No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑰
ランス6ボリュームあり過ぎんか………?
「それはツッコミ待ちなんですか?」
「食うか?味はいいぞ」
一通り基礎的な調査を終え、UADD本拠地を双眼鏡で確認しながらもしゃもしゃとアンパンを食べる魔人バブゥさん。そのあとには哺乳瓶っぽい形状の水筒で牛乳らしきものを飲んでいる。
張り込みをするならコレ、というべきか恰好をしているのかもしれないが、雰囲気にふざけた感じがしないので言及していいのか暫し迷った。迷ったけど無言の空気にいたたまれずに思わずツッコミを入れてしまった。
この人は結構お茶目なのかもしれないけど、真顔だからよくわからない。
「…………あの、聞いていいですか?」
「プライベートに関わることは何も言わんぞ、他人の物でもな」
私のうかがうような声だけでどんな事を聴こうとしているかなんとなく察したようで、先んじるように言われてしまった。それでも、私は一歩踏み込むことにした。
「アサイラム統領って、いろいろな方から断片的に情報は聞くんですが、いまいちわからないことが多くて」
「接点のある人間でもないのだからわからなくても問題はないだろう」
手ごわい。何が手ごわいかと言えば、これは別に魔人バブゥさんが情報を出し渋ったりしているわけではなく、あくまで自分のポリシーとして当たり前の発言をしているだけという事だ。
「このままでは誤解をしそうなのですが」
「実際に直接会うまで解などでないのだから誤解もなにもあるまい」
「…………」
その理屈は正しい、のだろか。何か違う気がする。
「今私が聞いている情報では、よく女性に刺されていたとか」
「…………」
「敵に殺されるより痴情の縺れで殺されている数の方が10倍くらい多かったとか」
「…………」
「敵サイドの女性をうっかり口説き落してしまって身内から刺されるし落とされた女性からも刺されたとか」
「…………」
「恋愛相談に乗っていたのに女子側から惚れられて、その女子が好いていた男の方からも妙に好かれて両刀疑惑が出たとか」
「…………」
「振った女の兄貴が出張ってきてトラブルになったと思ったら何故か最終的に仲良くなっていて告白した女性の方が困惑し、それを見ていた先生もさすがに困惑していたとか」
「因みにその女子はギャルズ三姉妹の」
「おい待て。誰だそこまで話したの」
漸く魔人バブゥさんが反応した。
今まで反応しないことでスルーしようとしていたみたいだけど流石にこの件はスルーしきれなかったようだ。
「まず最初に言っておこう」
「はい」
ほかにもいろいろな事を聞いたけど、主によく聞いた情報を上から列挙していっただけだ。特に外聞の悪そうな話を列挙したわけではない。あまりにも皆この辺の話に触れるのでどうしても私の印象もそちらに偏るのだ。
なので、この際最も公平に事実を話しそうな魔人バブゥさんに私は真実を聞くことにした。
「言いにくいが、それは誤解ではない。残念だが全て事実だ」
「…………事実なんですか」
そうなると、ほかに聞いていたことも全て事実という事になりそうで。
「全盛期のアイツは周囲の人間を洗脳する電波でも出ているのかというくらいおかしかった。手が付けられなかった。アイツ自身でも制御ができていなかったのか交渉コマンドが口説きコマンドと入れ替わっているみたいな状態だった。PKKプレイヤーをPK堕ちさせていた」
「…………」
今度は私の方が黙り込んでしまった。
私の誤解を悪く解釈した方よりももっと悪そうな感じだったから。
「言い寄っていた女性陣がゲーム内とはいえ本気で殺し合っていた。リアルにまで波及しなかったのは奇跡だったと思う。トップ4位までの戦力がそれ以下を突き放すほどに圧倒的だったから完全暴走まで行かなかったのだろう」
それが誰だったかは、なんとなくわかる。
過去の彼の戦闘映像を見るとスタメンの中でも動きのレベルが違うメンバーが4人いた。
女帝、リアル三国志、シモヘイヘ、バンシー。
私が勝手につけているあだ名。
女帝はそのまま本当に女帝だったけど、ほかの3人は本当に私が勝手につけたあだ名。
薙刀を振り回して1対多でもバサバサ殺しまわっていた切込隊長。
変態的な狙撃で次々と敵の指揮官を殺していた狙撃手。
小学校低学年くらいの背格好なのに空を自由に舞う妖精のような動きで大人の首を掻っ捌き続けた双剣士。
「最終的にあの4人に勝てないとまず告白チャンスを得られないという謎のルールが出来上がるくらいに防波堤になっていた。そしてユリン……一番小さいの以外の三人からまた女をひっかけたのかとよく殺されていた」
「…………」
「お情けなしの戦闘で、実際にはだいぶ卑怯な事をしたらしいがそれでもちゃんと4人の首を獲って告白したのは一人だけだ。ヤバい目をして金槌を振り回していたアイツだ」
「スプラッタ……」
居た。確かに居た。レギュラーとスタメンの中間くらいだったけど対人戦では確実にスタメン起用される強さだった。ただ殺し方が残虐というかあえて人に恐怖を刻み込むような殺し方と狂ったような笑い声をあげていて、お近づきになりたい感じの人物には感じなかった。
「因みにロシアのアレを除いて4人とも現在進行形でアサイラムについている。先ほど変な電波が出ているといったが、アイツは強力な大駒を引き寄せる何かがある」
「…………」
わかる。
きっとアレがカリスマだ。ブラックホールみたいな引力。
変な電波。そのたとえがしっくり来た。
「お前、アイツの戦闘映像見ていてその役回りについて不思議に思ったことはないか?」
「…………?」
彼の役回りは指揮官だった。彼を慕って集まる強力な大駒の指し手には彼が相応しい。
それ以外の役回り、例えばポジションを指しているのか。
映像を見ていて違和感。指揮をしながらタンクをするという常人離れした事をしていたり、指揮官なのに遊撃をしていたり。
「そう言えば、一度も専業でヒーラーをしていなかったですね」
私はバッファーだがヒーラーも兼ねる。
指揮官にとって自然と後ろや集団の中心位置に立てるこのポジションは指揮をする上で便利だ。
けれど彼はどちらかと言えば常に自分自身で攻撃札を握る傾向にあった。
「アレはな、先生に禁止されているんだ」
「何故?」
理解ができずに思わずため口で問い返してしまった。
弟子が一番動きやすいポジションを禁じる。それは縛りを与えることで鍛えようとしたのか。しかしこの考え方は先生らしくない気がした。
「危ないんだ。アイツはヒーラーが上手すぎる」
「上手過ぎる?それに頼りきりになるからダメという事ですか?」
「違う。周囲がおかしくなるんだ」
魔人バブゥさんは語った。
ヒーラーはある意味、誰を生かして誰を後回しにするか、人の優先順位を付けられるポジションでもある。
そこに彼の指揮センスが加わる事で強い駒ほどより生き生きと動けるようになる。
その結果、何が起きるか。
元々彼に惹かれて集まった様な人物が多い集団で、彼が明確にヒールによって順位付けをしてしまったら。
抜群に優れたヒーラー。彼の判断に“誤りがない”と周囲は認めている。その彼が誰を生き残らせるか指揮で考え始めたら?
この時彼のカリスマが全力で悪い方向に作用する。彼の信頼を勝ち取ろうと皆が無茶な事をし始める。勝手に順位付けをしようとし始める。君臨する王の元で臣下たちが高い忠誠心のあまり我こそが最も役立つ駒だとアピールしようとしてしまう。
故に先生は自分が泥をかぶる形で弟子に専業ヒーラーを禁じた。
師匠直々にヒーラー禁止令が出てる人




