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No.447ex 上玉


「おいおいマジか」

「どうなってんだ?」

「お頭のボラなんじゃねぇの?」


 北西防備に詰めていた一団は音声通話でお頭が叫んだ予測を聞き騒めいていた。

 お頭は防壁から吹っ飛びはしたが強靭な生命力のお陰で一命をとりとめており、今も再び防壁に登り戦況を見ている。


「このままお頭闘う気か?」

「知らね」

「おい、ゴザル野郎負けたってよ」

「はっ!?いよいよヤベェじゃん」


 今現在この基地にレイドを仕掛けているのがお頭の予測通りだとしたら。

 攻め込まれている事自体は――――どのみち攻め込まれてる時点で問題なのだが――――まだいい。彼らはそれを謗る権利を持たない。自分達が今までやってきた事を他人からされて文句を言うのはダサいのは分かっている。だが、ここ最近戦闘が続いている北西の連中は此方に敵対しているにせよ攻め込んでくる名目も目的もある程度分かっている。目的と意義、つまりゴール地点が見えているのなら引き際も考える事ができる。

 しかし今攻め込んでいる勢力は何を目的にしているのかがまるで分からない。こちらを攻める意義が見えない。なにせ、もしお頭の想像通りの連中だとしたら、その勢力と自分達は似通った立ち位置であり、本来手を結べる筈なのだ。

 意義も目的も見えない戦闘はゴール地点の見えないランニングをさせられている様なもの。現状士気が高いとは言えない状態でこのまま戦闘を続けるのか。

 普通ならここまで及び足にならない。この基地にいるのは対人上等の連中ばかりだ。だが、攻めて込んできたと予想される勢力に問題があった。

 

『Awoooooooo!!』


 獣の遠吠えが響く。

 透き通った音とは程遠い野太くザラついた遠吠えだ。それはこの基地に居る者だけに伝わる合図だ。


「徹底抗戦するつもりか?」

「おいおい————まあ確定した訳じゃねぇし行くか!」


 防壁の上を駆けていく男達の身体が遠吠えに合わせて大きくなり、毛深くなり、目は金色に輝き出す。手は巌の様になり鋭く堅い爪が伸びる。


 男達も遠吠えを上げながら防壁から飛び降りる。

 高さ30m。普通ならタダでは済まない。思わず股座からヒュッと寒気が登り背筋を抜ける。

 地面が近づく。スキル発動。衝撃を殺しながら着地。即座に駆け出す。


 5m級の化け物が一定間隔で立っているが今の所何故か進軍を止めている。

 特級戦力2名は既に敗北した。そんな情報が音声通話で聞こえる。


 状況はかつてなく最悪だが、どちらにせよこの化け物を殺す必要がある。戦士団はバフを発動しながら走る。

 そこで化け物達が動き、奥から何かが出てきた。2人だ。

 1人は無手、1人は薙刀を持っている。

 白い仮面に白いローブ。性別は定かではない。

 ただ、かかって来いと言わんばかりにバフを発動している。赤いエフェクトがゆらゆらと揺れている。


 罠か、それとも。

 戦士団は目配せをしてニヤリと笑う。売られた喧嘩は高値で買い叩く喧嘩富豪の連中ばかりだ。こんな挑発に乗らない訳がない。


 特殊なバフを向けた戦士団の平均身長は2.5mオーバー。耐久力は30mの高さから飛び降りても即座に走り出せるレベル。数にして30以上。

 一方で敵は依然として2名。特級戦力の様に明らかに通常のプレイヤーと乖離した様子は今の所ない。


「Grr」


 先頭のプレイヤーが鳴く。普通は獣の唸りにしか聞こえないが、同じく変質している仲間には意図が伝わる。

 敵はわざわざ草原を駆けてくる此方を銃で撃ったり魔法で牽制したりしていない。近接で迎え撃つという態度だ。


 接敵まで10m。そこで一部のメンバーが急加速する。攻撃を仕掛ける。

 体格差は圧倒的。パワーもスピードも確実に上。先頭の男が狙ったのは盾すら持たない無手のプレイヤー。振られた剣は低い軌道から剃り上げる様に首を狙う。


「——————ッ!?」


 が、次の瞬間襲いかかったプレイヤーが状況を正しく認識するまでに若干のラグがあった。

 襲いかかったはずの自分が背中から凄まじい衝撃を受けながら天地逆さまで吹っ飛んでいるのだ。


 少し遠くから見ていたプレイヤーなら何が起きたか分かっただろう。

 先頭の男が飛びかかって剣を振った所までは良かった。そこから無手の襲撃者が剣をローブで隠されていた籠手でパリィしながら男の腕を掴み引き寄せて、その背後から味方諸共包囲する様に飛びかかった男達に対する盾にして衝撃を受け流しながら掴んだ男を振り回して襲いかかってきた者達を吹っ飛ばし、盾兼鞭代わりにした男を勢いそのまま投げたのだ。


 そして陣形が崩れた事によってできた穴を突くように片割れのプレイヤーがおどろおどろしい空気を放つ薙刀を振り一撃で6人以上の首を切り裂く。

 更にサイドから切り込んで攻撃を狙う者もいるが、動きが読まれているかの様に攻撃を弾かれ、あるいは躱され完璧なカウンターを叩き込まれる。


「どうなって――――!?」


 特級戦力の1人みたいに速すぎて攻撃がブレて見えるわけではない。目で追える。ランク的に絶望的な差がある訳でもない。かと言ってイカサマの様な技能を使っている様子も無い。

 つまり、これは。

 たった2人で倍以上の身長を持つ連中を簡単に捌いてしまう、それこそ魔法の様な動きは。


「(純然たるリアルプレイヤースキル―――――!??)」


 ゲーム的に強いというより、単純に地力の戦闘能力が違う。

 無手の襲撃者はリーチの不利を一切感じさせない立ち回りで、薙刀の襲撃者は次々と武器を切り替えてリーチを読ませず男たちを翻弄し的確に致命傷を負わせてくる。体格こそ戦士団側が有利だが、逆にそれはお互いのリーチが被りやすいという事。その上敵の方が小さいのだから一斉に飛び掛かる事は難しい。それを上手く利用されており、逆に人数の多さが足を引っ張っている。

 無論、普通であれば数の暴力で倒せている。しかし2人の立ち回りの技術が卓越しており数を逆利用されている。まだ2対2を続けてスタミナ切れを狙った方が現実的だったかもしれない。そう思う頃には半数が戦闘不能に追い込まれていた。かと言って魔法を撃っても魔法すらパリィ、あるいは切断してくる。武器が特殊なのか、それとも特別な技能を使っているのか。対応力は今まで見てきたどのプレイヤーよりも遥かに高い。


「くッ」


 このまま負ける事だけは許されない。一番最初に投げ飛ばされた―――――彼我の実力差を察し観察に務めていた―――――男は判断し、死角を取るように動くと切り札である拳銃を構えて撃った。それは拳銃と言うにはあまりに大きくて巨大であり、人間サイズの時に使うのは無理なレベル。2.5mオーバーの身体と、剣ですら素手で破壊できる膂力を持ってようやく使える怪物拳銃を不意打ちで連続発砲する。


「Fuck!!」


 が、必殺の弾丸は無手の襲撃者には容易くパリィされ、武器を持つ方には幅広な短剣でパリィされる。それも他の男たちと戦闘をしながらだ。おまけにパリィ方向を調整したのが弾かれた弾丸が味方に当たる始末である。もはや人間業ではない。その理不尽さには驚き、恐れるよりも、怒りが湧いた。

 特殊な強化を施された戦闘部隊のメンバーは銃で何発も撃たれようが死なない強靭な肉体を有しているのだが、いつの間にか体に力が入らなくなって動きが鈍っていく。HPとMPが減っていき、スタミナが減り、空腹値がいつの間にか限界にまで下がっている。もともと特殊強化を施されるとスタミナと空腹値の減りにマイナス効果がかかるのだが、それにしても異常な減り方をしている。 


 気づけば、通常のプレイヤーであれば4倍以上の数でも余裕で食い破れる戦闘部隊は壊滅していた。     

 

「は、ハハハ!スゲェなアンタら!」

 

 そして怒りは圧倒的な強さの前に憧憬と尊敬に至り、唯一近づかずにいた先頭の男の中で興奮が沸き上がる。

 ここ最近の搦手ばかりの戦いではない、純粋な戦闘能力による圧倒。PKプレイヤーとして、挑まずにいられるか。


「『すまんお頭。チャレンジするぜ。最高の上玉だ』」


 実力差を観れば逃げるべきだ。お頭も途中で戦闘部隊に撤退を命じていた。死んでデスペナ食らうぐらいなら下がれ、と。

 だが、ここで逃げたら矜持が廃る。勝ちは好きだが、プライドの無い勝利ばかりでは芯が腐る。プライドの無い敗走は、今までの全てを無駄にしてしまう。

 先頭の男はお頭に謝罪し、拳銃をインベトリにしまうと双剣を構えた。近接の本気モードだ。特殊強化されている今なら本来相当の膂力がないと逆に弱くなる双剣の真価を完全に引き出せる。


 襲撃者の2人は仮面越しに顔を見合わせ、無言で片手のジェスチャーをしている。ジェスチャーというより手話か。かと思いきや明らかにじゃんけんをしていて――――今までは非人間的な強さだったのに急に人間臭い事をし始めたので緊張からの緩和で思わず笑いそうになったが―――――無手の襲撃者の方ががっくりと肩を落として少し下がり、武器持ちの方が嬉しそうにステップを踏んで男に少し近づくと薙刀を低く低く構えた。

 

 さあ戦おう。そう言わんばかりだ。   

 男はこのままでは無理だと本能で悟り、スキルと魔法を発動し虎の子のバフアイテムまで使うが、襲撃者は強化をただ見守っている。全力で来ることを望んでいるようだ。

 

「オラァ!!」


 男は其れを襲撃者の油断や驕りだとは思わない。体格差、身体能力で大きく勝っていてなお、目の前の怪物に対して圧倒出来るイメージが一切湧かない。

 微かな恐怖を踏みつぶすように、出来るだけ予備動作を殺して前触れもなく地面を蹴る。背後で土ぼこりが弾ける。

 観察している間に推察したが、単純なパワーなら片手でも競り合える。相手が双剣の一方を薙刀で防御したらもう片方で刺せばいい。目をこれ以上になく見開き相手の一挙手一投足を見逃さないようにする。

 薙刀が動く。何か独特の歩法なのか、男の理想と考える動きを超えるように、予備動作をまるで感じるまでもなく気づいた時には急に時が飛んだように薙刀が突き出される。それを咄嗟に双剣の片方で弾く。喉を確実に狙っていた殺意に溢れた一撃をなんとか退けた。しかし弾いた薙刀の手ごたえが直ぐに消える。

 襲撃者の手の中から薙刀が消え、いつの間にか銛の様な棘の付いた真っ赤な短槍を持っており、体を捩じるように双剣を回避しながら男の腕に手をかけて腕を中心に半回転し、手に持っていた銛を素早く男の頸椎に突き刺した。


「ンガッ!?」


 視界が大きく乱れる。重大なダメージを受けた証だ。それでもなんとか振り返り背後に肘鉄を当てようとするが、それを読んでいたのか首に刺した短槍に体重をかけていて首を動かした拍子に襲撃者もそのまま動いて強引に肘鉄を回避。その回転の勢いのまま背後から前に回り込み、更に手にしていた鉈を顔面、それも両目を狙って叩き込み、両目を潰すだけでなくそのまま脳にまで鉈を食い込ませる。

 斬るというより叩き切る、と言った感じか。戦闘部隊たちが尋常ではない自己回復能力を持っており、頭を切ったとしても一度くらいは治ってしまうのだが、その超回復を学習されたのか切れ味の悪い鉈を使って顔面に食い込ませ、敢えて完全に斬らない事で回復を防ぎ、そして槍と鉈に宿っていた呪いが発動し男は身動きが取れなくなる。

 声も出せず、立ち上がる事も出来ず、HPが削り切られて赤いポリゴン片と還る。

 不幸だったのは、戦闘部隊も不死身じみた耐久性を発揮していたが、この2人はここ最近それを遥かに超える不死身さを持つ仲間を相手に戦闘を行い、超回復持ちの対策方法を把握していた事だろう。

 脳に何かを食い込ませた状態を維持する事で、回復能力が暴走し死ぬという事を襲撃者達は知っていた。

 

 斯くして不死身と呼ばれた戦闘部隊はたった2名の化物コンビに壊滅させられた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 回復能力の暴走とか下手に暴走させると場合によってはひどいことになりそう
2023/12/27 12:44 サカサカナ
[良い点] (っ’ヮ’c)ワア 回復能力の暴走って字面見ると怖ぇっすね…
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] あえー三叉槍でてたっけか……読み直さなきゃ(使命感)
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