No.Ex 外伝/それ逝毛!主任マン~エンジェル・プリズン~ Qu
幽霊戦艦。正式名称は【Area Ruler/幽霊戦艦ルゥリジ・カルゲァメルティ】
推奨ランクは100。それもレイド級である。実際のスペックだけを見るなら70前後だが、海上での戦闘となれば話は別。容赦なく砲弾の雨を降らせてくる戦艦に対抗できる船と魔法を用意し、実際に乗り込んで慣れない船上での戦闘をし、ボイラー室の本体を攻撃しなければならない。
その間、エリアルーラーである幽霊戦艦には自動HPMP回復のバフが発生しており、海兵アンデッド達はほど無制限に召喚され続けられ、下手に戦艦本体を攻撃しても殆どダメージらしいダメージは入らない。あらゆる妨害を突破し、なんとかボイラー室を叩かなければならない。しかしこのボイラー室への道のりも狭い通路を通る必要がある為、大人数によるゴリ押しも困難。下手すれば通路で挟み撃ちにされてすり潰される。
この幽霊戦艦に余裕をもって勝ちたいなら、平均ランク100、頭数は最低でも500は欲しい。じわじわと海戦をするのではなく、多方面から囲いこんで一気に攻め入るのが正攻法だ。大砲の一撃で沈没させようとしても幽霊戦艦には通用しない。エリラルーラーというのはそれほど理不尽なボスなのだ。
特に、幽霊戦艦は本来であればもっと後半に遭遇するはずのエリラルーラーである。海流の謎を解き明かし、シナリオを進めて海の怪物とも対抗できる船と戦力を用意し、何度も何度も攻略を進める事でようやく幽霊戦艦を発見し、巡回ルートを推定し、用意を積み重ね、そうして初めて互角に戦える。
それを妙なクルーザーをでっち上げてアンデッドのゴリ押しで突破してしまったアホ共のせいで話がおかしくなった。
あの段階のノート達でもまず攻略は不可能。そのはずだった。
だが、ノート達が幽霊戦艦と遭遇した時、幽霊戦艦はエリアの縛りから解かれていた。それは幽霊戦艦の自由度が大きく増したと言えるが、裏を返せば電源コードを引っこ抜かれている異常事態。もし普通の家電であればその時点で機能停止をしているが、幽霊戦艦は家電ではない。アンデッドに対して使うには少し微妙な表現だが、一応生き物である。
別の例えにするなら、エリラルーラーとは常にあらゆる万病を直し活力を与える点滴をされ続けているようなもの。その点滴を取ったからと言って即座に死ぬわけではない。ただ、その点滴ありきで長い事生きていた為、強引に点滴を取り外せば動きに大きな支障が出る。
ノート達が遭遇した時点で、元の幽霊戦艦と比べると能力は9割減。既にHPが瀕死ゲージになっているのがあの幽霊戦艦なのだ。遥か格下でも唯一矛を届かせうる千載一遇のチャンスだった。
更に、幽霊戦艦にとってはノート達に構っていられない異常事態が2つあった。
一つは文字化け。幽霊戦艦は文字化けから逃げるためにあの時多くのリソースを割いていた。ただでさえ非常電源で動いているような状態なのに、多くの電力を使って逃走モードに切り替えつつあった。加えて文字化けの眷属達を退ける為にもノート達の見えない海面下で激しい戦いが起こっていた。
二つ目は悪魔達。大悪魔ならびに魔王二柱、傘下の悪魔7体。傘下の悪魔1体ですら幽霊戦艦を易々と殺しうる力を持っている。過剰戦力もいい所だ。幽霊戦艦がビビッて逃げようとするのもおかしな話ではない。その悪魔どもが乗り込んできたのだから幽霊戦艦としてはノート達に構っている場合ではなかった。その為に命を削りながら大量に海兵アンデッドを召喚してもそれも一撃で皆殺しにされて逆にリソースを無駄に使ってしまった。ただ、アンデッドであるが故に本能的に次々と手駒を召喚してしまう。それはもはやアレルギーの様なもので幽霊戦艦自身の意思で止められない。けものっ子サーバンツ達が暴れて海兵アンデッドを殺し続けるだけでも幽霊戦艦にかなりのダメージが入っていたのだ。故にあの時けものっ子サーバンツ達はユリン達に直接手を貸さなかった。
「(本当によく倒せたな…………)」
ただ、これだけの条件が揃って幽霊戦艦が超弱体化していても、単一パーティー程度で倒せるような敵ではない。
針の穴に糸を通すよりも厳しい勝ち筋。
初期特4人に世界トップクラスの才能持ち3人というドリームメンバーが揃ってなければまずどうにかなるような敵ではなかった。
倒すどころか、支配するなどもっと細い細い勝ち筋だ。
ヒィレイからバフを受け、ザガンから強力なブースト薬を貰い、契約を持ち掛けてピエロマスクを付ける。更にはキサラギ馬車の占星ギャンブル。これらを積み上げてようやく奇跡に手を届かせた。
「(ん?妙だな)」
ノート達の動きを追っていた時はノートの動きばかりを追ってしまったが、ブースト薬をザガンがノート達に渡す件でT君は違和感を覚える。果たして、バルバリッチャがザガンの悪だくみを本当に見逃していたのか。配った後に罰を与えていたという事は、与えたことに気づいていたという事である。つまり気づける余裕はあった。なのにどうして、配る前に止めなかったのか。
「(やっぱり全部織り込み済みだったのか?)」
幽霊戦艦とノート達をブッキングさせるのも、ザガンが薬をノート達に与えて戦況を立て直させたのも、ノートがピエロマスクを使おうとして契約を持ち掛けて来ることも、全部バルバリッチャの策なのだとしたら。
ノート達が幽霊戦艦に勝つよりも更に細い勝ち筋。
バルバリッチャにとってみれば、バルバリッチャはノートを強化したい。しかし直接的に手を貸さない。貸せない。ノートの方から自発的に動くようにさせることがベスト。最終的にノートが幽霊戦艦を支配下に置いたことはバルバリッチャにとって結果的に狙い通りだった可能性が出てくる。
やはり、ALLFOを更に理解する上でバルバリッチャを掘り下げないと話にならない。
T君は手当たり次第に自分の使えるコードを使ってバルバリッチャや大悪魔関連の情報を引っこ抜いてみようとする。その瞬間、視界にノイズが走った。




