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No.45 合法的


 事の始まりはネモを召喚した後。

 PLの魂とアンデッド系の魂が枯渇しそうなので、攻略wikiで見つけた各シティのアンデッド系のダンジョンにカチコミする(ついでにPL轢き殺す)ために幽霊馬車でノート達が再び下山したところから始まる。


 ネオンの加入で隠しパラメータの幸運が跳ね上がりレアMOBとのエンカウント率が上昇。さらに回復や付与も行ってくれるので希少種狩りが捗りまくったノート達。

 それがひと段落しナンバーズシティの外縁で休んでいると、明らかに『特殊イベント関係でござい』といった感じのNPCが現れてノート達に『金犬の盗賊団』の拠点防衛のクエストを持ちかけたのだ。

 

 このクエストに於いて盗賊側から依頼を持ちかけられるのは『街の近くにいる』、『悪性の強いプレイヤー』だ。

 ノート達がナンバーズシティの近くに来たことで図らずもイベントフラグを踏み、クエストが持ちかけられたのである。



 ノート達は運営に文句を(極めて)言われることなく(合法的に)プレイヤーを殲滅できるということでこれを快諾。詳しい取り決めは他にもこのクエストを受けた者達も集合してから行うということでノート達は『金犬の盗賊団』の拠点に案内された。


 斯くして、彼等は対面した。



「え゛!?うそぉ!?」


「どうしたユリン…………って、ん?…………んんんん!?いや、いやいやいや、だけどアイツはアバターの顔は弄ってないって言ってたし…………」


「あ゛?んだよテメエ…………名前はノートとユリンか。覚えたからこれ終わった後ツラ貸せ…………ん?ノートとユリン?まてよ、ノートとユリン…………」


 かたやゲームというものを始めてから本名をもじったプレイヤーネームを使い続ける2人組。かたや豪快すぎる性格でキャラメイク時に顔パーツを全くいじらない人。


「「「ああああああああああああ!?」」」


 互いの脳裏をよぎる古い、しかして大切な記憶。それが弾けた瞬間、感情が爆発したスピリタスがノートに問答無用で飛びかかる。


「久しぶりだなぁっ!ノート!!!」


「おう!!ってそのジャンピングはぐえええ!?」


 自分とあまり変わらない体格の人間がジャンピングハグをかましたらどうなるか。ましてやスピリタスは筋力にけた外れの補正がかかっている。

 避けるかどうかという選択の中で、スピリタスの性格をよく把握しているノートは「こいつぜってぇ後のこと考えてない!」と結論づけて抱きとめる体制に入るが、立派な胸部の双丘のプレスでぐらついたところを更にハグされて背中から勢いよく倒れる。


「マジ久しぶり!あんま昔と目線の高さ変わんねえけど!いやぁ、会えっかな〜なんて考えてみたこともあったけどマジで会えるとか!!!」


 馬のりになって超ハイテンションではしゃぐスピリタス。それにノートも苦笑しつつ応える。


「わかったから、俺も嬉しいから!えっと今は『ブラッディメアリー』じゃなくて『スピリタス』だっけ?一旦どいて………ちょっ………いい加減話を聞け、(ミヤコ)!!!」


「おっと、耳元で騒ぐなって。リアルネーム言うのはルール違反って教えたのはノートだろが」


「お前が壊れた時の唯一の対処法だからだよ、全く。無鉄砲なところがなんも変わってないな」


「説教臭えのは昔からだなノート」


 嫌味を言い合いつつもケラケラと笑う2人。ノートが拳を出すとスピリタスも拳を合わせる。


「改めて、久しぶりだな“ブラッディメアリー”」


「懐かしい名前で呼びやがって」


 ニッと悪友をみて笑うノートとスピリタス。


 ユリンがヤキモチで大爆発するまで後5秒。







 いつまで馬乗りになってんのこの痴女!?とツッコミを入れつつスピリタスをユリンが引き剥がした後、何がなんだかさっぱりわからないヌコォとネオンにスピリタスを紹介するノート。


 ネオンにとっては天敵のようなオーラを放つスピリタスに縮み上がりネオンは一時的にまともな言葉が話せなかったが、ノートにがっしりしがみついた状態でノートに仲介してもらうことでネオンは最低限の自己紹介ができた。

 そして『何がなんだかわからないが旧知の仲だったらしい彼等は勝手に盛り上がり放置される盗賊団団長やその他幹部』などとツッコミどころのある一幕を挟みつつ漸くノート達は話し合いを始めた。


 スピリタスはその場でノートとユリンがいるならとパーティーに入りたいとゴネて、ノートもどうだろうか?と好意的な姿勢でパーティーメンバーに聞いたところ、ユリンだけはプンスカしていたが、ネームは絶対プライバシーモードにしておく約束で結局参入。話し合いはパーティー『祭り拍子』のトップであるノートに一任された。


 当然盗賊団なんて悪性の強い連中なので最初は足元見た条件をふっかけてきたが『ナマ言ってんじゃねえぞ?』とスピリタスに掴み上げられ(スピリタスは直情無鉄砲だが馬鹿ではない。むしろ利益の計算や心理戦を真面目にやると結構強い)ストレートに脅迫された団長は、僅かに恐慌状態に陥った瞬間ノートのオリジナルスキルの効果で完全に服従し、そこからはノートのワンマンライブ。ノート達にとっての最高条件で契約を締結した。


 その後は作戦を立てる段階になったのだが、ヌコォは掲示板などの僅かなやり取りから考えられる相手側の作戦を予測。

 決定的だったのは農業スレの裏板の『戦闘系プレイヤーがスコップやバケツを何故か買い占めている』という書き込みと、それに対する大規模な作戦行動をほのめかす書き込み。

 そこをちょっと煽り立てるようにつついてみればそのPLは更に情報をゲロってくれた。それだけあればヌコォは芋づる式に相手の考えていそうなことをいくつも推測できる。


 もし盗賊側にPLがいようとも、人の見ていないところでは気が緩む。『選抜された100人の中に選ばれた』という事実は人の気を大きくし、酒のように優越感を酩酊させる。

 書き込んだ本人にとっては少しそれを自慢したかっただけだ。しかしそれが致命傷になった。

 そしてひっそりと潜入したヌコォが下見を行い、討伐隊が生き埋め作戦を取ろうとする確率が極めて高いことを確認した。


 もうノートに言いなり状態の盗賊団は、それが判明した後にノートの命令で大胆にも必要最低限の物をまとめて全員拠点から避難。中側はネオンが付与魔法で頑丈に補強することで盗賊団に対して拠点の安全は保証。感知を誤魔化すために丘の中にネオンを残し、大量の案山子スケルトン軍団をノートは召喚した。


 隠蔽状態のヌコォは作戦の中核であるドラクの部隊が街を出た時からスニークし情報をリアルタイムでメッセージ機能を使いノート達にリーク。ヌコォの予測していた作戦群の一つが当たっていたことの裏付けが完全に取れ、崩落と同時にノートは召喚したスケルトンを一気に消滅させまんまと斥候系プレイヤー達を騙したのだ。

 なので崩落したのはあくまで見せかけで内部の重要な部分はノーダメージ、盗賊は一人として死んでいないどころか遠くの小山から呑気に文字通り高みの見物をしていたというわけである。


 あとは再びプレイヤー達が丘に集まったところで丘内部に残っていたネオンにノートがメッセージで指示を送り、現時点で最大最高範囲の貫通系魔法を頭上にぶっ放して貰う。


 粗方の雑魚を殲滅すれば、あとはずっと潜んでいたユリンとスピリタスの出番だ。ランク10のネオンが付与した隠蔽化のマントを被ればたかだかランク2程度の斥候では感知は不可能。

 最初からワンサイドゲームなのを知らないままドラク達は殲滅された。


 そしてすべてのプレイヤーを殲滅したことでクエストがクリアになった時点でノートと盗賊との縁は切れる。

 生かしておくと他のPLに襲われた際に助太刀してくれるなどと言う胸熱な展開もあるのだが、ノートにしてみれば希少な召喚素材且つ、殲滅すると丘の内部に溜め込んでる物品も全部かっぱらえる存在を生かすと言う選択肢は最初からない。

 試運転にちょうどいいと言わんばかりにメギドと、ランク10になって獲得したメギド召喚により簡易召喚に追加された新しい死霊をもってして一瞬で其の悉くを殲滅した。

 

 其のあとはメギドを待機状態に戻して、再召喚した幽霊馬車に乗りユリン達と合流。埋め立てられた丘の出入り口を再び開通したあとはネオンと合流。スケルトンの漢解除でトラップを全て破壊していき、盗賊団の溜め込んでいた物資を根こそぎ回収。

 その後は面がある程度割れていて暴れたりないスピリタスをアンデッド系が出てくる特殊エリアに送り込み、大量に魂のストックを作ってもらったところで漸く彼らがストーンサークルへ帰還することになった。



 これが、『金犬の盗賊団』討伐戦の全貌である。



 つまり、ノートは魂のストックを400以上合法的に回収。その他諸々まで全て掻っ攫い残酷なまでに一人勝ちしていたのだった。

 因みに今回の件で某主任は精神的ショックで気絶したそうな。



—————————————————————


※一応補足。『漢解除』とは、トラップなどを正規の手段で解除せず、戦士など頑丈な連中が罠に自ら引っ掛かり罠を無効化する極めて漢らしいトラップの解除方法。ノートの場合これを使い捨て出来るスケルトンで行っています。


(´・ω・`)生産系のスレは誤情報を警戒して基本的には名前を晒します。


(´・ω・`)それに対して名前を晒したくなくUNKNOWNモードで話したい人たちが集まる場所を『裏スレ』または『裏板』と言います。だったら外部掲示板使えばよくない?と思うかもしれないですが、あまりにも悪質な誤情報を投下した場合はAIがチェックしてペナルティを与えるので『致命的な誤情報』は裏スレにありません。なのである程度は安全が保障されています。

しかし、それで開き直って裏板はみんなでライアーゲーム状態。合言葉は

「騙されるほうが悪い」

「無様だねぇえ」

「約束したよ?でも守るわけないじゃあああああーーん!」

「ダウト」

そして熟練の裏板戦士はそこに『本当に有用な情報を載せる』、極まれに。

しかし疑心暗鬼に陥り皆はなかなか信じない。そしてそれが本当だったことを知り、皆から遅れを取ったことに気づくと

「ふざんけんなぁああこんな結果が認められるかぁああ!!」

と書き込むまでテンプレ。


そしてそんな有用な情報を投下した直後に特大の地雷を踏ませてくるのもテンプレ。

なんてあくどい奴ら。人の心を捨ててしまったに違いない。しかし、なぜかやたらトッププレイヤー層が混じりやすいという推測もなされており、表板よりも価値の高い情報が急に投下される確率も高い。いわば大外れで更に赤字を引き起こす恐怖の宝くじです。



そこには愉快犯なとあるPKer共も出没し、自分たちの仲間の技術力がいかほどの物なのかを秘密裏に計測。或いはそこに投下された情報を試させてみたり、気まぐれに「本当に有用な情報」を流してみたり。

日本のみならず英語圏の板にも数人一組で参加し、裏で示し合わせて引っ掻き回してます。誰なんだろうこの外道共。裏板適正高すぎ。


たぶん日本の生産裏板で最も

「ふざんけんなぁああこんな結果が認められるかぁああ!!」

と叫ばせ裏板民をおもちゃしてゲラゲラ笑ってるのはそいつ等。そしてこの働きによりトッププレイヤー共も裏板から離れられない好(悪)循環を引き起こしている。


基本的に名前を晒す表の生産板では自分たちが手出しできないのを早期の内に把握したが故の方策。

どこまでも汚い。どこまでも外道。


今日も裏板各所では

「ふざんけんなぁああこんな結果が認められるかぁああ!!」

という叫び声があがっているとか。



※ヌコォが関係ないはずの農業裏板にいたのは一体なぜなんでしょう?



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― 新着の感想 ―
[良い点] 交渉の絵面が完全にインテリ若頭と武闘派の部下のオハナシだわこれw [一言] まぁそもそも盗賊NPCとか契約終わった後始末しても誰一人困らないからそりゃリソースにしますよねってw もし困るの…
2023/05/11 02:26 通りすがり
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