No.489 ぽつ
ポツリ、ポツリ。
水滴。
NEPTは空を見上げる。
本体があまりにも煌々と光っているせいで空の明暗の事をまるで気にしていなかったが、いつの間にか空には非常にぶ厚い黒雲が現れていた。
ぽつ、ぽつ、ぽつぽつぽつぽつぽぽぽぽぽ――――――――
その水滴はいつしか豪雨に変わった。冷たく、やけに重く暗い雨。
ジュ~~と奇妙な音。雨粒が本体と接触し、熱で雨が蒸発して大量の蒸気が発生する。まるでそれは工場の様だ。
『間に合ってくれたか』
『大変お待たせ致しました。間に合ってよかった』
ノートの声に応えるように、別の声が聞こえ始める。老けた男の渋くダンディーな声だ。
続けて空から金の矢の雨が大量に降り注いだ。矢の雨の発生源。そこは別の山の頂点。あそこから届くというのか。誰かが金色の弓を構えている。
ノートは文字化けが出現した時点で救援要請を出していた、恐らく、この開けた環境、大型ボス相手には無類の強さを発揮する男に。
ケバプは全面的にPKを否定するつもりはないが、完全にアサイラム側に確実な正しさのあるPKにしか手を貸したくないと言った。それにノートも同意した。初期特持ちでも必ずしもPKが好きであるとは限らない。それは当たり前の事だ。PKを好むプレイヤーの方が少数派なのだから。むしろ半ば洗脳されたとはいえ、ネオンやエロマ、ツナがPKに手を貸している方が珍しいパターンと言える。ケバプはノートの洗脳が通じないほどに人間として完全に完成していた。
だが、もうこの戦いはレイドではない。ならばケバプが参加してもいい。ケバプはノートの救援要請に気づき、地下帝国の転移門からアメリカの第4章シナリオボス跡地の街の転移門へ。そこからペットを飛ばして飛ばしてようやくたどり着いたのだ。なお、ノートのヘルプが届いた時刻はトルコ時刻では朝。定職には付いていないとはいえ、御年92才がよくぞ無茶な救援要請に応じてくれたと見るべきだろう。
NEPTの『海』は操作性があるが、ケバプの初期特の能力である『沈雨招来』はほぼ操作性がない。MP効率も『海』より低い。代わりに保留時間と規模が違う。豪雨によってDD達の動きも悪くなるが、本体や分裂体の方が雨によって明らかに動きが鈍り大きな異変が起きていた。光が露骨に減り、熱気が減る。そこに追い打ちをかける様な矢の雨が炸裂。矢に込められたネオンの魔法が炸裂し誰も手を出していなかった下半身の部分に少なくないダメージが入った。
『ユリンと鎌鼬、NEPTは休憩。他は次のシフトまでなんとか持ち超えてくれ。こっちも手札を切ろう。Cethlennも休んでくれ。ケバプ、上から全体指揮回せる?』
『………なかなか無茶を言う。まあやってみましょうか』
『助かる。情報は纏めてさっき送ったからそれ見てくれ』
いきなり到着して早々、万単位の初見メンバーを指揮しろと言われて流石のケバプも面食らうが、ノートはできない事を頼んだりしない。数々のゲームをしてきたケバプはこの場に或る誰よりも多くの経験を積んでいる。大型級レイドの指揮の経験もあるにはある。ここまでぶっ飛んだ状況は初めてだが、未知は今まで積み上げてきた既知で埋められる。そしてこの場にいる誰よりも、ケバプは多くの既知を積み上げている男だ。
『指揮を引き継ぎます、ケバプです。まず―――――――』
さて、これでアサイラムが隠していたかった鬼札の半分以上は切った。
『レクイエム、ここまで冷えれば寄生繁殖できるな?メギド、随分待たせたな。暴れろ』
『Grrrrraaaaaaaaaa!!』
更に鬼札を重ねる。
今までバフコーラスを続けていたレクイエムの分身体が雑魚個体に噛みつくと寄生して支配。瞬く間に雑魚は吸収されて増殖していく。今までは熱のせいでレクイエムでも寄生が難しかったが、ケバプの雨で大きく冷えた。それによりレクイエムでもギリギリ攻撃が通るようになった。こうなればフィーバータイムだ。寄生が一度通るようになればレクイエムは瞬く間に残機を増やし続けて力を増していく。
更に召喚されたメギドが最高の獲物だと言わんばかりに咆哮。嬉々とした様子でハルバードをぶん回してミニリザードの一体に斬りかかった。完全に怪獣戦争のノリだ。
女王蟻の魂を受け継いだメギドは熱耐性に関しては非常に高い。むしろ相性は良いと言っていい。それでもノートが今まで使うのを見送っていたのは温存するに越した事はないからだ。ケバプも本当は温存したかった。だが、直感がここで手札を遊ばせていると自分の首を完璧に締め上げると察していた。
決心しても躊躇いはある。理性がブレーキを踏めと言っている。だが、正気では乗り越えられそうな戦闘ではないために脱法エンジンを積んできたのだ。
「オラァ気合入れろ!まだまだ終わらねぇぞ!勝ったら全員装備グレードアップするから恐れずに突っ込め!総指揮一時変更!腕は信頼できるから信じろ!」
ツッキーに生贄を更にレイズ。これで負けたら超大赤字なことを知りながらもノートは笑顔で全体バフを強化する。いきなりCethlennに変わって指揮を始めたケバプなる人物に流石のDDも混乱するが、ノートは一喝して強引に従わせる。
混乱時には声のデカイ奴が上を取る。大事なのは度胸。そして俺に従う事が当たり前だと言わんばかりの根拠の無い自信だ。トップが揺らげば如何なる組織も惑うからこそ、自分だけは絶対的に自信があると虚勢を張る。更にここに破格な報酬を叩きつけて士気を上げる。頑張ってくれゴヴニュ、アテナと完全に他力本願な空手形の報酬だ。ALLFOにある貯蓄を全部吹っ飛ばすつもりでノートは声を上げる。この戦闘はそれだけの価値のある戦いだと思いこむ。
グレゴリの視界を借りたケバプは山の上から今までの経験をもとに堅実に部隊を動かす。今までは雑魚を攻撃していたが雑魚級はレクイエム一体で制圧できそうなので、そうなると次はミニリザードだ。ノートが休んでいる間に大分削られたのかかなり身体が崩れている。ここで押すべきだとケバプは判断し、自分も弓を放ちながらミニリザード討伐を開始する。
「思ったよりシルクが強いな」
シルクは相変わらず悪魔の背負うリュックの中に籠城中。そのせいで逃げ場がなく、背負っている悪魔は容赦なくミニリザードに接近するのでシルクも死に物狂いなのか緑の巨大な平手が何度もミニリザードの横っ面に炸裂し、ミニリザードにビームを吐かせないように上手い事妨害していた。
と、ここで遂に異変。
仮称ラヴァーリザードとミニリザードの背中に大きなフジツボの様な物が出来る。フジツボに見えたそれは更に長く伸びる。
「マジか?!」
続けて全身発光。光がそれぞれのフジツボに収縮。溶岩の砲弾が一斉に周囲にフジツボから放たれた。ここにきて、ようやく周りの蟻共を本腰入れて潰す気になったと言わんばかりのいきなりの攻勢。ノートも対抗するように魔法を多重並列発動し全てをコントロールして空高く放たれた砲弾目掛けてスナイプする。こんな芸当はツッキーの全力支援あっての曲芸だ。それでも確かにそれは被害を減らした。
打ち上げられた弾丸の内、ノートがスナイプ仕切れなかった弾丸は地面に落ちると爆発。辺り一帯を吹き飛ばし、爆心地には中ボス級をもう少し強化したいような二足歩行型のトカゲ犬が誕生する。単なる曲射砲撃でも一発一発が大型ボスのチャージ技レベルの威力を持っているのにそれを同時に数千発。更にそこからシナリオボス級の怪物が爆誕。
これを設計した開発は本当に馬鹿野郎だ。ノートは心の中で呪詛を吐く。本当に倒させる気が有んのかと。同時に、GBHW・Neoのシナリオボスよりかはまだ戦えるという乾いた笑いが浮かぶ。
ああ、そうだ。これを設計したのは恐らく同じ奴だ。ALLFO製作スタッフにはGBHW製作スタッフは一部一致している。そいつらがこのアホみたいなボスを作ったのだとノートは察した。
またお前か案件
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【おまけ】
ノートたちが詰まってるGBHWボス【ベジットリトルナンバー】
形状は2脚の白い大根脚がニョキッと生えた戦闘機擬き。長さ30m、横幅45mの戦闘機のサイズに対し、脚の長さが50mと妙に長い上に速い。
日本では
/⌒ヽ
⊂二二二(^ω^)二⊃
| / ブーン
( ヽノ
ノ>ノ
三 レレ
のAAに準えてブーンという愛称(蔑称)で憎まれ、もとい親しまれている。近接ではエゲツない強烈な蹴りを繰り出し地面を抉りながら攻撃してくるので蹴りに直撃しなくてもコンクリート片が大量に飛んできて死ぬ。
ビルを脚置き場にしてクラウチングスタートからの突撃をするとソニックブームが起き周囲が吹き飛ぶのでクラウチングスタートの構えを取ったら要注意。
なお、更に問題はその戦闘機のボディに付いている白大根爆弾。近接戦闘だけでも攻撃がかなり当てづらくて速いのに同時に追尾性能を持つミサイルを撒き続けてみんな死ぬ。
更に体を捻りながら座り込んだら超要注意。体を高速で回しながら立ち上がると竹蜻蛉みたいな状態になり強烈なサイクロンと同時に回転を生かして周囲に大根ミサイルをばら撒くので一面が吹き飛ぶ。
戦闘機の翼はブレードになっており、直撃すればまず即死。斬れ味は他のボスと比べてもトップクラスで物理防御の異能を使っても死ぬ。なので翼を攻撃して回転を止めようなんてすれば死ぬ。なんならそこからミサイルと同時に飛ぶ斬撃の雨で切り裂かれて死ぬ。
飛ぶ斬撃を避けても避けた先でミサイルに追尾で殺されるという最悪のコンボを通常攻撃で放ってくるので死ぬ。
が、ここまではノート達も突破している。
問題は激怒モードに入って空中を飛び始めた時。プレイヤーのリーチ外まで逃げて突撃爆撃を繰り返し始め、超高速で動きながら下段回し蹴りで地面を全て薙ぎ払い先端のレーザーで全部殺すというクソゲー攻撃をノータイムで放ち続ける。
まだ完全最終フェーズまで至ったプレイヤーがいないので未確認だが、下手にHPをミリ残しすると全自爆で強制ゲームオーバーされるので死体蹴りする勢いで殺しにいかないと始めからやり直しになるクソギミックも
実は「わかるかそんなもん!」という攻略方法を実行すると比較的安全(当社比)に倒せるのだが……………




