No.48 団子
(´・ω・`)某会社の回し者でも藍敦先生でもありませんよ…………
(´・ω・`)でも藍敦先生の作品でらん豚感染したのよー
「ノート兄、マジでやる気なのぉ〜?」
「いや、ここまで来て何ゆうとるがな」
ザックリとした計画を立て目的地に到着したノート達。
そこは深霊禁山と第2の森の間の非戦闘区域。川底まで見える清らかな川に沿うように光る石が設置してあり、実に心休まる美しい光景が広がっている。
どんな荒くれ者でも少しは感じ入るものがあるであろう清涼な場所であり、ここが『非戦闘エリア』なのもよくわかるものである。
今回はバルちゃん同伴でありながらノート以外のメンバーは幽霊馬車に待機。ノートだけはなぜか川の浅い部分で仁王立ちしていた。
「(ALLFOは啓発的なところがあるゲームだ。殺人でペナルティ、希少種狩りでもペナルティ、山の不法投棄ではおっかないものに追いかけられた。
で、ふと気になった。ゴミのポイ捨てを『森以外でやったらどうなるんだ?』と。もしエリアごとに起こるイベントが異なるとしたら、そうだとしたら………)こんな綺麗な川でゴミを大量にばら撒いたらどうなるんだろうな!」
ノートはコンソールを操作し、複数選択していた数十に及ぶ装備と再利用すら出来ず売っても端金にしかならない野盗のボロの服などをオブジェクト化、つまり川の中に一斉に投棄した。
それと同時に素早く川から上がるノート。川は深くても膝までの高さしかなく流れもゆっくりだ。小学生でも気軽に遊べそうな水深である。
そこに積みあがる鎧や剣、盾に弓……さらにその上に数えるのも嫌になる量のボロ服が張り付いていく。大量に投棄された装備品は小さな清流をあっという間に塞きとめる。
だが、何も起きない。
実験失敗か?とノートが川に戻り装備品を回収しようとし始めた、その瞬間だった。
川沿いに並べられた光る石がノートがごみを放棄した近くから順にその光を失いバキバキバキバキっ!と連鎖して砕けていくのだ。
「お、これは成功か!?」
慌ててダッシュし幽霊馬車に飛び乗るノート。現在の幽霊馬車は背面をハッチのように開いているのでスムーズに飛び乗れる。身軽な足取りで馬車に飛び乗ったノートが振り返るころには、清らかな川が不自然なまでに急に澱み始めていた。
毒毒しい濃い緑と黄土色と黒茶色を混ぜ合わせたような形容しがたい色の泥。その泥が捨てられた装備品に覆いかぶさり、川が枯れて全ての泥が投棄されたゴミの山に絡みつく。
泥から立ち上がる紫色が混じった湯気。むせ返るような凄まじい腐臭。
『非戦闘エリア』モードが強制解除される。
「やっべ、予想通り!全員食料とか確認!」
「え、あれ?全部、腐って、ます!?」
「オレも全滅だなっ」
「私も全滅。ポーションもダメ」
ノートの指示を受けてアイテムを全員が確認すれば、ノート達の誰もが例外なく、実験のために事前に持っていた食料品系アイテムを腐らせてしまっていた。
予想の範疇ではあるが、それがいいことなのかといえばNOと全員が答えるだろう。
「馬車のアイテムボックスは………コイツは大丈夫だったか」
ノートはすぐさま馬車のアイテムボックスを確認してみたが、アイテムボックスは判定外だったのかそちらの食料品は変化はなかった。不幸中の幸いだが、刻一刻と変化する状況に安心できる要素はなかった。
「の、ノート兄、ボクも食料品腐ってたけど、聖水と捨て忘れてた『戦闘糧食』だけ無事だった…………」
「あの超級ゲロマズまだ捨ててなかったのか!?てかそもそも腐ってないの!?原材料にそこはかとなく危険を感じるな!いや、そうじゃなくて、みんな一応装備品を今回限りのサブのサブにしてもらってるが、装備品はどうなってる?」
「あ、装備品も耐久落ちてきてる。なんもしてないのに…………もしかしてアレが原因?」
ユリンの指差す先にはグニグニとまるで生きているかのように動きだしている泥の塊。
そこに平べったく垂れた目と口のような影が現れた。
「そうだ、アレがおそらく原因だな。うっ!本当に臭いな………」
鼻を腕で覆うノート。それと同時に泥の塊から腕のような物がゆっくりとノートに向かって伸び始める。
「これはマジでやべえぞ!馬車だしてくれ!」
かしこまり!と言わんばかりにパシーンと心地よく響く鞭の音。馬車はノート達を乗せて2の森に突撃していくが、泥の腕は早そうに見えないのに一定の距離を開けて延々と追跡してくる。
「あ、これは本当にヤバい死ぬ」
馬車はスピードを上げていくが、不気味なまでに腕の距離は変わらない。
「どうする…………どうすればいい…………コイツのモデルがジブ◯繋がりなら、コイツの対処法は………………」
ノートが熟考モードに入ってる間、投げナイフなどを投げて撃退を試みるヌコォ達。だが泥の腕には攻撃が吸い込まれていくだけでなんら意味があるようには見えなかった。
「ノート兄さん、こいつ物理攻撃は効かない。森のアレと系統は一緒」
「殴ってどうにかなりそうな見た目でもねえしな…………泥なら焼いてみようぜっ?」
「そうだな。ネオン、炎系統の魔法を」
「了解です」
ネオンが放ったのは5m大の黒い火球。だが泥の腕はジュッと音を立てただけで炎を相殺し、見たところ完全にノーダメージだった。
「物理も魔法もダメか」
「主よ、森に続き今度は川の怒りを買ったようだがそこまで痴れ者とは」
「痴れ者かどうかはこっからだよ。何処かに突破口はある。倒せなくても奴を止められる方法が…………」
馬車の奥に乗ったバルバリッチャは呆れたような口調だが、その反面考え込んでいるノートに対し口元は僅かに釣り上がっていた。
つまり完全に絶望的ではない、何か手は必ずあるとノートは考えを巡らせていた。
「この泥の手をどう止めれば…………いや、原因を断てばいいのか?」
「ノート兄、どうすればいい?」
不安げなユリンを見てノートはその頭を撫でると「原作準拠か?」と呟く。
「この泥の手、ターゲットは間違いなく俺だ。もしかしたらユリン達は巻き添え食ってるだけかもしれん。だから…………これはユリンにしか頼めないな。
ユリン、川まで戻ってあの泥の塊のゴミをどうにか取り除いてくれ。もしかしたら…………もしかしたら、泥の中に紐があるかも知れん。それを引っ張れば…………元ネタ通りならそれでいけるはず。だが泥の手の対象が俺だけじゃない場合ユリンに危険が…………」
「ノート兄、それこそゲームなんだから、挑戦してみようよ!ノート兄もよく言うじゃん。『ゲームなんだから』って!」
「ノート、指示は早く出せよっ!」
ノートに発破をかけるユリンとスピリタス。
少し驚いたような顔をすると、昔と同じようなその懐かしい光景にノートは吹っ切れたように非常に楽し気に笑った。
「オッケー!ネオンは天窓開けてくれ!スピリタス、ユリンを“投げろ”!ヌコォはあの“スキル”を!」
「おう!任せとけっ!」
「昔よくやったよねぇ!」
馬車の両開きの窓を開けるヌコォとネオン。スピリタスが投球フォームのような格好をすると、その後ろに引かれた手に向かってユリンがピョンとジャンプする。
「超久しぶりだしミスったら許せよっ!」
「絶対に許さないから成功させて!」
「〔グラヴィティンド〕」
スピリタスの手の平の上にユリンが乗るか乗らないかのタイミング、そのタイミングでヌコォのスキルがユリンに発動。ユリンから殆どの重量が消える。そしてスピリタスは手の感触を頼りに自分の腕を投石機のように見立てて全力でユリンを投げ上げる。
GBHWで行っていたコンビネーションをユリンとスピリタスは約10年ぶりながらその天性のセンスで一発で成功させる。
飛翔モードの状態で“重さをヌコォに盗られて”軽くなったユリンは強烈な力に押され一気に上空へ上がる。そして最も高い位置まで来たところで滑空モードへ。
「ネオン、風を拡散させる魔法を!」
「はい!《ウィンドエクスプロード》!」
既に距離の離れつつあったユリンの背後、馬車の上で続けて暴風の爆弾が弾ける。
強烈な風圧がユリンの背中をグンっと押し、さらにユリンは加速して吹き飛ばされかねない暴風を卓越した身体能力で制御。その全てを速度へと変換し高速で滑空する。
「(あそこが森の切れ目……泥の手はボクを追っかけてきてないけど、あの泥の塊はまだ川にいる)」
滑空をしながら考えを巡らせるユリン。
インベントリに何か使えそうなものはないか探るが、どんな原理なのかだいたい劣化しているか腐敗している。無事なのは“何故か腐っていない”『戦闘糧食』、それと『聖水』。そこでユリンはハッとする。
「(聖水は劣化していない、ポーションは劣化してるのに…………えーっと、兄は万が一の時は、まずは泥の塊を温泉につけろ……はできないから清めればイケるかも、って何故か聖水を1スタックももたせてきけど…………っと、そろそろかな)よし、これでもくらえ!」
徐々に泥の塊が近づいたところでユリンが全力で投げた聖水……ではなく例の『戦闘糧食』。
「あ、ミスったぁ!」
無意識に処分してしまいたいと強く願っていたからか、うっかり戦闘糧食を投げてしまったユリン。戦闘糧食は泥に吸い込まれ、泥の塊が怒りに震えるようにブルブル震えるとゾァアアアアアと泥の腕がユリンに伸び始めた。
「うわあああああ、ヤバいぃ!旋回しながら、今度こそ聖水ぃ!」
ライトブルーの液体の入った金の瓶(聖水は一本1万MONもする)を投げつけるユリン。泥の手に聖水は吸い込まれ…………
「動きが、鈍った?よし、勝つる!」
ユリンはそれを見てメニューを素早く弄ると聖水を全選択。
「聖水爆撃!」
旋回して姿勢を整えると、滑空して泥の塊の上で聖水の残り98本を投下。
泥の塊は聖水を吸い込むと大きくグニグニと歪む。
「それかあああああああああああ!!!!」
そのグニグニ動く泥の中に煌めく物をユリンは見つける。それを見つけた瞬間、ユリンは特攻するように急直下。それをむんずと掴むと泥に突っ込みながら勢いそのまま引っこ抜く。
次の瞬間、ドブのような泥に落下する不快な感覚が金属にぶつかったような感覚に。それはノートが川に投棄した装備類で、ユリンは気づくと干上がった川の中に積み重なった金属鎧の上に寝転んでいた。
「あれ!?どゆことぉ!?」
キョロキョロ辺りを見渡すユリン。
そこでザザザーっという水の音がして枯れた川に大量の水が津波のように流れてくる。
「え、う、ちょっ」
為すすべもなくその暴流に飲み込まれ流されるユリン。
上も下も分からなくなる激流に飲まれ水が全て引いて気づいた頃には、投棄した装備品とともにユリンは川辺に放置されていた。
そしてその目の前には、翁面を貼り付けたような超細長い白濁した、ところどころ小さな足が生えた半透明の大蛇のような“何か”が浮いていた。
『ツギハユルサヌ。イマシメヲヒガシズムマデ二ウケイレヨ』
蛇についた手がズルッと伸び、その手の中にあった笹がユリンの前に置かれた。
その笹に載っていたのは黒に近い深緑の団子が2つだけ。推定『翁蛇』は唐突に動きだすと頭から川にズルズルズルズルズルズルズルと吸い込まれ200m近い体が全て川に消えた。
それと同時に川辺の砕けた石が発光し元に戻る。そして以前のような淡い光を放ち始め元のように『非戦闘エリア』となる。
「え、これ、これで終わり?」
何がなんだかわからないまま消えた泥の塊や謎のNPCにキャパオーバーを起こしたユリンは思考をすべて放棄し、再び非戦闘エリアになった川辺にゴロンと寝転ぶのだった。
◆
「いや、俺たちもびっくりしたよ。追いかけて来た泥の手が急に翁面の白い龍になってさ。これを渡して消えちまった」
泥の塊の災厄からユリンが逃れた同時刻、ノート達を追っていた泥の手も消えて、ノート達は寝っ転がっていたユリンを幽霊馬車に回収するとミニホームまで戻りリビングで今回の件について話しあっていた。
「それで、えっと、これ……食べろってことだよねぇ?」
見た目は黒っぽい深緑の泥団子。
緑の笹の上に団子は2つ。ユリンとノートの手前、机の上にはそれが1セットずつある。
「『次は許さぬ。戒めを日が沈むまでに受け入れよ』か。この団子の鑑定結果は『河戒之苦玉』……川の戒め、なんだよな」
ノートが団子を指でつまんで持ち上げると、その下の笹には達筆すぎるがギリギリ読める字が刻まれていた。
「『全ての戒め受け入れぬものに大いなる災いあり』ね。脅しかよ」
「ノート兄、でもこれ『食べたらヤバい』って気がする。首筋がチリチリするもん」
食べればいい、それはノートもユリンもなんとなく理解している。だが、その勇気が起きない。
「うじうじ言ってねえでさっさと食えっ!」
だが、そういったグダグダしたものが嫌いなスピリタスは団子を掴むとノートとユリンの口に素早く押し込んだ。そして吐き出せないように口をガシッと掴んで封じる。
途端にノートとユリンの顔色が青くなり、ジタバタと暴れてスピリタスの元から高速で脱出。床に倒れると陸に打ち上げられた魚のようにはねまわり、声にならない悲鳴をあげながら床をバンバン叩いたりゴロゴロ転がったりして、やがてグッタリと動かなくなった。
「え、えぇ!?死んじゃった……ノートさん!ユリンさん!」
ノートを慌てて抱きおこすネオン。ノートの目は死んだ魚のように光がなく、口がまるで強制されているかのように機械的にもそもそと動いていた。
「ネオン…………」
「は、はい。大丈夫、ですか?」
「俺、生まれて初めて知ったよ。苦味って凝縮しすぎると鈍痛になるんだな。アッパーカットの衝撃が頭に抜けた後のじんわりした痛みって言うのかな」
力のない声で呟くノート。ネオンはあわわわわわわ、と慌てる中、ヌコォは疑問を呈する。
「どうしてログアウトしなかった?そうすれば苦しまなかったのに」
「ヌコォ…………これ運営からのイジメだぜ。これを口に入れた瞬間、口が開かなくなった上にメニュー自体が出てこなかった」
予想以上の内容に目をパチクリするヌコォ。表目上は変化はないが、唖然としていた。
「そしてなぜ団子を小さい2つに分けたかと言えば、2回目をさらにキツくさせるつもりだ。
でも、あんな、あんな苦味という概念だけを抽出したみたいな団子……俺は……俺はっ……」
「情け無いことをほざいてやるな、主人よ!さっさと食うのだ。大悪魔たる我が手ずから食わせてやろう。こんな機会は2度とない非常に貴重なことだ。感涙に咽び泣きながらよく味わうのだぞ!
さあその口をさっさと開けよ!」
「おい、やめろ!せめて自分のペースで食うから!思いっきり楽しそうにしやがって!やめろって言ってんの!水とかジュースとか用意して飲んじゃえばもっと楽にいけるはずだから!」
「だが断る!」
ノートの命令にとてもいい笑顔で『拒否権』を初めて行使するバルバリッチャ。
そこでなにを騒いでいるのか気になったのか扉の隙間からひっそりと様子を見ているアグラットと目が合うと、ノートは目をかっぴらいて全力で無言のHELPアピール。
しかしアグラットは捨てられた子犬の様な非常に困り切った顔でノートとバルバリッチャを交互にみて、そしてプルプルと首を横に振るとしずかーに扉を閉じてしまった。
唯一バルバリッチャに対抗できそうな希望が失われ絶望したノート。彼女は悪意に満ちた非常にいい笑顔で、楽しそうに残りの団子を絶望し気がゆるんだノートの口の中に突っ込んだ。
ユリンの方では死んだ魚状態で、その半死のユリンにスピリタスが残り一個を強引にユリンの咥内へ投与。
ノートとユリンはおよそ人がしてはいけないようなカクカクとした動きでのたうち回ると、暫くして魂が抜けたようにグッタリとした。
「しぬ…………」
「ノートさん!?ノートさーーーーーん!」
目からそのわずかな生気が消えるノート。ネオンはノートを抱きかかえ揺すりながら悲鳴を上げるように叫ぶ。
それは映画の悲劇のワンシーンのようなのだが実際は『苦い団子を食べただけ』であり、ヌコォは珍しいことに誰でもはっきりわかるほど白けた目で半ば演技しているノートを見ていた。
そしてユリンはいつの間にかログアウトしていた。
ゲラゲラと爆笑するバルバリッチャ、スピリタス。アグラットはふたたび扉からそっと覗き込み、倒れ伏すノートをみて「お(か)しい人を亡くした」というかのような沈痛な表情で俯き、なんの騒ぎかと思い出てきたアテナ達がノートを見て悲鳴を上げると同時に慌てて駆け寄り、『祭り拍子』のホームはなかなかカオスな状況になっていた。




