No.481 通常攻撃
「どうだ?」
「微妙ね。水はあまり効いていないように見えるわ。水量の問題かしら。スキルを使っても弱点が見えてこないわね」
「鎌鼬でも弱点部位が判らないし、ネオンの魔法を込めてある弾丸でもダメか…………いよいよヤバいな」
DDメンバーが山を駆けおりていく中、キサラギ馬車の馬車の上に乗ったDD幹部+アサイラムは先行して山を高速で降りていく。その最中でも鎌鼬が果敢に狙撃をするが、元のサイズが頭抜けているせいかネオンの弾丸が直撃していたも仮称ラヴァーリザードはまるで反応を見せない。再度進軍を始めようと体を起こし始めている。
何が一番の問題かと言えば、ノートが見た仮称ラヴァーリザードの回復方法だろう。
ALLFOには致命判定という物がある。頭、首、心臓など、所謂急所と言う場所に攻撃を受けると大ダメージを負ったり、いくらHPがあってもそこで死んでしまう事もある。これはプレイヤーだけでなく敵側にも言える話。例外はアンデッド達くらいだ。アンデッド達は首を切り落としてもまだ動く。そのアンデッド達と言えどもぺちゃんこにされたら流石に死ぬ。
最初の一撃。ネオンの魔法を乗せたCethlennの棍棒が直撃した仮称ラヴァーリザードは衝撃波で完全にぺちゃんこに押しつぶされていた。地面に張りつけになったとか膝をついたとか亀裂が入ったとかではない。間違いなく潰れていた。なのにそこから謎の復活を遂げた。こうなると仮称ラヴァーリザードはアンデッド以上のデタラメな生態をしていると考えるしかない。急所を攻撃、と言ってもそもそも急所があるのかすら疑わしい。
ノートが受けた印象は今やトカゲと言うよりスライム。それも雑魚的系ではなく一部の作品で見られるような最強スライム。トカゲの形をしたスライムと考えた方が先ほどの再生にはまだ納得がいく。
「(そもそも回復エフェクトも無しにアレだけの回復を一瞬でやってるとか、どこからリソース引っ張ってきてんだ?)」
ある意味、仮称ラヴァーリザードは出現時点から動くたびに自傷するように身体が崩れていた。
まさに「腐ってやがる………早すぎたんだ」案件に近い状態だ。動くだけで身体が崩れるなんてもはやアンデッド以上に生物として不安定である。
「(『Hypnopompia Protostar』……ヒュプノは睡眠に類するワード。プロトスターは生まれて間もないってか完全に星になりきる前の星、って感じだったか?生物として不完全な………『Jailbraker』、まだ出るべきではなかった?)」
ノートの鑑定も当然の様に弾かれた。何かしらの呪いまで飛んできたがノートはレジストに成功している。が、ノートでなければどうなっていたか。鑑定に対するカウンター技能持ち。いや、カウンターというよりそれほどアレそのものが人間が推し測るには大外た悍ましき存在。見ただけで常人なら精神を破壊されるような代物。
直接触れて遙覿司の能力を併用して鑑定すればもう少し実態がつかめるかもしれないが、まず触れる様な見た目をしていない。加えて思い出すはティアのユニーククエスト前の発狂。覗き見た事によるペナルティ。そうなると、今ある情報から出来るだけ推測するしかない。
「NEPT、投げろ」
「オラッ!」
ノートの指示で続いて海を槍状にした物をNEPTが投げる。サイズにして長さ60mオーバー、直径4m。一部の『海』をイザナミ戦艦の周りに残してもう一方を攻撃に使おうとすることがどれくらい難しい事なのかはNEPT本人しかわかない苦労だ。言わば、ハードな運動しながら頭の中ではずっと一点の座標を念じ続けるみたいなものだ。少しでも気が逸れたら制御はできなくなる。それを事前に説明してあってもヤレと言い切るノートにNEPTはイラッとしたが、実際のところそれが一番効率的なのだからやるしかない。
高速で海を固めた三叉槍が山を飛ぶ。着弾。槍が頭に突き刺さり海が沸騰する。
「くっ!?制御が!クソがあああああああ!!」
NEPTは前に突き出した右手の手首を左手で抑える。右手は何かを掴もうとしているような形をしているが、まるで何かに抵抗されている様に手が震えている。それでもNEPTは粘る。強引に握りつぶそうと力を込める。
海は瞬く間に煮立ち、蒸気が湧きたつ。潮の独特の香りが周囲にまき散らされる。槍の形状が変形し巨大な頭部を海が包み込む。これがNEPTのシンプルにして強力な必殺技。海流から逃れられない敵はこれだけで窒息死して死ぬ。
海流を回転させて熱による影響を出来るだけ下げる。仮称ラヴァーリザードに動きは無し。苦しみにもがくでもない。ただ、無意味でもないようで若干光量が落ちている。石化するまで温度は下がっていないが、確かに影響が出ている。
「兄さん、マズい。JK、準備」
「OK!」
「S5、バフをJKに」
しかしそこでヌコォが警告を発してJKに指示。予見技能を最大出力で使っているヌコォはこの後の仮称ラヴァーリザードの動きが見えた。首元でひときわ強く光が弾けると、それがゆっくりと頭の方 に動いていく。光量が元に戻るどころか強くなる。その光が口の先端の方に移る。
一方でノートはツッキーのリソースをJKに回し、後続の悪魔軍団の中でもバフに特化した悪魔に指示。更にバフを与えられるメンバーもJKにバフを与える。キサラギ馬車には異常な回避能力はあるが、ヌコォが未来視した攻撃の規模は避けるとかその様な規模ではなかった。下手にここで避けたとしても後続が全て吹き飛ぶ。そういうタイプの攻撃だ。ならここでブロックするしかない。
海流の縛りを強引に抗いグググググと口が開いていく。口の奥にあるのは目もくらむような光。
「今」
「Ha!!」
「エイン」
ヌコォの合図でJKはインベントリから取り出していた余次元ボックスの中身を取り出す。次の瞬間、皆の前には金属の壁が唐突に出現した。取り出すや否やJKを抑えるというよりタックルするように壁に右肩を当てる。同時にノアの結界を最大出力に。ノートの指示を受けてイザナミ戦艦からもエインがJKに結界を与える。
何枚もの超巨大なガラスが一斉に砕ける様な轟音。一瞬全てが白に染まるほどの光量。今までの攻撃のお返しと言わんかりに放たれたビームの一撃をノート達はギリギリで凌ぎ、JKは即座に余次元ボックスにしまう。
「ハハハハ、今のが通常攻撃か?ヤバいな」
周囲は高熱で溶けるかガラス化している。首元が光ってからビーム発動まで約10秒と言ったところか。世界でも最高峰の火力を叩き出すネオンよりも遥かに短い時間で、ネオンの魔法の10倍以上の攻撃を当たり前のように仮称ラヴァーリザードは放ってきた。それを裏付けるようにサイドに居た2体のミニリザードたちも発光し始める。まさかの2段撃ち。それも二方向から。
ただ、逆を返せばそれはこのレベルの怪物でもノート達を脅威と見ていると考える事も出来る。
小さい分チャージも早いのか5秒程度でミニリザードはビームを放つ。両方ともネオンの魔法に迫る勢いのビームだが、今度はこれをノアの方舟の能力で生み出した盾2枚でジャストパリィ。ビームは反射しミニリザードに直撃する。
「分裂個体負傷。分裂体は耐久力は高くないと考えられる」
「高くないって言っても当社比って感じだなぁ」
自分のビームの一部が反射し顔面に直撃したミニリザードは顔面が大きく凹んでいる。しかし通常の生命体であれば致命的なダメージであっても既にゆっくりと再生が始まっている。
距離は迫る。直撃すれば消し飛ぶビームが飛んでこようと一切歩みを止めずに坂を下り続けるキサラギ馬車。余波だけでもかなりのダメージを受けておりノートは余裕そうな顔をしながらもキサラギ馬車に回復魔法を撃ち続けている。
先程の一撃は小手調べか。いよいよ近づく。この闇夜を煌々と照らす光を放つ怪物は接近するだけで肌がひり付くほどの熱気がノート達を蝕む。
「さぁ始めるぞ」
ノートの声を聞き、皆は構える。




