No.506 アサイラム歓迎会&慰労会 二
「ネモも、特に問題はないな。ただ、そこで個性がでるのか」
「自分が育てたものを~自分で捏ねるのは~ふっしぎな感じでっす~」
「そうだな。生地とか具材もネモの栽培品が多く関わってるからなぁ。捏ねにくさは感じないか?」
「土弄りをしているせいでっすかね~?あまりいわかんはないでっすよー」
ネモはなんだかんだ卒なくこなしている。手ではなく自分から生やした蔓で捏ねているがなかなか器用で安定している。
「クリフもゴヴニュ系だな………ちょっとマシか?」
「此れは吾の専門ではない事ぞ。なかなか思うようにいかぬ」
「もっと柔らかい動きでやるんでっすよ~」
「ええい、分かっておるわ!やめぬか!抱き着くでない!」
そのネモから株分けされた存在であるクリフはネモの分身、妹、娘に該当しそうな存在なのだが、ネモの破壊神的な要素を取り出した存在の為か生産活動は苦手なようだった。天然の入っている母親か姉に絡まれるしっかり者の娘の様にきゃいきゃいと騒がしい。
『d(≧▽≦*d)これたのしい!』
「それは良かった。うーん、つくづく万能系だなぁ。戦闘系寄りなのに料理できるのか」
戦闘系は生産が苦手。そんなセオリーを無視する例外がグレゴリだ。
影を操作して楽しそうに生地を捏ねている。動きに淀みはない。生産職のギフトを使用して作られた死霊だからか、それとも戦闘系なのに追加技能が『画家』とかなり戦闘とは遠い代物だからか、それともツッキーの『叡智付与』の効果のせいか、特殊条件の塊のような存在の為にグレゴリは不思議な点が多い。
精神年齢が子供に近いせいか生地を捏ねるのも楽しそうだ。
『グレゴリ殿に負けられない、と意気込んだはいいのだが…………』
『うむ。我々には難しいのでアール』
『私は記憶がおぼろげですがある分だけ出来ますけど、なにか独特の違和感がありますね』
「ダゴンもヒュドラも無理はしなくていいぞ。多分グレゴリが喜んでやってくれる」
『(`・ω・´)bまかせな!』
そのグレゴリと同じテーブルでは、ネクロノミコンが進化したお陰かミニホームの中ぐらいなら出歩けるようになったイザナミ戦艦幹部衆も生地作りにチャレンジしていたが、ダゴンとヒュドラはレクイエムよりかはまだ捏ねているがゴヴニュよりも遥かにぎこちない。
エインは里長として子供達と一緒に似たような事をした経験があるとの事でエロマくらいのクオリティで生地を捏ねている。料理しないけどできるなりに頑張っているレベル、と言った感じだ。それでも根本は死霊の為か生産活動へは無意識的な忌避感があるようだ。本気でやればできるのだろうが、乾いた目を強引に開け続けるくらい本能に抗う気分でやらないとできないらしい。
因みに、キサラギ馬車、というよりその御者であるフランクにも一応生地作りを依頼してみたがこちらもレクイエムと同じで捏ねることができなかった。
「こっちは………まあ何も言うまい」
悪魔勢テーブルはけものっ子サーバンツ達が割烹着に身を包み、横一列になって生地を捏ねている。見た目自体はとても微笑ましい。が、よく見ていると生地がひとりでに動いており魔法で何かイカサマしているのが分かる。
ザガンは生地になにかの液体を垂らしてなにかを試していたが、バルバリッチャが近くにいる手前変な事をしないだろうと放置。生地が黒いタールの様に変貌し、膨らみ、動き、「テケリリ」と奇妙な鳴き声を上げていたがそれでもノートは無視をする。反応した方が負けな気がしたからだ。
オロチは創造した悪魔に代行させてさぼっている。一応その悪魔もオロチの能力の延長線と見れば問題ないのか。ネームドではないにせよ力ある悪魔がこんなおふざけに付き合っているだけ寛大とも言えるかもしれない。
「何が起きたらそうなっちゃうんだ?」
「おおきいのを作るのよ!」
ただ、そんなノートでもスルー出来なかったのがアグラットだ。何故か真っ白になっている。横には散乱した紙袋。雑に粉の入った袋を破いて勢いよく巨大なボウルに開けて大惨事と言ったところか。そして明らかにデカイ。一体何人前を作る気なんだと問いたくなるほどデカイ。そもそもそんなサイズのボウルなどなかったはずだとノートが確信できる程度のはデカい。
具体的にはお化けカボチャくらいのサイズはある。頑張って詰め込めば体の柔らかな子供ならスッポリ入りそうだ。主人を見かねてかサキュバスが複数人で手伝っているレベルである。
作ってもいいから一度分けなさいと説得し、アグラットが1人分程度の生地を捏ね始めたところで次のテーブルへ。
大きめのテーブルで生地を捏ねているのはアサイラムのプレイヤー生産組織と作られたMGチーム。普段から生産活動をやっているだけあってピザ作りも問題なし、とはいかないらしい。割と個人差が出ている。上手い人はかなり手際がいいし、ダメな奴はゴヴニュよりかはマシな感じだ。
それでも皆楽しんでいていい雰囲気ではある。
「出来た人から教えてくれよ。ところで、やっぱピザはアメリカでは身近なのか?」
「そりゃーねー」
「日本に旅行した事あるけど、ピザ高すぎだべ。ラーメンは安かったけど」
「日本のラーメンとピザを逆にしたらちょうどアメリカの価値観くらいになるんじゃねー?」
「ラーメンで1000円切ったり、逆にチェーン店のピザで数千円とか考えられねーよな」
物価は時代によって変動するものではあるが、あまり変化がないものもある。
アメリカのラーメンは店によりけりではあるが下手すれば一杯で数千円取られるし、逆にピザは1人分なら多くても1500円を超えてくることはなかなかない。
中には暇を持て余してピザを家で作ったことをある者も数人おり、そのメンバーたちが中心になって教えている為か人数は多い一方で全体的にスムーズに進んでいる。
「意外と不器用?」
「料理なんかしないでしょ………検証も含めていると言われなきゃやってないですよ」
「そうでなくても、ねぇ?」
なお、Lucyは元々DDの生産チームから浮いていた為にまだアウェーな感じの空気を纏っていたが、ノートにMGチームのチームリーダーに任命されてしまったせいで逃げる事もできずに苦々しい顔で生地を捏ねていた。が、全体的に雑だった。
個人差がかなり出た生地作りだが、ノートが全員を見て回るころにはチラホラと捏ね終わる者も出始める。そうしたらその生地に濡らしたふきんを被せ、ノートが宴会場の角で腰かけて酒を飲んでいるバルバリッチャの元へ。大悪魔はサキュバス達を傍に控えさせ相変わらず王の様に好き勝手している。当然生地作りはしない。下手すると完成品を魔法でいきなり作り出しそうな気配すらあったからノートも頼まなかった。
「バルちゃん、発酵促進お願いします」
「…時空魔法の使い道が料理関係ばかりなのはどうなのだ?」
「でも戦闘に使ってもらうわけにはいかないじゃん?かといって武器や装備に使うのも強すぎるし。まあ料理の発酵時間を進めるくらいなら只の時短だし?」
そもそも戦闘に関わる力の貸し出しに色々と制限をかけているのはバルバリッチャ自身だ。プレイヤーが使えない時空魔法を醤油や味噌の発酵に使いまくっているアサイラムの状態は他のプレイヤーが知れば白目をむきそうな状態だが、ノートとしてもこれぐらいしか頼めないのだから仕方ない。
膨らむまで待つの面倒じゃない?というノートの言いくるめに同意するところはあったのか、なんだかんだいいつつバルバリッチャは指をならして魔法を使う。すると濡れふきんをかけた生地の周りに結界の様な物が出現し、早送りするように膨らんだ
本来は20分から30分、粉の組成が違うせいかALLFOだと10分くらい待つ発酵時間(リアルだと二次発酵なども含め1時間ほどかかる)もバルバリッチャなら温度や湿度までキッチリ調整して5秒も満たない時間に縮められる。
「一気に人数増えて大分騒がしくなったとは思うけど、どう?」
「どう、とは?主人と同じ存在は主人の預かりだ。言いたいことはわかるな?」
「まーね。一応この組織のトップは俺だしね」
つまり、アサイラム所属のプレイヤーの責任はノートに帰属する、とバルバリッチャは言っている。なかなか横暴な言い方ではあるが、その代わり問題を起こすまでは口を出す気はないという事でもある。
急な加入というのもありバルバリッチャの正体などに関してはまだ移籍組には伝えてないが、バルバリッチャがどんな立ち位置なのかは再三忠告してあるので下手に絡むバカはいない。まさにアンタッチャブル。ただ、それが本来の立ち位置なのだ。ノートみたいに気安く接する事を許されている方が例外中の例外である。
勿論、バルバリッチャの力ならプレイヤー相手だろうがガチガチに制限をかける事も出来る事はノートは知っている。それを敢えて放置しているのは、ある種ノートへ信頼を置いていると見る事もできるだろう。
「バルちゃんって割とこういうワイワイしたもの嫌いじゃないよね?なんだかんだいつもいるし。自分ではやらないけどさ」
「どうとでも言え」
「照れちゃって」
「……やらんぞ」
「それは困る」
図星だったのか軽く顔を赤らめてノートを睨むバルバリッチャ。バルバリッチャが臍を曲げると大変困ったことになるのはノートの方なので素直に白旗を上げた。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽テケリ・リ(1d6/1d20)
→戦闘タイプ最序盤発狂からの回避不可押し潰し70%→4d6で壊滅の美しい流れ、素敵だね(トラウマ)




