No.483　450㎞

「FOOOOOOO！カチコミじゃ―――！！」

「チッ、速えんだよ！！」　

　FUUUMAに続けて仮称ラヴァーリザードの上を目指すはツナ。NEPTが『海』を操作して逆スライダーを作る。地面から仮称ラヴァーリザードに向けて『海』の傾斜を作り、その坂を逆流する水の流れを作る。その流れにツナがサーフボード鮫で飛び乗った。激流を器用に乗りこなして一瞬で大ジャンプしたツナはそのまま仮称ラヴァーリザードの上からサメを肩目掛けて降らせ始める。

　かなり反応が鈍い仮称ラヴァーリザードでもNEPTの『海』が厄介な事は流石に学習したのか顔をゆっくりとNEPTの方に向けるが、NEPTは『海』の形状を槍に変形させて仮称ラヴァーリザードの肩を突き刺して体勢を崩そうとする。

　海は水。水はALLFOでもあまり評価されない。というより、ゲームのみならず水使いが強キャラ扱いされることは少ない。けれど扱う水量が変われば話は大きく変わる。敢えて地面に接触させて砂を取り込んで質量を増した水流の槍は単純に強大なパワーを持つ。

　が、それでも仮称ラヴァーリザードの体勢は完全に崩しきれない。VM$の冷却により水の蒸発率が下がり第一打よりも確実に多くの水をぶつけることはできているが、仮称ラヴァーリザードの表面を若干冷やすにとどまっているか。

　

「《霜渉鎖の術》！」

　そこで更に自力で仮称ラヴァーリザードの上に飛び上がったFUUUMAが印を結び氷のブレス。仮称ラヴァーリザードの温度を下げていく。遂に冷却が効いたのか仮称ラヴァーリザードの肩部分から光が消えていく。

　そして最後に攻撃を与えたのは炎の翼を広げるシンデレラ。もはや炎の化身と言うべきほど燃え上がりながら走りにくい砂と岩の地面を超高速で走り抜けて大跳躍。冷却され僅かに固まった肩の部分を思い切り蹴りぬいた。0強化で8mのジャンプを可能とする脚力お化けは数十にも重ねられたブーストにより数十mを軽々とジャンプした挙句に全ての威力を脚に乗せて蹴った。

　

　度重なる衝撃で僅かに肩が削れて少し下がる。初期特勢の合わせ技でも表皮をようやく削った程度。

　だが連撃はまだ続く。一人だけキサラギ馬車に乗らず空を飛んでいた。下山するどころか更に上へ羽ばたいていた。そして仮称ラヴァーリザードの上に来たところでインベントリから一本を大剣を取り出すと同時に一気に急降下する。手に持つは骸獄が吐き出した呪いだらけの3mを超えるお化け大剣。Gingerと戦った時に使った刀程ではないがこちらの大剣も呪いがタップリだ。元々腐った森から僅かに出土した金属を使っているだけあって呪物よりだった大剣を更に呪いで染め上げたのが今ユリンが手に持つ物だ。

　重量はサイズ比の中では最も異常な対比を示しており、JKが仮称ラヴァーリザードの初撃を防いだ核シェルターの外壁を重ねたようなクソデカ盾よりも更に重い。呪いのせいで異常に重く、ほぼ失敗作扱いされていた代物だ。おまけに呪いが付きすぎて加工をまるで受け付けず、重すぎるし頑丈過ぎる面倒な大剣になってしまった。

　

　が、その重さが今は何よりも役に立つ。

　翼をはためかせて更に加速。加速。加速。仮称ラヴァーリザードに迫った時点で時速450㎞/hオーバー。常人が生身で耐えられる加速を超えている。エインの張った結界だけでなくティアから教わった無属性魔法を流線形にすることで出来る限り抵抗を減らして、金属性魔法で身体をガチガチに強化して尚キツい速度。そこにJKの鎧の重量を奪っていたヌコォが目視ギリギリのとこで重量をユリンに追加。更に落下エネルギーを増大させたユリンは大剣を構えてそのまま頸椎目掛けて落ちる。

　この大剣は地球重量換算の素の重量で5tを軽く超える異常な代物だ。それが呪いで更に加重されている。当然人間に持てる代物ではない。当然だ。だからお蔵入りになった。けれど質量兵器と考えるなら別。インベントリは重量を無視する。入れる事さえできれば、宙で取り出すだけならできる。それを真っすぐ下に向けて、時速450㎞/hオーバーで突撃させれば、ユリンの空からの急襲時攻撃力を更に上乗せするスキルが乗った大剣ならば。

　かなりざっくりとした計算にはなるが、その威力は単純な質量だけでも拳銃が持つエネルギーの15万倍に迫る。ここにスキルやユリンが持つ称号その他諸々と数十のバフが組み合わさる事で叩き出される破壊力は抵抗しようと発光しつつあった仮称ラヴァーリザードの頸椎周りを一撃で粉砕し大穴を開けた。

　だが突き刺してもその時点でユリン自身持つ落下エネルギーが全部消えるわけではない。上空からパラシュート無しスカイダイビングしたらいくらランク50を超えたプレイヤーでも、例えそれがJKだとしても流石に死ぬ。だが、地面に落ちたユリンはノートが走り込ませていた悪魔達が何とか抱き留めることで生きていた。

　と言っても全ての衝撃を悪魔が受け止めたわけではない。ユリンの命を繋いだのはヌコォだ。大剣とユリン自身の持つエネルギーを神業と称すべきギリギリのタイミングで“盗った”ヌコォは、その膨大なエネルギーを今まさに仮称ラヴァーリザードの足元に走り込んで脚部に攻撃しようとしていたスピリタスに与えた。

　タイミング的にもし0.01秒のズレで死んでいたかもしれないという賭け。ユリンはヌコォを信頼し、ヌコォはその信頼に応えた。土壇場で二人は賭けに勝った。　

　　　

　続けて賭けに乗ったスピリタスが使うのは発勁込みの内部衝撃伝播系掌底の極点スキル。あまりにも大きすぎるエネルギーに一瞬盗っただけのヌコォは無理な技能の使用の代償を受けるようにHPとMPが全て吹き飛びかねない大ダメージを受け、そのエネルギーを更に押し付けられたスピリタスにも莫大な負荷がかかるが、それでもスピリタスは驚異的な精神の強さで完璧に発勁をキメた。

　まるで山を人間が殴るような無謀さだったが、効果は劇的だった。エロマの全力の蹴りでも僅かに表皮を削るだけだった表皮が大きくたわみ、脚に亀裂が走り光と熱が漏れ出て、遂に仮称ラヴァーリザードは体勢を整えようとするもお頭のグレイプニルが更に強く締め付けてバランスを崩させて、遂に仮称ラヴァーリザードは左前脚を折るように転倒した。

　一つの技を使っただけでユリン、ヌコォ、スピリタスが瀕死になったが、ユリン達は救護部隊の悪魔達が回収して急いで撤退。ヒーラー役の悪魔達とカるタが回復を行う。

　一方でその3人の健闘とバトンタッチするように重さがなくなっている間に大きく接近し、仮称ラヴァーリザードの真ん前でタウントスキルを発動。ヘイトを集め始める。同時に倒れた左前脚の方向にゴロワーズ、トン2、Gingerが走り込んでいく。

　彼女らが狙うは仮称ラヴァーリザード本体ではない。ユリン達のコンビネーションで激しく飛び散った体の一部が巨大な怪物として再生した奴等だ。吹き飛んだパーツが大きいだけあって、パーツから生まれた怪物の大きさも4mオーバー越えばかり。1体1体が中ボス級。形状も小型の犬とトカゲの相の子のような感じではなく、上半身が発達したカエルと犬の相の子のような形状。中ボス級たちは少なくないダメージを与えたユリン達を狙うように攻撃を仕掛けるが、それをトン2達が食い止める。

　

　トカゲとは骨格が異なる為か中ボス級は煮えたぎる手を振り下ろす。それを容易く見切ったトン2はスキルを発動しながら腕を蹴上がり、肩を蹴って薙刀で首を切り落とす。その中ボス個体の背後から更に迫っていた個体に対しては脳天目掛けてトン2の相棒であるスナイパーの放った弾丸がクリティカルヒットし動かなくなる。

　一方で無手で突っ込んだゴロワーズはギリギリで攻撃を見切る。

「アッツ！？」

　掠っただけでも火傷したような熱さ。冷気の加護があっても尚熱い。頭の中で沸き上がった怒りを力に変換。回避をしながら手を振り抜く。その手にはいつの間にかインベントリから引き抜いた大槌があり、完璧なカウンターが中ボス個体の胸のど真ん中に炸裂した。

　　　

「あたちよりノロマだしもろくねぇ！？ザコがよぉ！！」

　鎚をインベントリに即座に戻す。衝撃で身体を大きくくの字に曲げて下がった敵の頭を続けてインベントリから取り出した大斧で容赦なくぶった切る。

　ゴロワーズの強さはゲームへの強さだ。チャンバラや殺陣、射撃ではユリンやトン2達と無限に及ぶ数戦っても勝てないだろう。だが、ゴロワーズはユリン達よりも遥かにゲームセンスがある。インベントリの利用。バフのタイミング。怪物の動きの見切り。スキルや魔法と言ったカードを上手く組み合わせることでゲームの世界ならその刃は世界トップクラスの怪物達にも届きうる。これだけ動きながら同時にトン2や自分に回復魔法も飛ばしているのだから余念がない。

　そして最後に走り込んだGingerは更に異質。Gingerの走る先の空中から巨大な尾が幾本も出現して階段状になるとそれをGingerは蹴上がり両手で構えた直剣を振り下ろす。

「〔縦裂波(ジレッパ)〕！」

　　　

　斬撃が直剣から飛ぶ。一撃で中ボス級は真っ二つになり、その後ろに居た個体たちにまで攻撃が貫通する。カウンターの様に放たれたビームは別の尻尾が受け止め、更に増えた尻尾がしなりビームを放った中ボス個体を叩き潰す。更に呼び出した尻尾に自分の背を押させて即座に着地すると次の個体に斬りかかった。