No.496 論功行賞
討伐イベント終了後、その後の流れについてはノートはユリン達からの又聞きで把握した。
というのも、負けイベ級の超常の怪物を殺した代償は大きく、リスポンができなかった。アバターにエラーが起きているという初めてのメッセージが発生し、リアル時間で丸2日以上復活ができなかった。
それを幸いにノートは色々とリアルの仕事を片付けていたが、残された方はそうはいかない。
まずイベント終了後に発生したボーナスイベントについては大きく分けて二つ。
1つは休火山都市の復興イベント。実際は都市そのものにはダメージは無かったのだが、どっかのアホが戦艦を壁に突撃させたことで起きたダメージの回復や、瓦礫の撤去及び火山灰の清掃。更に祭祀がDDの要塞に避難させていた休火山都市の民の護送。発端にDDが関わっているだけに祭祀からの褒章はしょっぱかったが、出してくれただけまだマシか。それ以上に重要なのは今後長い付き合いになる住民たちと救難支援という良い形で顔合わせが出来た事だろう。
DDも基本的にNPCには厳しい顔で会話する事が当たり前だったが、称号のお陰で好意的に接してくる休火山都市のNPCには流石に敵意を抱くこともなく、言葉こそまだ伝わらないが良好なスタートを切れていた。
ただ、このイベントはオマケみたいなものだ。
本命はもう1つの方。基本的にALLFOの生命体は死ぬとポリゴン片になって何も残さずに消えるのだが、火山砂の化物が死んだ場所には巨大な黒い岩山が出現していた。これを祭祀から撤去してくれとクエストが出た時は、大規模イベントを乗り越えて興奮状態だったDDも「これを人力で片付けろと?(正気か?)」という反応だったのだが、ツルハシで解体を始めて、そこからドロップした鉱石を鑑定したことで事態は一変する。
全てが最高品質の素材。鉄や金に類する金属からダイヤなど。更には特殊な性質を持つ砂まで。鉱石や砂に類する貴重なモノが掘れば掘るほど手に入る。巨大な岩山はまるごと宝の山だったのだ。
ユリン達も化物の強さに対して妙に報酬アイテムが少ないなとは思っていたが、そのイベントで理由に合点がいく。
ただ、ツルハシは意外と簡単に手に入るモノではない。そこで大活躍したのがアサイラムだ。アサイラムはミニホームの自販機でツルハシを購入してピストン輸送する事が出来るし、元々ツルハシに関してはかなりストックがある。召喚主であるノートが封印状態の為にグレゴリもほぼ全ての能力を封印されていたが、額縁を通して物を運搬するくらいはできた。
合理計算の鬼であるヌコォとVM$が番人となり、DD側と交渉。採掘される鉱石を一定割合もらう代わりにツルハシを供給する契約を締結し、アサイラム側の利益もキッチリ確保。DD側はゴールドラッシュの再来と言わんばかりに日夜ツルハシを振るい続けて2日で半分以上まで掘り進めた。
ノートが居なくてもアサイラムとDDは協調路線を敷けていたが、しかしノートが居ないと全く進まない事も有る。
それは論功行賞会議。
システムで表示された報酬などは基本的に全員共通の報酬であって、その中には分配をしないと手に入らない物もあるし、個々の報酬も討伐戦に於ける貢献度に応じて与えられる。メインは化物のドロップ品だが、中には鉱石などを手にしたプレイヤーも居た。それらのアイテムも一度アサイラムとDDは一つの場所に集め、分配交渉をすることにした。
が、兎に角にも、誰も論じなくても北西勢力掃討でも討伐戦で最も活躍したのはノートであるのは明白。その本人が不在では話が進まない。加えてアサイラムとDDの間には北西勢力掃討に纏わる別の取引もある。それを進めていたのもノートだ。
ヌコォやVM$が交渉に於いて力不足というわけでもないが、アサイラムとしてもDDとしてもノートを無視して話を進める気にならなかった。というより、このような共闘イベントの場合はそれぞれの集団のトップがシステム的にも最終的な決定権を持っているために結局ノートとお頭が揃わないと話にならないのだ。
ノートがようやくログイン出来た時、DD幹部衆もアサイラム側もホッとしたような空気が流れたのは仕方がない事だろう。
「いやー、すみませんね。まさかログインできなくなるとは」
「あんな力を使って2日ログインできなくなるだけで済むならいいんじゃねぇのか?」
「まぁお頭の言葉も妥当ですね。まさかあの討伐戦のドロップ品まで根こそぎ持ってかれるとは思いませんでしたが」
「なんだって?」
「2日ログインできないだけ済んだのは、あの時得られたはずの報酬が全部生贄として徴収されたからでしょう。私も流石に全没収は予想外でしたけど」
これは事実だ。
ログインした時、自分に色々な変化が起きている事は分かっていたが、その中でもノートが一番頭を抱えたのは、ログにはドロップ品を手に入れた履歴がある癖に骸獄に全部持ってかれた事だ。あくどいのは履歴自体はある事だろう。ドロップ品だけ見せてあげないという非常に意地悪なやり方だ。明らかにレアドロなだけに余計に辛い。ノートは骸獄に文句を言ったがこの程度で済んだことで感謝しろと言い返されて何も言えなかった。
事実、ようやく使ってくれたことで骸獄の機嫌が良かったからノートのドロップ品を徴収するだけで骸獄は済ませているだけで実際はもっと奪う事も出来た。そう言われてはノートもこれ以上揉めるのは不味いと判断し感謝の言葉だけを伝えておいた。
が、タダでは転ばない。俺あんな頑張ったけどドロップ品全部パァになりました、とお頭にアピールする。当然お頭はその言葉の裏にある意味を理解できないわけがなく、非常に渋い顔になっていた。一番奮闘し一番の褒章を手にしていた男の取り分が現状0となれば論功行賞が荒れるのは目に見えている。
アサイラムメンバーとDD幹部と各部隊長クラスが一堂に会するが、表向きは温和ながらもどこか張り詰めた空気があった。アサイラムがどれくらい吹っ掛け、DDがどれくらい守り切れるか。Cethlennは特に表情が硬い。一方でアサイラムのトップのノートはむしろ楽しそうな空気を放っている。
「さて、始めましょうか」
まず手の付けやすい部分で始めたのはMONの配分。
99兆2100億。イベントの最終参加人数が9921人なので、一人当たりにつき100億MONの払った時の総計と言うべきか。これとは別に個々人に10億MON。PKプレイヤーからすればMONは日常的に使う物ではないので個々の代表に全て集められており、全て合わせて総合計109兆130億MON。
ノート達からすればミニホームの強化やMONが有ればあるだけ強化されるVM$の為にも多額のMONを確保したいところで、DD側もさほどMONは使わないだろうとノート達も思い込んでいたのだが、意外とここが荒れた。というのも聞けばDDも最終避難先としてミニホームを持っていてその強化にMONが欲しいし、更に要塞の強化や維持にもMONが必要だと言う。DD側も多額のMONが一括で欲しいのだ。DD側もDD側でアサイラムはPKプレイヤーだしMONは使わないだろうと高を括っていただけに一番安パイだと双方思っていた部分が危険稗だったわけだ。
結局アサイラムもDDもここは妥協を許さず、MONは後回しになった。
続けて議題に上がったのはボーナスイベントで採掘されたドロップ品。手にしたはいいものの、加工難度が高く現状のDDの設備では加工が困難。一方で戦闘中ノートは装備の改造を約束していた為、DDは自分たちで採掘した鉱石を使ってアサイラム側での武器の製作を依頼してきた。
ただ、アサイラム側もゴヴニュがアンデッドでありながら過労死してしまうだろう注文全てを受け入れるわけにはいかず、DD側にも技術提供や設備の建設に協力する事で手を打った。
ドロップ品も同じで、貴重品ではあるが取り扱いは当然難しい。これも採掘品と同じ処理になった。




