No.491 お家芸
『このバカオーナーに何かを言ってもどうしようもないのは今更でごぜぇます』
ノートとエインの会話に混ざるようにツッキーが会話に入ってくる。いつもの変に調子を外したような話し方ではなく、本当に心底呆れたような声音だ。
『あんな禁呪の依り代にわたくせを使うなんていい度胸してるじゃないでしか?』
「ツッキーならいけると思った」
『二度目の死を覚悟したでしよ!このおバカ!』
ツッキーがやいのやいの騒いでいると、正気を取り戻したアサイラムメンバーからも音声通話が届く。
『オイ、ノート!また面白い事一人でやってんな!?』
『何がどうしたらそうなっちゃうのかしら、貴方って』
『パイセン、遂に人間やめちゃったんすね』
『キャップがロボになった!このフィギュアめっちゃほしすぎて死ぬる………あたちの性癖ドストライク!』
『Wow, so cool! It's a robot!』
『やっぱりキャップの初期特だけ何かおかしい、と私は思う。何が起きているんだ?』
『ほほほ、凄いですね。Heoritを思い出したよ』
「ちょっと実験したらこうなった。これから取り巻き全部ぶっ潰すから本体への攻撃を続行してくれ」
使うのはアテナの能力とゴヴニュの能力。指先から糸を作り出し即座にゴヴニュの錬金で変質化。更にグレゴリの影を混ぜる。発想を自由に。今ノートが持っている力は統合されることでお互いを強化できる。単体の力を1つのモノに集めることであり得ない事を実現させる。
生み出された巨大な糸は影が混ぜられている為に自在に動く。糸はばらけてフィールドに広がると高速で飛翔。大ボス級がダメージを受けたことで更に分裂して生まれた大量の雑魚級の首に巻き付くと自動で締まり首を切り落とす。
最初のトラップの斬糸ですら本体に少ないながらもダメージを与えていたのだ。タナトスの熱耐性を取り込んでいる状態で作り出された糸は今まで以上の熱耐性を持っており、雑魚程度殺すのは訳がない。
「さぁまだ絶望するか!抗え!賭け金は俺が全部払ってやる!お前らは莫大な払戻金だけ見てレイズしまくれ!」
絶望を更に理不尽な攻撃で破る。様相はもはや怪獣戦争だ。
ノートは太古の亡霊が持っていた力を組み合わせて行使。DD達に太古より到る呪いをかける。だが、その呪いは加護にも似ている。バルバリッチャのピロマスクが呪いを利用したモノであるように、呪いは上手く利用すれば強大な能力を与える。
如何なる熱にも打ち勝つ力を。むしろその熱を奪って取込み化物に変ずる呪いを。
抱いた絶望を武器に変える力を。不退転の呪いを。
太古の外法をゴヴニュとアテナとネモの力で制御する。戦場の全てをグレゴリの知覚で把握する。
思い出すは反船で聖女リナが行使した装備回復の魔法。見本はある。疑似的に成す。呪いと同時にその装備を治す。タナトスの初期から持っている『整備』の能力。ボロを継ぎ接ぎする応急処置の力を呪いで拡大解釈する。
『あーあー。無茶な事を。“まだ本気出してもない”相手にやりすぎでしよ』
『え?アレで、本気ではないと?』
その様を見ていたツッキーはまた呆れたような声を出し、一方でエインは唖然としたような顔になる。
『不勉強でごせぇますねぇ。アレがあの程度で終わるわけねぇでしよ。不完全体もいいところでしけど、一端の▇▇▇▇▇▇▇でごぜぇますよ。本質すら見せてねぇでごぜぇます。オーナーももう気づいてるでしね?』
「まぁな。違和感はあったんだ。今色んな能力が使えるお陰で確信が持てた」
やってくれる。とんだトラップだとノートは思う。
休火山都市。火口より這い出る姿(これはグレゴリと言う反則で見えていただけだが)。煮立つ身体。熱。
これらの情報を繋ぎ合わせれば察しの悪いタイプでも『マグマ』あるいは『溶岩』を思い浮かべるだろう。見た目もマグマの塊のような存在だ。
冷却、凍結、水。効きそうなのはこの辺りか。皆そう思い準備を整えるだろう。
だが、これは仮称ラヴァーリザードの本質ではない。
本当に性格が悪いと思う。GBHWのボスもそうだった。見えた目だけに囚われていると全く勝てない敵ばかり出てくる。その時ふと長いこと倒せていなかったGBHWのシナリオボスの攻略方法が思い浮かんだが、ノートは脳内に出てきたGBHWちゃんを舞台袖に追いやる。今はその時じゃないと。ALLFOちゃんがあっかんべーとGBHWちゃんを押しやる。
製作者が同じなら基本的な考え方も見えてくる。
ド派手大火力。それから物量戦。圧倒的な情報量を叩きつける事で相手に選択を許さない。そして選択を誤らせる。奇しくもノートが対人戦でよくやるやり方だった。
首無しになった本体は回復を始めるが、それを許さずにノートは首に魔法を連発。その攻撃に巻き込まれないようにしつつ無事な戦闘員は右前脚に集中攻撃。ダメージが一気にかさみ、頭に回復リソースを回そうとしたことで回復が追い付かなかった右腕も大きくしなり、遂にその大質量を支えきれなくなったように上半身が完全に地に沈んだ。
勝てる。周囲は思った。
これからだ。ノートだけは直感した。
今までと反転する物の見方。
「エイン、ツッキー、結界最大出力!『全員直ぐに下がれ!JK、最大出力防御!』」
地面に手をついて防壁を弄ろうとするが“当然”反応がない。
ノートは気づいていた。ずっと地面への干渉ができないと。
仕方ないのでリソースを削って強引に影から防壁を編む。
倒れて首のない仮称ラヴァーリザードの身体が膨らんでいく。祭祀の封印の杭が体に飲み込まれていく。全身が発光する。
危険を察知したのは祭祀もなのだろう。更に巨大な杭が身体に何本も突き刺さるが、膨張を遅らせただけで完全には止まらない。
ゲーム的に解釈するなら、今の内に備えろといわんばかりの演出。遥か遠方に居るはずなのに一本だけでも擦ればノートですら身動きできなくなる様なこれだけの大規模な魔法を当たり前のように行使する祭祀にビビればいいのか、それとも本当はもっと出来る癖にセーブしてることに憤ればいいのか。結局今攻撃を直接防げるのはノートとJKぐらいしかいない。
やると思った。ノートは思う。
出題者が顔見知りならテストの筆記問題の正答率は当然上がる。筆記問題は出題者の意図を考える問題だ。最終フォームに変身する前に敵部隊を壊滅させて、生き残りに絶望の最終フォームを見せ付けてくるのはGBHWではお家芸みたいなところがある。どいつもこいつもしぶとくて、面倒な敵ばかり作る。
炸裂した。身体が。その威力はファーストアタックであるCethlennとネオンの合わせ技の爆撃を更に超えていた。まるで今まで受けたダメージを全て蓄積して周囲に叩きつける様な一撃。全ての視界が白く染まった。
意識の空白。吹き飛んだDDのメンバーは地面がごつごつした岩場と砂でざらついている事で自分が死に戻りしてない事に気づいた。
もし死んでいて、尚且つリスポン地点にしたイザナミ戦艦(抜け殻)も吹き飛んでいれば、彼らはその前にリスポン地点に定めた休火山都市の硬い石畳の上で目を覚ましたはずだ。もしイザナミ戦艦が残っていても、この地面はイザナミ戦艦の冷たい錆だらけの甲板ではない。先ほどまで自分達が戦っていた休火山の斜面だ。
けれど視界は強烈な光に目を焼かれたせいかぼやけている。段々目が慣れてきたが、それでも視界は灰色に染まっている。砂塵だ。強烈な爆発によって地面の砂が巻き上がり砂嵐の様になっている。もしリアルの肉体なら目を開けてなんかいられなかっただろう。
その砂が急速に動く。風が吹く。いやこれは風か。どちらかと言うと、これは、吸い込まれている。
吹き付ける砂のせいで身体が引っ張られそうになり、咄嗟にごつごつした岩肌に指と足をかけて体を固定する。
砂塵が晴れていく。見える。
そこにはボロボロになって大炎上中のサイボーグが居た。まるで、本来周囲が受けるはずだったダメージを肩代わりしたように。見れば爆発に晒されながらも、吹き飛んだ衝撃で身体を打ち付けた時のダメージこそ入っているがそれ以外は無事。装備もそのままだ。誰がこのダメージを肩代わりしたのか一目見れば分かる。
男は言った。
賭け金は俺が全部払ってやると。男は約束は違えない。出来る事しか言わないのだ。




