No.59 鏡
(´・ω・)APPってなんぞや?って方がいらっしゃると思う。感想欄でも質問を頂きました。
(´・ω・)APPはTRPGの『見た目の良さ』を現す数値です。
一般的には6面ダイス3回振った合計値なので
最低値3(見るだけで失神級の悍ましさ)
最高値18(人外級の美しさ)
期待値10.5(まごう事なきフツメン)
APP13以上になってくるとイケメン美少女枠入りです。
因みにAPPは
13 -約9.7%
14-約6.9%
15-約4.5%
16-約2.7%
17-約1.3%
18-約0.5%
こんな感じとなっています
「よし、作戦会議だ。あのクソクリーチャーどもをどう突破するか。まず先ほどの戦闘で気づいたことは?」
鏡の通路の地獄からVRの使用時間制限により暫し小休憩。各々ストレッチなどをした後に復帰。攻略に関する作戦会議を行う。
ノート達は依然としてあの場所の攻略をあきらめていなかった。しかしどう考えても正面突破は不可能。よって頭を使って攻略することに帰着するのは当然のことであった。
「一番に言えることはぁ、やっぱり『光』だよねぇ」
「そうだな、改めてユリン側からみた状況の推移が聞きたい。実は俺達にはユリンが何事もなく滑空して通路を降りて着地し、その後はこちらに手を振っているようにみえていたんだ」
ノートが自分たち側から見た状況を述べると、ユリンはギョッとする。
「え!?なにそれ!?ボクはてっきりノート兄達にはなにも見えていないのかと思ってたのに!」
ユリン曰く、戦闘が始まってしまった後すぐに助けを叫んだらしい。しかし一向に動こうとしないノート達にユリンも強い違和感を覚え、ノート達には自分の姿が見えなくなっているのでは?と結論付けたのだ。
「そりゃねえだろっ、ユリンの姿が見えなくなりゃぁノートも異常事態だと思ってすぐに気づくさっ!」
「わたし、たち、には………おそらく、ユリンさんの、にせもの、が、見えて、いました………」
「そういうわけだな」
スピリタスとネオンの補足に頷くノート。予想以上に悪辣な罠にユリンも思わずその美麗な顔をしかめていた。
「あれは結構怖かったよぅ。いきなり明るくなって壁が鏡に切り替わって、その鏡の中だけに映っていた怪物が急に四方同時に襲いかかってきて、自分が超ピンチに陥っているのに『仲間が平然とただ上から見降ろしているだけ』って状況はぁ。でもなんで気づいたの?」
「それは、まぁ、勘だな。俺以外はみんな騙されてたが、結構似てたぞ。俺でもそう意識してなければ気づけないだろうと思うほどにな」
ユリンはその言葉で顔がパーっと輝くと感極まってノートにハグし始める。ノートだけが自分の偽物を見抜いてくれたのがよほど嬉しかったのか、稀に見る上機嫌さと甘えっぷりだった。
高校ではクールな一匹狼扱いのユリンなので高校の連中に見せたら「誰おま」レベルの甘えっぷりである。
「ということは、ユリン側からは『音』も断絶されていたのは確定?」
「だろうな。あの通路で助けを叫べば響くから俺達にも聞こえたはずだ。特にユリンの声は響きやすい声質だから聞き逃すっつうことはないだろ」
色ボケスイッチの入った番犬をよそに淡々と推測を述べるヌコォ。それにノートも同意する。
「でも少し不思議。おそらくあれがなにがしかの特殊なダンジョンの様な物と仮定したとき、『ダンジョンの内側にいたユリン』ではなく『外側にいた私達』の方が何らかの状態異常にかかっていたということになる」
例えば、ダンジョンの効果として内部に入るとダンジョン内部限定のステージギミックとして『強重力で動きづらい』などの制限がかかる場合があるかもしれない。それは一般的なゲームでもなくはない要素だ。
だが、今回の場合、推定ダンジョン内部のユリンの方は何も異常がなかったのだ。
ここがヌコォには引っ掛かった。
「確かにそれは変だな。状況的にオレ達の方が何かの状態異常にかかっちまってたんだろ?何時からだ?」
ヌコォの分析に納得するスピリタス、ノートは暫し考え込み改めて状況を思い返すことで一つの推測をたてる。
「いや、俺の考えではあの廃村こそが既に特殊ダンジョン扱いだった気がするぞ。ネオンに焼き払ってもらったが、あの胞子の中にはそこに潜んで襲い掛かってくる今までにない新種の魔物がいたはずだ。それは魂のストックで証明されている。この時点で登場する魔物が切り替わっているな。
これはなにか別のフィールドに足を踏み入れた場所で起きる現象に類似している」
「まあ、そう考えられなくもねえな」
「それだけじゃない。やはりあれだけ燃やしても全く延焼しなかったのは不自然だ。廃村の中はガンガン延焼したのに、どういうわけか『廃村の外』には全く延焼しない。少しの火であれだけ燃える胞子にしては変だよな?」
「今までは『ゲームだから』で片づけられたけど、異様なリアリティを求めるALLFOでは少々不自然」
ヌコォがノートの言わんとする事を端的にまとめると、ノートは同意する。
「恐らく普通のダンジョンと同じようになっていないのは、廃村外の魔物が廃村内に入れるようにするためだろう。何らかの結界などが存在しあの場所は『結果的にダンジョン化してる』といった形を取っている、と俺は考えた」
バルバリッチャが封印されていた場所は『ファーストシティの墓地』という“ダンジョン”であり、出入りには確認が行われた。
もし廃村へ入る際に同様の確認が行われたらノートも更なる環境的変化を警戒したが、実際は起きていない。『ダンジョンに入る際には必ず確認がある』という先入観を逆手に取った非常に嫌らしいトラップである。
そして、このノートの推測は正解である。あのエリアは『燃やされる可能性』について留意したうえでのエリアだった。地道に降り積もる胞子を焼き払い、中から飛び出してくる魔物を撃退し、徐々にその探索領域を広げていく。それがあの廃村探索のコンセプト。
長くいればいるほど奇妙な幻覚に襲われ、知らず知らずのうちに仲間から逸れたり、敵だと思って咄嗟に攻撃したら味方で同士討ちをしてしまったりと非常に厄介で底意地の悪いエリアなのだ。
なんせこのエリアのモデルはパニックホラーなのである。本当にパニックホラーの映画の世界に入り込んだように次々に起きるアクシデントと気味の悪いクリーチャーどもにSAN値をガリガリ削られたところでの幻覚、孤立、そして追い打ちの如く散発的に襲い来る怪物。胞子のスリップダメージで既に焦燥感に支配された心を追い立てるように掻き乱すのだ。
ただ…………エリアのコンセプトに対してネオンの火力が余りに高すぎたのが誤算だった。魔物諸共完全に胞子を燃やしきる攻撃をあの段階で使えるのは想定外もいい所なのだ。
更に、胞子の中に潜む魔物どもは実は強固な外骨格を持った高い『火炎耐性』持ち。特に魔法的影響に強い物理アタッカー用の敵であり、胞子を燃やす魔術師型に対してのメタを張った性能を持つ恐ろしい敵だった。
だがしかし、通常攻撃が必殺技でその全てに強力な呪い付きの狂気のアンハッピーセットを提供するネオンの『災厄女皇』の前では致命的に相性が悪かった。気絶だの麻痺だの昏睡だのスリップダメージだのさながら呪いの博覧会によって彼らは無残にもその姿すら見せることができず殲滅されたのである。南無。
本来、ゲラゲラと爆笑しバカ騒ぎしながら攻略されていいエリアではなかったのだ。現にここの開発担当はノート達の攻略方法を見て半泣きだった。
一応、一定時間の経過で『エリアなどは再生する』のだが、あそこまで完膚なきまでに燃やし尽くされればそう簡単に再生はしない。それがどれほどのダメージだったかはネオンが『災炎魔』なんて字面からしてヤバい称号を取れてる時点でお察しである。
そしてもう一つ、ノートはこのエリアの感じから嫌な予感がしているのだが、皆がリベンジに一丸となって闘志を燃やしているので水を差すのもよくないと思ったので黙っていた。
本音で言えば「また死ぬのも一興」程度に考えてるところが彼らしいといえば彼らしいかもしれないが。
「しっかしよ~あれは初見殺し過ぎねぇか?GBHW以来だぞあんな理不尽で過密な攻撃はっ」
「お前、久しぶりっていう割にはやたらゲーム的視点がしっかりしてるな?」
スピリタスがVR機器を破壊されてから10年以上あまり、彼女はゲームそのものをしていないと言っていた。だと言うのにゲーマーとしての感覚をそこそこ垣間見せるスピリタスにノートはふと疑問を抱く。
「だってよ、VRぶっ壊された後もプレイ実況みたいなもんは見れたしよ、それに新規のゲームに挑むんだからオレでもちっとは同種のゲーム調べて予習ぐらいはしてるってのっ!」
見た目にそぐわぬ堅実で常識的なスピリタスの回答に思わず苦笑するノート。なお「全く予習せず『トレイン&死に戻り』を愚直に繰り返していた誰かさん」は恥ずかしそうに俯いてプルプル震えていた。
「んだよ?」
「いや、何でもない」
ネオンに関してはあとでフォローを入れておこうと心のメモ帳に記しつつ、ノートはそのスピリタスの疑問に答える。
「そこは俺も少し引っ掛かったんだ。んでログアウト中に少し考えてみたが、俺たちが根こそぎかっぱらったあの地下倉庫にも同じ仕掛けが施されていた可能性は高くないか?」
「予告的な物があったかもしれない、ってことだよねぇ?」
いまだに脳内ハッピーセットタイム状態から帰還できていないユリンだが、思考能力は徐々に戻ってきたのかノートの言葉を補足する。
「そうだな。全く同じ仕掛けってことはないと思うが、『一見普通に見えるけど中に入ってみたら全然違う』ってことになっていた可能性はなくはない。どちらも入ったら簡単に戻れないような形状の出入り口だったしな。ゾンビで何も起きなかったのは死者である『アンデッド』だからか?」
「その可能性は高いかもしれない」
あのエリアに関する一通りの確認を終えると、ノート達はようやく本題に入る。
◆
「以上を踏まえたうえで、アイツらをどうするって話なんだが」
地形に関しての疑問は少し解けたが、それはそれこれはこれ。ノートも含めて思わず黙り込んでしまうが、そこでネオンが恐る恐る挙手する。
「ん?ネオンなにか思いついた?」
「あ、いえ、その、そうでは、ないのですが…………」
「いいよ、言っても。なにか質問?」
ノートがネオンにフォローを入れると、ネオンはコクリと頷く。
「あの、ノートさんの言っていた、”虎の子”ってなんのこと、だったんですか?」
ネオンの質問をうけて「確かにそれ気になる」と視線を向けるメンバーに、ノートはインベントリーからそのアイテムの取り出す。
「歓迎会の時にアテナがくれた『試作閃光弾』だ。あの状況では鏡自体はどうしようもなかった。そしてアイツらが『光』を中心に動く存在なら、『光そのものを消す』と同様に『圧倒的に強い光で上書き』しちまうのも効果的か?と考えたんだ。全面白い光で満たされれば、奴らは『鏡に映ることができない』からな。存在できなくなるか、一瞬でも鏡に出入りできなくなる可能性はあった」
ノートの言葉にネオンは呆気にとられ、ユリンとヌコォは納得する。
「ああ!なるほどねぇ!!それは思いつかなかったなぁ」
「その考えは面白い」
そしてスピリタスだけは『あの大混戦の中でそれを思いつくってコイツの頭やっぱり色々ヤベェな』と思い苦笑していた。
寧ろGBHWでもノートは危機的状況ほど脳のギアが際限なく上がっていったので、スピリタスからすると少し懐かしくもあるが故の笑みでもあったのだが。
「しかし、これ『試作』って名前からわかる通り完成品じゃない上に一つしかないんだわ。どうも希少な植物と鉱石が偶然反応してできた物らしくてな。もう一度作ろうとしても現段階じゃ再現は無理っぽいらしい。それを確実性のない状態で使ってみる度胸は俺にはなかった」
”虎の子”どころか、当面は再入手が不可能と思われるたった一つのアイテムだ。死んだら致命的なことが起きるわけでもないあの状態で使うべきか?と考えたらどう考えてもNOである。
「残念ながら、俺もネオンも『光・聖属性』の魔法は使えないからな。魔法ではどうしようもないし、じゃあ全魔法が使えるアグちゃんに助力を仰ぐのも地雷踏みそうで怖いんだよな。特にバルちゃんの」
現状、圧倒的光量による鏡封じは無理。そう結論付けたノート達は次の案を考える。
「やっぱりネックなのは両面鏡の特性だよな。あれで狭い空間なのに距離感まで狂わせてくるし。何度か間違えてバフ撃ちそうになったわ」
「最後のネオンの魔法で壊れてれば儲けもんだが、そううまくはいかねえよなぁ?」
「だろうな」
ネオンの自爆魔法で大量のクリーチャーを巻き込めたことは魂のストックが増えていることからも明らかだ。しかしそれで鏡まで破壊できたか?と考えるとゲーマー的感覚からするとなさそうな感じがするのはユリンもヌコォも同様だった。
「一本道だからネオンの魔法で最初に一掃したくても、あっちは『鏡の中』っていう無敵ゾーンがある。あのステージ、結構よく考えた上での絶妙に底意地の悪いバランスになっている」
「アンデッドの物量戦ってのも芸がない、ってかMP的に厳しいんだよな。あのエリアが平面のステージならもっと色々できるんだが、足場が『大きな段差』なのがおバカなアンデッドにとっては致命的なんだよな」
過去最高に手詰まり感を感じるステージにただただ悩むノート達。もしかしてあの廃村で回収したアイテム群の中に有効的なアイテムがあるか?と探ってみたがどれも解析待ち。
そしてその結果を待たずともなにか仕掛けを解除するようなアイテムは見た感じない。
彼らの感覚的な物であって正確な長さではないが、少なく見積もっても60m近い長さの通路だ。その側面が全て鏡張りになるので実質二倍の長さの鏡を全て覆いつくす、となるとなかなかその方法は思い浮かばない。魔法もダメ、アイテムもダメ、と来てはいよいよ手詰まり感が濃厚となる。
「普通のゲームだと、全ての床下の空間の仕掛けを起動して突破すると…………みたいな感じかもしれないけどぉ、ALLFOに限っては少し考えづらいよねぇ?」
「全てが連動している、とは考え難い。打開のヒントとなるアイテムやなにかがある可能性はあるけど、それだけで突破できる感じの印象ではなかった」
「ノートの死霊どもで強引に突破できちまってるぐらいだ。そこまで重要なものはねえんじゃねえの?」
ゲーム慣れしているユリン達は情報共有を進めるが、知識はあってもまだ感覚的な面では初心者なネオンは話についていくのに精一杯。それでもなんとか理解しようと頑張って頭をひねっており、本人には自覚がなくともその困った様な様子は少しあざとさを感じるくらいだった。
それを眺めつつ、ノートはユリン達の言葉を反芻しながら考えを巡らせる。そして今までのギミック突破方法や自分の召喚可能な『簡易召喚死霊リスト』を改めてじっくりと閲覧。
そして、紅茶のキマッた一つの(奇)策を思いつき、ニヤっとする。
「よし、私にいい考えがある」
そのノートの笑みの雰囲気は川でのおバカな検証実験を提案した時と非常に似ており、ノートを妄信気味なネオンですらもそこはかとなく嫌な予感、少なくとも『まともな案』でないことは察することができてしまうのだった。




