No.512 Ikki
全速力で脱線していく11章スタート
「うぉおおおお『一揆』じゃーーーー!チョコだせー!」
「『成敗』―――!お前ら全員打ち首じゃーー!ってなんか多い多い!?」
「アハハハハハ!数の暴力じゃ――!リスナー共、作戦通りだよ!轢き潰せ――!!」
「「「「ウェエエエエエエイ!一揆じゃーーーーー!!」」」」
片や、ボロボロの江戸時代の農民を思わせる格好。擦り切れた木綿の服に草履、担いだクワも最後に手入れしたのはいつの事か。そんな限界農民共がクワや、鎌、斧などを装備して豪華な屋敷に襲いかかる。
対するのは屋敷を守るサムライたち。ボロボロの農民とは対照的にピカピカの鎧に刀を装備して迎え撃つ。
第七世代機器は使われている技術のせいか、今の所バグだらけで進行出来ないクソコード系クソゲーはない。というかあったら販売前にAIの検閲で弾かれる。
ただ、ゲーム性の面でのクソゲーは検閲でもスルーされる。何をもってクソゲーをクソゲーとするかは個々人の価値観によるもので、そこにはAIも口を出せないからだ。
オンラインモードが盛況ゆえに見逃されてはいるが、ノート達でも最近ようやくストーリーモードの最終章に突入出来たGBHWも割と難易度調整の面で言えば結構なクソゲーだ。
設定重視で「簡単にクリアされたら悔しいじゃないですか(笑)」なんてスタンスでゲームを作ったらプレイヤーはキレる。それをマジでやってるのがGBHWストーリーモードだからお手上げである。
ストーリーモードでは拠点があり、周回クエストなどをして資金や素材を調達し拠点の色々な施設レベルを強化する事で攻略を有利にできる。一方でそれぞれのボスに推奨攻略レベルが設定されており、それを下回る平均施設レベルでクリアすれば多大なボーナスが発生し実績解除の条件にもなっている。ノート達が推奨レベル以下クリア縛りで戦っている一方、早々にこれは逸般人向け推奨難易度と気づいて推奨レベル以下クリアを諦めてレベルを上げ続けた者も多くいたがそれでも尚届かない。ノート達が突破したクソボス(推奨施設レベル320)に対し、最近平均拠点レベル670でようやくゴリ押し突破したという報告が上がったくらいである。
まさに『レベルを上げて物理で殴れ』を強いてくるクソ難易度なわけだ。
ただ、やはり古のクソゲーたちに比べれば、GBHWのストーリーモードもクソゲーというより鬼畜ゲーに分類する者もいるだろう。なんせ実際にノート達が鬼畜ボスを推奨レベル以下でクリアできてしまったのだから。加えて、推奨レベル以下に拘らずレベルさえしっかりと上げれば倒せなくはない事も証明されているのだ。理不尽ワープやバグでボスのHPが減らないとか当たり判定が消えるとか背景オブジェクトの中にめり込んで攻撃ができなくなるとかその手の理不尽はないのだ。
故にこそゲーマー達は憂うていた、見た目やテーマからして香ばしい()GBHWタイプのクソゲーは第七世代ではもうないのではないか、と。
勿論大多数のゲーマーは地雷を踏む確率が大いに減った事に大喜びしたが、しかし一部のゲーマーは一抹の寂しさのようなものを覚えた。
だが、そんなゲーマー達を奮い立たせるゲームが突如としてリリースされた。
『覚醒一揆~The true SAMURAI sprit~』
このタイトルにしてイギリス製。まさかの日本江戸時代を舞台にした対戦式チームバトルロワイアルゲームである。
このゲームは対戦式ゲームであり、タワーディフェンスであり、タワーオフェンスであり、育成ゲーであり、ケイドロであり、そして裏切りのゲームである。
プレイヤー達は1:5の割合で『武士』側と『農民』側に割り当てられる。
武士側は更に2チームに分かれ、それぞれ自分たちのチームに割り当てられた屋敷を防衛する。
農民は10チームに分かれ、武士たちが守る屋敷を襲撃しより多くの米を奪う。
武士はできるだけ米を守り、屋敷を襲撃してきた農民を出来るだけ倒す。
農民は武士たちを出し抜いてできるだけ多くの米を所持する。
ゲーム終了時点でそれぞれの評価が下され、より評価の高いチームが勝ちになる。
基本的な流れを纏めればこれだけだが、実際はかなり複雑だ。
例えば武士たちは単に刀を使う武士だけでなく、全体バフが撃てる陰陽師やヒーラー能力を持つ僧兵、潜伏や罠を得意とする忍者など色々なビルドを選べる。
農民も農民で襲撃タイプやタンクタイプなど色々な農民を選べる。
また、これは単純に武士プレイヤーvs農民プレイヤーというだけでなく、プレイヤー達以外にもNPC武士やNPC農民たちもいる。これらを上手く使えば自分たちの勢力を大きく増す事も出来る。
武士たちは農民を捕えるほどに侍ポイントが上昇して色々な能力を獲得できるし、農民側も米を奪ったり武士を倒したり焼き討ちに成功したりするとボーナスポイントが得られ、装備やら武装やらをアップデートできる。
このゲームの性質上、NPC達は歩くポイントだ。農民プレイヤーが農民NPCを襲い数少ない米を奪い、武士プレイヤーが武士NPCを闇討ちし装備をはぎ取り更には屋敷も乗っ取る。そうして有利に戦況を進め、プレイヤー同士で激突する。結果、民度もクソもない戦法が確立されていく。
このゲームの一番の問題は、農民視点だとタワーオフェンスの癖に闇討ちができない事だろう。農民は屋敷を襲う際に絶対に『一揆』と叫ばなくてはならないという変なルールがある。
一方で武士側も農民を攻撃する時には『成敗』と大声で言わなくてはならない。これはNPC相手でも同じだ。
だが、農民から農民、武士から武士を攻撃する時にはこの変なルールは適応されない。故に序盤は味方であるはずの陣営のNPCを襲うという蛮族ムーブが発生する。勿論これはNPCだけを相手にする必要はない。同じプレイヤーを襲っても何ら問題はない。農民は数が多いが、その分チームも多いので農民間でも米の取り合いになりやすく、農民間での裏切りのリスクがある。というより確実にどこかで農民プレイヤー同士の内ゲバが起きやすい環境になっている。
他のチームと徒党を組んで屋敷を襲撃し米の強奪に成功しても『楽しかったぜぇぇ!! お前との友 情 ご っ こォォォォ』と仲間だったはずのチームから闇討ちされて米を総取りされてしまう事も普通にあるのだ。
勝者はただ1チーム。ならば蹴落としあいも当然である。
タイトルも内容も香ばしいこの『覚醒一揆』だが、リリースして一カ月たちカルト的な人気を獲得していた。ALLFOやAMMⅢと言ったビッグタイトルからするとヒットとは言えないが、その内容にしては売れているし評判も悪くはない。
GBHWよりはゲーム性があってまだプレイヤー達に人間味がある。そう評価する者もいる。
人外魔境状態のGBHWは他の追従を許さない狂気に満ちており、臓物大爆発血飛沫大雨みたいな事が日常だ。
しかし覚醒一揆では臓物が弾けとんだりしない。殺すとは言いつつも、農民は武士に殺されても死ぬわけではなく、屋敷の座敷牢に囚われる。ここでポイントを消費してリスポーンもできるし、仲間が救出してくれるのを待ってもいい。ここはドロケイ要素が強い。
テーマは馬鹿げているがいざやってみるとかなり戦略性のあるゲームであり、戦況がコロコロ変わりやすく『どのビルドが絶対に強い』というパワーバランスの偏りが今の所見つかっていないのも、このゲームの評価をあげている。
また、どこかの頭のおかしい血飛沫超ハッピーなゲームでは罵詈雑言などが通常版だと補正無しで貫通してくるが、そのせいか昨今では罵倒などに対する検閲も厳しくなっており、特に対人ゲームは皆の口が悪くなりやすいので規制音だらけで何がなんだかわからない言葉の応酬になる事もままある。
が、このゲームは違う。
『一揆』と言わなければならない、という謎システムを最初は皆馬鹿にする。恥ずかしがる。なんじゃそりゃ、と。
されどやってみると段々その意義に気づく。つまりこの『一揆』という掛け声は「今からお前を殺すぞ。震えて待てゴミども」というこのゲーム独特の挨拶であり、『成敗』は「やってみろよカス共ぶっ殺してやる」という返答の圧縮なのである。だからこそ皆高らかに叫ぶ。一揆、成敗と。
これこそ正々堂々たる武士道精神。まさに『The true SAMURAI sprit』、真の侍の精神なのである。
―――――――――と最もらしいことをファンが言うも、真相は闇の中。そもそも農民は米を奪う事が主目的であって武士を殺すことではない。ただ、タワーオフェンスの癖に監視を掻い潜る泥棒スタイルが禁じられている都合上、武士との戦闘は必須の為に武士を殺す前提で話を進めた方がスムーズというだけである。加えて農民はそれぞれビルドを選んだ後に、更に此処に割り振られた技能を選んでボーナスを付けられるのだが、やたら対武士戦闘用のパークが多いのだ。その上、武士を殺した時のボーナスも大きい。故に皆そのクワを武士に向ける。
そしてそんな香ばしいゲームにて、農民どもを率いてクワを掲げて一揆と叫ぶ女()がいた。
ラノ姉(ゴロ助の配信時のコラボ用ノートボディフルカスタムアバター)である。
「ヤベェぞアイツら!?」
「俺達同じ農民だろ!?」
「うるさーぃ!そのチョコ全部寄越せ――!」
一チーム5人なのに早速別の農民プレイヤーも指揮下に置いて数の暴力で屋敷を襲撃。普通は手を組んでもこの後農民同士の内ゲバになるのだが、上手く手綱を握って更に他の農民たちまで襲い始める。もはや一揆と言うより盗賊団である。ノート率いる農民チーム連合はヒャッハー!とモヒカンでないことが不思議な感じで手当たり次第に周囲を襲っていた。
因みに、米でなくチョコを寄越せとノートが叫んでいるのは、このゲームもバレンタインイベントの真っ最中だからである。米がなぜかチョコに置き換わっており、もはや時代設定もクソもない。といっても単純に米をチョコに置き換えたわけではなく、集めたチョコを限定NPCに渡すことで一時的にNPCを仲間にできたりと新要素も入っており、一応イベントらしさはある。
さて、何故ノートがこのゲームを購入したのか。それはこのゲームが7世代用MMOであり、尚且つ他のゲームとコラボしている気配が無く、尚且つ製作会社がイギリスではあるがその親会社がGoldenPear社だからである。




