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No.515 VR3倍増し

広義の意味ではGW




「みんな、丸太は持ったね!!行くよぉ!!『一揆』じゃーーーー!」


「「「「一揆だーーーーーーー!!!!」」」」  


 視聴者に向けてのチュートリアル的な1戦目をいよいよ本格的に戦闘を始める第二試合へ。

 ラノ姉は丸太を複数人で担ぎ、一気に城門へ突撃。門を強引に破壊していく。

 言動はラノ姉の設定に寄せ、生き生きと暴れている。


 案件ともなれば、多少なりとも緊張するのは当たり前である。動画形式ならいくらでも後から編集可能だが、配信者による案件配信はリアルタイムの配信を採用する事も少なくない。不都合な事を安易に隠せないからこそ、逆に信頼のおける広告となるとも言う事が出来るわけだ。


 ただ、かと言って配信者がそこでボロを出すようであれば二度と案件はやってこない。故に案件配信はいつもよりも十倍以上気を使う配信となる。そのせいか言動にいつものキレがなくなったりしやすく、更には自由に配信をしている通常時と違い、基本的に依頼主側で用意される台本に従って配信を進めるのでどことなくぎこちない。

 しっかりと宣伝しながら配信をおもしろおかしく―――――――というのは、かなり難しい話なのだ。



 が、ラノ姉は違う。

 配信者からすれば配信者人生に少なくない影響を齎す、つまり自分の食い扶持に直結する話だが、ノートからするとこの配信で大失敗したところで食い扶持が吹き飛ぶわけでもない。

 どちらかと言えば女装バレの方が危険である。


 7世代が本格的にリリースされてから1周年が見えてきたが、その間に色々なアバター修正用のアプリが配布された。7世代のプレイヤーアバターは基本的にリアルの物を参照する。なので弄れてもプチ整形や化粧、髪型の変更程度。それでも、特に女性プレイヤーは自分のアバターを出来るだけ綺麗に加工する方法を編み出した。


 結果、現代だと『VR3倍増し』なる言葉が流行りつつある。

 意味は簡単。リアルそのままとは言われているが、VRで見える女性の顔はリアルの3倍くらいは美化補整されている、ということだ。


 VRは無加工の時点でも、身体の細部の情報は敢えて無視しているので髪や肌の質感はリアルのソレよりも非常に綺麗になる。皆が皆、あざやシミ、ムダ毛のない美肌で、髪に枝毛はなく艶やかだ。その為か男女関係なく3割マシで美形に見えるとはもともと言われていた。

 が、アバターを細部からキャパシティ限界まで弄れば。

 アナログな時代から既に化粧による補正は非常に高かった。22世紀であれば素人であってもAIなどの自動修正があるので自分が思うような化粧を施しやすくなっている。


 そして、化粧の恩恵を受けるのはなにも女性だけではない。

 男であっても本気で加工を施せば、元の顔にもよるがかなり女性らしくなる。

 Ikkiは基本的な服こそ農民はRPGにおける農民Aの様なラフな服装だが、服が簡素な為か装飾品などに関しては異常に充実しており、仮面やマフラーなどもあるし、アプリの補正を使えば胸を盛る事も出来る。詰め物をしたような違和感は生まれるが、無いものを増やすことなら問題はない。

 そうして色々とアバターを丁寧に弄る事で、接近されても女性らしくみえるアバターをノートはなんとか作り出した。


 その程度で騙せるか、とも思うだろう。

 しかし人の認知と言うのは人間が思っている以上に曖昧だ。

 特に、男女を区別する方法に関しては既に研究されつくされている。

 実を言えば、男女の違いによる顔の違いはあまりない。それが美形であると猶更。美形の男性の顔をよく観察してみると、ある程度美麗な女性と似通った特徴を見いだすことができる。

 更に、人は顔だけでなく声や髪型のバランス、服装などの総合的なバランスから性別を無意識に選別している。逆を返せば、その識別の要素を1つ1つクリアすれば男性を女性らしくみせる事は意外と難しくない。もとの容姿が優れていればよりその難易度は下がる。


 特に声の認識への補正は非常に大きく、容姿に関しては骨格からの調整が難しい7世代でも、声の変更に関しては寛容だ。女性の声を聞けば、脳内で一気に対象の性別を女性だと見るようになっていく。そのまやかしを十全に利用しているのがカるタだ。基本的にベースは大きく弄らず、声をかなり女性的に変更している。それだけで周囲の人間を騙し通していたのだ。


 万が一女装バレしたら。

 リスクは限りなく大きい。

 今回の配信は視聴者も参加できるパートがある。それは視聴者から接近されるということ。モニター越しに見るのとは大きく違う。女性らしい立ち振る舞いをより求められる。人生がかかっていないとしても、案件配信である事に加えて不慣れなゲームをしながら女性らしく面白おかしく配信するのは相当に神経をすり減らす作業だ。


 それはゴロワーズも重々承知している。しているからGoldenPear社からの案件でも断ろうと思ったのだ。なのに当の本人はまるで自然体どころか絶好調。元気に外道プレイを推進している。

 

 縛りが増えるほど、厳しい環境ほど、何故か妙に生き生きする気質がノートにある事はゴロワーズも知っていたが、今はこれ以上になくその気質が発揮されていた。

 

 内心、ゴロワーズも周囲に見せている態度よりかはまるでビビッてはいない。恐怖心が麻痺しているタイプなのでこの程度でガチガチに緊張などしない。少しぎこちなく見せた方が女性としては可愛げがあるし、視聴者参加型としては協力を得やすいと判断しているからそう装っているだけだ。

 もともとゴロワーズの配信形態は胸などを使った男性やオタク層にかなり媚びる感じの配信だ。視聴者の内訳は男性が95%とかなりの偏りを見せている。

 そしてこれらの視聴者はゴロワーズの有能なところを見たくて見ているわけではない。むしろ自分よりポンコツである方がいい。

 一般論ではあるが、優秀だが隙のない女性と、ちょっとおバカで隙も多い女性では、大抵後者の方が男性にモテる。

 ぶりっ子がその最たる例だ。重くてこれ持てない~みたいな事を言っている方が男性のプライドをくすぐり、プラスの感情を引き出しやすい。

 

 ただ、物事は形から入る事で実を成すこともある。少し不安そうなふりをしていれば、幽かに不安に感じてくる。

 ゴロワーズとてこの配信では普段よりも遥かに気を付けている事が多い。心配や不安が0と言ったらウソだ。そのゴロワーズ以上に考えることが多いはずのノートの方が生き生きとしているのだからゴロワーズとしては解せない。心臓に剛毛が生えているとしか思えない。


「ガマズミさんは押し込んで!」

「了解!」

「イコクラさんガード切って!」

「オッケィ!」

「加齢粉さん派生スキル迷ってるならとりま緑!」

「わ、わかった!」  


 まだ日本ではマイナー寄りの作品だ。視聴者もそうだが、ノートとゴロワーズもこのゲームの仕様に慣れているとは言い難い。ルール説明の台本を読み込んでいたのでノートとゴロワーズの頭の中には多少基本的な動きが頭に入っている程度だ。

 それでも既にノートは自分のチームメンバーに淀みなく指示を出す。


 この手のゲームは戦況の変化が素早い。大事なのは間違った指示を出さないように気を付けることだけに注力する事ではない。間違ってもいい。迷いなく一貫した指示を適切なタイミングで与える事の方が重要だ。その指示が誤りかどうかは結果を見ない限り判断はできない。セオリー通りでない指示が結果的に功を奏する事もあるのだから。 

 

 ラノ姉のチームメンバーが全員LOWWA子の視聴者だったお陰で、視聴者はラノ姉の指示出しに従順に従っている。ランダムでメンバー編成が行われるゲームの場合、誰の指示に従うかで揉めると非常にめんどくさい。いくら個々の能力が高くても船頭多くして船山に上るなんて事になればまるで意味がない。

 その点、指示系統がガチガチに固まっているラノ姉のチームは他のチームよりも展開が非常に速い。


 されど初めて顔を合わせた人間に迷いなく指示を出せるのは単に配信者と視聴者という関係性によるものだけではない。ラノ姉(ノート)の指揮官としての慣れが自然と周囲を従わせている。

 

「(肝がファットっていうかなんていうか………ノラくんらしいというか…………)」 

  

 農民同士とはいえ、本来は対立するリスクもある立場。場合によってはチーミングとも判断されかねないグレーな状況だが、ラノ姉はそれをまるで気にした様子もなく視聴者と言う味方が大量にいる状況を利用して有利に戦況を進めている。

 元より案件。そしてその中に視聴者参加型の実戦形式パートを盛り込んだのもGoldenPear社側。ならばこの状況になる事も予想済み。ゴロワーズとノートとてその状況を予測していた。それでも問題ないのかと事前に確認しても、GoldenPear社側は問題なしとGoサインを出した。

 

 運営のお墨付きを得ているので、迷いはない。

 ただ、有利に戦況を進めていけばそれだけ目立つという事。他のプレイヤーから狙われるリスクを大きく上げるという事。


 カリスマの高さというのは、必ずしも本人に有利に働くわけではない。それは誘蛾灯にも似ていて、狙っていた虫だけが引き寄せられるわけではない。


くたば()れーーー()!!」 


 時に、その輝きは招かれざる客を招いてしまうこともあるのだ。



   

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 農民が丸太持つのか どっちかといえば武士では もう、一向宗に見えてきぞ
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