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No.529 撃破実績


 その女の支配力も評価すべきだが、肩を並べて戦ってみるとLOWWA子のラノ姉の考えを察する力も異常な精度である事にメルセデスは気づく。それは今までの配信を観察しているだけではなかなか気づきにくかったが、唐突な二枚看板体制を任されながらもなんの動揺もなく、ラノ姉の指示に合わせるように動きつつ更には既にメルセデスの動きにもLOWWA子は合わせ始めていた。


 そう。 

 何もこの場にいる在野の怪物はラノ姉だけではない。

 リアルに血を吐くような執念で世界トップレベルの怪物に挑み続けた慣れ果ての様な存在はラノ姉だけではない。特に、才能自体はある為に手が届きそうなLOWWA子の方が見方によればよりキツい状態だった。

 が、LOWWA子の最大の能力は反射神経や運動神経ではない。彼女の最も優れている点は「ラノ姉への思考同調能力」。まるでシンクロしているかのようにラノ姉の意図を的確に押さえて合わせて共同で戦況を整えていく。


 これは本人の才能もある。だが、それ以上にこの女は人生の半数近くを1人の男の模倣に費やしてきた狂人である。メルセデスなど比較にならないほどに長い間ラノ姉の、ノートと言う男の身の振り方を見続け、傍で共に戦い、この男の期待に応えられるよう、せめて視界の中に入っていられるように。

 勝ちたいから、強くなりたいから血反吐吐くほど足掻くのがスポーツ選手やゲーマーなら、LOWWA子は一人の惚れ込んだ男の近くにいたいだけが為に、本人にとっては一生かけても返せないと思っている恩を感じている男の希望を叶えるが為に、自分の才能全てをベットし続けている狂人なのだ。


 ラノ姉が混乱を避ける為にメルセデスを連れてLOWWA子から離れる際に、誰も気に留めない行なわれたラノ姉の微かなハンドサイン。案件の打ち合わせの都合上、ラノ姉がなんのアイテムを取得してゲームを始めたか知っていたLOWWA子はそれを見ただけで大体どうすればいいのか、自分がラノ姉に何を求められているか察して動き出していた。


 惚れた男にとって一番使いやすい駒になれる事だけに全力を注ぎ続けて、素の自我ですら曖昧になっているような女、それが五六姫晶来(ふのぼりきあら)なのだ。


「へいへいやったらんかーい!日和ってんじゃねぇですよリスナー共ぉ!」

「「「「「うぇーい!!」」」」


 そしてこの女はノートエミュを極めた結果、ノートに近い人心掌握も可能にしている。

 ラノ姉が整えた状況ではあるが、LOWWA子のチャンネルを視聴しに来ている視聴者たちは皆LOWWA子のファンだからこそ、LOWWA子が最も周囲の士気を上げることができる。 


「(ダメージ効率が………このままなら必要数値超えるが…………)」


 当たったらほぼ終わり。その状況で一撃ならなんとか耐えられる武士たちがメルセデスを中心に前線を維持し、農民たちはアイテムを出し惜しみなく使いゲンゴロウにダメージを与え続ける。2人では決して届かなかったダメージ効率が、メルセデスが最低限必要だと考えていたDPSを超えた。


「(しかし、これではなかなか…………)」


 今は皆が積極的にアイテムを使い、武士たちもパークなどを使い戦線を維持し続けているが、アイテムの数には限りがあり、パークも一定時間経過すれば効果を失って再使用には時間がかかる。

 ジリ貧、そんな言葉がメルセデスの頭を過る。


 ハッキリ言ってしまえば、今この面々がどうやって倒すんだコレと名高い第五種相手に誰も死なずに善戦できている様に見えるのはアイテムやパークを出し惜しみなく使っている事と、ラノ姉、LOWWA子、メルセデスの3人が全体の動きを見ながらフォローし続けているからに過ぎない。並程度の実力では第五種を相手にするにはかなり厳しいのだ。

 それもそうだろう。第五種はギミックにも近い存在だ。十把一絡げの連中やちょっと徒党を組んで採算度外視で戦って倒されるようならギミック扱いにはならない。ギミックと言うのは問題無用にも近い理不尽さを持つ。ある種その時限定のルールの様な存在。まるで、災害の様に制御困難な現象。


 加えてメルセデスの士気もイマイチ輝いていない。一般的な指揮官からしたら遥かに上手く指揮をしているが、メルセデスのセンスはもっと高い。しかし低きに合わせる事を苦手とするメルセデスにとっては凡人のレベルが理解できない。どこまでなら無理を強いて、どこまではフォローすべきなのか見極めるのが難しいのだ。


 されどそれはメルセデスに限った話ではない。

 完全初対面でどんな性格かもよくわからん連中と即興でチームを組んで一掠りで生死を彷徨いかねない攻撃をしてくる初見の敵を戦えと言われて何人が上手く状況を回して指揮を行えるというのか。

 どんな状態でもパスを受けるのが得意なプロのサッカー選手でも味方のパス技術がお粗末ならその才能を生かしきる事なんてできない。

 

 むしろラノ姉とLOWWA子の対凡人用指揮能力が高すぎる、というのがメルセデスの認識だ。そしてこの認識は正しい。

 2人はどこまでなら視聴者にも負担を強いてよくて、どこを甘やかすべきなのかを深く心得ている。これはゲーマーというよりは生粋の配信者としての能力。配信者と言う括りでは、メルセデスに対してLOWWA子とラノ姉の方が圧倒的に能力値が高いとメルセデス自身も気づいていた。


 されど、この3人が居ても無理な物は無理だ。

 戦闘時間が一定時間経過しパークが効果時間を失っていく。

 トラッパーとコマンダーの両刀ビルドであるラノ姉の能力で一時的にバフが乗っていたが、それも時間経過で効果を失う。

 すると自然と脱落するプレイヤーも現れ始める。


 ゲンゴロウの攻撃を躱しきれず、また一人、また一人と死んでいく。

 勿論ゲーム性の都合上リポップはするしキャラクターの性能的なデスペナもないが、功績点は当然下がる。そうなると死んでもまた戦線に戻ってくれとは流石にラノ姉とLOWWA子も言いにくい。これが案件配信であれば猶更だ。


「(加えて、ゲンゴロウ自体もかなり面倒な第五種だな)」


 トリッキーさは少ないが、故にこそとにかく硬く、全体的に隙が無い。

 人は手間暇かけて色んな能力を使って殺そうとしなくても、重い物に高速でぶつかられたら死ぬと言わんばかりにゲンゴロウはハイスピードで突撃をしてくる。


 公式からは第五種は単なるギミックではなく、撃破可能な存在であり、撃破した時のメリットも明示されている。

 されど、公式から開示されておらず、Ikkiのプレイヤーも、Ikkiの情報収集を行っていたメルセデスすら知らない一つの事実がある。

 それは、Ikkiのサービス開始から今この瞬間までのプレイヤーによる実際の第五種撃破実績。


 その数は、たったの2回。

 しかも、そのうち1回は素人集団による物ではない。


 一回目はもともと「開発が討伐困難って明言してた第五種を俺達で倒してみようぜ!」という話がとあるSNS上のグループの中で発生したことを端とする。身内だけ集めたマッチングで、第五種を倒すことを目的としたビルドとアイテム選択をしたプレイヤー達によって倒された。それ自体は広く喧伝されていて、作戦などの話のやり取りもSNS上でオープンに行われていた為にIkkiプレイヤー達なら知っている事が多い。

 

 問題は2回目。

 Ikkiというゲームが開始して当初、第七世代の対戦型新作ゲームとしてプロゲーマーの集団が偵察としてマッチングに一気に乗り込んだ事があった。そしてその場に揃った時に、トリッキーな動きをするもののHP自体はあまり多くないというプロゲーマー相手にはかなり相性の良い第五種が偶然ポップし、とりあえずコイツ倒してみようかというプロゲーマーのチャレンジ精神から武士と農民が揃って第五種討伐に参加。こうしてサービスの序盤に第五種が2度討伐された。


 一回目の討伐が意図的なモノというのはかなり知られているが、二回目の討伐の内情を知る者は存在しない。一般のプレイヤー達はそんな特異条件で第五種が討伐されたことを知らないし、討伐に関わったプロゲーマー連中も事務所の都合でIkkiの偵察に仕事で参加していたことを外部に一切言及しなかった。

 

 そうなると、「プレイヤー達でも第五種は倒せなくはない」という少々誤った認識がIkkiプレイヤーの中に広がる。

 ただの偶然で1度倒されただけ、という認識ならまた違った評価があっただろう。

 されど、一度は意図的に倒され、二度目は偶発的に倒された、という事実が並ぶことで余計に2度目の討伐が偶発的なモノに見えてしまう。


 そこから起きるは噂の独り歩き。

 IkkiはALLFOの様に全てのプレイヤーが同じ場にいるわけではない。所謂多くの箱庭が同時並行して存在し、その箱庭は短期間で消滅しては再度創造される。箱庭の中で何が起きたのかはその時その場に居たプレイヤーしか知らず、第五種を討伐したところで何か実績として表示されるわけでもない。

 結果、ネット掲示板などで誰かしらが第五種を倒したことがある、なんてほらを上手く吹いたりすると倒した事を証明する手段もないので明確に否定することも難しく、それが事実として広まってしまったりする。そしてネット上の伝言ゲームは簡単に事実がねじ曲がり、膨れ上がり、真実に到達する事は非常に困難になる。

 そうなると、Ikkiプレイヤーは実際に第五種が何度討伐されたかを認識する事が難しくなるのだ。

 

 

倒されたという事実があるだけでほとんど倒せるようにはできてないやつ

負けイベを強引に勝つぐらい割と無茶なのが第五種討伐

なお負けイベかと思ったら普通にボス戦なケースしかない某Gのストーリーモード

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― 新着の感想 ―
[良い点] PVPVEで両プレイヤー側が万全に準備してやっと勝てる程度のエネミーとか、やはりレイドボスはこうでなくては。 [一言] ゴロワーズの狂気染みた才能は、やはりノートの横でこそ生きますねぇ。 …
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 案件配信だから、ここで倒せたら結構な騒動になると思ってました 公式がこの配信後、討伐実績でも公開したらどうなるんやろ
[良い点] どこぞのチュートリアルよろしく戦わずに逃げろ案件を力技でゴリゴリしてる…… 奴は第五種の中でも最弱……(当社比)的なタイプに相性有利とって協力してたんだなぁ、すげぇ
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