No.58 ホラー
状況整理を終えたノート達は回収した物資を全て幽霊馬車のアイテムボックスに預け、遂に最後の建物の扉をこじ開けることにする。
「行けっ!!」
最後の一番大きな建物の床の扉はサイズも巨大。しかも唯一両開きの扉なのでメギドと幽霊馬車に片方づつ分担して一気に扉を引っ張ってもらう。
更に、今回は大事をとって『スケルトンチャリオッツ』の進化系、『突撃骸骨戦車』を10体ずつそれぞれの援護につけて、更に更にノートとネオンで全力でバフをかけてそのタフネスと馬力を強化する。
『突撃骸骨戦車』は正面突破にかけては非常なまでの馬力がある。反面あまりに速すぎて全くカーブできないのだが、この状況では全く問題はなかった。
ノートの合図で競争するかのように走り出した死霊ども。ドドドドドドドドドと迫力のある音と共に暫くして限界の長さに到達した縄がピンと張る。その瞬間、周囲に響く不協和音。色々なものが派手に壊れる音が聞こえてきた。
特にひどいのは『突撃骸骨戦車』どもで、縄との競り合いに負けたらしく転倒、というより正面へ前転をかますようなアクロバティック過ぎる動きを披露し、操縦者のスケルトンは操縦席から大砲で放たれたように物凄い勢いでぶっ飛んでいってその姿は見えなくなってしまった。
20のスケルトンが各方面に何かの曲芸の様に綺麗に飛んで行ったのでノート達もその時点で笑いそうだったのだが、ネオンがポツリと「シートベルト、つけて、あげたいですね…………」と呟いたせいで彼らは笑いすぎてしばらく使い物にならなかった。
なおヌコォだけは表情がほとんど変わらないので謎に息が荒くなってるだけに見えなくもなかったが、周りから見ても笑っていると判断できなくはない程度には笑っていた。つまり結構ツボっていた。
しかし彼らの献身(?)は無駄ではなかった。
今までの様に土台からぶっ飛ぶようなことはなかったが、土台には致命的なダメージが入っておりノート達が通れるだけのスペースができていた。
そこまで致命的なダメージが入り扉が一度オブジェクト化してしまえばあとは地道に土台にダメージを入れて完全に外してしまえばいい。インベントリにしまえないサイズではあったが、それは余裕があれば引きずって持ち帰ろうということで、ノート達も笑いこそ収まらなかったが概ね話はまとまった。
ネオンの天然ボケによりシリアスのへったくれもなく、ついに最後の地下空間の攻略をノート達は開始するのだった。
◆
今までで最も強固な抵抗を見せたその扉の下は、今までのそれとは違っていた。
これまでノート達が見てきた地下空間はどちらかと言えば物置。階段も何もない、必要最低限のみを徹底した武骨な空間だった。
だが、今回は明確に違う。段差があり通路になっていたのだ。ポイントは階段というより『段差』と言うべきところだろう。“明らかに人間のサイズを想定していない”階段と考えれば、その段差も階段に見えないことはなかったが。
「これ、万が一のことがあった場合即座に逃げられない仕様なのが嫌だな」
段差の高さはジャンプして蹴上がるにしてもスムーズにいかないギリギリの高さ。
「この先罠あり。ニガシマセン」と言っているようにノートには思えて仕方がない。
「よし、作戦変更!死ぬ前提で行こう!みんな装備をサブのサブくらいにしてくれ!!」
そしてそれを見てノートが結論を出すまでも早かった。
自分たちの突破方法が普通じゃないことからここから踏み入れる場所も確実に“普通”ではない。しかし打開策はない。ならばもう死ぬこと前提でいこう、という思考に至ったのだ。
ALLFOのデスペナはMONの減少やステータスの一時弱体化、所有していたアイテムの劣化やランダムドロップ、特に装備品の耐久値は露骨に削れるという痛いペナルティーが存在していた。
なので死ぬことを前提とした場合はメイン装備は外した方が賢い。かなりランクは落ちるが、一応討伐戦で獲得したプレイヤードロップ品をゴヴニュが加工しなおしてくれている。現在のALLFOの環境からすれば十分破格の性能だった。
その上、ノートとネオンは攻撃に関しては装備品の耐久値などの影響は受けないし、ユリン達も『装備が強い』のではなく『プレイヤースキルの異常な高さ』が強さの秘訣なので致命的な戦力ダウンにはならない。
ノートはメギドも待機状態に戻しつつ『そろそろ純索敵・探知型の死霊を用意すべきか?』と考える。その手の事にかけてはおそらくバルバリッチャが適しているのはノートも理解しているが、同時に便利屋扱いしていると強烈なぶり返しが来そうなことも予感していたからだ。
例えば、スピリタスのランク上げにも使われた『闘技場』強制ボス級バトルは安全性と確実性がある。ただ、ネモを召喚するためにロール状態で延々と倒し続けた時に、戦闘の質に対してスキルや魔法の習得率がかなり良くない可能性が高いことも確認された。
『アイテムがドロップしないだけ』でお手軽ランクアップ方法、とはならなかったのである。
何か大きなメリットがあると目に見えるデメリットと、目に見えないデメリットを用意している節のあるALLFOの性質にノート達も少しずつ順応し始めていた。
そんなノート達の感覚からすると、バルバリッチャはあまりに大き過ぎる不発弾だった。
さて、何を使えばそんな死霊を引き当てられるだろう?とノートは考えつつ、まずはルーチンワークの様にゾンビ共を召喚。段差を何段か降りていってもらってトラップの類がないか探ってもらうが、特になにかが起きる感じはなかった。
「じゃあ、先にボクが行ってくるねぇ」
続いて、ガラス瓶の中にネモお手製の活性剤漬け込んだ発光する苔を入れたエコなランプを取り出し、ユリンが一番槍を宣言。
少し助走をつけてトンっと飛び降りると即座に滑空モードに移行。段差が大きいおかげで広いその通路を器用に飛翔しながら降りていく。
「なんか嫌な役を押し付けちまった気がするなぁ」
「適材適所。ここでは飛んで緊急離脱ができるユリンが偵察に行くのは正しい。帰ってきたときに撫でればご機嫌になる」
ノートは真っ暗な空間を一人進んでいくユリンに少し申し訳ない気持ちになるが、ヌコォはかなりドライに真実を述べる。
「…………なにも、なさそう、ですね?」
「ノート、こんなところで覗き込んでるよりさっさと行こうぜっ!」
遠く離れた場所でポツンと見えるユリンは滑空時間限界までは時間があるが、一旦着地。
その瞬間、ユリンの姿が忽然と消える。
◆
なんてことはなく、遠くて暗いので朧気で分かりづらいがユリンはノート達に手を振っていた。
今までこれと言って派手に動く機会がないスピリタスは早く行こうとせかし始め、ネオンも少し安心した様子。ヌコォもそろそろ動き始めていいと思い依然として動かない兄貴分の顔を覗き込むが、ノートはまだ目を細めて睨みつけるようにその奥を見ている。
そして徐にメニューを弄り、30秒ほどして舌打ちする。
「悪趣味だなぁおい!」
見えてないと思っているのかピョンピョンとジャンプして手を振り始めたユリンを、なぜかノートはずっと睨みつけていた。
「さっきからどうしたんだよノート。早く行こうぜ!ユリンも痺れ切らしてんぞっ!」
「ノート、さん…………?」
先ほどから反応が変なノートに遂にネオンが問いかけると、ノートは少し語気を荒くしつつ答えた。
「アレは偽物だ。ユリンは俺からのチャットメッセージには秒で反応してくる。しかし反応がない。『戦闘中でメッセージが届かない』状況でない限り、あり得ないんだよ、そんなこと」
なぜそれがフェイクだと見破ったのか、それはノート自身でも説明し難かった。
少なくとも、ヌコォまでも騙されるほどには『ユリンの動きをトレースした自然な動き』だったのだ。しかしノートはホラー路線で来る予感がずっとしており、ユリンがまだ言葉もしゃべれないような時から今までずっとその面倒を見てきて傍らに寄り添ってきたノートだからこそ、ユリンの動きに言語化できない微かな違和感を覚えたのだ。
「全員戦闘準備。既に俺たちは何らかの状態異常になっている可能性が極めて高い。特にネオン、ここからは何が起きるかわからない。各自自分の身は自分で守ることを前提に動いてくれ!突っ込むぞ!」
これまでにないほど好戦的な態度で、今までの慎重さをかなぐり捨てて先陣を切るノート。その穴に飛び込んだ瞬間、隠されていた惨状が暴かれる。
「なんだこりゃ…………」
おそらくそれなりに奥に進むことがトリガーだったのだろう。その石材でできていたはずの壁は鏡張りになっており、その鏡の世界の中を青いゴム状硫黄の塊を豹の形にしたようなクリーチャーが走っている。そしてクリーチャー共は鏡の中をまるでもう一つの部屋の様にして自由に出入りしていた。
そんなクリーチャーの群れの中、その化物どもがやたら集中している場所で一人ユリンが苦し気な表情で奮戦していた。
「ユリン!!」
ノートは瞬時に自分にヘイトを集める魔法を発動し、スピリタスは初手からコストの重いユニークスキル[金剛頑強]を発動。ネオンもかなり慣れてきたのか即座にHPが既にギリギリだったユリンに特大の回復魔法を飛ばす。
そしてヌコォは冷静に、まず鏡の方に攻撃を仕掛け始め状況の打破ができないか頭を高速で回転させ始める。
「ノート兄!!」
絶望的な状況から一転、ノートのその一言だけで元気百倍ユリパンマンと化したユリンはワイヤーアクションじみた動きを披露しそのクリーチャーどもを一気に押し返し始める。
「だーーー!なんだこの滅茶苦茶戦いづらい場所!!」
ヘイトを集めてユリンからクリーチャーの半分を引きはがすことに成功したノートだが、それでも状況は完全には好転しない。簡易召喚で対抗を試みるが、クリーチャーどもは鏡の中に逃げ込み迂回しあらゆる方向から攻撃をしてくるのだ。
不幸中の幸いは上下方向からの攻撃がないことだが、それだけだ。さらに厄介なことに鏡の性質を受け継いでいるらしく、左右のどちらかが実像で片方が偽物、というわけでなく『どちらも本物』なのだ。なので攻撃を仕掛けてくるときは常に左右同時なのである。
この状況をどれくらい理不尽か表すなら、ヒロインを世界で一番攫われているであろう某配管工の横スクロールゲームをしているのに、敵は横スクロールではなく3Dモード、というレベルである。そして敵は『一面から通常の横スクロールアクションゲーのラスト面状態』という鬼難易度に定評のある『魔〇村』出身っぽい素敵仕様である。
ヌコォはあらゆる手を尽くして鏡の破壊を目論むが、それは強烈なヘイトを集める行動だったらしく、化け物共に集中攻撃され自分の身を守ることで手一杯。
まさしく阿修羅の様相で強引に道を切り開くスピリタスに続きかなり奥にいたユリンのところまで何とか皆で合流できたが、完全に焼け石に水な感じの空気が漂っていた。
「ゾンビの時は何もなくて、ユリンの時にアウトだったのは進んだ距離のせいか!?プレイヤーだからか!?」
「わかんない!けどっ!いきなり通路が明るくなって!気づいたらっ!!」
「トリガーは『光』かっ!!」
「鏡は壊せない。根本的な手を打つ必要がある」
『祭り拍子』の生命線であるネオンを守るように自然とネオンを中心に四方を固めるノート達。本来純後衛であるはずのノートが半分前衛じみたことをやらねばならないほどに状況は切羽詰まっているのだが、それでも彼らは背中越しに情報共有を行う。
「ちっ、埒が明かねぇ!左右から来るのは両方実体だがHPは共有してるみたいだから1匹殺せば2匹分減るがっ…………!」
「死にかけるとコイツら鏡の中に逃げ込むんだよねぇ!」
そのクリーチャー自体は極めて強いということはなかった。攻撃力は高くすばしっこいし粘液質なつばの様な物を吐きかけてこちらの行動を阻害してくるのは確かに面倒だ。
だが嫌がらせに事欠かない腐沈森の魔物共に慣れたノート達はまだこの程度ならギリギリ許容範囲だった。これで戦車ばりの装甲持ちだったら発狂モノで即座に修羅パンツ化しかねないだろうが、幸い防御力は高くなく、魔法でも物理でも攻撃は通った。
ただし、両面鏡のせいで元々距離感や数の把握が難しいのにも関わらず、攻撃力が高いくせに同時に物量攻撃を仕掛けトドメをさせると思いきや安全地帯である鏡の中に逃げ込んで自然回復してまた懲りずに突撃してくる悪夢のような敵だった。
ここに来てガチ装備ではなくサブのサブであったこともボディーブローのようにジワジワ効いてきており、戦況はとても苦しい状態だった。
「ここであの“虎の子”を…………いや、もったいなさすぎるな。あああああめんどくせえ!このステージ作った奴絶対性根ねじ曲がってる!!」
「こりゃもう無理だろノート!!逆に一本道なんだから最後はドカンとやろうぜっ!!」
絶叫するノートにどこまでもGBHW民的発想で悪魔の囁きをするスピリタス。
近接戦闘を続けながら死霊を召喚しての戦況管理という頭のおかしい状況に思考力が溶けかかっていたノートは、獰猛な笑みを浮かべてそれに乗った。
「よし!ネオンは回復中止!!3分以内で発動できる一番火力のでかい攻撃を自爆前提でいいからブチかませ!!こうなったら全部巻き添えじゃぁ!!」
「りょ、りょうかいです!!」
「さあテメェら!!星のウルトラ戦士が必殺光線を打つまでのボーナスタイムだ!!派手に散ろうぜ!!」
完全やけっぱちになってるノートの指示に『待ってました!』と言わんばかりにニヤッとするユリンとスピリタス。ヌコォは『また壊れた』と思いつつ、非常に楽しそうなノートに人知れず微かに微笑み、全員はオーバーフロー前提でギアを数段階上げる。
「準備、でき、ました!!」
「っしゃああッ!ネオン、ブチかませェ!!!」
「はい!《オルダルクユピトテンペスト》!!」
そしてきっちり三分後、既に瀕死状態のノート達の一方で準備を終えるネオン。
解き放たれたのは雷雲を圧縮した漆黒の暴風雨。それは自分のHPの大半を引き換えに発動する超広域高火力攻撃。『黒逆聖女』の真価はその高すぎる火力の魔法、だけではなく『自爆攻撃』にて完全に発揮される。
ランク2のPL80人を一撃で蒸発させたあの魔砲よりも“更に遥かに凶悪な攻撃”をそんな“狭い空間”で行えばどうなるか。
ノート達は訳も分からないままクリーチャーどもを巻き添えに雷撃付きミキサーにかけられたようになり、視界はバグったように掻き乱され気づけばホームでリスポン。理由は自分たちでもよくわかってなかったが、ノート達は堪えきれずゲラゲラと笑ってちょうどリビングでお昼寝中だったアグちゃんを驚かせ、その時のリアクションを見て更に笑うのだった。
(´・ω・`)Hals 痛い




