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No.493 オセロ


「コイツ、めんどくせぇなぁ」


 戦闘をして直ぐにノートは気づく。

 火山砂の化物はその肉体が砂で構成されている。故に流動性があり、巨体に対して素早い動きをする。単なる物理や魔法ではほとんどダメージらしいダメージが通らず、砂の外皮を突破してその内側で荒ぶっているエネルギーにまでダメージを貫通させないとほぼ0ダメージ。というより、内側のエネルギーを揺り動かすことで強大過ぎるエネルギーを制御できなくなり、ボスが自傷する形でダメージが入るという非常にめんどくさいヤツだ。つまり通常ボス相手ならトドメに選ぶような攻撃を使ってようやく最低限のダメージが入る。 

 もっと詳しく言えば、火山灰の化物の身体は二重になっているパイプに近い。外側のパイプは尋常ではない程ぶ厚く、ちょっとやそっとのダメージでは外皮は傷つかない、というより砂を使ってダメージを吸収しきってしまう。例え軽く傷ついても、このエリアには大量の砂があるのでそれを再度取り込むことで即座に治癒する。ケバプが雨を降らせて砂を泥に変えていなかったらもっと理不尽な再生をしていただろう。

 そしてその外皮の内側には別のパイプがある。このパイプは外皮に防御を全部任せる代わりに内側を流れるエネルギー、例えるなら通常は触れるだけで全てを破壊する劇薬を制御する事に全てのリソースを割いている。

 なので外皮を貫通してこの内側のパイプに穴を開けて劇薬を流出させることで化物にようやく修復困難なダメージが入る。血管の様に外に出ている部分が融解してマグマ化しているのは完全にエネルギーを制御しきれてない事を表しているし、同時に通常のプレイヤーでも表出している血管を狙えば外皮を頑張ってブチ破らなくてもそれなりにダメージが入る弱点となっている。ゲーム的に言えばこの弱点が無かったらいよいよ本当にクソボスだっただろう。 

 

 が、問題はその肉体の可変性だ。まずもってその唯一のダメージソース源になりそうな血管の位置がある程度動くので固定砲台から当て続けるみたいな事ができない。

 加えて、元の仮称ラヴァーリザードの状態でも首を吹き飛ばしてもぺちゃんこにしても再生した尋常ではない生命エネルギーを持っている化物である。肉体で出来た砂は鉱石の様に変化させたり、そこから槍や剣の様にも化ける。数十mの巨体が振り下ろす岩剣の塊は質量攻撃として機能する。JKですら直撃したらアウトだ。

 ただ、この硬化は火山砂の化物にとってもノーリスクではないらしく、硬化したら再生はできなくなるし変化やダメージ吸収もできない。火山砂の化物の攻撃の中でもシンプルにして馬鹿げた火力を出すが、火山砂にとってもそれは諸刃の剣。岩を崩せるほどの火力が出せるなら砂よりは遥かに硬いとは言え確実にダメージを与えられる部位にもなり得る。砂の柔軟性を捨てることは与ダメージ的観点から見れば正解だが、防御としては一部の攻撃に弱くなるのだ。


 と、言うのが新しいボディの基本性能である。


 問題は今まで受けた攻撃を解析し吸収する事で獲得したと思われる性質である。

 まず3つ首から放たれるブレス。これは元々持っていた能力とも言えるが、シンプルに首が3つになって照準が増えたことが面倒だ。更にCethlennの棍棒の様にかなりゆっくりだがビーム以上の火力を叩き出す魔法を使ってくる。ただ、これは真ん中の首だけだ。予備動作が出てから全力で皆で叩けばキャンセルさせる事ができる。

 続いて鎖。背骨から垂れる鎖は触れるだけで身体が動くなるし、追尾して絡め取るような動きをしてくる。取り込まれたら脱出は困難で、そのまま砂の鎖ごと硬化。そして持ち上げられて地面に叩きつけられる。雑なフリーフォール(安全装置なし)を体験させてくるクソ攻撃だ。確定でほぼ死ぬだけでなく数十m持ち上げられて高速で地面に叩きつけられるというかなりキツめのトラウマを植え付けてくる。

 8つの尾はシンプルに素早く、三叉槍自体が回避が難しい。大きな体の下半身側には目が届かないはずなのに当たり前のように攻撃をしてくるので、むしろ下半身側の方が評価基準次第では厄介さは上かもしれない。

 そしてもっとも皆を混乱させるのが、砂の身体を自在に移動する砲門。この砲門から放たれるのはビームではなく火山岩の塊である。自分の肉体を削る攻撃なので回復リソースは減る為に乱発はしてこないが少しでも回復リソースに余裕が出来ると面倒な奴と一番弱そうな集団に向けて岩の砲弾を放ってくる。


 これでいて、スピリタスによって近接攻撃以外の攻撃力は大きく下げられており、トン2と鎌鼬によって2段階ほど性能が落ちているはずなのだ。もしこれがオリジナルのままだったら一体どうなっていたのか。


 ただ、これは“見えている範囲”の話。

 最大の問題は見えてない場所にある。それはノートが思う様に火山砂の化物と戦えていない理由でもある。

 火山砂の化物は砂を支配している。このエリア一体全ての地面が支配下にあると言っても過言ではない。その砂に血管を通す様に化物からエネルギーが伝播し続けている。砂を吸収して回復リソースにしている。

 そのエネルギーの流れが見えているのはノートだけだ。赤月の都の封印を強引に破壊したネモのフィールド干渉能力と太古の怨霊の感覚が合わさり本体からの攻撃以上に化物が地面への干渉率を上げようとしているのがノートには見えている。まるで血管の様に、葉脈の様に広がり、分岐し、伸びていく線は数千数万に達している。理不尽に見えるこの攻撃全てがまさか相手にとって時間稼ぎでしかない事はノートも流石に言わない。

 もしこのエネルギーの流れを化物が自在にコントロールできていたら、プレイヤー達は唐突に地面から生えた槍によって突き刺されて成す術もなく死んでいた。その程度には理不尽な敵がこの化物だ。


 そのクソゲー攻撃を押し留めているのがノート、ツッキー、エインの3人である。元領域支配者であるイザナミ戦艦の力、大地に潜む怪物の因子を持つネモ、深度の深い場所で揺蕩う太古の怨霊の力により今のノートには大地の中のエネルギーの流れがハッキリと見えているし、更に干渉することが出来る。恐らく、ネモが赤月の都への門をこじ開ける時に破壊したのはコレだとノートは直感していた。

 そのエネルギーのラインを広げて領域を支配しようとしている化物と、片っ端からラインを破壊し続けるノート。

 皆の見えない部分でノートの頭脳の限界に挑む様なエネルギー操作の戦争が起きていた。


 それでいてなお、化物は砂をリソースに高速回復できる。逆を返せば、ノートが必死になって支配領域を広げない様にせめぎ合っているからこそこの程度で済んでいるのだ。


 アナウンスでも表示された様に、この化物は『未生』。ノートも完全にその意味を読みきれていないが、卵の様な塊からわざわざ生まれ出でるという演出を挟んだ事から生命体として未完成な事を表している気ではないかと推測する。そしてその未完成は自己で完成に至ろうと動き続けているのだ。このボスは本来であればサイレントタイムリミット付きのクソボスだったのだ。

 故にこそ『討伐』。

 プレイヤーが心折れるまで待つほどALLFOは慈悲深くない。未完生状態の間に倒せるか、それとも歪にでも完成に至るのが先か。それがこの戦闘の本当の二択。


 このエネルギーのラインは膨大なパワーがあるので下手に破壊するとノートに対してしっぺ返しが飛んでくる。それはただでさえ死亡状態を強引に誤魔化して活動しているノートの寿命を大きく縮める。

 例えるなら、手では普通に格ゲーをしながら、同時に時間制限付きコマ数万単位のマインスイーパーをさせられているのに近い。そして更に支配権を確立するようにノートもノートでネモの能力で植物の根を広げ、ケバプが降らせ続けている雨を利用して植物を生み出す。植生などほぼないこの大地に、緑が徐々に増えては砂で消し飛ばされる。さながらオセロの様に。マインスイーパーと同時に囲碁をオセロをする。どことどこのポイントを制圧すればラインが確立しやすくなり、相手の支配を防げるか。オセロの様であってオセロの様にターン制ではない。これは思考スピードが速い方が勝つという勝負だ。これにはネモの株分けの力で普段は鞭として使われているクリフを新生させ補助として使っている。


 NPC3人のサポートがあったとして常人ではとっくに根を上げているクソゲー状態。サイボーグ巨人がHeoritの様にコマンド操作と脳波命令の混合操作の様な使用感でなければノートも投げ出していた。

 これは意地の戦いだ。

 思考速度はノートのアイデンティティの一つである。

 ユリン達の様な反射神経は無い。運動神経も、空間認識も、記憶力も無い。

 身体パラメータだけならユリン達と肩を並べるなど烏滸がましい凡人。その凡人が、怪物達を超える為に持っていた武器は頭と口だけだ。

 頭の回転で負けたら自分に価値は無い。これは背水の陣。

 故に静かに足掻く。辛い事ほどノートは黙ってやる。されど笑う。今自分はまた成長の岐路に立っているのだと。

 限界に挑む事が成長への最短であり、今自分は最良の試練に挑んでいるのだと。


 化物の攻撃を凌ぎながら、マインスイーパーをしながら、オセロをしながら、更に周囲に檄を飛ばし指示を出す。

 脳の回路が焼け焦げそうだ。投下した燃料は今最高に燃えている。

 頭が沸騰しそうだ。同時にその奥に冷たさがある。

 限界まで思考エンジンを回転させ続ける事で至る臨界点。

 身を委ねる、その冷たさに。踏み込み、熱を突き破る。背筋を走る寒気にも似た何か。

 それは快感だ。苦難という門扉を叩き続けた者だけが開く事のできる領域。強烈なストレスを抑え込もうとするために脳が発する脳内麻薬。


「まだまだァ!」


 限界値の壁をぶち破ったらあとは記録更新の世界だ。

 とんだクソゲーをどうもありがとう。ノートはALLFOに礼をする。

 ALLFOの本質は既にわかっている。一般には七世代という機器の素晴らしさを十全に伝えるよく出来たオンラインゲームのフリをしているが、その実態はどちらかといえば超精密なシミュレーションゲーム。条件が揃えば容赦なくシナリオは進行するし、エンドコンテンツ級の超常の敵が当たり前の様な顔をして出現する。

 

 どうせこの段階じゃ倒せるはずのない敵である事など遥か前に察していた。

 完全体では無いとはいえ、神寵故遺器(アークディアファクト)に1つだけでも戦場を左右するオリジナルスキル複数に初期特14人。うち1人がスタミナブーストをかけられる食事を量産でき、祭祀から手を借りられる友誼を結んでいる状態で初めて“勝負できる様に見える”クラスの敵。一般的なプレイヤーだけで倒そうとしたらどれほどの人数とランクが求められるのか。


 原因は定かでは無いが、聖女リナや大悪魔バルバリッチャの様に、本来の想定よりもあまりにも早く表に出てしまったイレギュラー。


 だが、誰もが本気で戦っていた。ログイン時間限界のアラートが鳴る。それでも限界まで挑む。転んでも、泣いても、泥に塗れても、その手にバトンを握り締めて。次に繋ぐ為に。


『…………今、戻った。シフト切り替えを順次行う』


 Cethlennの声が響く。現状は情報共有係が命懸けで撮影し続けていたライブ映像から休憩中も確認していた。Cethlennの指示に迷いはない。

 バトンは今、確かに繋がれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当にお久しぶりです [気になる点] >>背骨から垂れる鎖は触れるだけで身体が動くなるし、 ❌体が動くなる ⭕体が動かなくなる ではないでしょうか? [一言] >>ケバプが雨を降らせて砂…
[気になる点] イザナミと太古の怨霊と同じことができるネモのヤバさよ、進化前の時点でフィールド干渉能力もっていたしほんとあの生贄に捧げた盾を呪った祟り◯の謎が深まる [一言] 「コイツ、めんどくせぇな…
[気になる点] これレイドって形式で本当によかったよなぁ もし少数精鋭による討伐だった場合解析によって手に入れる能力が対個人に対するものが増えて確実に重要な奴らから一体一体堕とすような戦闘スタイルに変…
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