No.Ex MGチーム活動日誌❻
No.Ex MGチーム活動日誌❻
【2月$日】記入者:Maple Tree Library
アサイラムに移籍して、もう何日経ったかねぇ。
MGチームの副リーダーに任命されたはいいけれど、まぁみんな好き勝手やるもんだからヒヤヒヤするよ。
キャップはまだ若そうっていうかあたしの息子と歳が近そうだけど、笑って大抵の事は許しているからいいけどさ。あたしの息子もアレぐらいの余裕が欲しいもんだよまったく。
けれど、みんなの気持ちも分からなくもないんだよ。アサイラムは生産部門に優しいというか、非常に重要視しているから多くの投資をしてくれる。あたしは木材担当だけれど、山の様な資材を好きにしていいと言われた時には耳を疑っちまったよ。木工細工や家具なんてゲームじゃ役に立たないって伐採を依頼してもDDの連中はあんまり相手してくれなかったんだけどねぇ。NPCへの贈答やら、収納やらと使い道が色々とあるからどんどん作ってくれと言われたらこっちも力が入るってもんさ。
あんましNPCには関わってこなかったからあたしはよくわかんないけど、キャップは随分とNPCについても重用しているみたいんだねぇ。木で作ったパズルとかボードゲームの部類にもやたら興味を示していたね。ほんとに手慰みで、DDじゃ生産組の仲間内で遊んでいるだけだったけれど、これもNPCとのコミュニケーションに使えそうだと一気に色んな注文が来た。材料持ちの時点でかなりやりやすいのに、依頼をこなしたら何かしら報酬も用意するってんだから驚きさ。
正直なこと言うと、アサイラムはもっと怖くて頭のネジが何本も取れた連中だとずっと思ってたよ。
そりゃそうだろ。今までが今までだったからね。DDも大概だったけれど、あたしが生産として加入した時には大人しくなり始めてたからねぇ。そもそも、レッビーがトラブっちまって街から離れて、DDの生産チームに拾われるなんてこともなきゃあたしだってDDに近づこうなんて思いもしなかったよ。
その点、アサイラムはDDよりむしろ和気あいあいとやっているというか、戦闘組は戦闘組で結構楽しそうにやっている感じだね。トップ争いはするような組織となるとどうしても事務的な要素や殺伐とした感じが強くなりがちなんだけれど、アサイラムは基本的にキャップを中心とした内輪ノリの組織だ。MGチームに対しても基本的にはキャップが窓口として対応しているのは徹底しているね。まだ他のメンツと関わらせる気は薄いのかもねぇ。メンツがメンツだから気持ちは分からなくはないけどねぇ。Gingerちゃんみたいな子がゴロゴロがいるんだもんだから、あたしの価値観がおかしくなりそうだったよ。
ひとまずはみんなが暴走しすぎないように注意しながら、キャップの出方を窺った方が身のためだね。好き勝手してキャップの不況を買うのは馬鹿のやる事だからねぇ。
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「ふーん、なるほどねぇ」
ノートは送られたデータにサクッと目を通しながら一人の男と対面していた。
場所はアサイラムのミニホームの面談室。ミニホームの中ではもっともセキュリティの高い部屋で、あるのはテーブルとイスだけ。少し広めなモダン調の取調室、とはデザインしたヌコォ談である。
「契約違反ですよね、これ」
「いや、違反はしてないさ。俺は日誌を見ないと言った。けれどそれを読んだ第三者がその内容を纏めて俺に教えてくれる分には契約とは別の話だよ」
少し苦々しい顔でノートの前に座るのはMGチームのリーダーに任命されたLucyだ。
ノートはMGチームを迎え入れる上で、少しでもいいから活動した日には記録を残すように“お願い”をしていた。勿論強制ではないし、その内容を自分がみる事もない。ただ、今日何の素材をどれだけ使ったかを自分で書き記しついでに日記帳でいいから所感を書き残しておいてほしい、と。
この日誌は既存のサイトを流用しており、ノートが見ていない証として総合権限はLucyに委譲されている。なのでMGチーム個々人で書いている日誌は、その本人とLucyしか閲覧できない。けれどそのLucyにしても、万が一メンバーがアサイラムを辞める時にアカウントを削除するために権限を持っているだけで、性格的にも人の日記を勝手に覗いたりするタイプではない。ただ、日誌を付けているかどうかぐらいは直ぐにわかるので、あくまで抑止力として、リーダーだからLucyにその権限を与えたとMGチームには説明がされている。
だが、そんな無駄な日誌をノートが付けさせるわけがない。個々人が何を考えているのかを掴む上では重要な資料だ。
されど約束通り、その内容を覗き見たりはしない。内容をまとめた“別の資料”が“聞こえる”だけだ。
またも裏切りの様なことをしているのが後ろめたいのか、Lucyの表情は明るくない。
「別にアサイラムに反抗的な勢力を炙りだそうしているわけじゃない。実際、大事なのは彼らがなんの素材をどれくらい使っているかっていう情報だからな。あまり趣味に義務感を与えたくないんだよ。どんな趣味も、義務感を感じ始めたら危険サインだ」
「俺に日誌をきちんとつけるように皆に言わせてる時点で変わらないでしょ。俺が憎まれ役になっているだけですよ」
「俺は強制してないだろう?あくまで“お願い”をしただけだ。まー、俺達が派手に動けばアサイラムが悪目立ちしてLucy君の妹が相対的に目立ちにくくなるかもしれないけど?別にその為に俺達はゲームをしている為ではないからなぁ」
Lucyの何よりも大切な存在を人質にして、悪魔はニコニコと嗤う。
これも君の為なんだよ、と。
「組織には役割分担が必要だ。例えば、率いる者、調整する者、励ます者、あるいは引き締める者。組織が大きくなるほど色んな人が必要になるし役割は重複する。けれど、全ての役を兼任するのは非効率だ」
「だから俺には憎まれ役を任せる、と?」
「憎まれ役って言うのも違うだろう。引き締め役が必ずしも憎まれるなんて勘違いは今すぐ捨てろ。それは言い方が悪いだけだ。口触りの良い事ばかり言っていれば好かれるなんてナイーブな考え方も捨てろ。君のマイナスから物を見る姿勢は嫌いじゃないが、卑屈になるのはまた違う話だ。君の頭ならヘイトを減らす言い回しだって出来るはずだ。横着をして、そして発生した不都合を相手の責任にするのは君の過失だ。厳しさは攻撃とは違う。厳格さとリーダーとして慕われるあり方は十分に兼任できる役のはずだ」
誰にとっても効果的な言葉のかけ方などない。
結局のところ全てその人によるのだ。
例えばツナに対して指導をする時、ノートはもっと優しい。とにかく褒める。褒めて褒めて、残った弱点をフォローする。
だがLucyの場合は違う。プライドの高い男を褒めたところで素直にその言葉を受け取らない。そもそも褒めるというのは、ある意味褒める方が“上”になる。故にこそストレートに褒めるより、プライドを刺激するような言葉を選びつつ理詰めで詰める。
「誤解しているなら言っておくが、俺は弱みを握ってるからと言ってLucyをリーダーに任命したつもりはない。Lucyなら適切なまとめ役として機能できる器だと考えたから任命したんだ。君はできないんじゃない。めんどくさがって逃げてるだけだ。違うか?」
ここまで散々遠回しに脅しておいて何を言うかとLucyはノートを睨むが、ノートは余裕そうに微笑むだけだ。
責任を持つ立場から逃げてきた者。
逃げずに、血だらけになりながらでも敢えて茨の道を歩み続けて者。
生きてきた時間の長さ自体には大きな違いはなくとも、積み上げてきた時の質が違う。
Lucyはノートの目の奥にある強さに気圧されて先に目を逸らした。
「君の妹はリーダーとして立派にあの巨大な組織を率いていた。その彼女が頼りにしている君に俺も期待している。これからもそれぞれのメンバーが何を考えているか逐次把握し報告をするようにお願いするよ。以上だ」
ノートはそう言うと有無を言わさず席を立った。




