が起きたか見ていたプレイヤーだ。言動を見るにヌルさんが殺したとは思えない。あの時の彼女は本気で驚いていたし、私に警告をしようとしていたと思う。だから今回は確実に味方として話を聞けるはず。けど私は連絡先を知らないので話を聞くことはできない。


「これ以上の調査は此方の領分としよう。思ったよりややこしい事になっているかもしれないな。それにしても、なかなかいい眼をするようになったな」

「そうですか………?」


 私には自覚はないが、先生は満足そうに頷いた。


「より一層精進するように。彼を越えたくば、もっと好き勝手やるといい」


 先生は感情の見えない微笑みで私を激励し、こうして私の偵察任務は謎を多く残したまま終わった。

 



 

 

大変お待たせしました。次回本編再開です

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 結局押し付けられた装備は何だったんだろう。 称号も個人的に取得したものが気になります
更新感謝 おもろかったのでもう一周読んできます
やっとかい、長かったね( ˙꒳˙ ) でもドラゴン出現とかヌルとか色々見れてよかった
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