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No.65 ご利用は計画的に

またも無駄話と脱線で1話が消費されていく ……………




「さて、皆に言わなければならないことがあります」


 新ダンジョンにて自ずからきたねぇ花火になることで華麗に脱出したノート達。色々なことのショックから落ち着いて試しに変異したというフィールドを出歩いてみれば、完全に人外魔境に変貌していたのを確認していたのが一昨日のこと。

 おまけに奥まで進めるだけ進もうとゴリ押しで進んだ結果、デカい門を発見し『これが件の転移門か』と近づいて、いきなり現れた超巨大クマムシ擬きの破壊光線でなすすべなく吹っ飛ばされ死に戻りかました翌日のこと。


 立て続けに死亡し、ノートは机に肘をついて手を顔の前で組む某指令のポーズでシリアスな雰囲気を醸し出そうとしていた。

 と言っても醸し出そうとしてネタに走ってる時点でその深刻度合もお察しだった。


 リビングにはノート達「祭り拍子」の面々だけでなく、一番上等な椅子に座ってバルバリッチャも当然のように話し合いに参加し、ついでなのかアグちゃんもバケツプリン(本当にバケツで作った巨大プリン(ノートがあまりにもアグちゃんがおやつを食べ続けてるので冗談で言ってみたところ、アグちゃんが乗り気になってタナトスに作らせた。バケツは新しくゴヴニュに作らせた特注の一品)を抱えたままネオンの隣に座って話し合いに参加しようとしていた。


「…………ここのところ連続して厳しく長い戦闘に身を投じてきました。それにより新たな資材の獲得、力の獲得もできたことは非常に喜ばしいことです」


 なぜかノートは丁寧な口調で話しているが、誰も今はツッコまずにうんうんと頷いている。


「ですが、それにより、魂のストックが、ありませんッ…………!!」


 苦しげな口調で言い切り、とても悲壮感をにじませて項垂れるノート。忘れがちではあるが、死霊術師は強力ではあるもののその召喚にはMPだけでなく魂が必要だ。

 それはユリン達も把握しているが、スピリタスは要領を得ないと言わんばかりに不思議そうな顔をする。


「確かにノートはポンポン死霊を召喚してたが、その分以上に魔物は倒してるよな?オレたちが倒した分もきちんとストックになるんだろ?だとしたら枯渇するってことはねえんじゃねぇの?」


 スピリタスの指摘通り、ノートは死霊を召喚していたが、ほとんどは一度召喚すれば追加コストは必要ない本召喚で召喚したメギドで事足りる。なので倒された魔物の数を召喚した死霊の数が完全に上回るという事態は考えづらいこと。


 スピリタスの言葉に同意するようにユリンもヌコォも頷く。


「まあ、言い方が少し悪かったな。指摘通り魂のストックが全くないわけではないんだ。厳密には召喚に必要ないくつかの魂のストックが枯渇しそうなんだ」


 死霊召喚にはいくつかの例外を除いて必ず何らかの形で死霊の魂を依り代に、他の魂を追加で捧げて召喚を行っている。つまり幾ら魔物の魂があっても、死霊の魂が無ければ話にならないのだ。

 車で言うなら、エンジンのない車と同じである。


「勿論、ないからと言って完全に手詰まりになるわけじゃない。ただ、ゴブリン相手にいちいちメギド級の死霊を召喚してたらコストが釣り合わないだろ。アンデッド系の魂はコスト的に見ても使い勝手も一番いいんだよ。

 特にスケルトン、案山子として優秀過ぎて使いすぎた。そして供給源が手近にないのが一番マズイ」


 ゾンビもゴーストも、頑張れば近くで調達できないこともない。難易度が更に跳ね上がってしまった危険な森に突貫すれば、アンデッド系の魂は手に入る。

 ただ、そんな価値の高いアンデッド系の魂を使いたくないというのがノートとしての意見である。


「つまり、もっと低位のアンデッド系の魂が必要なんだね?」


 ユリンがノートの意見を理解して問い直すと、ノートは頷く。


「だとすると、調達場所は…………」


 現状、日本サーバーの中でスケルトンが大量に湧く場所など限られている。ネオンが「まさかとは思うけど……」といった表情でノートを見ると、ノートは頷く。


「ってことで各ナンバーズシティの墓地に突っ込もうと思うから、それぞれで準備をよろしく!みんなで今日はアンデッド狩り祭りです!ついでにPKしてプレイヤーの魂もストックするぞ!!」


 ノートの言葉にユリンとスピリタスは歓声を上げるのだった。





「ところでバルちゃん」


「なんだ?」


 ノートの号令を受けて、具体的なプランについて話し合ったノート達。その後は各々ゴヴニュなどに装備の修理を依頼したり、必要なアイテムを取り出したりいらないアイテムは換金したりと準備を開始。

 その間に特に準備することがないノートはバルバリッチャに気になることを聞いておくことにした。


 因みに、その間アグちゃんはひとりでバケツプリンを食べ進めており、全くペースを衰えさせることなく実に旨そうに1/4を食べきっていた。


「バルちゃんはナンバーズシティの墓に封印されていたけど、他の大悪魔とか悪魔も封印されてるの?」


「知らんな。まあ、大きく弱体化していたとはいえ同胞の気配を感知できないことはあるまい。少なくともあの近隣には存在してはおらんはずだ」


 バルバリッチャの回答に、ノートは安心半分、落胆半分といった表情をする。


 バルバリッチャは色々と扱いは難しい存在だが、ノートにもたらした恩恵は非常に大きい。ノートがある程度大胆に動けるのもバックにバルバリッチャがいるのが大きな理由の一つである。

 バルバリッチャは横暴なようでなんだかんだ言って面倒見がいい。ノート達がとんでもない災害を引き起こして帰ってきたときも一番あれこれ口を出したのはバルバリッチャだ。

 どうやらこのミニホームで寛いでいたバルバリッチャ達でも感知できるほどの異常事態だったらしく、二度と同じような軽率なことはしないようにときつく注意されたのだ。


 つまり今回ノート達が解き放った存在は、現段階のバルバリッチャでも強がりすらできない、到底勝てないレベルのヤバい化け物ということがそれにより副次的に証明されてしまった。基礎能力値なら現状誰よりも高いアグちゃんですらプルプル震えるレベルの化物だ。

 まあ、おやつを食べればケロッとしている程度なので、そこはあまり深刻にとらえる必要はないのかもしれないが、やはりバルバリッチャの存在はパーティー『祭り拍子』にとっては非常に大きい。


 それと同格の存在が見つかれば後ろ盾は増えることになる。だが、増えたところで制御できるかは一切不明。むしろ下手にバルバリッチャと喧嘩などされたら“大変”では済まない。かといって、悪魔だとそれはそれで余計にバルちゃんの影響力が増して悪魔勢のフリーダム化が進んでしまう。

 ノートとしてもそこは悩ましいところだったが、居なかったら居ないで安心できるようで少し残念な気分にもなるという物だ。


 というより、今までは藪をつついて蛇を出すなんてことが起きないように、ノートはあまりナンバーズシティの墓地に攻め込むことはしなかった。だが先日の一件で色々と遊びまくってるほど余裕があるかどうかは怪しくなったので、勇気を出して問うてみることにしたのだ。

 そしてそのついでに、もう少し深くノートは聞いてみる。


「ところでバルちゃん、獄吏ってのは他にもいて、どこかしらに封印されているわけ?」


 その問いはアグちゃんも気になるところがあったのだろう。今まで我関せずとバケツプリンに旨そうにありついていたが、その手を止めてバルバリッチャを見つめる。


「それこそ、分からん。ただ我が完全に消滅させられず封印されていたように、この世は“バランス”が重要なのだ。特に我々の様な存在はな。迂闊に我々を消すと困るのは奴らも同様だ。恐らくはどこかしらに我と同様に封印されていることだろうよ」


 アグちゃんはやはりその情報をもっていなかったのか、ふーん、と頷いているがそれ以上に何かを追求することはなかった。大悪魔と魔王の距離感がいまいちわからんと思いつつ、ノートは更に質問を重ねる。


「だったら、他の大悪魔も解放したほうがいい?」


 ノートがそう問いかけると、バルバリッチャから怒りを表すような赤いオーラが立ち上りだす。それとは対照的に顔を青ざめさせたアグちゃんは、バケツプリンを抱えたままぎこちない動きで徐々にバルバリッチャから距離を取り始めた。


「何故、そのような真似を?」


 目をギラギラとさせながら問いかけるバルバリッチャに対し、「あれ?なんか地雷踏んだ?」と思いながらノートは隠すようなことでもないので素直に答える。


「いや、仲間だったら解放したほうがバルちゃんにはいいのかな、と思っただけだけど」


 それとも悪魔にとってはなにか違うのかしらん?とバルバリッチャを見つめ返せば、バルバリッチャの怒りのオーラはスッと消えてキョトンとする。


「ああ、そういうことか。変なことを考える物だな、人間は」


 未だバルバリッチャのテンションの変動がわからず、バルバリッチャの思考ルーチンを改めて深く考えるノート。急に深く考えたノートに対してバルバリッチャは取り繕うように言葉を重ねる。


「第一、どうせアイツらも我同様に弱体化している。主は我を復活させる契約の元で我は主に与しているのだ。そのリソースを他に割く必要などない!あいつ等など後回しでいいのだ!」


 そのバルバリッチャの言葉でノートは漸く合点がいった。なるほど、バルちゃんはヤキモチをやいているのか、と。そうとわかれば可愛い物である。ノートは分かってるよ、と言わんばかりに柔和な表情でうんうんと頷く。

 それに対してバルバリッチャは、なんだその顔は、やめろ!と反応するが、今やその全てが照れ隠しとわかればそう怖くはない。

 バルバリッチャは分が悪いと見たか、少し顔を赤らめて八つ当たり気味にアグちゃんをにらむ。するとアグちゃんは耳を塞ぎ目をぎゅっと瞑って「なにも聞いてない見てない」と必死にアピール。

 しかしそれでも腹の虫が治まらなかったのか、腹いせにアグちゃんのバケツプリンを分捕ってバルバリッチャは自室にいなくなってしまう。

  

 楽しみにしていたバケツプリンを横暴な上司に分捕られ、泣き出しそうな顔で無言でノートに縋りつくアグちゃん。結局、ノートがタナトスとゴヴニュに頼みもう一度バケツプリンを作ることになるのだった。


 なお、分捕ったはいい物の甘党ではないバルバリッチャではすぐに持て余し、後でアグちゃんに返却。アグちゃんは満面の笑みでバケツプリンを二つも抱えて食べだしたので、バルバリッチャは心底恐ろしい物を見たようにアグちゃんを見つめ、ノートを爆笑させるのだった。



(´・ω・)書きたい事全部書いてるとストーリーが全く進まないので巨大クマムシ君はユザパりました。ごめんなさい。多分後で活躍の機会があるから許して



次回予告


やめて!『祭り拍子』の特殊能力で、主任の心を叩き壊されたら、精神的ダメージでストレスと連動している主任の毛根が死に絶えてしまう!


お願い、死なないで主任の毛根!あなたが今ここで倒れたら、『祭り拍子』への対応はどうなっちゃうの?ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば今回の騒動を終結できるんだから!


次回、「毛根死す」。デュエルスタンバイ!



※読者様から掲載許可を頂いた城之内構文です。個人的には凄く好きです。

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毛根死すw
[気になる点] >>いきなり現れた超巨大クマムシ擬きの破壊光線でなすすべなく吹っ飛ばされ死に戻りかました翌日のこと。 >>(´・ω・)書きたい事全部書いてるとストーリーが全く進まないので巨大クマムシ…
[気になる点] ユザパってシャングリラフロンティアのやつですか?
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