No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ㉒
その私の考えを裏付けるように、またアサイラム統領の全チャ。全ての責任をUADDに押し付けるような事を言い、戦意を煽った。
「まさか、勝つ気か?」
「あんな敵相手に防衛戦など成り立つのですか?それこそミサイル爆撃が欲しいレベルに見えますけど」
「あいつは負け戦に道連れを増やすならもっと派手な事を吐くぞ」
という事は、やはり勝算があるのか。
今までアサイラム統領が聖女などと戦った時の力は初期限定特典の力を超えているように見えたが、確かにアレなら勝てる…?
いや、それなら今まで通り単騎出撃すればよいのだから周囲に戦闘の参加を呼びかける必要はないはず。
「アイツの聖女とバトる時のフォームには何かしら制限がある、と見るべきか」
「しかし第二ギガスピで出現した敵相手にも力を使っていたように見えましたが」
「ふむ………様子見だな」
彼の能力の基本形は死霊召喚のはずだが、それだけで説明できない力の行使も確認されている。その使用条件は未だ絞り込めない。
魔人バブゥさんと私は観察に努めるべく街から離れた位置に陣取った。
「ヌルさん達は、生き延びているのでしょうか?」
「ふんっ、どうせ生きているさ。アイツらの悪運の強さはオカルトの領域だぞ」
遠方でゆっくりと進撃が始まっている様子を観察する。
しばらくしてとある山の頂上に戦艦がいきなり出現した。
「アッ、いましたよ!」
「今まで着けていた仮面と違うな。遠すぎてしっかりと判別はできんが」
その戦艦の甲板の上に赤いローブを纏うプレイヤーが確認できた。旗を取り出し、何かをしているのか遠方からでもわかるほどのエフェクトが散る。
続けてその甲板に向けて空を飛ぶ堕天使。
追うように巨大な狼が山を駆け上っている。
「ユリンだな。やはりアサイラムはどこかに待機していたのか」
「みたいですね。あの、そういえばアナウンスだと強制参加という事で逃走を選択しているのですが、逃げずに観察していて良いのでしょうか?」
「アナウンスの内容的に全会一致である必要はないと推測できる。俺も既に逃走を選んだが、あいつは間違いなく戦闘を選んでいるはずだ。それでも何も問題なく逃走のカウントが進んでいる。クエスト的には問題ないはずだ」
「追手が来る可能性は?セーブポイント変異の文言が気になります。もし死んで敵の本陣に直接死に戻りしたらかなり厄介ですよ」
わからないことだらけで疑問を上げ始めたらきりがない。
ひとまず最優先は死なないことだけど。
「敵の進路は真っ直ぐに街に向かっている。見捨てるプレイヤーをわざわざ追いかけてこないのだろう。街が滅びでもしない限りな。アイツがくたばる迄は見てろ」
「了解しました………あの敵、形状的にドラゴンですかね?」
「巨大なドラゴンをマグマの中に1時間くらい漬け込んだように見えなくはないな。頭が人間っぽく見えるのは溶けているからか?単純な爬虫類の骨格ではないな」
「ゴジ〇とかウルトラ〇ンの劇場版に出てきそうな感じですね……」
「お前そういう古いネタわかるのか」
「従兄がかなりのオタ………マニアで………」
私をサブカルチャーの世界に引き込んだのも主にその従兄だ。
Theオタク。100年以上昔のものから、というか昔の古典オタクに凄くあこがれていて、特撮やらガンダ〇などが一番好きと言っていた。
部屋中フィギュアだらけで、昔はちょっとした博物館みたいで楽しかった記憶がある。今思うと幼い子供に見せていい類ではないフィギュアも多々あった気がするので内心複雑だが。それでも、ゲームとかはいろいろと気前よく貸してくれる心優しい人ではあったと思う。
今は何をしているかあまり知らない。15以上も年が離れていて、主にオタク関連で何を勝手に捨てた捨てないと親と大喧嘩して家出をしたっきり音信不通。以来私の母親の家系で従兄に関する話題を出すことは禁止されている。
「お前のそれを聞いていると、確実に炎は吐きそうだな」
「あの感じでブレス一切無しだったら驚きです」
「で、あっちはあっちで何をしているんだ?甲板の上を見てみろ」
魔人バブゥさんに促されてマグマ漬けドラゴンから目を逸らし甲板に。そこにはいつの間にかアサイラムやDDの面々がそろっていた。
そこそこ街から離れていたのにあまりに合流が早い。
そんな彼らの一部は隊列を組み、一部は見様見真似な感じで舞をしている。一部は坂を駆け下りて谷の部分に何かを置き始めた。
「罠?あのサイズに通じる罠なんてあるのでしょうか?」
あのサイズなら地雷を踏んだくらいでも、なんかあった?くらいの反応で終わってしまいそうだ。少なくともレ〇ブロックを踏んづけたくらいのリアクションをしてもらえないと割に合わない。
「威力偵察目的だな。どれくらいダメージが通るか見るんだろう。幸い外皮がぶ厚くて一切ダメージが通らない感じの敵ではなさそうだしな」
「言われてみればそうですね」
最初はマグマボディはあまりに凶悪に見えたが、マグマボディではなくあの巨体に見合った鱗と外皮に覆われた肉体をしていたら、普通の武器の大きさでは全くダメージが通らずにただの無理ゲーになっていたのは想像に難くない。
「あの用意を入念にする感じ、本気で勝つ気だな。だが、アレは普通に攻撃が通り易そうに見えるし弱点がわかりやすい感じだからこそ、どんな傾向のボスかわかるだけに厳しいだろうな。予想できるか?」
「HPが膨大か、回復能力が図抜けたタイプ。MPを枯渇させて回復能力を絶たないと死なない」
「正解だ。普通あの大きさだとギミックボスにも見えるが、今のところギミック感はないな」
見渡す限りフィールド内にアレをどうこうできそうなものは都合よく見当たらない。あるとしたら温泉でも掘り当てて大量の水でもかけ続けたら固まって死ぬぐらいだろうか。
けど一部で防衛戦をしながら一部は消防車の放水を超える勢いで水を出す大水脈を今から掘り当てるのは無茶すぎると思う。
私はそう思ったが、それが正解の1つだったと知るすべはなかった。
しかし、見れば見るほど勝算は薄く見える。脆そうな肉体は移動だけでも自壊していくが、その体から落ちたマグマからミニチュアのドラゴン擬きが続々と生まれていたのだ。最後の谷を降りていく時にはもはや軍団と呼ぶべき量の取り巻きを連れていた。
ボス本体だけでも削り殺すのは困難なのに、サイズだけなら確実に中ボス級のエネミーを数千と連れ歩いている。
「なんだアレ………」
「光の、棍棒?」
あんなもの、どうしようもないのではないか。
そう思いながら見ていると、甲板上でも動きが現れた。ゆっくりと大きな光の棒が屹立し始めたのだ。
その棍棒を下に辿ると、煮え立つ鍋を背に背負った小柄な人物が手を天に掲げている。
その横ではピンク色のピエロマスクをつけた人物がいて、何か色が混ざり過ぎて黒ずんだ色のエフェクトを纏いながら同じく天に手を掲げていた。
しかしそれで終わらない。
祭壇のようなエフェクト。コーラス。遠吠えが続く。彼らに纏わりつくエフェクトはさらに増えていく。遠めでもはっきりわかるくらいに。
そしてマグマ漬けドラゴンがいくつかの山を越えて谷に差し掛かった時、仕掛けられていた何かが炸裂。ダメージが入っていた。
「やはりダメージ自体は通る、が………伏せろ」
「はい」
予想外の罠にたたらを踏むマグマ漬けドラゴン。
そこに天に届くほどの大きさになった棍棒が振り下ろされる。
それがマグマ漬けドラゴンの脳天に刺さる手前、脳天の少し上に発光する巨大な岩の塊が出現。その岩をちょうど叩きつけるように棍棒が下りてきて、棍棒と隕石と脳天が一直線で結ばれるように接触。
次の瞬間、空間が爆ぜた。
光も音も吹き飛んだ。
歴史の授業で原爆の実験映像をVRで見たことがある。
その時、子供ながらにその威力に恐怖を感じたが、この破壊力はそれに近しい衝撃があった。
空に舞う灰を含んだきのこ雲。大量に居たはずの取り巻きはほぼ全滅していた。




