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No.453ex 合理的に不合理



「どう思う?というより本当にアサイラムなのか?」


「拙者は本物であると考えているでゴザルよ!過去の事件に対する応答もハッキリしていたように見えるでゴザル!」


「テメェ、ゴザル野郎。オメェはのんきに考えてるがよ、アサイラムはアイツらが襲撃を開始する“2時間前に日本サーバーの最前線で目撃”されたんだぜ?こいつはどう説明つけんだ。結局そこに関しては奴ら口を割る気はないみたいだしよ。怪しすぎて俺は信用できねーなっ」


「…………」


 ひとまず考える時間を与える。お互いの事情について話した後、アサイラム統領はそう宣言するとDDの本丸から一時退場した。

 残されるはDD幹部4人。車座で座るお頭達の目の前には1枚の紙、それと彼らが宿代代わりとして置いていった銃と弾丸の箱が置かれていた。銃は明らかに世界でもトップレベルの技術を詰め込まれた物で、弾丸に関しても怪しげな刻印が施されている。友好の証として渡したと言えば聞こえはいいが、ある意味技術力の誇示による威嚇とも取れる物だ。


 DD幹部衆が頭を悩ませるのはやはりアサイラムと言う組織の怪しさ。相変わらずリーダー以外の発言は一切なく、全員仮面を付けてるので顔も不明。顔を完全に晒しているNEPT辺りからするとそこも卑怯者らしくて気にくわない。

 また、その助力の代わりに要求されたものにも少々問題があった。


 実力は明らかにアサイラムとして遜色ないモノ。

 ただ、NEPTが言うようにアサイラムは襲撃開始2時間前に日本サーバーの最前線で目撃されており、瞬く間に拡散。少なくない騒ぎになっていた。その情報は掲示板ウォッチをしていたDD側も把握しており、どんな手を使ってもやはり日本サーバーの最前線で目撃されたアサイラムがアメリカの奥地に現れるというのは移動スピードがあまりにも早すぎた。

 果たして自分たちの目の前に現れた人物たちがアサイラムなのか。それとも偽物なのか。無論先ほど交渉した人物たちは自分たちが本物だと説明していたが、その癖日本側で現れたアサイラムに関しては一切言及らしい言及をしなかったのだ。

 代わりにアサイラムが提出したのは一枚の紙。魔術的なエフェクトが発生しており、仄かに光る紙には堅い文章が記載されている。


「契約書……クラン『亜祭羅武連合』。これが彼らの正式名称………たぶん、本当…………名前に効力がある………………」  

  

「なんでテメェにそんな事が分かんだよ?」


「……鑑定した」

 

 それは『契約書』だった。ゲームの中で契約もクソも、と思うかもしれないが、これは魔法的な能力が込められており参謀のCethlennも鑑定を行いその効力については認めていた。

 だが、問題は契約書を出してきた事より、このような契約システムがあり、それをアサイラム側が運用できるという事実だ。そのアドバンテージは非常に大きく、余計にアサイラムと手を結びたくなる。


「しっかし面白い物でゴザルな!一体どうやって作ったのか拙者気になるでゴザル!」


「…………わからない。鑑定で読み取れる情報………絞られている。変に手を出すと、たぶん、呪われる………」 

 

「はぁ?」


 Cethlennの呟きにいよいよ片目を吊り上げ意味が理解できないと言わんばかりに睨むNEPT。Cethlennは紙にしては妙に厚い契約書を裏返すと適当な非殺傷タイプの魔法を当ててみる。すると魔法が発動するよりも早く契約書からバチバチと稲妻の様なエフェクトが弾けて魔法陣が砕かれる。同時に契約書が発光し、一瞬だけのその真っ白なはずの裏面にビッシリと刻印の様な物が浮き上がる。


 ほらね?と言わんばかりに肩をすくめるCethlenn。それを見てNEPTは舌打ちしながら目を逸らす。

 Cethlennは声はデフォルトで極小になっているしか細くて余計に聞き取りにくいが、それは気が弱いというわけではない。アメリカという満場一致で世界トップのサーバーに於いて1位に君臨するPKサーバーの参謀を務めているのだ。度胸もある。NEPT程度の悪態ではまるで動じない。


「乗っていいと思う………この取引」


「本当にアイツらと手を結んでいいのか?説明を受けてもやはり納得できないとこがあるぞ」


「あの人は、たぶん、こちらと同じスケールでものごとを、かんがえてない…………。合理的に、不合理な事をしてくる人…………同じリングで戦う事は難しい………………」


「Cethlenn殿の言うことは時々難解でゴザルな」

「Cethlenn。俺もお前の言ってることがわからん」


 Cethlennの言葉を理解できずお頭とFUUUMAは首をひねる。NEPTは何も言わないが、その不機嫌そうな顔つきからNEPTも2人よりかは察している部分はあるがイマイチCethlennの言う事を理解しかねている事は確かだった。


「物事の指針を決定する上で、最善手……つまり手間と利益が最も釣り合う合理的な手を打つことはできる。けど彼の場合は『利益』がただ『勝利』することにない…………周囲とは違う価値観を持って動いている…………。だから、実際こちらも混乱している……………。敢えて………不合理に見える手を取って周囲を混乱させて隙を作っている。その混乱によって作り出した隙を利用して不合理を自分の最高効率に変えてくる…………そんな人に見える…………」 

  

「つまり、なんだ?」


「とても、厄介なタイプ。言葉を………そのまま受け取らない方がいい…………。けど、話している全てが嘘ではない。というより、あのタイプは基本的に嘘はつかない、と思う…………。ただ、相手が勘違いするような罠をいくつも仕掛けてくるだけで…………。アサイラムはその力より、あの統領の考え方に警戒した方がいい。あの人は、初期特とか特別な力を持たせなくても、相当危険…………」


「おうボソボソ野郎。今日はよくしゃべんな?」


「NEPT、茶々を入れるな。それだけこちらとしても考える事が多い案件って事だ。改めて確認するが、NEPTは反対なのか?」


「今の状態で決めろってのか?チッ、めんどくせーが奴らの力は利用するべきだ。断ったら遠回しにクソみてなー嫌がらせしてくるタイプだぞアイツ。俺らの事を潰れるのが見過ごせねーなんて言ってる時点で視点がおかしいヤツって事なんざ分かり切ってんだろ。俺らをカンペキに格下だと思ってやがる。そいつが格下に自分の“善意”を無視されたら何するか、俺には考えたくもねーな。けっ、つくづくめんどくせー奴だ」


 態度こそ悪いが、NEPTは人の事を良く見ており、勘が鋭いタイプだ。そんなNEPTの勘がけたたましい音でアサイラムのトップに対して警鐘を鳴らしていた。奇しくもこの4人の中でアサイラムの統領の思考回路を最も正しく理解していた。

 元より愉快犯。自分の差し出した手を跳ねのけて潰れるなら自分たちでトドメを刺してしまおう。そんな気配をNEPTは感じ取っていた。


 何より癪なのは、1万人のフルメンバーが居なかったとはいえ、たった8人の手勢に負けた事だろう。しかも実際に戦闘でフルで戦っていた、目撃されていたメンバーは更にその半分。ほぼ半分以上が恐らく統領の攻撃で、統領側にはまだ余裕がありそうな空気があった。北西勢力との抗争で万全とは言い難いとはいえ、これだけの人数で世界トップと言っても過言ではないPK団体を真正面から粉砕したのだ。この事実は覆せない。

 その上、アサイラムはDD側に致命的な損害が出ないように手加減していた疑惑すらある。東南東の砲台などが吹き飛ばされたとはいえ、それ以上に壁に直接ダメージを与えてくる事もなかったし、死霊達を壁に突撃させずに止めて威嚇に使っていた。  


 この後協定を結ぼうとしようとしている相手の本拠地をぶっ壊したら手を貸す意味がない、と言えばそれまでだが、普通は人数が多くて余裕のある方が考えるべきことで、8人と言う圧倒的に手数の少ない側が考える事ではない。

 相手の拠点の被害を最低限にした上で心をへし折る。北西勢力がやろうとしても全くできないことをものの一時間足らずでアサイラムは成し遂げたのだ。

 

「対価を求められたとしても………あの人たちを敵に回すのは………避けるべき。契約に関しては………もう少し詰める部分があるけど………………この契約書、一通り目を通してみたけどこちらにデメリットが“少なすぎる”…………」


「それは良い事でだと思うのでゴザルが」


「いや、怪しいだろうが。FUUMA。お前は元々アサイラムに好意的だからいいのかもしれねぇが、もっと深刻に考えろ。アイツらは下手すりゃ北西の連中なんておしめの取れてないベイビーを蹴飛ばすみたいに蹂躙しかねない化物共だぞ。アサイラムの強さはゲーム的なモノより、あの統領の頭にあるのかもしれねぇ。アレだけ話して自分たちの手の内に関してはほぼ喋ってねぇ。実情も不明で信頼するのも難しい癖に無視は厳禁な世界最強の傭兵共が乗り込んでくるって………あ゛ークソッ!考えがまとまらん!」


 その姿を現すたびに、大衆とは破格の強さを示してきたアサイラム。差は縮まるどころか広がっている様にしか見えず、その実態を把握しているのは内部の人間のみ。外の人間にはまるで把握できない。 

 そんな怪しげな団体と手を組まざるを得ない状況。

 お頭の眉間の皺はより一層深くなるのだった。

     




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] こうして考えることすらノートの掌の上なんだろうなー 内通者がいること含めて
[良い点] 更新感謝 [一言] 2時間前⁉︎ほんとに少し前じゃないですか!
2023/12/28 12:39 初めまして
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