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No.497 妖怪


 そしていよいよ議題は神寵故遺器(アークディアファクト)へ。

 DD側の表情が一気に引き締まる。MONで予想外に荒れたが、DD側が最も揉めると思っていたのはやはりコレ。そう思う程度にはこの神寵故遺器(アークディアファクト)は極めて強力な性能を誇っていた。ツッキーの様な不完全なモノではなく、骸獄と同じ完全な神寵故遺器(アークディアファクト)。特に今回報酬になっていた神寵故遺器(アークディアファクト)はDD側からすると喉から手が出るほど欲しいレベルに相性の良いアイテム。

 故にアサイラム側もここは簡単に譲ってこないだろう。北西勢力掃討のバックを全部帳消しにしてでも取りに来るかもしれない。そう思っていたからこそ、ノートの『ドロップ品が一切手に入らなかった』発言は厄介なのだ。アサイラム側が余計にDD側に吹っ掛けやすくなる。


 が、それはDD側の理解不足だ。


「いいですよ、それはDD側で。性能的に確実にDDとの相性が高いですしね。その代わり、擬仮と核を貰います」  

「な゛!?…………本気か?」


 神寵故遺器(アークディアファクト)を渡す代わりに使い方がよくわからない物とはいえ単一ドロップ品2つを寄越せというのはイーブンな取引に聞こえるが、擬仮と核2つ合わせても圧倒的に完全体の神寵故遺器(アークディアファクト)の方がはるかにメリットが大きい。これはノートも分かっていた。だから敢えて与えた。  

 

「ええ、それと、その二つを頂けるならMONの分配率も1:3で行きましょう」


 ここで急にボーダーを大きく下げてきた。先ほどまではアサイラムとDDで6:4を吹っかけてきていたノートが人格を取り換えられたような提案。DD側も思わず顔を見合わせ、Cethlennは察する。最初の吹っ掛けはこちらを試してきていたと。

 仮面の下なのに、ノートが笑ったのが判った。今日、ようやくノートは本気を出してきたのだとDDは気づいた。ここからがアサイラムにとっての本題なのだと。

 

「その代わり、生産担当からリストに纏めさせていただいた20人、それとNEPTさんとGingerさんをウチに下さい」

「ハァ!?」 


 一番真っ先に反応したのはNEPTだった。毛虫を目の前に落とされたような嫌悪感に満ちた表情であり、リアクション芸人も太鼓判を押すだろうとても良いリアクションだった。

 これにはDD側の表情も一変する。この提案こそがノートの本命だと理解する。


 ドロップ品、採掘品の取り扱いに関しては若干アサイラム側の方が損。DD側は上手くノートを出し抜いたつもりだったが当然罠。神寵故遺器(アークディアファクト)を与え、MONでも極端に大きな譲歩をした。その下準備を終えて、『人』を寄越せとノートは言い出した。

 レアアイテムも、多額のMONを捨てでも、人材を取りにきた。


「ウチは――――あっ」


 対してGingerは乗り気な反応を見せたが、ユリンを見て気まずそうな顔をする。これまでも何度かユリンと試合をして、ユリンが応えることはほぼなかったもののGinger側から色々と伝えていた。それはこの後別れることを前提としていた物。嫌と言うより気まずいし恥ずかしい、と獣でも流石に思う心はある。


「まぁGingerさんに関しては特にアサイラム側の方が活動時間やスタイルに合っていると思うんですよね。傭兵として飼い殺すには勿体なさ過ぎるカードです。神寵故遺器(アークディアファクト)の貢献率を考えたら…………どうでしょう?」


 要するに、ウチの方が上手くGingerを使えるから寄越せ、という半ば喧嘩を吹っかける様な言いぶりだが、事実DDはGingerという飛びぬけて強いカードを制御できていなくて、一方でアサイラムは直ぐに制御下に置いた。その事実があるだけにノートの言葉をお頭達は否定できないし、Ginger本人も乗り気な態度の時点で御察しだ。

 一方でNEPTは死ぬほど嫌そうな顔をしている。これはこれで分かりやすい。それぞれがDDに対して如何に愛着があるか一目瞭然だ。

 

「俺は嫌だからな!テメェなにをそんなに俺にちょっかいかけてくんだ!?ホモか!?マゾか!?それとも初期特か!?」


 人から好意的に接せられた経験が0とまでは言わないが、基本的に本人の態度が悪いのであまり好意的に見られることがないNEPTからすれば他人が不快そうな顔を向けてくるのは今に始まった事ではない。むしろ人に近づいて欲しくないのだからそれでいい。なのに何がいいのかノートは最初からNEPTにやたら好意的でそれがNEPTには不気味で仕方がなかった。


「いや、単純に初期特の性能の広域制圧能力、そしてそれを操る力が魅力的なのもそうですが、特に私が注目しているのは地頭の良さとキレのある判断力ですよ。私はDDの中で一番総合戦闘能力が高いのはNEPTさんだと断言できます。この後の伸び率も一番高いし、アサイラムの手札との相性とも一番シナジーが高いと見ています。そういったことを全て加味して、私はNEPTさんが是非ともほしい」

   

「黙れ!お前には付き合いきれない!このキ●ガイが!」


「残念、フラれてしまいました」  


 ノートからの熱烈なラブコールに対し激怒にも似た反応を見せるNEPT。VRでなければNEPTの全身に鳥肌が立っていた事だろう。僅かな付き合いでも散々振り回されたのだ。今後恒常的にこのように使われたら危険だとNEPTの本能が警鐘をけたたましく鳴らす。故に動物病院に連れて行かれる犬の様に全力で拒否する。

 ただこれはノートも予想済み。


 NEPTの苛烈な反応で流れがおかしくなったが、一番最初に気を取り直したCethlennはノートの意図を察して苦虫を嚙み潰したような顔をする。

   

 今回得られる神寵故遺器(アークディアファクト)は短期的な目線で見れば確実に初期特2人分以上より遥かに戦略的価値がある。それでもNEPTとGingerの2人を寄越せと言うのはあまりにも横暴なオーダーだったが、それをNEPTが全力で拒否してしまった。そしてノートも素直に手を引いた。ならその分を補填する必要が出てくる。初期特1人分を補填しなければならない。

 そうなると生産担当を寄越せというオーダーを拒否しにくくなる。ノートの大本命は恐らくコレ。NEPTを上手く使われたと思うがもう遅い。

  

 ただ、20人は多い。多すぎる。改めてノートから提示されたプレイヤーのリストを見たお頭とCethlennの表情はかなり渋い。口が堅くて信頼のおける生産担当系プレイヤーをノート達はピンポイントで指定してきていた。これを全て抜かれたらDD達も大きな痛手。けどこれを全部突っぱねたらまた話が拗れる。かと言ってこの話自体を生産プレイヤー達に持ち掛けるのも「自分たちは取引の代わりに渡す程度の存在なのか」と言われたら不和の元になりかねない。なんて嫌なラインを付いてきたのだと頭を抱えたくなる。

 

 一番の問題はリストの中に混ざっているLucyの扱い。

 

 Lucyの裏切りについては依然としてアサイラムとDD幹部しか把握しておらず、今の所無かった事にされている。  

 そう、ノートはLucyに取引を持ち掛けた。北西勢力を裏切る代わりに、アサイラムにきませんか?と。もし私の命令に従ってくれるのなら、加入をお約束すると。Lucyはその話に乗って、と言うより乗るしかなくて、NEPT不参加の嘘を吐いたのだ。

 DDとしてももはや信頼は失墜しているのでこのままLucyを置いておくのは難しかっただけにアサイラムのこの提案は渡りに船に近い物だった。

 ただ、Lucyだけを渡すとまたおかしな話になる。北西勢力掃討に纏わる説明に関して、ノートはできる限りDDに波風の立たない嘘をでっち上げてDDの一般プレイヤー達を納得させていた。それを知っている幹部たちは恩があるだけにこの話を直ぐに突っぱねられない。Lucyだけでなく他の生産担当プレイヤーも引っ張っていけばLucyの移籍話も完全に紛れる。暗にそうノートが言っている事をDD幹部は理解する。そしてその裏事情を知らない隊長格達を前にDD幹部は下手にごねられない。


 結局、流石に勘弁してくれとDD幹部たちはノートに泣きつき、20人のうちLucy含めて12人まで絞り込んだ。そのうち検証寄りのプレイヤーが7人も混ざっているので生産力が一気に落ちるという事でもないが、検証組は検証組で知識者として優秀なのでしてやられたとCethlennは頭を抱える。


「それで、改めてMONの取り分に関してのご相談なのですが――――――――――――――――」


 最終的にLucyのカードをちらつかせ来るノートに翻弄され、更にノートはDDが忘れていた切り札をオープンする。つまり「この後の祭祀との交渉も基本的に俺達(アサイラム)がするけど、そこ分かってる?」と。

 アサイラム側は普通に祭祀サイドと話しているがDD側は言語の壁がある。されどDDが完全に言語を習得するまで祭祀側も流石に待っていられない。ノートが居なかった分、むしろ痺れを切らしている。

 勿論ノート達がDDの翻訳をすると同時に同席する事にはなっているが、その交渉結果もノートの胸先三寸で決まると言っても過言ではない。今のDDにとってこの都市との繋がりは手放したくないパイプだ。そのパイプをノートが握っている。さらに強固にパイプを繋ぐか、ここでへし折られるか。さてどちらがいいですか、と。 


 素人が額を寄せ合っていてもこの男に敵うはずがない。この男の師は苛烈な派閥争いを生き抜く医者の世界でもトップの座に近い男であり、そしてその師の友人たちはその界隈では数々のライバルを蹴落とし言いくるめ、苛烈な経済の世界を生き抜き、金稼ぎはもう十分やり切ったと隠居するような『妖怪』と称される爺婆どもだ。要領良く大体のことは会得するノートを面白がって、彼らも積極的に自分たちの持つ交渉や駆け引き、組織経営論などの多くのノウハウを叩き込んだ。高校生の時には既に千を超える一団のトップとして会合の代表として発言していた男が積み上げてきた経験は素人如きが20人足らず集まったところで敵うレベルではない。

 それこそこの男の師匠達である妖怪ジジイ共を連れて来ないと話にならない。


 口でこの男と勝負しようなど、無謀もいい所なのだ。

 そんな悪魔による悪魔の様な脅迫の結果、アサイラムとDDのMON分配率は5:5で確定。

 DD達は泣き、悪魔(ノート)は良い取引になったと1人高笑いをしていた。

 




 

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― 新着の感想 ―
[一言] >>レアアイテムも、多額のMONを捨てでも、人材を取りにきた。 そりゃ、アサイラムが一番手に入れ難いモノだからなぁ、、、 >>この男の師は苛烈な派閥争いを生き抜く医者の世界でもトップの…
[気になる点] 擬仮を使って本召還するんかなぁ~?
[気になる点] 生産組の方々も引き抜きしましたから、男女比は改善されているんですかね?(まあ多少比率が改善されたとして、女性が増えてる事実は変わらないんですけど) [一言] お久しぶりです
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