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No.36 必殺 娘を末永くよろしく云々土下座





「それで、訓練成果はどんな感じ?」


「リプレイ動画を見てもらいながら説明する」


 ネオンの電撃参入から5日。

 ネオンのパンドラの箱のパーティーメンバーに対する補正性能は凄まじく、称号により強化された森の中のMOBも、称号取得前と同じくらいの強さに感じるほどには能力値をあげていた。


 ノートとユリンはネオンの初期限定特典『パンドラの箱』の能力の検証を5日間連続で行い、その間の5日間ヌコォは自らネオンの訓練教官を買って出た。


 ログインすれば色々と会話はするものの、「ノート達には訓練成果を見せずあっと驚かせよう」というヌコォの提案によりネオンは毎日許された時間の中で頑張った。いや、従来真面目で努力家なので、わざわざ他のゲームの攻略本やヌコォにお勧めされた実況動画まで読み漁り、戦闘のノウハウやゲーム的な常識を頭に叩き込みヌコォの元で実践した程だった。


 その勤勉さは凄まじく、ヌコォが『あくまで理想として出した訓練プラン(本当はこの程度やりたいけど、これを理想としてできるように、と別のプランを出すつもりだった)』をゾンビのような根性と驚くべき長期集中力でこなしていた。これにはヌコォも内心ドン引きだったが、ネオンが強くなってくれる分には構わないので『ネオンのやる気に下手に水をさすのも良くない』と考え鬼訓練プランをネオンができる限りは遂行させた。


 ネオンには凡庸さを発想でカバーしきれるノートのような頭の回転の速さも、ユリンのようなずば抜けた身体能力も、ヌコォのような天才的分析能力もない。だが彼女は不屈の闘志と、努力する才能、長期に続く集中力を持ち合わせて、要領の悪さと鈍臭さを完全にカバーしていた。


「うーん、指揮はすごい上手くなったな。メギドの性格をよく理解してる。てかこれもしかして全スキル暗記してるのか?なんか俺もチラッとしか思い出せないスキルを指示してるんだけど」


「単純暗記では極めて優秀。応用力の無さも『膨大な記憶や記録の中から“正解に類似するパターン”を思い出す』ことで対応してる」


「魔法も……堅実な運用だな。そこに加えて走りながら撃てるのは強みだよな。走り込む位置もなかなかよく考えて動けてる」


「攻撃しながらもそのスピードが維持できるところがミソ。敵に回ったら非常に厄介」


 後衛、特に魔術師(メイジ役)は固定砲台の役割を与えられることが多いので棒立ちになってしまう人も少なくない。無論、それを守る為にタンクなどが存在するわけだが、それに頼り切りになっている者などPKプレイヤーからすればいいカモだ。

 なので近接の動きに合わせて素早い移動ができ自衛できる魔術師はかなり重宝される。まだ拙いところは見られるが、そのノウハウをネオンはキッチリと習得していた。


「近接と投擲は………うん」


「こればかりはどうしようもなかった。ノート兄さんみたいに前衛職に接近されても凌ぐみたいなことはできない。あとすっごいノーコン。FF(フレンドリーファイア)が怖くて投擲は禁じた」


「マジか…………ま、仕方ないな」


 その一方で、残念ながら本人の才覚が大きく関わる近接戦闘や投擲に関してはヌコォでもお手上げだった。接近戦はセンスがないと言うよりは性格が全く近接に向いておらず、投擲に関してはヌコォが頭を抱えたくなるレベルで酷かった。

 そう、ネオンはそこそこ筋力はあれど身体能力はあくまで長距離系特化だったのである。



「中衛から後衛職としての動きは格段に良くなってる。それと予想通りパターン回避型。先読みはできないけど、パターンがわかれば脚で動いて回避できる。無理な体勢のよけ方をしてもそこからの復帰までが凄く早い。どんな状態でもあきらめず根性で戦闘続行しようとする意志がある。これはとても大きい」


「よく5日でここまで仕込んだな」


 少しの弱点は残っているとはいえ、五日前は右も左もわからないようなド素人だったのに、ヌコォの見せる動画の中のネオンにそのような感じは一切ない。まだ粗はあるが、まったくの別人レベルまで変貌していた。


「5日間の特訓だけでランク3に上がるほど彼女が努力しただけ。

 素養は0でなかったし、彼女は正しいやり方を教えて細かく指示を出せばちゃんと成長する。指示内容に一々突っかかったりせず、真摯に取り組んでくれる。

 でもそれは人の指示に従うことに慣れすぎていることの裏返しで、自分で考える力が少し弱い。あと大問題なのが、ノート兄さんがいないとコミュ力が一気に下がる。5日かけて私相手でもようやく少しは話す様になった。

 ノート兄さんがフォローしてくれるからノート兄さんがいると安心して話せるけど、ノート兄さんがいないとまだ不安があるみたい」


「んん〜〜、それでもかなり凄いと思うぞ?あれは自信のなさ、それによる不安から思考がまとまらなくて話せないタイプのコミュ症だから、このままなんども褒めて自信をつけさせてあげれば少しずつ話し方を覚えていけるようになる。

 今はまだその最初の段階だから話せない方が普通だ。「どうしてできないんだ?」って責めないでやってくれ。ヌコォと1対1でも少しは喋れる様になっただけ上出来だ。むしろ俺がいるだけであれだけ話せれば凄いんだよ」


「理屈では理解している。でも、自分で言うのも変だけど私は人を褒めるのに向いてない。相手の機微をノート兄さんみたいに上手く悟れない。育成ゲームのようにはいかない」


「そりゃそうだ。でもここまでよくやったよ、ネオンも、ヌコォもな」


 ヌコォの頭をノートが撫でると、ヌコォは目を細めてリラックスした表情になる。それはヌコォが心から信頼している者にしか見せない、とても穏やかな表情だった。


「今のネオンなら、エリアボスと戦わせても問題ない。猪や馬車などを使って巨体に突撃させる経験を積ませたから、自分より大きな敵だろうとあまり怯まなくしておいた。新しく取得した魔法とスキルもリストアップしておいた」


「そこまでやったのか。助かるな」


「うん、大変だった。だからもっと撫でる」


 席を立ってノートの膝の上に座るヌコォ。ノートは苦笑すると、ヌコォが満足するまで撫でてやる。そのついでにハグを求められたが、軽くハグしてやってすぐに離れるに留まった。

 無表情なヌコォの顔にほんの少し寂しさが見える気がしたが、それを察することができるのも家族とノートぐらいだろう。だがヌコォもそれ以上はノートにハグを要求しなかった。



「叔父さんも叔母さんも、娘が頭を撫でられるの嫌がるって言ってたが」


「遺伝子学的に当然とはいえ、お父さんの臭いが好きじゃない。あと撫でるのとても下手くそ。お母さんはハグがセットだから胸に顔が埋もれて苦しい」


「お前…………それ絶対叔父さんに言うなよ、叔父さん泣くぞ。叔母さんに関しては、うん、遺伝してるししょうがない。あの親にしてこの子あり、な部分もあるし」


 ヌコォの顔は父の遺伝子が優勢で、中身と体型はほぼ100%母寄り。妻子ともに不思議ちゃんでフリーダムなので、ノートは2人を相手に日々振り回されつつも頑張っている叔父を地味に尊敬している。


「今度またうちに来て。お母さん会いたがってた」


 放っておくと何をするかわからない愛娘ゆえに、ヌコォが一人暮らししている今も週末には夫婦仲良くヌコォの元を訪問して犬家は3人で夕食を摂っている。そこにノートがお呼ばれすることもあるのだが…………


「お前が唐突に「日本では従兄妹同士は結婚可能」と言う呟きをしないのと、叔母さんが“娘を末長くよろしく云々土下座”をしないと約束するならもっと気軽に行くのにな。親子共々フリーダムすぎる。

 叔父さんの顔が毎回般若になるんだけど、ちゃんと見てるか?翌日に怒涛の長文メッセージが送られてくる俺の気分わかってる?あれ怖いよマジで。返さないと更に絡んでくるし」


 分が悪いと見たか、ふいっと顔を背けるヌコォ。

 それでも『やらない』と絶対に約束しないあたりがヌコォがヌコォたる所以なのだ。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キンクリされた5日間のALLFO内の出来事など


・イベントは終了。結果はセブンシティが優勝。森の中に孤を描く様に石畳の通路が敷かれて他のシティとの行き来が楽になった。ヌコォの述べたようにナンバーズシティは時計状に配置されており、通路の開通で円を描く様になっている。

・成績が良かったシティ順にボーナスの商品がギルドの公式ショップに追加された。

・12の円形に配置されたナンバーズシティの真ん中に巨大な『日の丸シティ』が実装。簡単にいえば日本という『国単位』の代表シティが誕生した。これは他の国も一緒。アメリカの代表シティや中国の代表シティなども実装された。

・国を代表するシティ、通称ナショナルシティシリーズでは、国を跨いだオークションやイベントが開催される。ナショナルシティは通常のシティと違い、通常NPCの立ち入りはない。PLだけのPLの為のシティで、このシティにはホームを構えることはできない。

・ナショナルシティの施設はまだ1割しか開放されていないがグランドシナリオを進めると解放されていく。

(ここまでは街絡みなので主人公サイド無関心)




・ユニークスキル持ちが確認された。

・現在のALLFOプレイヤーはボス戦に加わった者たちは9割がたランク2になった。

追加実装

・ナショナルシティにバウンティハンターギルド設立。PKプレイヤーたちには賞金がかかる。(なおプライバシーモード状態のプレイヤーは[UNKNOWN]表示だが、PKKされた時のペナルティーが跳ね上がる仕様となっている)

・特殊NPC『バウンティハンター』が実装。シティの周りでPKすると容赦なく殺しにかかってくる。PKをしたプレイヤー1人につきランク+10の強さで放出されるヤバい存在だが、凄い頑張れば倒せないこともないらしい。

だがぶっちゃけるとノート達の『幽霊馬車』に追いつけないので全力で逃げに徹すれば逃げ切れてしまう可能性大。今後更なる強力なバウンティハンターの登場も示唆されている。

・ホーム機能追加。ギルドで各シティの中にホームが買える。ただし高額。質を求めるとキリがない。


未確定情報

・『ユニークシナリオ』を日本サーバーではさらに2人の人物が発生させているらしい。

・シティの周りには不可視の理不尽敵性MOBがポップするらしい。

・1人ハイエースされた。ユニーククエストの可能性あり

・シティ周辺の詳細な地図が超高額で出回っている。

・シティ周辺の地図のデータはとあるサイトで製作過程がきちんと公表されておりRMTで購入できる。(ALLFOはアイテムのやり取りにRMTがないか異常に目を光らせているが、今回の地図はALLFO内のアイテムのやり取りではなく自作した物のため黙認。簡単に言えば、ALLFO内のレアスクショを現金でやり取りしている分類に近い)





誤字脱字報告いつもありがとうございます。

これからも拙作をよろしくお願いいたします。



追記;VR週間1位とれました。皆様に深謝申し上げます。<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[気になる点] (なおプライバシーモード状態のプレイヤーは[UNKNOWN]表示だが、PKKされた時のペナルティーが跳ね上がる仕様となっている) そんなデメリットがあったのか… ここで言うペナルティ…
[一言] 100年後も動詞化されるハイエースって書こうとしたら他の人も気にしてて草
[一言] すごい、初イベをユザパるVR小説初めて見た() …(ユザパるって動詞、戦闘の省略だけか?())
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