No.500 ソースはネット
ノートが話を進めたお陰か、祭祀はあっさりユニーククエストを発行してきた。
と言っても、裏ルートの都市の様に切羽詰まっている感じではなく「やろうやろうと思って何十年も片づけてない倉庫の片づけをお願いする」レベルのテンションの依頼だったが。こんな緩い感じでユニーククエストが出ることもあるのかとノートも思ったほどで、DD側もちょっと驚いていた。
このユニーククエストに関してはアサイラム側もDDと合同で受注こそしたが、ノートは首を突っ込むことはなかった。アサイラムメンバーに対しては『好きに動いてヨシ』とだけ通達し、基本的なダンジョン攻略は全てDDに任せた。
今後の関係構築に於いてもこのクエストを進めることは大事だ。ここは自分が主導ではなくDD主導になるようにノートも配慮した。
そのノートと言えば、どの道ゴヴニュ達がある程度武器製作の依頼を片付けられるまで動けないのでDDの要塞改築に手を貸したりした。貸したはずなのだが最終的にノートが完全に仕切っていた。レギオン締結と技術交換の体裁がある為に口を出しやすくなったことでノートも自重が減っていた。育てる種や家畜に関してもアサイラム側から提供した物も少なくなかったのでDDも素直に言う事を聞くしかなかったというのもある。
一方、自由行動となったアサイラムも素直に都市のダンジョンを攻略、とはならず、DDが元々見つけていたダンジョン攻略の方にGingerと向かっていた。完全移籍前のお試し共闘といったところだ。ノートが要塞に張り付いてればまぁ大丈夫だろうとNEPTやFUUUMAもアサイラムと共にGingerのお目付け役として遠方ダンジョンの攻略をしていた。
「思ったより来ませんでしたね」
「確かにな。正直助かったぜ」
「私もかなりストック使ったので頼られても困りますよ」
「アンタがアンデッド使えなくなっただけで負けるタマかよ。まだ隠してる手があんだろ?今は俺達にも例のアイテムがあるし、全部アサイラム頼りって事もなくなったけどよ」
改築を始めて9日目。一通り内部の改築が済み、祭祀側との関係性も安定化してやる事がなくなったので、ノートがより攻撃的な形で防壁のリフォームも指示していると、今どんな事になっているのかとお頭が要塞にやってきた。
お互い色々とやる事が多くてゆっくり話す時間が無かったが、ようやく双方のトップが腹を割って話す時間が持てたと言えよう。
最初に議題になったのは北西勢力掃討以後の周囲の話。
どっかの悪魔より悪魔してると言われた男のせいで叩き潰されたが、曲がりなりにも北西勢力はアメリカのNo.2の勢力だった。その勢力が完全に潰れた。しかも日本だけで動いていたはずのアサイラムがアメリカの奥地にまで手を出してきたとかなりの騒ぎになっていた。
ノートとしては最悪掃討戦を終えて弱っている所を別の勢力が攻め込んできたりすることも予測はしていたのだが、暴れ方がヤバすぎて近づいてこなかったらしい。どうやらあの火山砂の化物との戦闘も無駄ではなかったようだ。はるか遠くからでも火山砂の化物とアサイラム、DDとの戦闘の余波は伝わっていたようで、ビビッて逃げ帰ったらしい。らしいというのはスレでそれっぽい話が出ていただけだからだ。ソースはネット、くらい信用性は微妙である。協力者を使って情報の裏取りをしているが、相当ゴタゴタしているらしくまだ情報は纏めきれていないようだ。
が、事実レイドを仕掛けてくる者は9日経っても今の所現れていない。単体でも最悪と評されていたアサイラムとそれと並ぶと評価されていたDDが手を結んだとなっては、生半可な覚悟では手を出せないのだろう。
逆に怖いモノ見たさでアサイラムを見にきたり、真相を確かめにきたり、あるいは落ち目とも一度は揶揄されたところからアサイラムとの共闘で劇的な勝利を遂げたDDにすり寄ってくる奴らも居たが、その様な面々は全てノートのアンデッド達に殲滅されている。調子が良くなってきてから近づいてくる奴らに碌なものはいないのだ。例え味方ヅラしていても等しく殺した。
DDとしても流石に組織として今が動かせる限界に近い状態であり、皆で北西勢力と超常の化物を討伐を倒したという強固な結束ができたので今更新顔を入れようという空気感はなく、近づいてきた奴らは誰それ関係なく全部殺すというノートとCethlennの判断にも反対意見はなかった。
「これからどうするんです?」
「オンゲでそれ聞くかぁ?」
「アハハハ、確かに。愚問でした」
オンゲの動向は運営と開発の匙加減。ノート達もいつでも無敵ではない。仕様の大規模な変更で、強いうちに皆で引退したオンゲばかりだ。オンゲの辞め時は人それぞれだが、サービス終了まで付き合うことなど一度もなかった。どこかでマンネリ化するし、環境が変化してそれに適応し続けるのにも疲れが出始める。
ノートは面白さを求めるし、その周囲にいるメンバーはノートと遊ぶことに重点を置いている。別にオンゲに拘る必要すらない。ノートが引っ越すと言えば特に意見もせず一緒に去っていく。
相応に課金すると、そのせいで名残惜しくなることもある。コンコルド効果、と呼ばれるものだ。けれどノートの身内には高校生の時点で個人資産が億を余裕で超えている連中がいるのでそんな課金程度で拘る事がない。ノートも見限る時は周囲がビックリするくらいにアッサリ見限る。
その程度には、オンゲの先行きとは不透明な物なのだ。
「ま、目下は来たるバレンタインイベントだろ。それと、PKは続けていくさ。暫くは足元の補強優先だけどよ。どうせまたちょっかいかけてくる奴らもでるだろうし、そん時は歓迎してやるぜ。恐らく今回の件を通して俺達が手にした一番の成果は、ちょっと臭い話だが苦難を一丸となって乗り越えたという経験とそこから作られた団結力だな。神寵故遺器もある状態で負ける気はしねぇ。そっちこそどうすんだ?」
「実はやらなきゃいけないこと山積みでして。いつ終わるのやらと言った感じです。今度はバレンタインイベントの用意もしなくちゃいけないですしね」
「そうとは見えねぇけどなぁ」
「今回も実は割と息抜きの方面が強かったり。出先でこんな大騒動になるとは思いませんでしたけど」
「アンタ、思ったより行き当たりばったりだな?」
「オンゲに長期計画性なんて持ち込んでも意味ないですし。リアル側で何かあればゲームどころではないですから」
「思ったよりそこもアンタしっかりしてるよな。もっと廃人を想像してたぜ。最大の敵はやはりリアル、か」
「ですね」
人種も年齢も国籍も違うが、同じ悪の親玉として名を挙げられる者。けれどそんな人間たちも素朴でくだらない話をする。ゲームの世界では英雄でも、魔王でも、リアルでは只の人だ。周囲から特別な存在として扱われるからこそ、ノートとお頭には理解し合える部分がある。
「…………Lucyの件、本当に良かったのか?」
「ええ。あの人はかなり頭がキレます。相談役として置いておくのに価値がある。そして一度裏切った者はですね、上手く使えば良く働くようになるんですよ。それに、言い方は悪いですが人質でもあります」
「アンタ、交渉でCethlennに牽制をかける目的でLucyを…………」
「そこはノーコメントで。別にそうと思ってもらっても構いません。私としては、別にスパイ云々の話がなくても元から錬金術やマジックアイテムに詳しい生産職の人が欲しかったんですよ。いやー、本当にいい買い物をしました」
これは本当の話だ。
ノートが今回DDに手を貸したメインの目的は、北西勢力掃討による魂の確保とスパイ発見の恩義を利用してDDの生産担当プレイヤー達を引き抜く事。引き抜けなくてもDDの持つガラパゴス化しているノウハウを得る事。或いは自分たちの実験の検体にする事。その中でアサイラムの中でもほとんど研究が進んでいないマジックアイテム関連を取り扱っている生産プレイヤーが居たら是非ほしかったし、それがスパイをしていたのはノートからすればなかなか好条件だった。
ノートがトン2を連れて生産担当プレイヤー達と接触したのも、スパイを見つけ出すと同時に実は誰を引き抜きに指名するか見定めていた側面がある。元よりPKプレイヤーの生産担当を担うものなどどこか変わっていて、愉快犯気質ではあるが性格面では色々と信頼のおける要素が多い。そこから更に口が堅くて利口そうで技術のある者をノートとトン2、メモを取りながら一緒に見定めていたカるタの3人で連日選定していた。
「Gingerの制御は苦労するぜぇ、といってもアンタにゃ問題ねぇか」
「どうでしょうね。あの子にはDDはちょっと合ってなかった、それだけの話だと思いますよ。大規模な集団の中に生きるには窮屈なんだと思います。ウチだとウチのメンツでも割と死にかける様な場所にどんどん突撃するのでGingerも暇を持て余すことはないでしょう。遊び相手も沢山いますし。ワガママな面はありますけど道理が判らないほど愚かな子ではありません。でなければ勧誘しませんでしたよ」
「そうかよ。というより、アンタらも死にかけるってアンタら一体どこで活動してんだ?」
「秘密です。お頭を信頼してないわけではないですけど、どこかから漏れて凸されたら面倒過ぎる」
「ガハハハハハハハハ!そりゃ言えてるぜ!」
DDが、お頭がその面倒さについては一番身に染みている。故にノートに更に突っ込んで聞くことは無かった。
「なんだかなぁ、最後までアンタたちの事はよくわからんままだ」
「そうですか?同じただの人間ですよ」
「その言葉が出てくる時点で俺には普通には見えねぇんだよ」
「そう言われましても。こっちもこっちで積み上げているゲーム歴がありますしね」
「アンタら一体何歳なんだ?ってこりゃマナー違反か」
「リアルについて話す気はないですよ。Gingerみたいな強心臓は私にはありません」
「俺もアレは真似する気にならねぇぜ」
結局今日ここまで、アサイラム全員が仮面を付けたまま。声に関しても聞くには聞いたが、それだけだ。アサイラムはそこは徹底し続けていた。正式なプレイヤーネームですらレギオン締結時にようやく判明したくらいである。
「ここだけの話なんだけどよ、アンタあんな女所帯で動きにくくねぇの?」
「動きにくいとは思ったことはないですね。男がもっと欲しいとは思ってますけど」
「そのためにNEPTを熱心に引き込もうとしたのか?」
「実はそれもあります。ダメでしたけど。その代わり生産担当が男性ばっかなんで良しとします」
DDの中では、多分アサイラムの面々が男装していることは暗黙の了解、というと少し言い回しがおかしいが、そうではないかと考えていても表立って口に出すバカは居ない。下手なこと言ってセクハラで訴えられるのはPKプレイヤーでも流石に御免蒙るということだ。幹部に関しては声もハッキリ聴いているのでほとんどが女性であることは分かっている。
一方でDDは男所帯の代表格みたいなところで女性は極めて少ない。故にこそ独特のトラブルが起きることもありお頭は苦慮してきたのが、反対に女性ばかりのアサイラムも色々とあるのだな、と頷く。
そこでお頭は更に声を潜めて問う。
「誰か本命でもいんのか?あんだけ女がいれば一人ぐらいなんかねぇの?」
実はその女性だと思われているメンバーの1人は男だし、6人と付き合っていて更にもう1人なんとも言えない関係です、とここでノートが答えたらお頭は一体どんな反応をするのか。ほんの微かにイタズラ心が芽生えるが、流石にそれを口に出すほどノートは馬鹿ではない。
代わりにこう答えた。




