No.462 さんっはいっ
あけおめ
ことよろ
彼女はALLFOの中でも最も有名なプレイヤーの1人だ。
まず第一にリアルネームをそのままゲームに使う強心臓を超えた豪胆さ。
初期限定特典持ちだとリアルでも周囲に喧伝している本当に数少ないプレイヤーの1人。
DDという世界トップクラスのPK団体で活動している事もまるで周囲に隠さない。
そしてそれら一切をSNSでも堂々と言うストロングスタイルで、絡んできたアンチ共もSNS上で真正面から受けて立ち公開処刑する様はある種の人気がある。人間的に出来てる人物とは口が裂けても言えないが、度胸が突き抜け過ぎて一周回って非常にサッパリした人物に見えるのだ。
だが、彼女を語る上で1番有名なのは『VRチャンバラ世界ランキング5位』という肩書きだろう。
5位、と聞くと人によっては微妙に感じるかもしれないが、ここに『VR世界ランキングの決定方法』と『彼女はまだ19才で世界大会にデビューして1年と少ししか経過していない』という情報が加わるとその肩書きが如何に恐ろしいかわかる。
ランキングの決め方は複雑であるが、基本的に昨年度の勝率と今までの累計獲得賞金、倒した選手との順位差でポイントが割り当てられ、それらの評価点の合計値の高さでランキングが算出されるという理解であればいい。
このランキングの都合上、ランキングは余り派手に入れ替わることはない。特に上のランキングは獲得賞金の積み上げが多くなるのでなかなか変わらない。獲得賞金は世界ランキングに参加してからのカウントなので先に参加している年上の選手達にはすぐに追いつけない。それこそ、18才になって参加資格を得た途端に数々の大きな大会で優勝して莫大な優勝賞金を獲得しない限り。
つまりそういう事だ。
どんな選手でも世界デビューして数年は50位以内にも入るのが困難と言われるランキングで、たった1年の活動でGingerは5位に食い込んだ。
下馬評の戦闘能力はもはや世界トップレベル。今年開催のVRオリンピックの金メダル獲得候補筆頭だ。世界大会出場前、アメリカの大会でもプロを次々と斬り捨てており、あまりの強さと容赦の無さに試合終了後に泣き崩れてしまった選手が一大会では1人以上は出てしまうという伝説を作ってしまったほどである。
その強さはALLFOでも劣化する事はなかった。
初期限定特典を手にした事で余計に手がつけられない強さになっていた。
そしてその力を一切手加減せずに使い、単騎でパーティーやクランを潰して回り、トッププレイヤー達やバウンティハンターに襲われても嬉しそうに応戦し、遂にはあまりにも狂犬過ぎて誰か引き取って縄に縛っておけという話になり、紆余曲折あってDDが初期特持ち仲間として引き取った。
その実力は間違いなくDD最強。しかし戦闘力では頼りにならない生産担当者達からも叱られているように、DD内でのGingerの評価は最強のアタッカーであると同時に『1番手の掛かるクソガキ』だった。
「さっきのヤツ、ものごっつ強かったのぉ!初めて完全な技量で負けるかもしれん思ったわ!というかウチの刀とぶつけてなんであの薙刀折れんかったんじゃ?」
「このおバカ!」
「なんで折れなかったんだ?じゃない!協力者の武器ぶっ壊す奴がいるか!」
「お前の組手相手にさせられて武器壊されるせいで戦闘組武器持つのトラウマになってきちゃってんだぞ!」
「作り直してる俺達の身になれ!」
「テメェ弁償できねぇのに何やってんだ!」
「そもそも不意打ちで切りかかんなや!昨日の時点でアサイラムのことメッセージで共有してたやろがい!」
「あっ、その顔!コイツ完璧にわかってやったな!しかも止められるお頭達がいないような絶妙な時間を狙って!」
「ほらごめんなさいして!さんっはいっ!」
じんじゃー、えー、あーむすとろんぐ、19さいじ。
そうタイトルをつけたくなる生産担当者達のお叱りである。19才に対する注意の仕方ではない。それに対して拗ねたように目を逸らしているGingerの態度も含めてだ。
DDで1番強いとされているのにDDの中でも幹部扱いと言い難いのにはちゃんと理由がある。
まず1番はその狂犬さ。お頭の指示を無視して単騎突撃したりするのなんて当たり前。飽きたら戦闘中でも帰るなんて事すらやる。誰にも何も言わずにフラリと失踪しては武者修行と評して高難度な敵に挑んで狩ったり死んだりしてるせいでランクが1人だけ完全に飛び抜けている。
続いてそのログイン時間の不安定さ。今日みたいにまだ朝みたいな時間に急にきたり、かと思ったら昼に来たり深夜にフラリと出没したり。一つの戦力として数えるにはちょっと不安定な部分が多過ぎるのだ。
いくら強くても不確定要素が多い兵器というのは、ロマンの塊ではあるのだが実際に運用する側からしてみると使いづらい事この上ない。全く使えないならまだしも、なまじ投入すれば確実に大きな戦果を挙げられる兵器なだけに咄嗟の時に「もしあの兵器が有れば」というくだらない考えが過ってしまうのだ。指揮官にとって可能性に縋るのは最後に取るべき悪手だ。結果としてGingerはDDの中でも幹部であり同時に食客に近いポジションのままだった。
「今回の事は水に流しましょう。お互いに大きな被害が無かった事を良しとしましょう。斧の分は、貴方達から提供してもらった情報を対価としましょう」
あまりにも反省した様子がないので生産担当者達から真面目に叱られ続けるGinger。ノートは頃合いを見て生産担当者達を宥める。
「そうじゃそうじゃ。みみっちいことを一々いうんでにゃー、ぞ……」
ノートが味方をしてくれると見てか、ノートの仲裁で生産担当者達が黙った隙にGingerは文句を言う。
が、その言葉は直ぐに尻すぼみになる。
「別に俺は、親切にしてくれた生産担当者達にこれ以上悪者になってほしくないからいさめただけで、アンタのやった事自体を全て許した覚えはないんだがな。アンタは強いが、この距離で銃弾を避けられるかどうか試してみようか?世界最強候補さんよ」
Gingerの綺麗なおでこにノートの拳銃が当てられる。Gingerの後ろでもGingerの後頭部に向けていつの間にか近づいていたカるタが拳銃を向けている。
0距離。ノートとカるタが指を動かすよりも速く動けば或いは。
表面上の動きこそ出ていないがGingerの筋肉が次の動きを取る為にほんの微かに動く。それを見抜いたようにGingerの首にトン2の薙刀の刃先が添えられた。これ以上動くなと言わんばかりに。
表面上は荒々しいが、ノートは特に怒っていない。むしろPKerとしてはGingerの態度は好ましい。一々挨拶してから同条件にてよーいドンで戦いたいなら決闘なり別システムの対人ゲーでもやっていればいい。
PKは違う。卑怯上等だ。戦いたいと思ったら斬りかかってくるのは正しい。それでこそ鼻つまみ者扱いされるPKプレイヤーの正しい姿だ。
しかし、状況は利用できる。相手が勝手に負債を作ってくれたのだから利用するに限る。喧嘩は高値で買い取ってそれ以上の利益を出す為に利用するのだ。
「おそぎゃーのーウチの連中と違って躊躇いが感じられん。こんな可愛い女の頭を撃ち抜くというか」
「綺麗な物ほど壊してみたいでしょ?」
「頭に銃を突きつけられて口説かれたのは始めてじゃな」
Gingerに殊更怯えた様子はない。されど平静を保っているという事でもない。
緊張、興奮、幽かな畏怖。その中で一番強そうな薙刀の持ち主。トン2を顔を動かさずに目だけ見る。
「ところでそこの女。もしか」
Gingerは言葉を言い切ることなく死んだ。弾丸が放たれ、込められた爆発魔法が発動し、ノート達はたたらを踏み、生産担当者達は衝撃波で吹っ飛んだ。ノートの銃は損傷し、手が焼け焦げていた。
「え、あ………」
「Gingerさん、リス地は本丸ですか?」
「そう、ですけど」
銃を撃ったのはノートだ。
Gingerが何を言おうとしているか予測して一切の迷いなく撃った。
勿論それがノートの予想通りではないかもしれない。全く違うかもしれない。しかし今、完全に男装しているトン2をGingerは「女」と言った。それだけでノートからすると問題だった。
実際に刃を交えた時の感覚と動きでGingerは相手の性別を直感していた。そしてその正体にも。そうノートは考えた。一部の突出した才能の持ち主は、時として常人には理解できない感覚を有していることをノートはよく知っている。
だが、生産担当者達からすれば温厚に見えたノートがいきなり銃を撃ったものだから完全に動揺していた。今までの好青年さは消え、世界最強の一団を率いる冷徹な指揮官の顔が出ていた。
ノートは生産担当者達に一応謝罪すると、そのまま昨日訪れた本丸に赴いた。
三箇日は更にブーストゲリラ




