No.70 反転スル天祀ノ結界・開錠セシ不浄ノ門・来タルハ冥途ノ渡シ船③
(´・ω・`)ゲリラってのは予告しないからゲリラなの~♪
様々なプレイヤーが強力な小結界の外でアンデッド達相手に奮戦する中、戦闘が一切できないプレイヤー達も動き出していた。
「今は作っただけ消費される。料理人は今作れるだけの食料を、農家は作物の納品、錬金術師や薬師は回復アイテム系を重点的に生産活動に励むぞ。鍛冶師は出来得る限り武器を生産し続けてくれ。アンデッドが多すぎて武器の耐久値が物凄い勢いで消費されているらしいからな」
生産活動をメインとするプレイヤーは横に緩く広く繋がりを持っている。それが今、各職業スレの重鎮などが音頭をとり一致団結して生産活動に励んでいた。
いくらプレイヤー達が押し返し始めても、未だアンデッド達のポップが収まる様子は一向にない。このままではジリジリとHPやMPを消費して戦線の崩壊を起こしかねない。
普通の魔物であれば、味方が一定数撃破されれば戦力差を理解して撤退行動に移る。だが死霊は退かない。質を圧倒的物量で上回ってくるのだ。
であれば、プレイヤー達の戦線を維持するためにも回復アイテムを供給する必要があるのは自明である。
現在は街全体に教会から正式な通達があり、街のNPC達もプレイヤー達にまじって手を貸してくれている。
そして援護はそれだけにとどまらない。
「おい!聞いてくれ!緊急事態に付き、ギルドの支援物資を全部開放するってよ!つまりギルドで売られてるアイテムのほとんどが無料になってる!!」
「錬金術師ギルドのNPC達が支援に来てくれたぞ!俺達よりも圧倒的に手際がいい!素材をそっちに回してくれ!」
「鍛冶師方面でもNPC達が武器をタダで供給しだしたぞ!」
「あのね、多くのレストランで兵糧の生産が開始されだしたって!」
物資、人員の両方面からの援助。さらに生産組は活気づく。
「これは私達にとっても経験値の稼ぎ時だ。原料アイテムは大量に供給されている。あとはベストを尽くすのみだ!!」
プレイヤー達だけでない。この異常事態に於いてNPC達も一徳一心、大同団結し始める。
◆
「我々の祈りを、願いを天に届けましょう――――」
各教会では、身を清め平時より数段優れた装備を身にまとい、聖女達の神への祈りを込めた神楽が始まる。
その周りでは神官たちが聖歌を合唱し、聖女の力を高めていく。一心不乱に、ただ平穏を願い、彼女らは舞う。それがNPCだとか電子データの塊だとか、そんなことは神楽を目撃したプレイヤー達の頭には一切なかった。
鬼気迫るほどの気迫、指先一つまで神経を研ぎ澄ませた繊細かつ美麗な舞、舞手でありながら響き渡る聖歌を導く指揮者のように彼女たちは一心不乱に神へと希う。それは既にNonPlayerCharacter(NPC)ではない。これは確かに人で、意志ある者で、彼女たちもまたPrayerであるとプレイヤー達は否が応でもそれを理解させられる。
彼女達の舞う台座が光を放ち、彼女たちを支柱とするように天に光が昇る。
そしてその光は円形にならぶナンバーズシティの中心、ナショナルシティの大聖堂に集約。大聖堂で舞う聖女達のリーダーがその力を増幅させる祈りを天に献上する。
【天宝・十二天の祈り・聖女の加護】
『聖女達の祈祷が開始されました。プレイヤーに特殊加護『聖法の担い手』が一時的に付与されます。これはイレギュラーイベント『反転スル天祀ノ結界・開錠セシ不浄ノ門・来タルハ冥途ノ渡シ船』に参加するプレイヤーのみが対象です』
『大聖堂の臨時結界が発動します。一時的に強制的にアンデッドの活性率を低下させます』
一丸となり“平和に尽力する者達”の全能力を一段階引き上げる超常の加護。そして更にアンデッドへの特攻効果が付与される。
加えて本来は発動させていない特殊な結界が発動、アンデッドのポップ率を下げる。
プレイヤーに更なる加勢。湧き上がり続けるアンデッド共に、プレイヤー達はハッキリと反撃の狼煙をあげる
――――――――はずだった。
◆
「アハハハハハ!これはヤバいわ!!」
イベント開始から15分、皆が必死に戦闘をする中で一人歓喜に満ちた表情で高笑いする者がいた。
「(たった15分で2万を軽く超えるストックだぞ、こんなぼろい儲けがあるか?)」
アイテムドロップと違い、魂のストックはパーティー共有だ。故にユリンが、ヌコォが、ネオンが、スピリタスが、自分の死霊たちが無双するほど凄まじい勢いで魂はストックされていくのだ。
ノート単体でも幽霊馬車を悪用し、秒間10匹で敵を屠っている。
となれば、得られるドロップも際限なく増えていく。
「(これだったら、簡易召喚したほうが効率がいいのか?)」
歓喜に満ちて大興奮ではあるものの、ノートの頭の冷静な部分が算盤を弾き効率計算を行う。MPの収支、魂のストック、その他諸々の損益、それらをノートは素早く計算する。そして出した答えは
「さあ、大盤振る舞いだ!!
《簡易中級死霊召喚・魂魄貪啜》!
《簡易中級死霊召喚・飢餓深腐月狼男》!
《簡易中級死霊召喚・腐敗之暴食者》!
《簡易中級死霊召喚・蠅之王ノ下級眷属》!
《簡易中級死霊召喚・死体喰這死芋虫》!
そして《簡易中級死霊召喚・疫病二侵サレシ最下級吸血鬼》!」
ノートの死霊召喚のレパートリーは、討伐した魔物の種類(アンデッドなら尚良し)、一度召喚した死霊の類似種、本召喚の死霊の下位互換、死霊術師としての成長などによって増えていく。
そしてノート達がメインで攻略していた腐敗したあの森はアンデッド系モンスターの宝庫。更に、一時行っていた悪魔系植物の討伐は魂のストックこそなけれど悪魔を討伐したことに変わりはなく、変わり種のアンデッドが召喚できるようになっていた。
そこに加えてこれだけのアンデッド。しかも森に出没する魔物がアンデッド化した物なのでレパートリーも非常に豊富。死霊術師にとってはまるでこの世の贅沢を尽くした様な豪華絢爛なバイキングだ。
その結果、ノートの死霊召喚のレパートリーもとんでもない勢いで増えていた。
それを持て余していた強力な魂と掛け合わせた結果、ノートは6体の“中級死霊”を召喚することにした。
普段ならMPが持たないのでこんな狼藉は不可能だ。しかしノートは今、ネクロノミコンを超強化する仮面を着けており、そのネクロノミコンには自動MPドレインの機能が付いている。そしてMPを奪う相手は周りに掃いて捨てるほどいる。
今この状況だからこそ可能な、現在のノートでは不可能な筈の中級死霊の6体同時使役。
身不相応なアンデッドは往々にして指示を一切聞かないのだが、ノートのオリジナルスキル【汝、我の奴隷なりや】の効果でその人心掌握成功率はほぼ100%になる。なのでノートは強力な死霊6体を完全に指揮下に置くことに成功していた。
さて、このピックアップされた死霊だが、実はそのどれもが中級死霊という割にはかなり弱い部類に入る。周りで暴れてるゾンビより少し上等(ネクロノミコンのお陰で二倍程度にはなっているが)な程度で、メギドならば6体同時に相手取っても勝てるほどだ。
それはコストを優先した故か。否、実はこのアンデッド共は全てとある特性を所持したアンデッドとしては極めて特殊な死霊なのだ。
「餌は大量に用意した!さあ好きなだけ食い漁れ!自分の欲望のままに、生者も死者も喰らい尽くせ!!」
ノートの命令に対し歓喜の咆哮を持ってして応える死霊共。そいつ等は散り散りになると、いきなり死霊共を手当たり次第に喰らいだす。
中級死霊召喚・魂魄貪啜。見た目はピンクのぶよぶよした肉の塊だ。イカの口のような口が幾つもその体にあり、空中を浮遊する。耐久力はそう高い敵ではなく、聖属性の魔法でも食らったら一発でお陀仏だ。
しかしコイツには相手のHPをドレインしまくる特性と、死霊の魂を自らに取り込む性質がある。そして取り込んだ魂の分だけ強くなり、聖属性や光属性への耐性まで獲得し始める。一定値まで達すると分裂し、更に猛威を振るう。
中級死霊・飢餓深腐月狼男。かなり強い死霊なのだが、召喚と同時に凄まじい勢いでHPが勝手に減っていきすぐに召喚が解除されてしまう。それを防ぐには大量の餌、特に死霊が必要である。
しかしその飢えに見合うだけの餌があるならば、コイツは本来の力を完全に発揮する。
中級死霊・腐敗之暴食者。身長約4m、太り切った脂肪の塊が歩いているようなアンデッドで、頭部は腐ったフクロウナギのようになっている。手あたり次第に全てを貪り、喰う物がなければ自分を食いだして死ぬという意味不明なアンデッドである。
こちらも飢餓深腐月狼男同様に、必要なだけの餌が大量にあれば一切問題ない。それが何であろうと食って取り込むのだ。
中級死霊・蠅之王ノ下級眷属。群体で出現する特殊なアンデッドで、敵を半殺しにしてその身体に卵を産み付けて更に仲間を増やす。
しかし群体生命体なので一匹のダメージが全体に伝播する弱点がある。また、繁殖するための土壌を見つけられないと仲間同士で殺し合ってしまう獰猛さも兼ね備えている。
だが、ダメージが伝播する反面、高速で繁殖できるだけの丁度いい贄が沢山あれば、一匹の成長が全体の成長となり強力な存在へと変化していく。
中級死霊・死体喰這死芋虫。その名の通り、”死体”を食い漁る巨大な芋虫だ。アンデッドを食べ続けなければ生きられず、食べれば食べるほど巨大化し強くなっていく。
中級死霊・疫病二侵サレシ最下級吸血鬼。実はコイツだけはバルちゃんの器となった上級死霊レッサーヴァンパイアの下位互換死霊なので召喚自体は前からやろうと思えばできた。
コイツはその名の通り病に侵された吸血鬼で、見た目の感じは吸血鬼というよりはやたら強そうなゾンビだ。コイツは吸血鬼として死者を喰らい眷属を増やすことで力を上昇させる能力が一番優れている。
しかしその眷属の数は100や200じゃ到底たりない。加えてその数が足りていないとその病魔で自身が先に死んでしまう。
だが大量の贄がある状況でその真価を発揮したならば、それは大量のアンデッドを率いる強大なアンデッドへと変貌する。
今回ノートが召喚した中級死霊は確かに中級死霊でもかなりコストが安い。
しかしそれだけではなく『大量のアンデッドがいればいるほど強くなる』性質を持つ死霊なのだ。そして今現在存在する死霊の数はその勢いを増して万単位に到達している。こんな状況などそうそうあり得ない。
ノートに召喚された死霊は最初こそ並の下級死霊よりも弱い。だがこの万単位の死霊がいる状況ならば、上級死霊に迫る性能を発揮するポテンシャルを秘めているのだ。
召喚をしてからたった15分、イベント開始から30分以上が経過し、奴らを召喚したせいでゴソッと減った魂のストックも今や消費した分の倍以上。ストック数の増え方が桁一つ多くなっている。
中級死霊共は実に気ままに周囲のアンデッド共を屠り、殺し、貪り、自分の糧とする。そして自己成長を遂げる。
本来そう簡単に成長しないアンデッドの中で、そのリソースを成長性に極振りしたタイプの死霊たちが正しく成長するとどうなるか。
荒唐無稽、机上の空論であるカタログスペックを全て発揮したならばなにが起きるのか、それはノートの眼前で証明されていた。
大虐殺だ。
中級死霊の通過した部分だけ明らかに死霊が目減りする。それでも彼らは止まらない。喰って喰って喰いまくる。
「いいぞ!もっとやれ!アハハハハハ!」
予想以上の暴れ具合に高笑いするノート。今まで戦闘用の強力な死霊などメギドしかいなかったが、現在は成長を際限なく続けてメギドに迫りつつある死霊が六体もいる。
その快感と無双具合は計り知れない。
だがその一方で、その大虐殺はノートの意図とは別にとある状況を巻き起こしつつあった。
繰り返すように、アンデッド達は増殖し、そこから上位個体が生まれ、さらに上位個体がポップするようになるという『蟲毒の壺』のような性質を持っている。
そこで暴れまわるたった15分でメギドに迫る力を手に入れ始めた強大な死霊が6体。そう、”死霊”なのだ。
確かに彼らによりアンデッドの数自体は減っている。
しかしそれ以上に重要なのは、その場所で『強大なアンデッドが多数出現した』という事象の方である。
アンデッドはアンデッドに引き寄せられる。強い個体が生まれるとその周りには強い個体が出現し始める。その上、そいつ等は現在進行形で成長を続けている。
そしてチラホラと現れだした上位個体を貪り、さらに一段階成長を遂げる。
イベント開始から30分、ノート(の召喚した死霊)の周りには最初のアンデッド達の姿はなく、上位個体がポップするようになっていた。つまりアンデッドの進行率が上昇したのである。
それが上昇するほどノートの召喚した死霊は強化されていく。中級死霊共はメギドを超え、正しく中級死霊としての凶悪な性能を発揮する。そして成長を遂げているのはノートの召喚した死霊たちだけではない。
ノートが元々召喚していたタナトスを始めとした死霊達も普段は一切行ってない戦闘を長時間実行、その分だけ成長しそのポテンシャルは大きな成長を遂げているのだ。それがアンデッドの活性化を促し、ノートに関連した死霊の周りは活性化され、プレイヤーが対処している内側とは全く関係ない外側でその進行度が上がる。
特に、規格外のアンデッドであるバルバリッチャは凄まじい影響力をもっていた。
そしてそれは連鎖する性質を持っている。まるで不幸は連鎖するように、進行度は比例ではなく指数関数的に上昇を遂げるのだ。
結果、聖女の加護が発動しアンデッドの活性率がさがりプレイヤーが強化されるとほぼ同じタイミングで、アンデッドの全体進行度が上昇、全アンデッドが活性化+強化。そして“ボス個体”と言えるような異常個体が12体、シティの近くで出現する。
全プレイヤーが、NPCが一丸となった。その祈りは天に届いた。
しかし状況は振出しに戻っただけ。いや、その進行度は指数関数的に上昇するのでより絶望的に悪化したのである。
プレイヤーVSアンデッドの構図は、少数超精鋭(S級戦犯ノート)の第三勢力の介入で全く収束の兆しが見えない状態へ突入してしまった。
某主任だけでなく、日本サーバー管理者一同の皆さまが発狂した。




