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No.451 UUU


 『The Doom Division』が抱える問題。それはこの独立要塞より更に北西にある都市とそこに集まっているプレイヤーの集団とのトラブルだ。

 DDは元よりPK集団として活動しており、プレイヤーを選ばず襲撃をする迷惑な連中として扱われていた。だが、転移門が開通したことによりPKが難しくなったことで、DDのみならず多くのPK団体がPK団体同士で争うか転移門が使えず歩いて探検するしかない最前線エリアでの活動を余儀なくされた。

 転移門の開通は多くのプレイヤーにとって利便性を与えると同時に、地味にPK団体に少なくない影響を与えていたのだ。

 結果としてPK団体は余計に定住が難しくなり、最前線寄りに居る事を求められた結果、PKは「なんとなく適当にやる」程度ではほとんど活躍できずに沈んでいくので自然と気合の入った奴か、頭が“湧いてる”タイプだけが残るようになった。

 

 と言っても、シナリオが進むたびに住んでいる場所を移動するのはなかなか大変な事で、DDは第4章エリアボスが倒された事を期に一度中心となる基地を完全に建設してしまう事に決めた。DDが多くの人数を擁しながらPKらしからぬ安定策を取ったのは、このPKに対するALLFO側の締め付けだけなく、ここ暫くDD側が上手く大きな成果をあげられていない事も有った。

 第4章のシナリオボス戦中のキャンプ地でも、DD側はDDから周囲に襲撃を仕掛けるどころかDDにかつて辛酸をなめさせられた連中から逆襲撃を受ける始末。人数が多いだけあって物資の管理も厳しく、PKを繰り返せば普通の街のNPCとのやり取りでもペナルティを受ける。物資は余計に苦しくなる。こうなれば自分たちで生産活動が出来る拠点を作るしかなかった。


 そして第5章シナリオボスへの正規ルートが北東にあると推定された中、彼らはそれとは袂を分かつように北西へ進んだ。進んで進んで、拠点を築く為の物資を調達し、最適な土地を発見した。そうして皆で協力し合い、初期特の力こそあったが要塞の建築にこぎつけた。周囲を調査してみると、近くにはダンジョンも発見された。なかなか悪くない土地。さて、これでひとまず落ち着ける。そう思った矢先だった。


 完成して間もない要塞が襲撃された。襲撃者は攻略勢のNo.2くらいの団体。DD憎しで第4章シナリオボスでも襲撃を仕掛けてきた連中だった。アンチDD勢力は余程DDを潰したくして仕方ないのか、どうやってかDDが逃げた先を突き止めて襲撃。それ自体は追い返すことには成功したが、アンチDD勢力は更に北西に進みそこで非教会所属の都市を発見。そこに定住しアンチDD前線基地の橋頭堡とした。

 そうしてここ一カ月以上DDと反DD勢力は睨み合いを続けている毎日。PK勢力としても気味が悪いほど粘着されているので正直辟易しているのが上層としての気持ちで、なんとか追い返そうとしているものの反DD勢力に非常に頭のキレる軍師が加わったのか上手い事反撃作戦にカウンターを取られ続けておりPK勢力がPKにあい続けている奇妙な状況になっていた。


 ここまで粘着されれば普通は運営が介入してくるラインに入ってくるのだが、DDは元々多くのPK行為を繰り返しており1万以上のメンバーを擁する団体。更にはPKしている側も元はDDに何かしらの被害を受けた連中。色々な条件を加味して「まだ運営が首を突っ込むラインではない」という裁定が下された。

 個人単位のトラブルだと介入ラインがもう少し下がるかもしれないが、これは万単位のプレイヤーの競り合い。ここに簡単に介入できない、いや、させてもらえずにいるのが現状の運営だった。

 「手を出すな」と“上”から厳命されたのだ。

 そんな事情を知らないDD側からすれば、流石に過剰な報復ではないかと訴えても無視され、逆粘着をされて面倒な状況が続いている苦しい状態。どうにか反抗勢力を完全に潰す力を蓄えなくては、と頭を悩ませている最中だった。


「ですので、私達が首を突っ込んだら面白いかな、と。運営は粘着を許している。なら反撃をされても運営は首を突っ込めない。事の証人は大量にいる。私達に大義名分はある。そう思えません?」


 ノートは運営の事情については知らない。

 だが、DDの動向に関しては外部サイトやスレの内容などを漁ってかなり詳しく把握していた。アメリカサーバーでは妙に連日DDの情報が流布されており、掲示板の情報戦に慣れた連中なら本気で漁ればかなり精度の高い情報を集められる状況になっているのだ。

 そうして色々な事を考えた結果、ノートはDDとのアンチDDの争いに首を突っ込んで引っ掻き回すことを決めた。このままDDの様な組織が潰れるには勿体ないと感じたのだ。無論、それ以外にも理由は幾つもあるが、面白そうという理由がかなりを占めている時点で傍迷惑な愉快犯である本質からは逸れていなかった。


「アンタって奴は………あ゛ーー……」


「お前頭に愉快な虫が湧いてるのか?」


「ちょっとNEPT殿!口が悪いでゴザルぞ!すまないな統領殿!NEPT殿は野良猫の様な御仁でな!所謂ツンデレってやつでゴザル!」


「ゴザル!テメェまたソレ言ったらマジでぶっ飛ばぞ!!」     


「…………ふふっ」

  

 そんな説明を聞いたお頭は思わず腕組みをしながら天を仰ぎ、三叉槍の男『NEPT(ネプト)』は素で引きながら狂人を見る様な目でノートを見て、忍者男『FUUUMA(フーマ)』はそんなNEPTを嗜め、鍋を背負っているプレイヤー、小さな声で『Cethlenn(ケスリン)』と名乗ったプレイヤーは笑っているのか体を小さく震わせていた。


「いえ、NEPTさんの反応が普通でしょう。火中の栗に自分から手を突っ込む奴は歴史的にも見てもろくでもないヤツばかりだ。まぁ、その禄でもないのが私達…………いえ、私ですので」


 私達、と言ったところで後ろに座っていたスピリタス達から小突かれてノートは訂正した。それもそのはず。椅子に座ってダイスを振っていたと思ったら「アメリカに行きます!」といきなり宣言したのはノートで、スピリタス達は馬車の中で予定を聞かされたレベルである。止める暇もなかった。お前みたいに頭のおかしなヤツと一緒にするな、とアピールするのは真っ当な権利だった。


「戦力と物資、欲しいんですよね?」


「…………それは、そうだが」


 世界屈指のキ●ガイだが、アサイラムが戦力も物資でも世界トップクラスなのは事実。戦力は動画でも散々周知されており、物資に関しても毎度毎度大量にばら撒いて日本サーバーの技術力を変な方向に進める事に大きく貢献している始末である。余程物資に余裕が無ければ万単位のプレイヤーを毎度喜ばせるほど物資のばら撒きなどできるはずもなく、それだけアサイラムは物資方面でもイカれたパワーを持っている事が分かる。

 少し大げさかもしれないが、DDと反DDの争いはもはや戦争状態に近い。ただ、面倒なのは戦争に関わっている者達が実質不死身であり完全に殺しきるには引退に追い込むしか戦場から排除する方法がない事。そしてこの世界の戦争でもやはり戦況を左右しうるのは戦力と物資。その両方を持ち合わせたアサイラムの助力を得られるのだとしたら、DDとしては喉から手が出るほど欲しい。


「何が目的だ?」


「遊びたいだけですよ?PKするのに大義名分とか要ります?」


「ながらくその姿を隠しておいて、これだけの為に情報秘匿の優位性を自分から捨てるというのか?今まで亀の様に引きこもってた癖に?」


「ええ、そうです。効率ばかり追いかけていてもゲームなんて面白くないでしょう?お利口なだけならそもそもPKなんてしませんよ。情報の秘匿性に関してもいつ明かすか、遅いか早いかの話です。バレるくらいならバラした方がいい。オンラインゲームでいつまでも引きこもってるのもバカらしいでしょう?」


 が、タダより高い物はない。

 世界最高の戦力と物資を持っていると推測されるアサイラムの力を借りたいのはやまやまだが、アサイラムは慈善団体ではない。むしろその真逆。自分たちの快楽の為なら大衆に多大な迷惑をかける事も辞さない連中。力を得るにはそれ相応の代償が必要なのは当然だ。

 

 果たしてこの申し出を受けるべきなのか。

 北西勢力も北西勢力で面倒だが、アサイラムもアサイラムで何を考えているのかイマイチわからない。北西勢力の方が目的も戦力もはっきりしているだけマシに見えてきてしまう。お頭の目の前にいるのは北西勢力なんて比較にならないほど少ない8人の勢力なのにも関わらず、この8人がお頭には非常に恐ろしい物に見える。

 悩むお頭にCethlennが何か耳打ちする。DDの頭脳はやはりお頭とこのCethlennらしい。特にCethlennは参謀ポジらしく、逆にFUUUMAとNEPTはノート達の申し出について何も言わない。言わないが、FUUUMAは相変わらず興味深そうに、特にエロマの事を見ており、NEPTは特定のジロジロと見るでもなくアサイラム全体を睨んでいる。


「………力は借りたい。だが、やはり其方の目的が見えない。其方にメリットが薄すぎる。こちらの内情は先に明かそう。代わりに其方の正しい戦力状況を話せとは言わない。ただ、目的をハッキリさせてほしい。そうしないと話の方向性が定まらん」


「そうですね。それは其方の話す内容にもよります」


「そうか。ではまず、俺達の戦力に関してなんだが―――――――――」  


 眉間に皺寄せながら重々しい声でお頭はDDの内情を語り始めた。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] つまりこれあれか…… 久しぶりに運営に何も言われず大々的にプレイヤーの魂集めるチャンスだと思って介入したか?w また主任の毛根が大ダメージを受けてしまう……
[良い点] 更新感謝 [気になる点] ノートさん…まさかあれだけダイス運がないのに行き先を決めるのに自分でダイスを振ったのですか?…正気か? [一言] 面白しろくなってきたなー! それはそれとして巻…
2023/12/27 20:50 初めまして
[一言] みんな腐れ外道の手のうえかな?
2023/12/27 17:12 サカサカナ
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