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No.52 おまいう合戦



「そんでよ、HPも減ってたし流石にオレも回復薬買ってきたほうがいいと思ったんだよ。んで街に戻った瞬間『汝、修羅の資格ありし者、挑戦者足りえる者、さあ我と闘わん』って感じの言葉がいきなり聞こえてよ。なにかとおもったらいきなりメニューに『ユニーククエストを受注しますか?』って表示されたんだ」


「それでお前は一、二もなくYESを選択してしまったと」


「よくわかるなノートっ!」


「いや、至って予想通りだわ」


 喋り方やその立ち振る舞いからわかるように、スピリタスは騒がしいのが嫌いじゃない、どころかむしろどんちゃん騒ぎは大好きで、闘うのも非常に大好きだ。バトルジャンキーといっても過言ではない。


 そんな彼女に『修羅道悪鬼“喧嘩祭り”』などというユニーククエストが提示されたらどうなるか?一瞬にして彼女の頭からなぜ街に戻ってきたかの理由はふっとび、スーパーナチュラルハイな彼女は半分無意識にYESを選択してしまう。

 ノートにはその様子がまるで見てきたかのように予想できてしまった。


「結局そのユニーククエストってどんなクエストだったんだ?」


「それがな、なんか視界が暗転してよ、気づいたらシティとそっくりの別の場所にいたんだぜ。なんて言えばわかりやすいかな…………こう、街が無人になって数十年放置されたみたいに荒廃しててよ、空は分厚い黒雲で覆われて街自体もなんか霧が掛かって見づらいんだわ!『なんだここ?』っておもったら、身長2m越えの筋肉の塊みたいな牛頭の魔物がいきなり襲ってきてよ、後はそんな感じでずっと殴り合いっぱなしよ!そんな感じの敵がどんどん湧いてきてよ、手こずってるとさらに増えてくんだ!すっげえ楽しかったぜ!!」


 頭のネジが数本飛んでるバトルジャンキーは極めて楽しいクエストの様に言うが、そのクエストはそういうクエストではない。

 スピリタスが発生させたクエストの本来の趣旨は『短い期間に悪性を一気に強めた、ヤンキー野郎更生クエスト』といってもおかしくないのだ。


 普通に考えてゲーム空間でスキル・魔法無し縛り時点でなかなかぶっ飛んでいるし、闘う相手は自分より体格に優れた化物共ばかり。どんなゲーマーも心折れても妥当なくらいな鬼畜難易度なのである。


 クエスト自体はクリアする必要はなく、一定時間過ごしたうえで一定回数死亡することでリタイアが可能になり通常世界に戻れる。ただしそれは『挑まれた勝負から逃げた』ことを意味するので厄介な称号を与えられ更に弱体化させられるどっちに転んでも地雷付きのクエストなのである。


 しかし世の中には例外がいる。

 襲い来る敵を『ようやく骨のある殴りがいのあるやつがきた!』としかとらえてない奴とか『暇と家の財力にかまけて格闘技全般は経験済みのガチプロ戦闘民族』な奴とか『バカゲーのせいで異常なまでの戦闘に対する勘が研ぎ澄まされ、獣じみた動きをする奴』とか『戦闘を経験するたびに戦闘技術が上昇していく産まれた時代を間違えてる奴』とかは存在するのだ。

 とは言え、仮定としてそのような人物がいたとしても、それが一人の人間の特徴となるとそれはもう製作側の想定の範囲を超えている。


 結果としてスピリタスはソロで十数日にも渡り極限縛り状態の中での無限ガチンコバトルを続行。

 そんなことをしていれば当然ステータスはメキメキ成長する。

 そして裏世界にいたせいで誰にも知られることなくスピリタスはそのままランク9に到達してしまったのだ。


 因みに彼女が倒したクエストのラスボスは本来ソロで討伐できるものでも単純な物理攻撃で倒せるものでもない。

 それをゴリ押しに次ぐゴリ押しでスピリタスは撃破。本来完走を想定されていないお仕置きユニーククエストを根性と闘争心で完走しきってしまったのだ。


 其の異常さは、クエストをクリアするだけで『本当に人間を卒業してしまい』悪鬼へと進化していることから察することができる。要するにALLFOを管理するAIを以てしてスピリタスは見事『人外認定』されたのだ。


「んでよ、そん時色々習得できた物はあんだがこの『オリジナルスキル』ってのがすっげえぶっ壊れててよ!」


 その一言で、今まではツッコミどころが多けれど固まることはなかった空気がピシっと固まった。


 散々自らの色々な面に対する火力の高さを語ったスピリタス。そしてオリジナルスキルのぶっ壊れ具合を既に見せつけているノート。この二つの情報を持つ者からすればその情報は核弾頭級の破壊力があった。



「お、おまっ、お前オリジナルスキルもってんのか!!?」


「一番持っちゃいけないタイプの人種なのにぃ!!」


 なかなかユリンは失礼なことを叫んでいたが、目を見開いてフリーズしているヌコォもポカーンとしているネオンも残念ながらそれを否定できなかった。


 そんな空気は御構い無しにスピリタスが解説したそのオリジナルスキル〔戦覇真拳勝負〕はまさしくぶっ壊れた効果を持っていた。


 〔戦覇真拳勝負〕は一つの存在を対象に発動するスキルだ。スピリタスによりスキルの対象に指定された存在は格闘系以外の強制武装解除、スキル・魔法の封印が施される。この時スピリタスもこのスキル以外の一切のスキルや魔法は使えないのだが、その代わりスキルの対象外から受ける攻撃は真剣勝負の横やりとして大幅に被ダメを下げることができる。

 そして指名され力を封印された方はスピリタスのMPが尽きるか、スピリタスを倒すことでしかそのスキルの影響下から逃れることはできない。


 無論、最強万能というわけではなく、自分より強い存在ほどスキルを維持するMPもガンガン増えるしその封印も完全ではなくなり一部の能力しか封じられなかったり、被ダメカットも効果が薄くなる。


 要するに、オリジナルスキル〔戦覇真拳勝負〕はスピリタスが強いられた様に、『対象を自分の土俵に強制的に引きずり込んだ上で『真剣勝負』を挑む』ことが可能なまさしくぶっ壊れスキルなのだ。

 そしてその土俵は『ほとんど全ての格闘技を経験した総合格闘技系のプロ』が相手。普通のPLにとってはいじめにもほどがあるだろう。


 しかもこいつは悪用しようと思えば更に悪用できる。


 それこそネオンの様な後衛大火力魔法使いを〔戦覇真拳勝負〕の相手に指定。後衛はスキルの効果で魔法を使えなくなるので一瞬で無力化可能になり、スピリタス自身は『真拳勝負』状態に移行するので対象以外の攻撃に対する強力な被ダメカットが発動し敵本陣に突撃し暴れまわることもできてしまう。


 まさしくぶっ壊れ性能のオリジナルスキル。たった一手で戦況をひっくり返す恐ろしい能力だった。一応、職業が『挑戦者』系、『喧嘩師』系の両方を定めているなど他にも発動に際して細やかな制約はあるのだが、スピリタスにとってはほとんど意味のない縛りだった。



「なんじゃそりゃ…………まるで意味が解らん」


「いやいや、すでに軽く説明されてっけどノートの方の戦力のほうが意味わかんねえぞ!!自分をすぐに棚に上げんじゃねえ!!

 ずっと黙ってたが暫定エンドコンテンツを従えてるお前が言うんじゃねえよ!!オレも意味わかんねえよ!

 普通のプレイヤーにお前らのこのホームだの仲間の戦力だの公表したら誰も信じねえくらいだぞ!!『まるで意味がわからん』はこっちのセリフだ!」


「お、仰る通りで」


 一方的に異常認定されてることがおかしいと感じたのかすぐに言い返すスピリタス。スピリタスもツッコむと面倒だからスルーしてきてはいたが、ノート達の状態には表に出さなかっただけで人並みに驚いていた。

 特にスピリタスはほんの少しとはいえ街の中にいたこともあるし、一般のプレイヤーと同じ目線で今までは戦ってきていた。それだけにノート達のぶっ壊れ具合がより如実に表れて見えるのだ。


「まあ、なんだ、俺もオリジナルスキルもってるんだ。2つな。たぶん現状じゃ俺とスピリタスだけじゃねえか?」


「おぉ!2人だけってなんかいい言葉だな!なんだよノート、てめぇも持ってんじゃねえかーーー…………なんて言うと思ったかっ!猶更お前が言うんじゃねえっ!!しかも2つもってどういうことだっ!?こっちに説明させるならそっちも説明責任を果たせよ!!お前めんどくさがってまだしゃべってねえこといっぱいあるんだろ!?」


「イヤーソンナコトナイゾー」


 ノートはスピリタスに胸倉掴まれてゆすられるが、全く動じることなく目を反らす。しかしその視線の先には現状ではどんなプレイヤーでも作れないオートマタもどきだの豪華な晩餐だの、まだ飯を食い続けている悪魔勢だの、もう人と遜色ない思考ルーチンで片づけをし始めているノート達の配下の姿があった。

 

 ノート達にとっては馴染みすぎた光景だが、そもそも“高度な会話が可能な配下NPC”など世界規模でみても一つとして確認されていない。『エンドコンテンツ級がホームで寛いでる』なんてこともないし、そもそもホーム自体まだ所持できているプレイヤーがいない。

 無論、『既に二段階目の進化に到達している配下NPC』なんてものもいないし、『全員ユニーク個体』なんてどんな天文学的確率?と問いたくなる状態だ。

 そもそも、『ユニーク個体』自体がPLにまだ認知すらされていないのだ。

 スピリタスこそ「一体どうなってんだココは。オレの頭がおかしくなっちまったのか?」と言いたくなる状況である。


 そもそも、冷静に考えて『配下NPCが生産活動を行うこと』自体が極めて異常なのだ。それが許されているなら『生産職』の意味がなくなるし『副職業』の価値も大幅に下落する。だというのにノートの配下たちは実に自由に色々なことをしている。厳密にはしでかしている。

 スピリタスはとても喜んでいたものの、本来ならば『配下NPCがプレイヤーメイドを鼻で嗤うクオリティの武器や防具を作って納品する』ことはゲームバランスそのものを歪ませかねない明確な異常なのだ。



 その他諸々の疑問がついに抑えきれずノートに問いかけるスピリタス。そこからノートは今までの自分たちの溜め込んでいた情報をすべて吐き出すことになり、今度はスピリタスが「なんじゃそりゃ…………」と唖然とするのだった。




  


【システムログ(予約投稿)】

( ・ω `)ザザッ……こち……ミニ……


´ ω・`)感度は…極めt…ザザッ…不良………


( ω・` ここn…ザザザッ…私の記録(予約投稿)……残し………


(´・ω...:.;::..すまn………これ以上h………


(´・;::: .:.;:..  I'll…be……back………

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  それこそネオンの様な後衛大火力魔法使いを〔戦覇真拳勝負〕の相手に指定。後衛はスキルの効果で魔法を使えなくなるので一瞬で無力化可能になり、スピリタス自身は『真拳勝負』状態に移行するので…
[気になる点] そういえばパーティ名の『祭りの拍子』って誰がどういう意味でつけたとかってどこかで説明ありましたっけ?
[一言] 戦覇真拳勝負って一対一なら強いけど多数相手だと微妙そう スピリタスに拘束系のスキルとか魔法つかって時間稼げば普通に勝てるのでは
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