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No.524 非モテ男性の心の叫び


 Ikkiのフィールドには、プレイヤーだけでなくNPCも徘徊している。


 NPCの種類は大きく分けて5種類。

 1つ目は数合わせの農民NPC。

 2つ目は同じく数合わせの武士NPC。


 Ikkiには必ずNPCだけの農民チーム、武士チームが存在し、それに加えてマッチングで人数が足りない時にプレイヤーのチームにも参加したりする。

 性能としては可もなく不可もなく。一般的なプレイヤー程度の動きをする。

 

 3つ目は、農民側の特殊NPC。1つ目の農民NPCとは異なり、単独で行動し、尚且つ性能が非常に高い。農民側に味方をし、武士側に明確に敵対している。出現頻度は高くないが、上手く味方に付ければ戦局をひっくり返すことも出来る。

 4つ目は、それと対になる武士側の特殊NPC。こちらも通常のNPCよりも性能が高く、農民プレイヤーは絶対に単独での遭遇を避けた方がいい戦闘能力を持つ。


 3つ目と4つ目はこのゲームの中でもかなり優遇されており、製作陣も力を入れて作ったのだろうと感じられるほどに良く作り込まれていてプレイヤー達からもかなり人気が高い。バレンタイン限定の衣装を着たりしている女性NPCもおり、戦闘そっちのけでスクショを撮るプレイヤーもいるほどだ。


 問題は5つ目。所謂狂人枠。武士側でも農民側でもない、人類種に対する“敵”。

 農民だろうと武士だろうと関係なく襲ってくるこの5つ目の種類のNPCは非人型で、大雨や日照り、台風、蝗害など米に対する災いをモチーフとしたモンスターであり、特殊NPC達ですら苦戦に追い込まれるほどの性能を誇る。

 具体的な出現条件は不明だが、戦闘が硬直した際に現れる確率が高く、戦場を滅茶苦茶にして強引に戦況を動かす。


 Ikkiのバレンタインイベントでは米がチョコに置き換わり、特殊NPC達が限定衣装で活動する。

 が、それ以外にも変化がある。それは特殊仕様の第五種NPCの追加。そして一部アイテムのビジュアルと仕様の変化。


 ラノ姉が手の中で砕いていたピンクのクッキーの様なモノ。バレンタインイベントに合わせてビジュアルチェンジしているアイテムで、元の名は『誘蛾香』。その効果は第五種のNPCを砕いた本人とその周囲に居たメンバーのいる場所へ呼び寄せる、それだけ。

 「これを使えば、例えば武士屋敷の所で使えば屋敷を半壊させられるからTier1アイテムなのでは?」と思うだろう。しかしそんな都合のいい話はない。誘蛾香は砕いた位置ではなく、砕いたプレイヤーとその周囲に居たプレイヤーをマークして効果を発揮する。

 ALLFOに置き換えるなら、第五種からのヘイトを自分とその周囲に強烈に集めるアイテムと言えばいいか。


 加えて第五種は米に対する災害をモチーフにしている為、第五種と接するとその米は価値を失う。第五種を利用して屋敷を襲撃してもそこから取るべき米諸共破壊されるので農民からするとまるで意味がない。武士も守るべき米を失う。誰も幸せになれない。

 つまり、そう、屋敷をどうこうする目的でこのアイテムを使おうとしてもまるで意味がない。乱入された時に誰かが犠牲になって第五種に戦況を混乱させられないよう時間稼ぎをする為のアイテム。それが誘蛾香に対するプレイヤー達の評価だ。


 だが、バレンタインイベント中のこのアイテムは性能がより強化されている。砕いたプレイヤーとその周囲にいたプレイヤーに引き寄せられるの効果は据え置きのまま、砕いた時点で「一定時間をおいて確定で第五種を召喚する」という過激なアイテムなのだ。


 誰がそんな地雷アイテムをリソースを使ってまで取るんだ?と思うだろう。

 ところが需要はある。バレンタインイベント中にはプレイヤーに特殊なイベントミッションが幾つも課せられており、その中に第五種との複数種類遭遇などのミッションがある。その手のミッションをクリアするなら確定で第五種を呼び寄せてくれるこのアイテムにもある程度需要が生まれるのだ。

 

 ラノ姉の手の中で砕かれていたアイテムは、まさにそれだ。

 

「(一体いつ!?)」


 が、このアイテムはマイナーチェンジによってテロ性能が高まりすぎているので、砕かれてから第五種が出現するまでに“一定時間”というこの必要条件を達成するのがかなり難易度高めになっている。

 砕いてから少なくとも5分は経たないと第五種は現れない。戦況がコロコロ動きやすいIkkiの中で5分は短くない時間だ。砕いた時から戦況などいくらでも変わるので使うにはかなりリスクのあるアイテムだ。

 5分。ラノ姉とメルセデスが本格的なキャットファイトを始めてからちょうどそれくらいが経過している。

 とどのつまり、この女はキャットファイトの初期の初期でこのアイテムを砕いていた。そしてこの状況に引き釣りこんだ。


「(でもエフェクトは!?)」


 驚嘆と同時にメルセデスには一つ疑問があった。

 それは誘蛾香を砕いた時に発生するかなりド派手なエフェクト。これをメルセデスは見ていない。戦況を一気に動かす地雷アイテムの為、使用すると周囲にもそれが伝わるようにこのアイテムは使用時に花火の様な音とエフェクトを発生させる。どうやってそれをメルセデスに気づかせなかったのか。


「(―――――――――まさか!)」


 そしてメルセデスの優秀な頭脳は思い至る、唯一爆音とエフェクトを感知できない瞬間があったことに。

 最初の爆発。ラノ姉に対するある種の信用が成功させた爆発回避の瞬間。派手な爆音と爆発のエフェクトで視界が遮られた。あの時にラノ姉が誘蛾香を砕いていたのだとしたら、メルセデスは気づけない。  

 

 連動して、何故プレイヤー達もNPCも不気味なまでにこちらに寄り付かないのか察する。爆発の中心にいたメルセデスには誘蛾香の砕けるエフェクトが見えなかったが、遠くにいたプレイヤーやNPC達はそのド派手なエフェクトを目撃したのだ。下手に近寄って第五種の大暴れに巻き込まれたら割に合わない。だから接近しなかった。


 プレイヤーに助けを求めるように動き、それをメルセデスに遮らせる。これを繰り返し現在地を移動。プレイヤー達も香のエフェクトを見て爆心地を避けて移動をするので空白地帯が生まれていく。

 今、この場にはプレイヤーもNPCも居ない。  

 第五種召喚はある種の荒らしにも使えるアイテムだ。下手に使えば敵味方全員から「何してんだバカ!」となじられかねない。配信上で使って戦況を下手に滅茶苦茶にすれば確定で荒れる。と言っても、荒れる前提でやれば盛り上がる材料にもなるので結局は使い方次第か。それでも案件配信で選択していいアイテムではない。

 

「(だから、プレイヤーを避けて、2人きりにして…………!)」


 だが、この場には巻き込まれる第三者はいない。

 これだけの事をしながら炎上するリスクすらも見据えて策を構築したというのか。

 あまりにも綱渡りなリスク管理。  

 

 地面を割いて現れたのは昆虫をモデルとした見てとれる奇妙な形状のクリーチャー。サイズ的にはアフリカゾウ程度か。

 ずんぐりとした楕円形の丸いボディ。ラグビーボールを少し平たくしたような感じにも近い。一番近い昆虫で言えばダンゴムシ辺りか。そこから生える脚はアメンボのようだが、地面に付く部分から膝関節にかけて流線形のプロテクターに覆われたゴツイ脚だ。

 生き物を原型としつつもどこか非生物的な面を滲ませる様はSF作品などに登場する昆虫型ロボットにも通ずる設計思想を感じる。


 しかしながら、これら全てのSF感を消し飛ばす要素が一つ。

 その体のパーツ全てが『お菓子』で作られているのだ。


 ボディはマシュマロのようで、触覚はスティック状のクッキー、脚の装甲はキャンディー、目玉はゼリーのようにも見える。『チョコ』を除く様々な巨大なお菓子で作られた奇妙なクリーチャーだ。


C゛Y(ヂョー)OOOOOOOOOC゛(ゴー)OOOOOOOOOOO!!』 


 様々なお菓子を宿せど、バレンタインに肝心のチョコだけを持たないチョコ寄越せモンスターが非モテ男性の心の叫びを代弁するように咆哮した。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 伏線が、すごい。 そしてクリーチャーがなんだか可哀想だ。
[良い点] IKKIの世界観を想像するだけでめっちゃ笑える
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] ノートに襲いかかるのは残当やね
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