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No.466 蜂の巣


「お疲れ様です。上手く行ったようでなによりです」

 

 複雑な内心を切り替えて指揮官と交渉官としてのスイッチを入れたノートは、笑顔でお頭を出迎える。

 

「まさか、あの狂犬を手なづけちまうとはな…………こればっかりはマジで予想できなかったぜ。アイツだけはアンタにも制御できねぇ、って思ってたんだがなぁ」


「わざわざトップが出向かなくとも良いのに」


「アンタと話させると誰が丸め込まれるかわかったもんじゃねぇからな」  

 

「特別待遇だと思っておきますね」


 頭をぼりぼりと掻くお頭。ノートを見る目に宿るは悔しさと驚嘆、賞賛。

 お頭はGingerがアサイラムに高い確率で噛みつくと分かっていて敢えてアサイラムの情報をGingerに共有した。アサイラムが再度ログインしそうな時間も含めてだ。それは同席する形で紹介するにはあまりにもGingerは面倒な存在と言う表に出せない理由もあるし、ちょっとしたアサイラムへの意趣返しの意味もあった。訳の分からない理論で一方的に殴られたことへのほんの少しの仕返しだ。


 が、それすらも逆効果に終わってしまった。


 何かリアル方面で脅されたのか―――――なんでもかんでもSNSで公言するような心臓が剛毛に覆われていそうなGingerにそもそも脅迫などしても通じるかと言う初歩的な疑念はあったが――――――お頭達もゲームとかは関係なしに大丈夫なのかとGingerを心配し問いかけたのだが、Gingerは「リアルの事もゲームの事もぺらぺらしゃべるなと注意された」と言うのみ。いやそんなバカな。とお頭たちは思ったが、それが事実なのだから仕方がない。

 後はアサイラムとPvPが出来るようになったことくらいか。その条件としてアサイラムのリアルや能力について一切言及しないという条件を付けられたが、この条件に関しては約束通りGingerは口にしていない。

 隠し事らしい隠し事はそれだけ。けれどお頭達からすると驚くべき事象だ。首輪つけても首輪を食いちぎってしまうような狂犬が急に、しかもたった一日で大人しくなっている。暴走をしなくっている。

 その実態は暴走できないほどアサイラムのメンツに揉まれているおかげで心の飢えを満たせているからだ。特にユリンとの戦闘が楽しいらしく連日戦闘をし続けている。刀もゴヴニュに超特急でGingerでも使える物を仕上げてもらい、決闘システムを使って装備が砕け散らないようにしての戦闘ではあるが、それでも楽しいようだった。たったそれだけの事がGingerの暴走を止めているとはお頭達には予想できなかった。   


 頭ごなしに叱りつけたところでGingerは言う事を聞くような性質(タチ)ではない。獣と言うのは格下と見ているモノにあれこれ言われても「そんなんシラネ」と無視するのだ。

 故にまず上下関係を叩き込み、嫌でもこちらの指示を聞くように躾ける。その上で指示に見合った利を見せて説き伏せて、その心の飢えを鎮めれば、Gingerの無軌道さは抑える事が出来る。ノートはそれを良く理解していた。

 ノートの指示に一から十まで従う必要はない。Gingerも従わないだろう。けれどGingerがアサイラムの関与により暴走しなくなった。この事実が何よりも重要なのだ。

 実際問題、それによりDDの多くがアサイラムの指揮能力を評価し、お頭が頭を抱えている。

 

「結果を良しとするべきなんだろうな。アイツがこっちの想定外の動きをしない分だけこっちも作戦通りの動きができたわけだしな。前はこういうことすると勝手についてきて何度滅茶苦茶にしたことか……」


「その苦労、お察しします。まあ今回の成功をとりあえず喜びましょうよ」


「ああ。まぁそっちから借りてる兵力も考えれば「そうでゴザルよ!統領の作戦通りでゴザル!」」  


 お頭とノートの間に割り込む様に、我慢の限界を超えたようにFUUUMAが大興奮の様子で割り込んできた。周りのDDの面々の表情も非常に明るい。  


「あの手の都市にDDを威圧できるだけの兵力を常駐させれば、当然それ相応の負担が都市にかかる。転移門があって開通しているなら別だが、DDに隠れて大規模戦闘をするのは不可能。転移門は開通していない確率が高い。なら、兵力を満たす為の食料は外から持ち込むしかない。案の定、焦って物資を外から持ち込もうとした」

「そこを少数精鋭で襲撃、捕縛か。えげつねぇなアンタはやっぱり」

「指揮官にとっては誉め言葉ですね」

 

 お頭、FUUUMA、並びにDDの戦力の一部はアサイラムから装備などの支援を受け、密かに要塞を出て北西勢力に襲撃を仕掛けていた。厳密には、北西勢力をサポートしようと物資を積んで動いていた補給部隊を。

 実際の軍事行動と違い、作戦帯の行動ではどうしても素人の域をでない。補給路のルートを予想する事はノートとヌコォにとって難しいことではなかった。


「シャーク殿、フェニー殿も大活躍だったでゴザル!特にフェニー殿は「うるせぇ!ゴザル野郎!」」 

「あはははは、まあそれだけうまくいったってことでしょう」 


 今回の襲撃にはアサイラムによる強化を施されたDDだけでなく、ツナ、エロマ、一部死霊も援軍として参加していた。ノートがアメリカのスレに目を通せば、とあるスレが急激に伸びていた。まさに阿鼻叫喚と言ったところか。

 サメの雨。炎のドレス。

 DDに今まで確認されていなかった特級戦力の出現。補給部隊は反抗するどころか、殲滅された挙句に馬車で運んでいた物資をDD側に丸々鹵獲されていた。


 以上の作戦成功を以てして、ノートとお頭の合同指令によりDDの面々は多くのスレに無秩序に勝利宣言の書き込みを行う。それにより最近静かになっていたDDが再起したのではとアメリカサーバー全体が一気にざわめく。同時に、DDがアサイラムと手を組んだという確証の取れない噂がその再起と強く結びついてしまった。

 今のアメリカサーバーは正に蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


 ノートが目を向ければ、ツナもジェスチャーでノートに必死で何かを伝えようとしてた。エロマが首根っこを掴んでいなかったら我慢できずにFUUUMAの前に更に割り込んでいた事だろう。 

 作戦は完璧に上手くいったと見て良さそうだった。


「と言っても、安心はできません。今後は物量戦で補給を強引に通してくるでしょう。完全に妨害する事は難しい。やり過ぎると相手の味方も増えてしまう。つまりこれからは我々もスピードが重要視される状態に突入しました。民意は北西にある。これはPKの宿命とも言えるでしょう。この民意が完全に一つになる前に、北西勢力に手を貸そうとする声が本格化する前にケリをつけます」 


 PKによる抗争と現実との戦争は多くの点で異なるが、作戦立案上致命的に異なるのは3点。

 1つ、戦闘員を殺しても直ぐに復活する事。

 2つ、個々人の戦闘能力に大きな差が存在していて平均化が不可能に近い事。

 3つ、条約などが結び難く、結んだとしても其々の代表も部下に全ての命令を守らせる力がない事。

 


 特にこの1つ目が問題だ。

 抗争はリアルの国家間の戦争とは違う。ゲームによってはGvGシステムを設けて私闘を禁じるケースもあるが、ALLFOの場合ではあくまで「決闘システム」という選択肢が取れるようになっているだけで強制力はない。

 実際、アサイラムが決闘にてたった10人にも満たない人数で15万人相手に勝利できたのは決闘システムで明確な勝敗条件が先に定義されており、同時にプレイヤーがリスポンし続けなかったからだ。時間も無制限でどちらかが降参するまでプレイヤーがリスポンし続ける戦闘だったならば負けていたのはノート達だろう。それが数の暴力だ。いくらユリン達が超人でもスタミナ限界と言うゲーム的な限界もあれば、ログイン時間限界という世界の絶対的な制限もある。強制ログアウトをくらったらノート達といえどどうしようもない。


 そんな泥沼の抗争を避ける為にGMコールが存在し、本来であれば対人戦闘によるトラブルに関しては抗争レベルで拗れた場合、サポートAIが降臨して仲裁を行う事が多い。お互いの言い分を聞き、何らかの条件をお互いに提示させて停戦を命じる。それ以上このまま組織単位で戦闘を続行するようであれば大きなペナルティを設けると釘を刺してだ。


 が、何故か今回の戦闘に関しては運営が、サポートAIが介入してこない。

 この介入は本来はパーティー単位、大きくてもクラン単位の抗争で、万人単位の同盟規模の抗争になるとそう簡単に首を突っ込んでこないのではないか。北西勢力もDD側もそう推測していた。

 北西勢力の上層も全てが正義にお熱なわけではない。自分たちがルールスレスレの事をしている自覚がある。その為に一応GMコールで確認を取っているが、それでもまだサポートAIが動く様子がないために長きにわたる抗争を続けているのだ。

  



 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれそういえばDDサイドの推定悪魔くん達は常に要塞にいる訳では無いのか ?教会に属していない街が悪魔サイドの手に落ちたら反教会=天使?への対抗手段になるってこと?
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 転移門の奪取も目的なのかな〜 次の動きはなんだろう
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