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No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ⑤

チー付与(漫画版)はいいぞ


「いやー大変っすね〜、フラミゴちゃんも」


 ギャルズ三姉妹が手配したアメリカ側のトップ層とロシア側の物資援助運動部隊の合流地点に向かう途中、クリスマスイベントに引き続き私のサポートについてくれた大井バさんが苦笑しながら話しかけてきた。


「……大変、というのは」


 偵察部隊と駆り出されている事か、それともポジション的にも役職的にも遥かに格上の魔人バブぅさんがいるのにまた私が指揮権を与えられている事か。一般的な大企業で例えるなら、研修も終わってない様な新入社員が遥か雲の上の部長格を連れて外回りをしているような物である。胃が薄っすら痛い。

 或いは大幹部達からも野放しレベルの自由人過ぎるのに、私もまだよく知らないギャルズ三姉妹の同行まで気を配る必要がある事か。

 客観的に見ても“大変”と言ってもいい事が累積し過ぎていて私は問い返す。


 それを言うなれば、いまだ不勉強な点が多く指揮官としての能力も従前とは言えない私のお目付け役という最悪のババを引いている大井バさんの方が余程大変ではないか。


 仮面越しに見ている為に私の表情を見る事はできていないはずだが、大井バさんは察した様により笑みを深める。ただ、そこには何処か実力者故に難しいポジションばっかり任される中間管理職の悲哀の様なものも薄らと感じたのは私の気のせいでしょうか。


「色々あるけど、先生から特に期待されてるみたいだしねー。獅子は我が子を〜なんてことわざあるけど、先生の場合は地雷原の谷に突き落として追い討ちでミサイル爆撃してくる感じだし」

 

 大井バさんも先生との付き合いは長いそうですが、そんな彼も昔は私の様に鍛えられたのでしょうか。

 先生の指導の厳しさを例える際に込められた感情には強い実感がある気がする。けれど、そこまで厳しくはないような。それとも昔はもっと厳しかったのか、まだ甘い段階なのか。

 私がやんわりと探りを入れると、大井バさんは懐かしそうな顔をする。


「まぁ俺ん時とは色々違うしね〜。俺ん時はキャップが敵も含めて全員をミサイルの暴風雨ん中に引っ張り込んでくるから、強制レベリングされた感じだったよね。こんな風に移動するだけでも滅茶苦茶気を張った時もあったな〜。キャップを狙ってどっから刺客が湧いてくるかわかんないんだもん」


「なになにパイセンの話?」

「どのゲームでもデフォで10個くらいの勢力からテメェぶころしちゃーってパイセン追いかけ回されてたしね」

「今最高記録更新してんじゃね?」


 キャップ。

 それはかつて大井バさんをはじめとしたメンバーをまとめ上げてPK集団の首魁を務め続けた怪物。

 現アサイラム統領。

 私も身内寄りに判定され始めたのか、こうして少しずつ先生以外からもキャップの話を聞く様になった。


 いつもなら彼の人心掌握の術を学ぶ為にも適切な相槌を選び、より彼の情報を引き出すところなのだが、ここで割り込んできたのが3人。

 さっきまでアメリカ側のメンバーと連絡をとっていたギャルズ三姉妹だ。


「ミゴちゃんリーダー研修やってるんっしょ?でもキャップのマネはやめた方がいいと思う」

「キャップ頭おかしいんだもん」

「ミゴちゃんはマトモでいて?ね?おねがーい」


 見た目こそ大学生でも余裕で通用しそうだが、多分、方々の話を聞くに彼女達は確実に私より年上。

 なのにここまで、年上らしさと言えばいいのか、貫禄の様なものが一切ない人達も稀な気がする。

 影が薄い訳でもないのにいつの間にかすぐ近くまで来ているみたいな人懐っこさ。事実話しかけられるまで私も接近に気付けていなかった。かと言ってこれは影が薄いのとは違う。非常に不思議な間の取り方と言えばいいのか。


 今まで私が知り合ったどんな人とも違う人種。

 この三人がいるだけが空気が軽くなる様な、まさにムードメイカーと言うべき存在。

 周囲に常に小学生の遠足気分を分け与える様な、そんな人たち。

 UADDに表面上は手を貸しつつアメリカ有数のプレイヤーが同行しているのを前提で、敢えて物資輸送を失敗するという高難易度な指令を受けている今回の遠征。もう少し緊張感があってもいいはずだが、彼女達が周囲に声をかけて回っているためか和気藹々と評してもいいくらいに空気は軽い。


「でもイバちゃんせんぱいの言う通り警戒は大事ね」

「指揮官は常にアサシンされちゃうリスクと戦ってるってパイセン言ってたし」

「そうそう、こんな感じにさー」

 

「あっ」


 ギャルズ三姉妹の1人が右から肩を組む様な動きをする。

 もう1人が左から手を組んできて、最後の1人から後ろからハグするように緩く近づく。

 目に負えないほど素早いわけでもなければ敵意もカケラも感じない。

 なのに、私の首付近に回された手、軽く首筋に押し付けられた袖の中、脇腹に添えられた肘の近く、背中の心臓近く押し当てられた手に細長い金属製の何かが仕込まれているのがわかった。


 途端、VRの世界なのに鳥肌が立ち冷や汗が噴き出すような嫌な感覚に襲われる。

 指揮官として指導を受ける上で、彼女らに教わるまでもなく指揮官クラスの暗殺リスクについては何度も学んでいた。それ故に私も街の中ですらも最低限の警戒心を持ちながら立ち回るように心がけていたのに。


 私が何かリアクションを取る前にパッと離れて「気をつけなよー」と親しげに話しかけてくれる彼女達。見ようによっては脅しにも見える一連の流れの中でも一切敵意や殺意や攻撃性を微塵も感じられないのが却って怖い。

 これが新参への牽制とか先輩風を吹かせるためのちょっとした脅しならむしろ理解できる。けど彼女達はそんな事を全く考えてない。


 暗殺者というコマは対面不利な盤面をひっくり返す力がある。それこそ指揮官クラスを落とせば相手の総合戦闘能力を大きく下げられるのだから。

 では優れた暗殺者とは。

 今や暗殺者といえばアニメやゲームの影響で装甲は薄いが素早い一撃必殺アタッカー的なイメージが強い。

 ゲーム的にいえば相手に一切悟られず標的を葬り去ることが出来れば上出来。

 聞くところによるとアサイラム統領が大駒として動かすメンバーの1人はあらゆる武器の扱いに長け、環境も利用して『殺害』の最適解を本能的に選べるナチュラルボーンアサシンらしいけど、そんなのはあまりに例外的なので除外する。


 そんな極端な例を除いて、もし、標的から認識されていても容易くターゲットを殺せるなら。

 “誰からも警戒されない”のなら、その特徴はあまりにも暗殺に適している。

 

 異常に警戒心が高く何重もの防御をしている標的の行動パターンを何ヶ月もかけて入念に調査して、超遠距離から標的が窓際に来たところを狙撃する。これは暗殺と言える。


 けれども。もし。

 警戒心の異様に高い標的の家のインターホンを押し、標的自ら好意を持って迎入れてもらい、玄関から堂々と入り、標的の隙を探るでもなく普通に会話しながら抵抗もさせずに刺殺したら。


 さて、どっちの暗殺者の方が怖いだろう。

 私は後者の方が遥かに怖い。


 敢えて組織から独立して人脈作りに勤しむというギャルズ三姉妹の顔は生産組組合に詳しくないとわからない。

 けどそれすらも違うのだとしたら。

 彼女達はいつ毒性を持つかわからない甘い蜜のような存在だ。


 いい匂いがして、口当たりが良く、つい警戒せずに飲み込む弱い毒。毒性が強ければ拒絶反応で吐き戻すが、厄介な事に彼女らの持つ毒は微量で、何も無ければ毒にすらならないレベル。

 「強くない」という特徴が何よりも強力な武器に変ずる矛盾。強さを隠してる訳では無いので見破られるということもない。


 反射神経や運動神経、状況判断能力などない優れている訳でもいない。

 けど彼女達は自分達の持つ強みの使い方は理解している。

 これは私の知らない強さだった。

 何より、彼女達がその自分達の恐ろしさに自覚していないというか関心が薄いのがその強さをより強固にしている。


 先程の首への攻撃で確殺出来たかは不明だが、急所への不意打ちは高確率でクリティカルヒットになる。彼女達がそれに合わせて暗殺系の能力を持っていたら、どうなるか。

 

 極論、敵を倒すのにはどんな攻撃でも防ぐ盾も、光を超えるスピードも、一を聞けば千を理解する頭脳も要らない。

 相手の防御を貫けるだけの火力を用意して、確実にその攻撃を当てる事が出来ればいい。

 彼女達はまさにこの理論を完璧に体現したような存在だ。


「(あの三姉妹はキャップと桜……サブキャップの2人が1から魔改造して作り上げた無自覚アサシンっすからねー。あんまし油断しない方が良いっすよ。あの3人が裏切ったらマジでどんな戦況もひっくり返っちゃいかねないんすから)」

 

 いつの間にかそばに居て、周囲には聞こえにくい音量で呟く大井バさん。

 そうだ。生産組組合の上層部が腐敗しない要因となっていると同時に1番歪んでいる点。それは中核メンバーの半数が仮想敵のトップから声をかけられたら寝返るリスクを抱えているという、何も知らない外野からしたら意味不明な人達なところ。

 

 おそらく、ギャルズ三姉妹をはじめとしてアサイラム統領が見出して育て上げたメンバーは先生よりもアサイラム統領へ向ける忠誠心の方が高い。

 彼はこちらに引き抜きをかけようとしたら幾らでもこちらの中核を引き抜ける。


 それを実行しないのは、実行しないこの状況こそが最大級に生産組組合に対する牽制になると理解しているから。


 生産組組合の事を知ったつもりでも、まだ私には知らないことが沢山ある。

 それを改めて心に留めるように、鳥肌の立つ感覚がまだ薄らと残る腕を摩りながら私達はアメリカのメンバー達と合流した。

 


 


 

 

敵本陣に正面からのこのこ歩いて行って護衛にこんちゃーと明るく挨拶して敵の幹部と仲良く話しながら堂々と目の前に爆弾を設置してそのまま徒歩で帰ってくるみたいなことできるギャルたち

もはや怪異だなコレ


ノートとジアに人格改造されたぬらりひょん系ギャル


人感センサーに人は引っかかるけど虫は引っかかりにくいの究極系

敵意を持つなみんなと仲良くしなさいゲームは楽しみなさいという思想の刷り込みを素直に受け続けた結果殺意無しで暗殺してくるおっかないギャルになっちゃった………


普通は攻略組なんてある程度ギスッてるはずなのに色んな国の攻略組と仲いいの控えに言っておかしいんですよね


そういえばぬきたし放映まで一週間キリましたね

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― 新着の感想 ―
fate/のシャルロット・コルデーみたいなギャルだなぁ
暗殺教室のビッチ先生を無自覚よりにした感じってこと?なにそれ怖ぁ
楽しく無邪気にほとんど変わらない笑顔でバサッと殺ってくるのコワスンギ。 そしてこの懸念、チームの共同開発者同士でバトってるようなものだもんね……
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