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No.509 アサイラム歓迎会&慰労会 五



「笑えよ………」

「いや、別におかしくは無いと思うけど。旨そうだぞ」


 テーブルに着て早々、くっ殺せ、と言わんばかりの顔でLucyが俯いていた。周囲にいる男たちもニヤニヤしている。


 タイトルを付けるなら、『コーンマヨ照り焼きチキンピザ』と言った感じか。盛り付けにもおかしな点は見受けられず本当に美味しそうな感じでLucyが何を恥ずかしがっているのかノートは本当に理解できなかった。


「あー、それはね……」


 ノートが首を傾げているとMGチームの中でも年配寄りの男が説明する。

 曰く、今というかひと昔前くらいからアメリカでは照り焼きコーンマヨピザはガキの食べ物というミームが流行り、いい年になってもそればっかり食っている男はおこちゃま味覚みたいな扱いになるらしい。

 別に良くないか?と思ったが、一度根付いたミームと言うのは厄介だ。日本でもチーズ牛丼をオタクに結び付けたミームが広がり完全に定着していたことを思い出し、ノートも一応の理解を示す。


「好きなんだよ………!というかそもそもピザが得意じゃないんだ!」

「わかったって。俺もそれ凄い好きよ、照りマヨ」


 アメリカ人なのにピザがあまり得意じゃないんだ、という言葉を呑み込みノートはLucyを宥める。初対面はもっと賢くて捻くれている印象だったが、LucyもLucyで現在仲の良い妹との関係が拗れていたり、そもそも今の時間帯はアメリカ的には完全に深夜でテンションがおかしくなるには十分な要素が揃っていた。


 他のメンバーはピザの国だけあって思い思いのピザを作っている。元々親しみのある料理なのでイメージをしやすいのか壊滅的なセンスを見せた者はいなかった。


「これ旨そうじゃん。凄い辛そうだけど」


「香辛料が充実してて良き」

「アテナ氏もなかなかの素養をお持ちのようで」

「VRだと辛い物食べてもアナルさんが死なないのが一番のVRの利点と言っても過言」

「激辛ウインナー最高っす」

「チョリソーっていうんじゃないの?」

「チョリソーは辛いウインナーじゃなくてパプリカを混ぜてるウインナーの事だから」

  

 アメリカ勢で人気なトッピングは輪切りにされたウインナー。かなり赤みが強いウインナーには辛み成分が多く混ぜられており、このウインナー一本でビール一本飲めると高い評価を受けている代物だ。

 在庫はあまり多くなくアメリカで食料をばら撒いていた時にも温存されていた人気食品だったのだが、パーティーという事で大盤振る舞いしている。


 皆が思い思いのピザを用意したところで会場の隅っこでけものっ子サーバンツがあらかじめ作っていた窯の中にピザが投入されていく。非常に大きな窯で、けものっ子サーバンツが横のレバーを弄ると窯の内側が回転して焼きムラを減らす仕組みになっているようだ。瞬く間にいい香りがし始め、焼き上がったピザから机に並べられていく。


「これウメーーー!」

「このピザいいね」

「ここで追い粉チーズを………」

「それは邪道じゃない?」 

 

 個々人で作ったものの、それだけを食べなければならないという決まりはない。アグちゃんが立ちはだかって何人たりとも食べる事を許さない姿勢を取っているフルーツピザ以外は基本的にシェア状態になっており、皆でテーブルを移動しながら好きなピザを取っては食べ始める。

  

「どれ食べる?」

「どれでもよい。アグラットのピザ以外ならなんでもな」

「あー、まぁあれは極端なピザだし」

   

 一切れずつ大皿にピザを取ってノートがバルバリッチャにどれを食べるか聞いてみるが、特にこだわりはないようだ。初期の吸血鬼成分が強い時は肉を好む傾向がかなり強かったが、力を取り戻すにつれ嗜好も変化しているのか大げさなリアクションこそしないがタナトスの作ったスタンダードなマルゲリータピザを旨そうに食い始めた。


「ところで、明日より本格的な活動を再開するようだな?」

「そのつもりではある。遠征は息抜きに近いからな。息抜きのはずだったんだけど、大変な事になった」

「それは主人のせいでもあるだろう」

「やっぱり?ごまかしはしたけど完全に偶然で片づけるのは無理な気がするんだよね」 

  

 火山砂の化物が出現した時に発生したアナウンスには看過できない点があった。

 文字化けクリーチャーをノートが観測したのは火山砂の化物含めて4回。

 一度目は廃村の地下。ガーディアンと思われる人形兵器を全て撃破したのち、床が崩落して出現。

 二度目は水晶洞窟。ネオンが魔法を放ったところ大きな崩落を起こし裏世界の様な場所に居るのを確認。

 三度目はルリエフ島近海。厳密には『空』か。ルジェの何らかの干渉で出現。


 このうち一度目はモノリスなどから何かしらのトリガーを自分達が引いたと推測しており、2度目はかなり偶発的。3度目は強制イベント。もっと踏み込んで言えばルジェが封印を解いたと考えられる。

 そして今回の4度目。この4度目も偶発的ではあるがどのケースとも完全に一致はしていない。ただ、アナウンスの中に『規定条件の達成を確認』という文言があった。

 つまり、タイミングを鑑みてもノート達が何かしらの条件を知らず知らずのうちに達成したことであの化物は出現した可能性がかなり高い。シチュエーション的にノートが出まかせで言ったように北西勢力が一矢報いるために何かしらの工作をした可能性も0ではないし、DD側は現在その見方を強めているが、祭祀の力を知っているノートからするとアレだけの怪物を出現させるトリガーを引くには何かしら大掛かりな準備が必要で、それを祭祀に一切気づかれる事なく完遂するのはあの程度の連中には不可能だと考えていた。

 

「俺の称号もかなり深く関わっているとは思うんだよね。ただ、それだけでもない様な気がする。そうでないと困る」 

 

 ノートは様々な称号を持っているので、心当たりはかなりある。なんだったら[逃走禁止]の行動強制が発生しているというあまりにも悪質なタイミングでイベントが起きたのは、むしろ逆の見方も出来る。つまりあのオリジナルスキルが発動したから、イベントが連鎖して発生したのではないか、と。


 騒動後、ノートは色々な対象に聞き取り調査をした。

 プレイヤーは全員対象。アサイラム、DD、北西勢力全てのプレイヤーに発生した。

 続いてNPC。休火山都市のNPC全てにもオリジナルスキルは影響していた。あの時NPC達が避難というの名の逃走が可能だったのは、祭祀がノートのオリジナルスキルの影響を強引に捩じ切ったからと祭祀より聞いている。反船でも聖女リナがノートのオリジナルスキルの影響を強引に排除しているのを確認している為、ノートも驚きはない。

 問題は魔物。グレゴリ曰く自分にも影響は及んでいたとの事。つまり魔物も問答無用でスキルの対象に取られていた。


 では文字化けは?

 あのオリジナルスキルはトリガーがかなり緩く、加えて規模も不明。恐らくはノートの声が届いたモノはほぼ強制的に対象になると考えられる。

 もし、レクイエムによって行われていた演説が怪物にも届いていたとしたら、あの怪物にも逃走禁止の行動強制が発生していた可能性がある。奥で引きこもっていたのに非常に耳障りな演説をぶつけられ、その諸悪の根源を叩き潰す為に一直線にあの都市に向かってきたと考えたら。


 文字化けの怪物ならノート程度のオリジナルスキルの影響は振り切れたと考えることも出来るが、万能な生物はいない。とある人が砲丸投げが得意だからと言って将棋も得意なんて考える人はいないだろう。火山砂の化物は単純なフィジカルでは祭祀達より遥かに強かったが、行動強制などの影響を振り切る方法を持っていなかったのかもしれない。

 アンデッドの様な不安定な動きも、赤子の様な存在だったと考えればある程度説明がつく。生まれたての赤子に多くを求めても上手くいかない。鍵を使って枷を解く事はできなくても、赤子なら力任せに枷の繋がれた棒を叩き折る方を選んでも不思議ではない。


 ただ、本当にノートの演説だけが規定条件達成のトリガーなのだとしたら、今後ノートは迂闊に演説ができなくなる。ノートのオリジナルスキルは他のオリジナルスキルに比べてトリガーが緩い強みがあるが、逆を返すと自分自身で任意で操作できない。条件を満たしたら問答無用で発動する。


 さてどうしましょう、と言わんばかりにノートがバルバリッチャを見れば、バルバリッチャはワイングラスを揺らしながら薄く笑っていた。

 


 

補足:アメリカだとコーンを乗せるのはちょっと微妙な顔されるのは本当らしい。アメリカのコーンってそのままを食べるんじゃなくてスープやグリッツ(とうもろこし粉を使った粥のような料理)にして食べるのがメジャーみたいですね。

100年も経ったら今とは価値観は変わってそうですけど………



因みにLucyは結構お子様舌



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます [一言] うわぁ、勝手に発動するスキルって結構ヤバイなぁ、、、 >>文字化けクリーチャーをノートが観測したのは火山砂の化物含めて4回。 というか、すごいなぁ…
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 答え合わせの時間だオラァ!! >>逃走禁止に合わせて発生した ALLFOちゃん悪辣〜と思ってたけど、実は違うのか いやでも…
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