No.56 これから毎日家をやこうぜ?
「なあノート、あそこにダイブしてみていいかっ!?」
「なんだか、そうじ、したく、なりますね…………」
白を基本とし淡い桃色や緑色の胞子の降り積もる廃村。その家屋の素材が何か分からないほどに胞子はその全てを飲み込んでおり、スピリタスとネオンの第一声は各々の性格が非常によくわかりやすい対照的な言葉だった。
ノートはちょっと天然気味なネオンに思わずなごんでしまうが、本人はどうしてそんな優し気な瞳を向けられているのか分かっておらず、少し戸惑いを含んだ微笑みを浮かべて「なんですか?」と可愛らしく小首をかしげていた。
「スピリタス、絶対にやめてくれよ。ほら、三軒目の建物の近くをよく見てみろ。あそこの出入り口の付近の胞子、なんか動いてるぞ。あれ絶対下に何かいるからな。飛び込んでなにかいても知らないぞ」
「なんか羽毛の塊みたいで気持ちよさそうなのにな」
んで?どうするよ?
そんな意を込めた目を向けるスピリタスにノートはニヤッと笑う。
「そりゃあお前、こんな汚物は――――――――」
◆
「消毒じゃー!!!」
「いいよぉネオン!ジャンジャン燃やしちゃってー!!」
「後ろは任せる。どんどん焼いて」
「アハハハハハ!!こりゃひでぇな!!」
数分後、廃村はネオンの超広範囲大火力の魔法により大炎上していた。
元々ここのステージ全般が火に弱いこと(元ネタ通りだな、とノートは納得していた)は既に発覚していたのだが、ノートは『イベントに関連する重要なオブジェクトだったら万が一戦闘の余波で壊れたりしないように地下とかに置いとくはず。なので地上部分は悉く『薙ぎ払え!!』』ととち狂った指示を出し、悪乗りしたメンバーたちは本当にそれを実行していた。
降り積もった胞子は本当によく燃えやすく、しかして長時間燃え続けることがないという二重の利点を持つ。おそらく胞子の中にスタンバっていたであろう厄介なMOBの皆さま諸共ネオンは全てを焼き尽くしていた。
まあ、当然ながらそんなお祭り騒ぎをしていれば他の場所からMOBも押し寄せ来るわけだが、ノート達は回復なし縛りゲー開催!などと言い出しネオンの背を守るように奮戦していた。
「「「燃~えろよ、燃えろ~!(やー)汚物よも~え~ろ~!(もえろー)胞子を巻き上~げ~!う~んえいもえろ~!(もえろー)」」」
やはり大きな炎は人に対して何らかの影響を与えるらしい。ノート、ユリン、スピリタスは非常にくだらない替え歌を歌ってゲラゲラと笑っており、その替え歌を受けて参加こそできないが更に火力を強めるネオン、ヌコォはその替え歌に合いの手を入れて遊んでいた。
さながら気分はキャンプファイヤーだが、やってることは村丸ごと焼却なので全く微笑ましくない。
万が一延焼したら?むしろそうなってくれ。そんなことを思いつつノートはその馬鹿でかい真っ黒な炎を見上げる。どう考えてもこの胞子は悪影響しかもたらしてないのでノートとしては全部燃えてしまって構わないぐらいだった。
ただ、やりすぎると変な特殊MOBがまた出てきそうなのでそこまでやる気はない。
川でのおバカな実証実験は最悪自分だけが被害を被ればいいという考えだったが、今回は主体がネオンなのでノートはそんな万が一を引き起こさせる気はなかった。
「これから毎日ーーーー?」
「「「家を焼こうぜーーーー!!」」」
ただし、今の矢鱈ハイテンションなノートはそれを忘れているように見えるがそれは言わぬが花だろう。今の彼らはこのどんちゃん騒ぎに乗じてスピリタスの『例の件』の記憶と共に焼却しようとしているようにも見えた。
約30分後、MPお化け、MPタンクと呼んでも差支えのない膨大なMPを持つネオンがMP切れを起こすほど魔法を使い続けて、廃村は完全に丸焦げになっていた。
「これはひどい」
「いや、お前が指示したんだぞっ!なんで他人事なんだよ!!」
めでたくネオンが
『放火魔・原初(広範囲を焼却した者:火炎系攻撃強化・悪性強化)』
『災炎魔・原初(非常に広範囲を無差別に焼却した者:火炎系攻撃大強化・悪性大強化)』
なんて称号をゲットしてしまうほどのお祭り騒ぎだったが、ネオンがMPをある程度回復するまで待ち軽く探索してみれば、ノートの予想通り多くの家屋|(跡)で地下室に続く扉が発見された。
それも村の奥の最も大きい建物があった場所には如何にも『大事な物があります』と言わんばかりの少し毛色の違った金属質の材質不明な、明らかに人が5人以上同時でも通れることを想定した扉が床にあった。
「ほらな?」
「結果オーライじゃねえの?」
ノートの言葉に真っ当なツッコミを入れるスピリタス。これには皆もかばいきれなかったのか、ネオンまで非常に遠慮がちながらコクコクと頷いていた。
「でも楽しかったろ?」
「うんっ!」
「またやってみたい」
「それは否定しないなっ!」
そんなことはどこ吹く風。ノートが笑いながら問いかければ三人はあっさり同意。実行犯だったネオンは苦笑していたが嫌そうではなかった。
◆
「さて、一番面白そうな奴から開けるか、それとも手前から順番に開けていくか、どっちがいい?」
既に真っ黒こげの惨状跡地になっているが、廃村はノート達が想像しているよりかなり広く、床下収納など床下にスペースがありそうな家屋は50以上発見されていた。
思ったより長期戦になりそうだが、あくまでメギド含め6人で攻略したからここまでサクサク侵攻できたのであって、手分けして捜索ということもいかない。なのでどうするか聞いてみると、案外意見は割れなかった。
「時間かかっちゃいそうだし、手前からでいいんじゃなかなぁ?」
「私もユリンに賛成」
「オレは好物は先に食うタイプなんだが、探索は基本的にノートに任せるわ」
「私も、どちらから、でも…………」
「んじゃ、手前から見てみるか」
ノート達は今にも崩れ落ちそうな焼け焦げた家に入り、まず一つ目の床下収納の扉を開ける。開け…………開け…………開k
「開かねえ!!なんだこれクソかてぇ!!」
ノートは最終的に両足で踏ん張って全力でその取っ手を引っ張ったのだが、扉は憎らしいほどにうんともすんとも言わない。まるで地面を持ち上げようとしているように感じるほど手ごたえがなかった。
「んだよ非力だなぁ、オレにやらせろよ」
男としては女性から言われるとなかなかグサッとくる一言をサラッと言いつつノートの手から取っ手をとるスピリタス。確かにALLFOの中では純後衛のノートと純前衛のスピリタスじゃ筋力が全く違う。ただリアルでもスピリタスの方が腕力強い疑惑があるので、ノートは地味にスピリタスの言葉にダメージを受けていた。
男にはたまにとてもくだらないちっぽけなプライドがあったりするのである。
だがしかし、パーティーどころか確実に日本サーバー最高の筋力を持っているであろうスピリタスでも扉は全く動かない。動くどころか、取っ手を傷つけることさえできなかった。
「だあああああ!!なんだこれ!!かった!?」
「だろ?」
試しにユリン達も引っ張ってみたが、当然動くわけがない。ネオンなど握力がちょっと弱い系女子なので手がすっぽ抜けて後ろにいたノートに腹に思い切り頭突きをかましかけたぐらいだ。なおギリギリでノートが反応し抱き留めてくれたのでドジっ子大勝利なのだが。
「よし、俺たちは人間だ。頭を使おう」
ノートはそれを見て色々試そうと考えたのだが、ネオンはなぜか顔色が悪くなる。
「どうした、ネオン?」
その手の変化に敏感なノートはすぐさま反応するが、ネオンからかえってきた言葉は予想外のものだった。
「ノート、さん、ず、頭突きは、痛いですよ?手、手で開けた、ほうが…………」
ノート達は一瞬ネオンが何を言い出したのかわからなくてフリーズしていたが、ノートはすぐにネオンが何を言っているかに気が付いて思わず笑ってしまった。
「くくくくっ…………ネオン、『頭を使う』ってのは物理的な意味じゃなくて、知恵を絞るって意味だからね?頭突きで扉をぶち破ろうなんて思ってないよ」
ノートの言葉でユリン達もネオンの勘違いに気づき思わず噴き出し、ネオンはみるみる内に顔が赤くなる。
最近、常識人に見えてたまに天然が炸裂してる疑惑のあるネオンだが、今回もまたネオンは天然発言をしていた。
「なんかそういうとこほんと可愛いなぁ」
一度やらかしたので吹っ切れたのかネオンの頭をなでるノート。それはただ単純に自分の欲求に素直になっているではなく、元々ネガティブ傾向の強いネオンがこの様な些細な失敗でメンタルにダメージを受けてネガティブ方面に精神が逆戻りしないようにするためのフォローというかなり狡猾で強かな考えに基づいた行動でもあるのだ。
しかしそんなことネオンにわかるわけもなく、ただでさえ恥ずかしすぎてメンタルがオーバーフローを起こしかけているのに、可愛いだの頭を撫でてもらうだの単体でもオーバーフローを起こしかねない要素が加わり、ネオンの精神メーターの針がポジティブとネガティブの間をバグったように動いていて思考停止状態に陥っていた。
そこでユリンとヌコォの不満を素早く察知し、今度は二人を優しく撫でまわし直ぐに不発弾の処理をしているあたり、どこまでも彼は強かというかナチュラルクズというべきか。
スピリタスは「オレは?」と目線で問いかけてきたが、「お前は勝手に分捕っただろ」とノートも目で語り、スピリタスは「ちぇっ」と少し拗ねた様な顔をして見せる。
ノートはふと、なぜこんなことに思考を全力で割いているんだ?思ってしまったが、自分の精神衛生上よろしくないので「あのヘンテコな飛行機、メ〇ヴェだっけ?あれみたいなのが見つかったら俺もユリンみたいに飛べるかな」と素早く現実逃避するのだった。
【システムログ(予約投稿)➎】
( ・ω `)………限界d……
( ω・` …ザザッ…コレが……私の最g…記録………
(´・ω...:.;::..…さあ……z…うたのです……ザザザッ…召喚歌をっ………
(´・;::: .:.;:.. ゲリr…は…ザザッ…滅びn……度でも……zz………甦るさ………
【ログはここで途切れている】




