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No.445ex 非生物的で非効率で非生産的


「ボサッとしてんじゃねぇ!」


 狙撃部隊が絶望と唖然の最中で動けなくなっていると、空から大量の水と共に檄が降ってきた。

 辺りにツンとした塩の香りがまき散らされる。厳密には、潮か。潮の匂いは降ってきた水からしている。

 水場から離れたこの地で海の香りがする。そんな水に乗って三叉槍(トライデント)を装備した男が空から降ってきた。


「あんた!北西は!?」

「どう見てもこっちの方がヤベェだろうがッ!頭もヤベェってさ!」


 龍の様にうねる海水と共に空から現れた男はそのまま地面に着地。男を運んでいた海水が地面にブチまけられる。

 それを観て狙撃部隊は一瞬安心感を感じるが直ぐにそれどころではないと正気に戻る。その男は北西防備の要の1人。なのにこちらに来ている。それは不味いのではないかと言えば、頭の指示だと男は言う。

 つまり、北西防備を薄くしてもこちらを食い止めなければヤバいと頭は判断したのだ。


 男が勢いよく三叉槍を地面に突き刺すと、地面が大きく揺れて亀裂が入り突撃を仕掛けてきた化物共の地面が一気に隆起したり崩れたりしてまともに走れなくなる。


「オラァ!!」


 続けて地面から三叉槍を引き抜き頭の上で回転させれば槍の先端の先に海水が一気に生成され渦を巻いていく。


「吹っ飛べ!」


 そして男が槍を林に向けて降り下ろせば生成された海水が三叉槍の形を取り高速で飛翔。地面が砕けて足が止まった化物共に降り注ぐ。


「チッ!なんつうタフさだ!?どうなってやがる!」


 海水の槍が刺さり化物共から赤いポリゴン片が散る。軒並み5m以上の巨体だ。地震からの地面破壊で転倒しただけでも骨折なりダメージを受ければ御の字だったが、地面が崩れたことに対して動揺もなく、赤いポリゴン片をまき散らしながら起き上がり何事も無かったように突撃を再開した。


 男は三叉槍を再度地面に突き刺す。今度は男のかなり手前で地震が起き、地面が避けてせり上がり坂の様な物が展開される。その上亀裂から勢いよく海水が噴き出し波となって化物共を迎え撃つ。


「撃て!足止めしている間に撃て!」


 三叉槍の男が作った坂がちょうど狙撃に適した壕となり、銃撃部隊は一斉に発砲を開始する。

 化物達の進軍は恐ろしいが、津波は化物達に到達するころには7mを超える大津波となり化物達を押し流す。


「おい嘘だろ!?」


 が、耐える。化物共は耐える。20秒、40秒。まだ耐える。耐えるどころか徐々に波に適応し、ゆっくりと波の中を進行し始めている。呼吸すらままならないはずなのに、まるで運動性能が落ちていない。

 命を懸けてでもここに必ず突撃しなければならない。そんな鬼気迫る執念すら感じる歩みだ。


「あ!?なんだ!?」


 が、異変は其れだけに留まらない。数々の襲撃を退けた大津波の上を高速で何かが進んでくる。荒れ狂う波を完璧に乗りこなし、大きな水しぶきをあげながら小柄な何かが突っ込んでくる。


「このッ!?」


 男は三叉槍を振って波を大きく動かし高速で突っ込んでくる敵を妨害するが、並外れたバランス感覚を持っているのか荒波を綺麗に乗りこなし宙返りなどのトリックプレー決める始末。明らかに遊んでいる動きであり、そうでありながら思わず見惚れそうになるほどの動きだった。

 

 そして空を大きく大きく舞いながら、明らかに波で打ち上げられた勢いよりも高く舞いながら、遠くで甲高い声が響いた。

 空中で光が弾ける。サメの頭が描かれた魔法陣の様な物が空中で一気に10個展開される。

 魔法陣が発光し、そして―――――――


「はぁ!?」


 稲妻を宿した数十のサメの群れが彼らの頭上から豪雨となって降り注いだ。





「あ゛!?なんだぁ!?」


 自分の切り札で狙撃を何とか凌いで未だ戦場を一番把握しやすい防壁の上に齧りついていたお頭はサメの雨が降るのを見た。それをせり上がった波がなんとか凌いだが、サメ相手に海水は相性が悪い。悪すぎる。サメは波の中を泳いで攻撃を続けている。予想外の形で特級戦力の能力にメタを張られている。


 そもそも、アレは一体なんだ。

 何もない場所から魔物が飛び出てくる。それはファンタジーで言うところの『召喚魔法』だ。

 だが、召喚術師のフラグは未だ行方不明と言われており、上位陣が隠匿している可能性を考慮してもあまりに影も噂もない。もし大衆の目を欺いて召喚術師になったとしても召喚術師になってからそう期間は立っていないはず。あんな馬鹿げた威力の召喚魔法が使えるとしたら召喚術師はあまりもぶっ壊れ職業だ。

 というより、あの荒波を普通に乗り切ってくるプレイヤースキルはおかしい。普通なら3秒持たずに波にのまれて押し流される。北西防備に於いてもあの津波を未だ敵方が攻略できていないがために此方は余裕を持って戦えているのだ。その不敗神話が目の前で崩された。


「まさか!?」


 ここに至ってはそのありえないを認めるほかない。

 召喚術師でないというのなら、それは召喚術師に似たような物で、ALLFOのルールを逸脱するような力を行使する連中などほぼ存在せず、そしてその掟破りが出来る希少な存在にお頭は心当たりがあった。 


「初期特だと!?」


 そう、あり得ないを可能とする公式チート。

 存在意義を問われ続けているバランスブレイカー。

 その名は初期限定特典。

 三叉槍の男がそうであるように、普通のプレイヤーには出来ない事を実現させてしまうのが初期限定特典だ。


 しかしあり得ないのだ。 

 このサーバーの初期限定特典は既に全員判明している。その中であのような能力を持つ初期限定特典持ちは居なかった。

 では海外サーバーはどうか。それもあり得ない。大サーバー、国のサーバーを超えて別の国のサーバーに移動するには各サーバーのナンバーズシティの中心であるナショナルシティの大聖堂の転移門を通らなければならい。だが、初期特持ちは原則街の中に入ることは許されていない。一部街の中に入れるようになった初期特持ちも居ると聞くが、そちらは有名すぎて大体の手の内がほぼ明かされている。その中にこんな召喚魔法を使うプレイヤーは居なかった。


「そもそもこの狙撃はなんなんだっ!?」 


 一体全体今何が起きているのか。お頭はじっくり考えたいところだが、次々と閃光が飛びバリスタや砲台をプレイヤー諸共吹き飛ばしていく。狙撃だけでなくその威力も桁外れだ。こちらも初期特の力なのか。だとすれば納得はできなくもないが、初期特の力がいざ自分に向いてみるとこんなにも理不尽な物なのかとお頭は怒りがこみ上げる。


 自分が頼りにする特級戦力である三叉槍の男はサメを操るプレイヤーに押されて機能不全に陥っている。波の制御がサメを操るプレイヤーの迎撃に向き、津波が引いてしまう。すると、1分以上確実に水没していたはずの化物達が再度動き出した。走り出した。窒息死してもおかしくない状況なのにまるでダメージを受けた様子がない。魔物はリアルとは異なるデタラメな能力を持っていることはあるが、ここまでタフな魔物にお頭は心当たりがなかった。

 

 そんな魔物に目を向けていると林の中で次々と爆発が起きる。

 報告を受けなくてもお頭は直感した。林の中に散っていた突撃部隊が自爆でやられたのだと。突撃部隊は速度と攻撃力に優れている。その部隊が全力で抵抗しても退けられなかったのだとするのなら敵の耐久性は尋常の域を遥かに逸脱している。


『聞こえるか!?お頭!これあれだ!“アンデッド”だ!変な匂いだと思ってたが、これ腐臭だ!!』

「あ゛?あ゛っ!」


 自爆攻撃で死に戻りさせられた突撃部隊の隊長から唐突に音声通話が入る。興奮してがなり立てる様な声だ。

 しかしその言葉でお頭も微かな既視感に納得をした。


 彼らがアンデッドとまともに戦ったのは遥か以前。まだナンバーズシティの周りでウロウロしていたころだ。ナンバーズシティの周りの墓地はランク上げに適していて、墓地にはアンデッドが出没する。アンデッドはしぶとく、そして通常の生物の縛りにも囚われない。死して尚生きとし生けるモノを殺すことに全てを費やしており“自爆も辞さない”。

 そう、ALLFOに於いて自爆などと言う極めて非生物的で非効率で非生産的な攻撃を当たり前のように使ってくる唯一の例外。それがアンデッドだ。


 異様なタフさ。腐臭。自爆。人型も存在。非生物的な反応。その符号を繋ぎ合わせるとアンデッドが浮かびあがる。


 ではこれは何かしらのイベントだとでも言うのか。自分たちが知らない間に何かしらのトリガーを引いてしまったのか。

 だが、其れにしてはおかしい。今サメを召喚して三叉槍と互角以上の戦闘をしている奴は明らかにプレイヤー。この距離でも聞こえる声は明らかに詠唱であり、アンデッドではあり得ないこと。なによりサメを操るプレイヤーは牛、推定アンデッドに跨って現れたのだ。

 つまりそれはアンデッドを支配下に置いているという事であるのだが、アンデッドはテイムできない。なのでアンデッドを戦力として使う事はできないというのが定説だ、現状確認されている“唯一の例外”を除いて。


「いや、そんな、まさか!」


 だが、アンデッドを操る存在は既にALLFOで確認されている。

 それもかなり派手に。あまりに有名すぎて少しの間お頭の頭にも思い浮かばなかったくらいには。

 

 あくまでこれは状況証拠や本人の言動から「恐らくそうであろう」とされているだけで、確定ではない。確定ではないが、状況を見るにソイツは確実にアンデッドに対して何らかの能力を持っていることは確かで、しかしここにはいるはずの無い存在なのだ。


 が、お頭は直感に従った。自分を何度も窮地から救ってきた戦闘の勘を信じた。


「『北西防備聞こえるか!?そっちは放棄していい!全勢力で東南東を守れ!ダグダも使っていい!俺の予想が合ってるなら今攻めてきてる奴らと比べれば北西の連中なんてカスみたいなレベルだ!ヤツらは――――――!!』」


 お頭がその答えを口にしようとしたとき、お頭が気を逸らす瞬間を待ち続けていた閃光がお頭にクリーンヒット。800m以上の距離を飛来した弾丸が爆発しお頭は防壁の上から吹っ飛んだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 最後のセリフに微かに「ここは...パンクハザード!」を感じた
[一言] まぁお前らだろうなとは思ってたけどサメが出てきた時点でまぁ確定ですよね…… 狙撃は鎌鼬として自爆攻撃はノートが召喚した下位死霊か
[一言] >>数十のサメの群れが彼らの頭上から豪雨となって降り注いだ。 ツナじゃん。ただいまの天気はサメ豪雨! >>突撃部隊は速度と攻撃力に優れている。その部隊が全力で抵抗しても退けられなかった…
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