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No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑳

間違えて20話を19話として投稿していました。

本当に申し訳ない(メタルマン)



 出奔して直後、最初は日本サーバーに行った。直接、というのはVRだと語弊があるが、古い知り合いも沢山いるからだ。彼女はそこで旧交を温め(この時ギャルズ三姉妹や魔人バブゥとは未接触)、続いてロシアサーバーの姉貴分に会いに行った。

 兄貴分とよく似た姉貴分は彼女にとっていつでも1番頼れる人だった。折角外に出ることを進めてくれたのだし、直接お礼を言いに行こうと思った。実際、彼女が1人で外に出たあと月面サーバーの仲間たちは気遣うようなチャットをくれた。少し悪ふざけが過ぎたと謝罪をしてくれた。


 それでも、折角だし久しぶりに気軽なソロをもう少し満喫しようと思った。


 姉貴分は何分多忙なので会えるかどうかは分からなかったが、姉貴分はヌルが来たことを知るとすぐに内密に会ってくれた。ALLFOの話から始まり、私生活や今後の立ち回りについて姉貴分は親身にアドバイスしてくれた。

 そして恐らく彼女なら知っている筈と、日本サーバーにいるだろうけど所在不明な兄貴分がどこに居るかそれとなく聞いてみた。


 すると姉貴分は暫しの沈黙ののちに答えた。

 アメリカサーバーにいるから今から全力で向かったら多分間に合うよ、と。面白いことが起きるから見てきて、それをひと段落として月面サーバーに戻ったら良いんじゃない、と。


 一理あると思った。何か家出の明確な区切りは欲しいと思っていたのだ。

 直接会うのはやめておいた方がいいかもしれないけど、ALLFOの内でその姿を見たいと思った。彼女は昔から兄貴分が生き生きと大暴れしているのを見るのが大好きだったから。


 そうして大まかな目的地を教えられたヌルはアメリカサーバーの弾丸ツアーを決行。プレイヤースキルのごり押しで決戦の舞台であるUADD本拠地近くまで来ていた。その最中、遠方で急に津波やら何か起きている事が遠目でも分かり、一体なんだろうと近づいていったら途中で一つポツンと放置されたテントを発見。

 なんだこれと近づいてみたらばったりと魔人バブゥと出くわしたのだ。


 しかし『公開告白されてクランに居づらくなったので月面サーバーからプチ家出してます』などとその手の話題が大好きなギャルズ三姉妹の前で正直に言うなど考えただけで嫌だったので、彼女は此処に居る理由を誤魔化したのだ。

 

 なんでまたこんなことに、とついため息をつきそうになる。

 ギャルズ三姉妹が嫌いなわけではないが、得意か苦手か言えば苦手だ。ヌルは同い年ながら腕が立つせいか彼女達が勝手にどこかに行こうとするときに護衛として巻き込まれることが昔から多々あったのだ。

 何度も何度もやられたので彼女ももはや抵抗の意思が薄くなるくらいだ。

 本気で逃げると凄く悲しそうにするものだから、なんでこっちが罪悪感を覚えないといけないんだと憤りを覚えつつも捕まるしかないのだ。腐れ縁、というしかあるまい。


 不思議な事に彼女達についていくと何かしら成果が得るために余計に逃げにくいというのもあるかもしれない。今回いきなりまた引っ張られていた時も、また何かあるのだろうと薄っすら思ったくらいだ。


―――――――――――――――――――――――――――

【ダンジョン:楼閣砂上の▇▇▇▇▇▇】

推奨ランク:不明

ダンジョンに入りますか?

Yes/No

――――――――――――――――――――――――――― 


 そして案の定見つけてしまった。

 恐らく未発見のもの。その上この大穴全体が対象ならかつてない規模の新規ダンジョンという事になる。

 

「入っちゃう?」

「いやー死ねるでしょ」

「そういえばパイセンたちは?」

「い、今更過ぎませんか?すごい物音もしてましたし、とっくに交戦してますよ」     

 

「「「え!?」」」


 もうこの人たちはほんとに、とヌルはやれやれと首を横に振った。


 



「えっ?はっ?」


 信じられないスピード決着だった。

 戦艦が落ちてきて、斜面全体が凍り付いて。人狼部隊が斜面を駆け上がり、それで終幕だった。


「…………どういう事だ?」 

 

 これには魔人バブゥさんは困惑を隠せないようだった。

 どんなトリックを使ったのか壁の中が発光して推定UADDが皆壁の外に追放された。

 理解の範疇を超えていた。もっと素直にドンパチするかと思ったら欠片も手の内を見せずに終わった。展開の早すぎる手品でも見せられた気分だ。


 ただ、それは終わりではなかった。

 始まりだった。


『アサイラムもこれより本格的なレイドを解禁する。今まで舐めさせられた辛酸を奴らの頭からかけてやろうじゃないか。幹部の首級を上げた者には追加で報酬を与えよう。この狩りは早い者勝ちだ。まさか街から追い出した程度で終わるまい?我慢の時は終わりだ。都市の外で呆けている愚か者どもを一掃しよう。もちろん、獲物である北西勢力の皆も逃げてくれるなよ?今まで君達がやってきた事じゃないか。存分に味わいたまえ。これが私刑の代償だ。DD諸君、我々アサイラムに獲物を狩り尽くされる前に1人でも多く北西勢力を血祭りに上げろ!さあ皆殺し(ゲームスタート)だ!』


 そんな演説がエリア一体に響いた。

 同時に都市の上にぽっかりと赤いリングが浮かんでいた。その中は深淵よりも暗い漆黒で満ちていた。

 タイミングが良すぎる。おのずとそれが彼によってなされたと気づく。

 しかし不思議だ。こんな明らかに強力そうな何かを顕現させるならほぼ勝った後よりスタートにするべきだったのではないかと。


 発狂その他精神に纏わる状態異常をレジストしログが視界の隅を走る。

 あり得ない。見上げただけで状態異常を引き起こすような効果を持つ何かを顕現できるなら、簡単に大規模な破壊活動ができてしまう。

 そもそも何故単なる一人のプレイヤーが幾らでも悪用できそうな全チャ能力を持っているのか。あまりにアサイラム統領の良識に依存している。それとも何か全チャ解放条件があるのか。

 

 数々の疑問の雨に私はぽかんと口を開けたまま空を見上げていた。



◆  



「ねぇねぇヌルちゃん、なんか暑くない?」

「え?……言われてみれば、そうですね」 

「うわ、見てあっち。なんか空に浮かんでる」


 同時刻。レクイエムを通した演説こそハッキリ聞こえはしなかったが、何かしらの声を聴いたギャルズ三姉妹withヌルもそのリングに気づいた。

 

「え?どれ?あっ、やばっ!ツルハシおとした!」 

「えー!?アレ高いやつじゃないの!?」

「やらかしたー!」

「なんか穴の奥光ってない?」

「ほんとだー。え、なんで?」

「ツルハシおとしたから?」

「泉の女神でてくんじゃね!?」

「貴方が落としたのは~この金のツルハシですか~?銀のツルハシですか~?」

「全部欲しいよね」

「金のツルハシとかもらっても困らない?」

「普通に延べ棒でほしいよね」  

「換金面倒だから商品券でも可」

「わかるー」  

「ついでにもっとなんか落としたらホントに女神でてくんじゃない?」 

「じゃあ要らない岩をぽーい」 

「おお、どんどん光が強くなってる!当たりなんじゃねー!?」


 一度似たことをやらかした経験のある祭り拍子の初期メンがいたら全力で止めただろう狼藉。

 しかし良識のあるヌルの関心は完全に赤いリングに向いていた。多分あれはアサイラムがやった何かと直感して。

 

 ソレが出現した理由は色んな理由が重なっている。出現した直接的で絶対条件はアサイラムの最大の問題児にあるのだが、祭祀でも察知が遅れるくらいに出現が一気に早まったのは彼のせいだけではなかったのだ。 


「この武器要らないか。ぽーい」

「このハンバーガー食べ飽きたしすてちゃうかー。ゲームなら良いよね」 

「ハンバーガー金ぴかになったりして」

「ウケる。じゃああたし終わりかけのマヨネーズで!出でよ金ぴかマヨ!」  

「たまにこうやってインベントリ整理するの大事よね~」

「なんかどんどん暑くなってね?」 

「ほんとだぁ」 

「あ、ガチで“熱い”」  

 

「え、ちょ、何してるんですかさっきから」


 そこでようやくヌルがギャルズ三姉妹の狼藉に気づいたが致命的に遅かった。

 

「ゴミ捨て~って思ったけど」

「ヤバそうじゃんねコレ」

「逃げよう!撤収!」

「またなんかやりましたね!ちょっ、逃げるな!」

 

 そして彼女達の直感は告げた。

 マズった、と。

 生存能力にかけては満場一致で認められているギャルズ三姉妹は脱兎のごとく駆けだした。少しでも謎の火口から離れるために。

 彼女達の危機察知は天性のものでもあるが、同時に自分たちで散々トラブルを発生させることで学んだ経験則でもあるのだ。

 

 逃げ出すギャルズ三姉妹。巻き込まれて怒りながら追いかけるヌル。それは昔よくあった光景そのものだった。

 


 



 


 

活動報告にURL付け忘れてたので付けました。ごめんね

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― 新着の感想 ―
これサラマンダーもどきが出てきたのカオナシと同じ理屈かい!
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 まぁ、絶対何かしでかしたとは思ってました
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