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No.505 アサイラム歓迎会&慰労会 一


「それでは………先送りになっていたツナ達の歓迎会とDDからの移籍組の歓迎会及び、本作戦で働きづめだった死霊達の慰労会をこれよりはじめまーす。みんな飲み物持ってんな?それじゃ、カンパーイ!」


『カンパーイ!』


 バルバリッチャにより派遣されたムゥラビにより一気に地下帝国付近まで転移をしたノート達。それから暫くは新顔組をミニホームにいれる前に改めて個々で面談をしたり、待遇について会議を行ったりして、ミニホームへの立ち入りを許可。大量のMONを使って部屋を増設する。

 それからは移籍組をバルバリッチャにお目通りしたり、死霊達に紹介したりして、数日かけて移籍組の部屋の割り振りを決めて完全に落ち着いたころ、ノートは休憩がてら歓迎会を行う事にした。


 移籍組はアサイラムに加入する者が毎回そうなるようにアサイラムの特殊な環境に目を白黒させていたが、皆ゲーマーなので適応するのは早かった。それよりも、アサイラムのメンバーの正体について知った時の方が反応が大きかったかもしれない。ただ、それもGingerの存在である程度耐性が付いていたのか、すぐに落ち着いていた。

  

 なお、今回のパーティーに関しては場所こそいつもの宴会場だが、まだ料理は殆ど用意されていない。というのも、慰労会を兼ねているのでパーティーの為に慰労対象のタナトスを働かせては本末転倒だからだ。ただ、タナトス本人は仕事命の死霊なので本人が嫌な気持ちになってまで休ませるのも更に本末転倒なのでノートはタナトスだけは好きにさせている。

 

「それじゃー始めるか、ピザ作り!」


 さて、今回の遠征に際してアサイラムのストックがかなり減ったのは確かだ。だが、タナトス達料理チームは24時間体制で料理をし続けている為にまだストックはある。その為にパーティーで食べるだけの料理ぐらいは直ぐに用意はできる。 

 が、敢えて用意しなかったのは、メンバーの交流も含めてちょっとした遊びをしようと考えたからだ。

 

『材料の方は御用意させていただきましたのでご自由にどうぞ』


 タナトスが生き生きとした様子でガラガラと非常に長いカートを押してきた。さながらバイキングのようで、そこには様々な具材が銀の長方形の器に入って並べられていた。

 更にはサキュバス達が机や粉や氷水など様々な道具や材料を持ってきて準備を整えていく。


「トッピングはこれだけあるから、まずはどんなものを作るか考えながら各自まずは生地作りだ」


『それでは皆様、まずはこちらの―――――――』


 なお、ピザ作りの講師はタナトスである。疲労の概念がないアンデッドには休憩の概念を理解させるのは難しい。むしろノートから指令を与えられてか生き生きとタナトスは指導を始めた。  


 まずは強力粉や薄力粉、水、塩、イースト粉モドキなどを混ぜたものを各自混ぜて混ぜてこねていく。

 タナトスは調理用の手袋(ノートがプレゼントした)をはめてまるで職人の様に手際よく混ぜていくが、それを見ながら生地の元をこね始めたプレイヤー達の動きは様々。


 手際が一番いいのはパン作りなどの経験もあるネオン。


「料理に関しては本当に隙が無いなぁ」

「リアルの物とは配合比率が異なるので、よいしょ、この生地の元を作るのにも、よいしょ、かなり試行錯誤しましたので」

「だよな。ほんとにネオン様様だ」

   

 最近こそおどおどした様子が薄くなってきたが、そんなネオンは前から料理の時だけは動きに迷いがなかった。タナトスは創作料理はできるのだが、逆にピザやパンなど既にゴールのあるタイプ、つまりリアルの物を再現する料理をするとなるとプレイヤー側の協力が必要不可欠だ。勿論、リアルのレシピを見せればそこからある程度予想して作れる程度にはタナトスも成長しているが、一番最初は手本を提示した方が手っ取り早い。タナトスに現代料理の基礎を授けたのはネオンと言っても過言ではないだろう。

 

 ネオンと同じテーブルでタナトスやネオンと同じインストラクター側のスピリタスもかなり手際よくこねている。


「慣れてるな?」

「花嫁修業だっつって昔似たような事やらされたからなっ。今どき粉捏ねる料理なんて趣味以外でするかってのっ」


 ネオンより力強くこねているスピリタスの顔をみてノートはニヤニヤと笑う。 

 

「ふーん、花嫁修業ねぇ」

「な、なんだよっ。オメェも作れよ!」 

「俺のはタナトスが作ってくれてるので」

「あ、コイツ!」


 ノートに花嫁と言う言葉と共に顔を覗きこまれると顔を赤らめるスピリタス。いつもなら掴みかかっているところだが調理中の上に手が粉だらけなのでノートを掴むわけにもいかず、ニヤニヤとしているノートを睨みつける事しかできなかった。


「どうだ?お、なかなかいいんじゃないか?」 

「こう、かなぁ?ちょっと面白いかも」

「そっすね。こーいうのやった事なかったんで、意外と楽しいっすね。ストレス発散になりそうっす」

「自分も、ピザは、ふんっ、初めて、ですね」


 ユリン、カるタ、ケバプは慣れた手つきとは言わないが今の所順調。ゲームの中なのに生地からピザを作るという変な事をしているが存外楽しんでいる。この3人はきちんと分量通り、指示通りに動くタイプの人間なのでノートも見ていて安心ができる。


「ふりゃ!よいしょーー!」

「バカサメ!雑にやるな!粉が飛ぶ!」

「Heave ho!」

「ちょっと!JKもツナと同じレベル!?あー違う違うもっと丁寧に!ボウル壊れちゃうから!」

「はいはい、2人とも一回生地減らそうか。それ一部混ざってないから。2回に分けるように。自分で作ったのは自分で食べるのを忘れるなよー」

 

 割と騒がしいのはツナ、エロマ、JKの作業テーブル。料理は全くした事ないのにパワープレイしがちなツナとJKはやたら大きな動きで強引に生地を捏ねている。明らかにタナトスの言っていた分量よりも材料を多くボウルに突っ込んでいるせいで生地が異様にデカイ。どう見てもちゃんと分量を量って作っていない。

 そして同じく料理はしない組のエロマだが、エロマはまだ常識が頭にあるし、競技柄まず型通りにやる事を求められる事が多いのもあってかちゃんと既定の分量通りに調理している。そのせいか凄い適当に感覚頼りでやっているツナとJKのパワークッキングが信じられないらしく同じテーブルで作業をしているせいで実害も出ていた。


「ネチャザラする………なんか、なんとも言えない感じが…………」 

「………………これでいいのかしら?」

「なんかモチモチにならないね~」

「もっとちゃんと捏ねないと。まだ粉の部分残ってるぞ」


 ゴロワーズ、鎌鼬、トン2のテーブルは全員微妙な顔をしている。こちらも比較的料理しない組だが、ツナ達程パワープレイではない。はしゃぐでもなく、淡々と生地を捏ねていた。特にゴロワーズは粉の感じが苦手らしくテンションが低い。自分はタナトス任せなのでお気楽なノートは分かり切った様な事を言うが、アンタやってないじゃない、という無言の視線を3人から向けられる。


「ピザを捏ねるアイテムとかは召喚可能?」

「そんなニッチな道具あるかいな~。せやけどミキサーみたいなものがあるともっとりょーりは楽そうとは思てるけどなぁ。使い魔の方がまだ現実味があるかもしれんな。ただ召喚するだけちゃうくて、ケーヤクもせなあかんからなかなかややこしいねん」

「ミキサーか。ゴヴニュが半手回しタイプは作ってくれてるから、MGチームに電動化をしてもらうしかないな。ま、今MONに余裕があるから実験してみてもいいかもな。それはともかく、シルク、お前その調子だとピザ食えなくなるぞ」

「きゃっぷ、こないな物でええんかの?」

「そうそう。Gingerも上手いじゃん」  


 要領の良さに定評のあるVM$とヌコォのテーブルは特に問題もなく、作業しながら別の話をする余裕もある。MONの量が強さに直結してくるVM$からすると、今回のアメリカ遠征で得た膨大なMONは核弾頭が手持ちにストックされているようなものだ。ヌコォもまだまだ不明な点が多いVM$の初期特の実験には前向きであり、色々と話し合っているうちに仲良くなっているようだ。

 なんだかんだヌコォはこのアサイラムメンバーの中ではJKに次いで友人が多いだけあってコミュ力は高い。

 また、このテーブルではシルクも生地作りにチャレンジしている。指示を理解できるのか半信半疑だったが、見本を見せると触手翼を器用に使って混ぜていた。が、どう見ても分量が少なくて、口周りに粉が付いている。どう見ても先走って食べていた。なんでも食うシルクは生地でも食べるらしい。ヌコォとVM$の生地に手を出さないだけまだマシか。

 ヌコォに誘われてGingerもこのテーブルで作業をしているが、意外と言っては失礼だがツナやJKよりは遥かにまともに生地を捏ねていた。

 今までのGingerだったらこんな催しには大して関心を示さなかっただろう。だが、アサイラムと交流を始めてからの経験は幾分かGingerの価値観に影響を与えたようだ。戦闘に直結しないことでもチャレンジしてみようとする心意気は良い傾向なのでノートはきちんと評価する。

 

「ゴヴニュ、本当にお前って奴は…………」

「主人さま……おで、苦手かもしれねぇ」


 さて問題は死霊メンバーテーブル。

 一番壊滅的なのはゴヴニュ。鍛冶ならアサイラムの誰もが信頼をする腕前を持つ縁の下の力持ちだが、釣りでもとんでもない失敗を連発したように料理も苦手なようだった。


「こうな、こう。最初から力入れずに粉っぽさが消えるまで指で軽くかき混ぜてから軽くやるんだ」

「こ、こうだ?」

「そうそう。いいじゃない。力込めてやるのはもう少し後な。そこまで来たら逆にゴヴニュの方が上手いかもしれないぞ。ガンバレ」

「が、がんばるだ!」


 鍛冶以外の初めての事だとテンパリがちで指導が頭に入ってこない悪癖もあるようだが、ノートがマンツーマンで指導すれば幾分かはマシになった。主人に声をかけられて気合が入ったのかまだ力が入りすぎて粉が飛び散っているようだが、先ほどよりかは見ていられるのでノートは一々口にせず見守る事にした。


「アテナは、まあ流石の器用さだな」

「普段はもっと細かい物を弄っていマスノデ。いつもは食べてばかりですが、作る側に回ってみるのも知見が増えそうデスネ。調理用の絡繰りの設計を進めるのにいい刺激になりマス」

「その意気だ。期待しているぞ。ところで、生地の段階からその赤い粉を大量に入れようとするのはやめた方がいいと思う。手袋しないと手に激痛が走るぞ。せめてタナトス達に相談してくれ」


 反面釣りの時でも無類の器用さを見せていたアテナは料理でもそつなくこなしている。本来であれば死霊は自分の領分以外の事をしない傾向がかなり強いのだが、食事効果が薄くても普段からノートが食事を取るように指示を出しているだけあって死霊達も食への関心は低くないらしい。

 ただ、自分の生地でも辛党だからと言って常人が使ったら絶叫して神に許しを乞うほどの量のスパイスを最初からガッツリ投入しようとしているのは流石に止めた。止めはしたが、好意的に見ればアンデッドでもそのように創意工夫する頭があるということ。一つ良い物が見れたとノートは頭の中のメモ帳に書き留めておく。


「メギドは………いや、いい。そのまま頑張るんだ。ザバニヤ、悪いけど巻き込まれないように気を付けてくれ」


 さて、今回はメギドも実験として生産活動にチャレンジしているが、当然ピザ生地を捏ねるような生産的行動には向いていない。そもそも指示を上手く理解できない。ある種戦闘マシーンに近いので戦闘に対する事柄ならある程度指示は通るがそれ以外は犬レベルになってしまう。犬に生地を捏ねるように仕込むのは現実的ではない。 

 よってノートは餅つきをさせてみた。

 特注の大きな器と大きな鎚。一定のリズムで特定のポイントに振り下ろせ。という指示程度ならメギドを理解したのかメトロノームのように澱みないリズムで振り下ろしている。合わせるのはザバニヤ。こちらは相変わらず何を考えているか分からない部分はあるが、一定のリズムで特定の行動を繰り返すタスク程度はこなせるらしく、恐れ知らずの為か餅を返す手にも迷いがない。


「レクイエムは…………ゴヴニュ系だったか。いや、いい。そんな落ち込むな。専門外の事を頼んでいるんだからな」


 料理がしたいというより、実験をしてみたいという主人の意をくんで料理組に立候補したレクイエムは、なかなかうまくできずにしょんぼりしていた。死霊が召喚と同時にインストールされていると思われるモーションや知識があるが、レクイエムには生地を捏ねるモーションデータは無かったようだ。ゴヴニュは生産職よりの為に不器用になりになんとかやっているが、レクイエムは生地を前に手を伸ばすがその後の動きができずに手が止まっていた。

 そもそもゴースト系統でありながら生産活動の為に物理干渉系の能力をかなり鍛えているアテナやネモでもない限り、レクイエムは恒常的に生地に触れてこねるという動き自体が難しいようだった。

 戦闘系の死霊が当たり前の様に生産活動ができたらいよいよゲームが壊れる。これでも自律権によって知能に大きな強化が入っているレクイエムですらできないのだ。餅つきの様な本当に単純な動きの繰り返しが戦闘系死霊の限界なのだとノートは理解した。


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >アサイラムのメンバーの正体について知った時の方が反応が大きかった 伝えていいんですか!? [一言] ネーム案 私の低評価率は100%
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] ノートにとって全て実験・検証かぁ
[一言] ピザ生地に砂鉄を混ぜたり、ピザ生地でマッドゴーレムモドキをつくったら、ゴヴュニュや戦闘死霊でも料理っぽいことできますかね。 敵を料理するって表現は定番ですね。
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