No.Ex 対米鯖第三≠五臨時偵察小隊 ②
サイバーパンク2077はいいぞ(言い訳)
揃ったメンバーは先生にとって身内と呼べそうな範疇の人ばかり。
新顔の私が参加していることは自分自身でも異質に感じるが、先生になりに何かしら意図があるのだろう。
ただ、この集まったメンバーの中で相変わらず私以上に異質な面々がいる。
「次どこ行くー?」
「アメリカ行きたーい」
「あーしスペインがいいー」
まさに、キャピキャピ、という擬音が合いそうな3人組。古参メンバーからはギャルズ三姉妹などと言われている3人組だ。
部下もいなければ何か特定の役割を担っている訳ではないのに大体の会議にいる。
自由気ままという言葉が合いそうな3人。
生産組組合という組織の中では異質な存在で、されど皆からなんとなく受け入れられている変な立ち位置の人達。
失礼だがオンラインゲームよりもSNSでせっせと美容系に力を入れていいね稼ぎしている方が似合ってる見た目と性格な気がする。
「待たせたね。早速本題に入ろう」
いつも通り集合時間ぴったりにやってきた先生。
ギャルズ三姉妹も含めて自然と会議室が静かになる。
先生はいつもより軽い足取りで席に着いた。
「ノート君から取引を持ち掛けられた。私は彼の提案に乗ろうと思ってね、声をかけさせてもらった」
それは潜在的反アサイラムを表向き掲げている生産組組合の長から出る言葉とは思えない内容。
本来であれば混乱や緊張を齎しそうな言葉だが、この場にいる面々はむしろ楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべた。
「彼らは今アメリカサーバーにいる。アメリカサーバーの巨大PK組織であるDDに助力し、DDと反目するUADD(ユナイテッドアンチDD)を潰すそうだ。ウチに教会関連で前々から情報提供をさせようとしている例の組織だね」
「ほっほっほっ、それはまた影響が大きそうな事よな」
DDとUADDの抗争は日本ですら情報が流れている大規模な長期抗争の一つだ。
UADDはアメリカの有力な団体の一つで、生産組組合に彼等が幾度となくちょっかいを出してこようが直接反目する事を避けていた程度には無視できない影響力がある。
その巨大な組織を潰す。
先生はそう口にした。
リアルで言えば世界的にも名を聞く大企業を倒産に追い込むと宣言しているのも同じ。
しかしゲームの世界で一つの組織を崩壊まで追い込むのは非常に難しい。
殺しても生き返り、経済的に圧迫しようにも世界全体の貨幣の総量が上がり続けている世界だ。精神的に追い込むしか完全な崩壊まで背中を押す方法がない。
紅葉会代表の米泥庵さんが緑茶を啜りながら愉快そうに笑うが、そんなリアクションで受け止めていい内容ではない。
経済という魔物を相手に戦っている彼等にとってアメリカの有力な組織が崩壊するという影響は無視できないはずだ。なのに米泥庵さんは楽しさの方が優っている様子だった。
それは他の面々も同じ。
各々考えていることもあるだろうが、表面に出ているのは普段表舞台にいる時は見せない悪ガキのような笑み。
大規模な組織同士の抗争は誰も首を突っ込みたがらないほどに泥沼化している。UADDが優勢になりつつあるという情報があってもなおアメリカでは完全にDDを潰す機運になっていない。
そんな抗争に凡そ20人にも満たないはずのアサイラムの手勢が加わっただけで何か変わるのか。
リアルで例えるなら万単位の従業員を抱える大企業同士の抗争に家族経営に毛が生えたような小企業が介入するだけの話なのに。
普通ならその疑問が真っ先に浮かぶはずなのに、ここにいる誰1人としてそんなリアクションはない。それは私も含めて。
数秒遅れてなんの疑いも持たずに受け入れていた自分自身に気づいて内心驚くほどだ。
これだ。
直接言葉を交わしたのはたったの1ラリーだったのに、彼ならやりかねないと思わせるある種の信頼感。
ここにいる誰もが彼の手腕に強い信頼を置いている。
そのカリスマは私が今まで手にしようとも思っていなかったもので、本心で言えば今も心から求めている訳ではない。
それでも、指揮をする立場になるのなら、後を追うのなら、私も身につけるべきなのだ。
「我々が行うのは誤情報の拡散。アサイラムが日本の最前線に現れたと世界に思わせるだけでいい。このメンツを集めてやるには小さな謀だ」
位置情報の誤認?一体なぜ?
万単位の抗争時にその情報をばら撒く事に何の意味があるのか。私がその真意を見抜こうとつい思考を巡らす傍らで会議は進行する。
「情報の拡散となりますと……私達はフル稼働となりますな」
「こちらでもイベントを行い、それに託けて緊急連絡としてアサイラム出現の情報を広げましょう」
「そうなればこちらとしても動き易いですね」
裏の情報統括を行う蛇蝎もうええさんの言葉に、広報のプリヴァドさんが応える。
トップのカイチョーさんを差し置いて勝手に助力の宣言をしているようだがそれは違う。プリヴァドさんはカイチョーさんの代弁者だ。
カイチョーさんはペンを口に押し当て既に思索に耽っている。
今から動き出して如何に多くの人に自分の声を届かせるイベント、あるいは状況を作り出すか。幼ささすら感じる容姿に反してその頭脳が今フル回転しているのだろう。
表の皆に支えられながら指揮するマスコット的指揮官の顔とは違う、冷眼の瞳と酷薄さを感じる笑みを浮かべている様。中学生に間違われるような普段の様とは違う、大人の女性としての顔立ち。今の彼女を侮る人は誰1人としていないだろう。
こんな女性が表では道化を演じられるのだから恐ろしい。
生産組組合の顔にしてスピーカーという大役を担うその小さな身体を支配する頭脳は私が逆立ちしても敵わない。
生産組組合の広報はカイチョーさんを優秀な部下達が支えている構造に見えて、その実ワンマンに近いほどに彼女の能力が圧倒的に優れていると果たして何人知っているのか。
「ししゃももんが君。アサイラムを模した衣装一式を借りたい。ノート君の為だ。構わないね?」
「……いいですよ」
「無銭LAN君は衣装の調整をお願いする。鑑定対策も含めてだ」
「あいよ〜」
「破損させたら、わかりますね?」
「しーしゃちゃんを怒らせる趣味はねーって」
先生が続いて声をかけたのは裏方生産チーム。
ししゃももんがさんも魔人バブぅさん同様にアサイラムシンパ、というよりアサイラムの彼単体のシンパを表明している。
生産組組合に大幹部として存在しているが、その扱いは難しい。先生個人に従うタイプではないからだ。嫌だったらアサイラム側にリアル経由で連絡を入れて荷物をまとめてアサイラムに出奔しかねない。
そんな彼女がアサイラムの装備品の模造品を多く所持している事は私も把握している。
これは限られた面々しか知らないが、彼女は真青米教のパトロンの1人だ。
反アサイラム派閥であるはずの生産組組合の幹部が親アサイラム派のパトロンをしているという意味不明な状態だが、ししゃももんがさんにはまるで引け目がない。
表向きは生産組組合に迎合しない真青米教という組織に影響力を持ち、窓口となるという名目…………リアルで言えば敵対企業の株主として影響力を持つという名目はあるが、そうでなくても彼女は真青米教に支援をしただろう。
それでも真青米教ではなく生産組組合に籍を置いているのは、自分の力を最大限発揮できる環境があるのは生産組組合あってこそだと理解しているから。彼女からするとファングッズの貸与には偉く不満があるのでしょうが、先生の眼光を前に渋々と頷きます。
そのファングッズの調整を任された無銭LANさんは気が抜ける軽い反応で手をヒラヒラと振ります。
彼もまた掴みどころのない人で、20代にも40代にも見える不思議な雰囲気を持っています。
ししゃももんがさんが圧倒的な個人資産で裏のチームを支えるパトロン的な人物だとすると、無銭LANさんは実質的な裏の生産組組合のリーダー。検証チームとも縁が深く、性質を敢えて悪に傾けているメンバーを何人も抱えています。
アサイラムが用いる鑑定に対する対策。
彼等は既に部分的に近い事を成す方法を見つけたと聞いています。
組合長は個々人の意見を遮らないようにしつつカードを割り振るように役割を与えていく。
目指す目標の困難さを感じさせない気軽ささえ感じる役割の与え方は淀みがなく、されど先生は唐突に押し黙った。
既に具体的に今後どのように動くか話し合い始めていた面々もその静寂に引っ張られるように口を噤む。
先生は笑みを浮かべて、その深淵を見通す様な、澄み切り過ぎてるせいで逆に奥底が見通せない瞳で私を見た。
魔術師クノンは見えているも凄くいいぞ(読んで)




