No.498 レギオン
長い分配交渉もひとまずの決着。お頭とノートが双方合意の元取り分を確定する。
こうして明確な形で、DD陣営は『神寵故遺器』を手にする。
けれど話はまだ終わらない。ある意味ではここからが本番とも言えよう。
「さて、其方からの提案を飲むのはやぶさかでもないんですけどね、このシステムに関しての我々の利点を明確にする必要があります」
DDサイドは再度顔を引き締める。
今まではアサイラム側から一方的に提案を持ち掛ける事が多かったが、ここにきてDD側はとある事をアサイラム側に持ち掛けていた。
それは『レギオン』の結成だ。
ALLFOに於いてはプレイヤーを集団にしてまとめるシステムが幾つかある。
まず代表的なのがパーティー。これは簡易的なパーティーと長期的な正規のパーティーの2種類がある。
簡易的なパーティーは基本的に全てのメンバーが同格。設立は誰でも出来る。パーティーメンバーの誰かが誘えば、他のメンバーの同意なしに新しいプレイヤーをパーティーに入れることができるし、逆に脱退も自由にできる。極めて弱い結びつきだが、所謂その場限りでクエストを受注したりする『野良パ』などを結成する時には非常に便利だ。音声通話やチャットなどをフレンド登録せずに使えるし、利点も少なくない。1番の魅力は現在所属している組織を抜けなくても結成できる事だろう。
一方で正式な『パーティー』。ノート達で言えば『祭り拍子』がそれにあたるが、これは簡易的なパーティーと違ってある程度の手続きを踏まないと結成出来ないし解散もできない。メンバーの権利や権限に関しては結成後に弄る事はできるが、基本的に誰か1人を先に代表者として立てる。そしてその代表者がパーティーのルールなどを確定していく。
簡易的なパーティーと比較すると縛りも多いが、パーティー単位に発生するバフやボーナスは簡易パーティーとは比較にならないほどしっかり乗るし、ドロップ品の仕分けなども楽になる。また、ALLFO世界に於ける社会的信用度も上がりやすく、クエストの中には正式パーティー単位でしか受注できないものもザラにある。
このパーティーは簡易では5人まで、正式では15人まで加入が出来るのも大きな違いだ。
けど、それでは足りない場合に使われるのが『クラン』という単位だ。ノート達で言えば『亜祭羅武連合』という括りが該当する。基本的な機能はパーティーと同じで、最大100人、20パーティーまで加入できる。地味にイジワルなのはパーティーのフル単位が15人なのでフルパーティーだけでクランを組もうとするとどこかしらがフルパーティーではなくなることだろう。
クランと言ってもパーティー単位が完全に形骸化しないのも特徴で、何かを決める時は各パーティーの長が話し合い利益分与やメンバーの脱退について干渉できる。アサイラムにおいてはノートとゴロワーズがこのパーティー長に該当している。
この100人を超えてでも更に大きい組織を作りたい。そうなったときはいよいよユニオンの出番だ。基本的にユニオンに最大人数の縛りはないが、その代わりに結成には非常に面倒な手続きを踏むし、ユニオンの人数に応じて『ユニオン値』なるポイントが稼げていないと勝手にシステムの方から解散させられてしまう。ユニオンとして活動したいならユニオンとして相応の活動をしろ、と言うわけだ。これが存外難しく、人数が多ければ多いほどノルマの達成が難しくなる。
有名どころで言えば『生産組組合』はユニオンだし、『真青米教』や『DD』もユニオンだ。
さて、これらの組織を語る上で着目すべきは、『権限』だ。パーティーもクランもユニオンも、いずれかのメンバー1人を確実にトップとして据えることを求めてくる。勿論お飾りでもいいが、システム上明確に設立者がリーダーとして登録しなければならない。DDで言えばお頭、生産組組合は先生がそうであるように。
ではDD側が持ちかけた『レギオン』とは。これは所謂ユニオンの亜種で、本来であればユニオン同士が作る組織なのだが、この『レギオン』は数に縛りがない。極論、一と万の間で、パーティーとユニオンの間でレギオンを結成する事も可能ではある。
中にはユニオン値ノルマ逃れのための組織と勘違いするプレイヤーもいるが、此方も相応に制約はある。むしろノルマが少ない分、契約締結における煩雑さは他とは全く異なるレベルで複雑だ。運営が公式に出している説明はまるで皆が読み飛ばしがちな長い利用規約の様で、素人では理解で苦しむようなレベルである。ただ、正しく理解して利用すれば本来歩みを共にしない者同士の間でも複雑な縛りを設けることができる。
レギオンシステムはパーティーやユニオンの様に味方の一団を作るシステムというよりは、巨大な組織同士の間で結ぶルールを厳格化するためのシステムと言うのが正しい。
パーティーが村、クランが県、ユニオンが国なら、レギオンは国同士の取り決めと言うべきか。同じ方向は向いているが本質的には別の組織であるということが肝なのだ。
そしてレギオンの最大の特徴は合議制である事。ユニオンまでは必ずトップの指定が必要だが、レギオンは複数の代表者を置くことができる。
DDは同じ視座を持つ者として、アサイラムにレギオンの結成を持ち掛けた。
20人も満たない人数の集団に万クラスの集団が頭を下げてレギオン結成を持ち掛けるなんて破格な話だ。リアルで言えば世界でも有数の大国が所在地すら定かではない小さな限界集落の村に同盟をお願いしている様なヘンテコな状態である。が、格としては同格どころかアサイラム側が上回りかねないのがおかしな点であろう。
この話は今に始まった話ではなく、実はノートがDD幹部と手を結ぶと決めた時から出ていた話ではあった。
そしてこの2日間、その話をする代わりにノートはとある課題をヌコォを通じてDDに与えていた。
それはノートの提示するルールの徹底。
1、意図的な初心者狩りなど無駄にゲームの寿命を縮めるようなことをしない事
2、ALLFOの規約に引っかかるような事をしないこと
3、情報管理を徹底する事
4、NPCをむやみに殺さない事。復活しないのでプレイヤーより丁重に扱う事
他にも様々な条件は提示はしたが、重要なのはこの4つ。特に4番目。
お頭も北西勢力が都市から容赦なく叩き出されたのを見てALLFOに於けるNPCの重要性の価値観を根本から覆された。今後この都市を拠点として使いたいならNPCとの協調は必須。プレイヤーはいくら殺そうと構わないが、NPCはリアルの人間に接するように対等に扱う事が出来なければダメだとノートは伝えていた。
これをお頭経由で命じられたDDサイドも最初は戸惑った。そもそも言語が上手く通じないNPCという物自体が謎ではあったが、どうしてゲームをするのにオマケみたいなNPCを大事にするのかと。お頭も『蘇るプレイヤーより復活しないNPCの方がはるかに価値あるだろ』とトンでもない暴論を振りかざしてきたアサイラムサイド、というよりノートには絶句したが、流石にそれをそのまま伝えられるわけもなく、今後この地に居を置くには必要な事だと伝えていた。
その成果だが、ノートの予想よりうまく行っている様に見えた。民度が死んでて性根が腐ってるような人間が多いPKプレイヤーだが、ゲーマーである為に功利の計算はできるし、万となる組織にわざわざ加わってくるレベルになると人の話が聞けなかったり著しく協調性の無い猿は叩き出されるので、DDの民度は周囲が思っているよりかは安定していた。
『好き勝手したければGingerぐらいの力があるんだな?』という共通認識があるのも地味にDDを纏める役に立っていたと言えよう。Gingerの破天荒さも、ある意味ではDDの統治に役立っていたのだ。
北西勢力の粘着に耐えられずDDを抜けていったメンバーも少なくないが、そのお陰でDDにちゃんと愛着を持つ者だけが残る事になったのも大きい。
ちゃんとメリットを提示した上で言われれば、それを無駄に掻き乱そうとするやつはそう居なかった。
超長期的目線で見ればゲームに於いて癌でしかないPKをしておきながら、ゲームの寿命を縮めることをするなとノートが言うのも変な話だが、これもゲーマーなら理解できる話なのでDD側もとりあえず頷く。他も同じだ。
ノートから見ても一応最低限は今の所できていそうだったので、本格的にレギオン結成の話に乗った。
話を聞こうと体を改めてDDの面々に向けた。
※名称の訂正です
今までパーティー、クラン、同盟の順で記載をしていましたが、翻訳の都合的に同盟をユニオンに訂正しました。過去にも遡って訂正していきますが、今後はユニオンが正式名称であるという認識でお願いします




