No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑦
正規本編から1年と半年が立とうとしています。
深くお詫びします
でももう少し、少しじゃなく続きます。
「こんにちは、時間ぴったりになってしまいましたね」
「桜パイセーン!」
「鎧カッターい!ハグに不向き!」
「来てくれた事はあたし達を守ってくれる事でFA!?」
ALLFOはファンタジー職が強いVRMMORPGだ。
銀色の鎧を着たプレイヤーなど珍しくない。
リアルでは「ファッションなんかカケラも興味ないですけど?」と年中ジャージで出歩く様な人ですら、ゲームの中だと急に衣装に拘り出したりする。
アニメの中の様な世界。生産関係の自由度が不自由なまでに自由なALLFOでは幾らでも見た目に拘れる。けどオーダーを受ける生産職もプレイヤーの口頭注文だけでは望んだものを作るのは困難。よってモデルの提示を求める。
するとゲーマー達はアニメのキャラや、それを原型として図面を書き上げてくれるAIに軽いモデルを描いてもらって提示する。
そうなると白銀の鎧などというものはメジャー過ぎて通常衣装の一つに感じるくらいよく見かける装備になる。そうなりかねないのでみんな少しずつマイナーチェンジして特徴を出そうとする。アニメそのままというのもコスプレみたいになってしまうので少しデザインをかえて如何にもオリジナルを装う。
そうなると本当にシンプルな白銀鎧は逆にど真ん中過ぎてそれを許されるプレイヤーが限られる。
つまり、白銀の聖騎士という一見するとありふれたその異名は、ありふれているからこそそれを固有名詞として扱うことを許されるレベルの知名度を持つプレイヤーである事の裏返しになる。
プロゲーマーすら霞ませる圧倒的な存在感。勢力の数で言えばトップでないのに、間違いなくロシアサーバーの代表的プレイヤーを名乗ることができる人物。
こうして直接顔を合わせるのは初めてだけど、私は彼女を良く知っている。
過去のアサイラムの統領が指揮をしている映像に必ずと言っていいほど映る人物。容姿こそ違うけどその存在感が彼女だと確信させる。
日本最大の汚点と言われるアサイラムの統領が同格のプレイヤーとして常にスタメン起用していたその人物は。
「私は貴方達の保護者じゃないんだから、もっと頑張りなさい。さて、初めましてですね、フラミ≠ゴちゃん」
兜を脱ぎ晒された顔はあまりに整っていて。
MCさんもスタイルはいいけど、彼女はそれを上回る。
本職がプロゲーマーという訳でもないのに、廃人レベルでログインしてる訳でもないのに、プロゲーマーと平気でやり合える圧倒的なゲームセンス。いえ、ゲームセンスというか、地頭の良さが違うのでしょう。
容姿も運動神経も頭脳も全部持ち合わせた欠点無しの存在。彼女の率いる団体はロシアトップ層では最も少数なのに軽んじられることはない。いざという時の団結力が違うのだ。
全員が白銀の聖騎士の信奉者の様な団体。
所謂姫プに近いのに姫が頭抜けて優秀で、その姫を補佐しようとするメンバーの練度も自然と上がっていく。人数の単純な多さなど関係ない。彼女の率いる団体は精鋭ばかりというブランドを作り出した時点で勝手に優秀なメンバーが集まるのだ。姫騎士を頂点と仰ぐ中数精鋭の騎士団の力は攻略組の中でもトップクラスの打開力を持つ。
初期限定特典持ちすら撃破し、教会に話をつけて傘下のプレイヤーとして扱う事を認めさせた女傑が計算され尽くされた様な微笑みで手を差し出す。
そして彼女に付けられた異名は白銀の聖騎士以外にまだある。
今はこちらの方が通りがいいかもしれない。
「お会いできて光栄です、The Argent Empress。」
「よろしくお願いしますね。一応姉弟子に当たりますから、困ったことがあれば相談してくださいね。特に無茶な要求をされてる時は」
生産組組合の古株に近いメンバーからは時たま昔の先生周りの話を聞く事がある。
先生は若い時からオンラインゲームに親しんでおり、誰に言われるでもなく自然と指揮官的な立ち位置に居た。
されど昔の先生はリアルが多忙で、オンラインゲームの指揮官としては致命的なまでにIN率が不安定だった。
それは指揮官としては致命的な弱点で。その為に若いプレイヤーに自分の思考方法を伝授して自分の代わりをこなせる指揮官を作ろうとした。
その走りが自分の子供達で、それ以外だとパンツ皇子さんや炬燵ムリさんになるらしい。
しかし彼等は先生を越えられなかった。
どうしても先生の下で動いていた方が上手く動けた。
何処かにいないか。自分に近い、いや自分を超える若き才は。
そんな時、そのゲームでほぼトップだった先生のクランを襲撃した者達が居た。
他の対抗勢力も何かに焚き付けられた様に動き出す。ゲーム全体が大混乱に陥るほどの騒動が各地で急に勃発し、先生ですら何が起きているのか掴みかねていた時、本陣に僅かに10人未満の手勢で襲撃を仕掛けてきたその人物は。
凡ゆる防壁を食い破り、自分の手勢すら寝返らせてその先生の首にあと一歩まで迫った人物は。
見つけた。
先生は直感的に悟った。
この子だ、と。
あまりに荒削りで破天荒で後先考えない様な襲撃でありながらゲーム全体を盤面として実際に総大将を暗殺しかけるその手腕。
何より事前にその動きを一切掴ませなかった展開力の強さ。
数多くのプレイヤーを自分の計画に巻き込むその恐ろしいまでの求心力。
何故自分の首を狙ったのかと問いかければ、『1番獲ったら面白そうなお高くとまってる首だったから』と言い放った頭のおかしい怪物は。
かくして先生は自分の役割を熟せる人物を弟子にする事が出来た。
自分が手加減せずにぶつかっても潰れずに、潰れるどころか獰猛な笑みを浮かべながら立ち上がってくるその姿に年甲斐なくはしゃいだ。
そのせいか周りから見ててもかなり無茶な事をやらせたりしていたらしい。
出会う前から怪物だったが、それを今の魔王まで育て上げてしまったのは間違いなく先生だと皆は口を揃えて証言する。
獅子は我が子を千尋の谷に落とす、というが、昔の先生は突き落とした後に更に上から硫酸を流し込んでミサイルの雨を降らせてさぁ登って来い、と重機関銃の銃口を向けながら宣言する様な人だったらしい。大井バさんは地雷原に突き落としてからミサイル爆撃をしてくる、と評していたが、皆概ねその様な証言をする。
そんな滅茶苦茶な師弟のやり取りに周囲は否応なく巻き込まれた。
私の目の前に立つこの白銀の聖騎士もその無茶振りの最大の被害者にして加害者の1人であり共犯者であると言えるのでしょう。
あまり感情を顔に出すタイプには見えないけど、彼女が私を見つめる目には同情がある様に感じた。
「こちらからも戦闘熟せる兵隊を付けるから、物資をしっかり届けてくださいね」
「は、はい」
それにしても、これが本当の意味でのトップ層のプレイヤーか。
彼からも感じた人を従わせる事に慣れ過ぎた人間の空気。自然とその指示に従ってしまいそうになる。
「そう言えば、貴方だけに託すのも変な話しですね。本来はUADDからの働きかけを端としていますし」
気づいた時には遅かった。
今この場での主導権を彼女を取ったのがわかった。きっと目標も無く学生時代を過ごしていたら気づけなかった空気の違い。師匠陣には幾度となく指導を受けていたのにも関わらず。
生産組組合の一応の部隊長である私をアメリカ側代表のMCさんは同格に扱った。その私を姉弟子の関係性を事前に持ち出し指示に従わせた。自動的にこれで彼女がこの場の1番上に立った。
その彼女がUADD側の代表を呼び出した。
色んな思惑が走る




