No.30 ゴミはきちんと持ち帰りましょう
今度は間違えない。
予定では本来なかったお詫びゲリラ投稿します。これで許してくださいませ
「主人らは、楽しそうだのう。石掘りの準備によくそこまで楽しげになれるものだ」
「そんなこと言いつつ、石掘りに付き合ってくれるバルちゃんが大好き」
ミニホームに帰還した3人はプロジェクト名を『ゴンドラ鉱石採掘作戦』と命名し、本腰入れてゴンドラや糸の製作、滑車部分の設計を開始。それと同時にメギドの調教(手で糸を任せると暴れたとき困るので腰に紐を巻くことにした)をして前にゆっくり歩くことと後ろ向きにゆっくり歩くことを頑張って覚えさせた。
そして予想以上に大掛かりになった採掘作戦は予定の9割を消化し、遂に採掘ポイントを探しに深霊禁山に入るので例のごとく「探知をお願いします」と(今回は土下座で)頼まれたバルバリッチャは呆れたような表情で幽霊馬車に乗る。
「レッツゴー!」
ユリンの楽しそうな声で動き出した幽霊馬車。BOSS級が出現する領域を通過したあたりで、打ち合わせ通りヌコォが採掘ポイントを本格的に探し始める。
「…………近い、ここら辺なんとなく怪しい」
そうして捜索すること1時間。ヌコォが初めて見つけたところと別の地面に大きな亀裂の入った場所を見つける。
予定通りアテナの作成した糸から作り出したロープをメギドの腰にしっかりと固定していくノート。
今回は特別に同伴したアテナも馬車から降りてヌコォがインベントリから出したゴンドラのパーツを手際良くその場で組み立てていく。
ALLFOではある程度以上大きな製作物はインベントリにしまえない。しまえるアイテムもあるが、これは現段階では製作不可能だったので断念したのだ。
だがゴンドラなどの製作物は一度作ってしまうとデスポーンまでそれなりに時間がかかる。なので簡素な作りにしてその場で組み立てた方がいいのでは?という結論が出たのだ。
そんな試行錯誤の上で完成したゴンドラをメギドに繋がるロープに繋げる。そしてアテナ・ゴヴニュ合作の巨大な滑車を切り立った部分の端にアテナが大工技術で固定。ロープをレールに通してゴンドラをゆっくりと吊り下げる。
ゴンドラは音も立てずに少し揺れた後静止し、メギドも全く辛くなさそうで木の枝を拾って天牛虫の頭に食わせていた。
作戦の第一段階は問題なし。つづけて第二段階へ。ノートは少しマッチョなゾンビ『グレードゾンビマイナー』を6体召喚しゴンドラに乗るように指示する。ゴンドラに既に積んであるピッケルを装備するように言うと、ゾンビは6体ともピッケルを持った。
そしてメギドにゆっくりと後ろ向きに歩いてもらうと、ゴンドラが徐々に下がっていく。ゆっくりと降りていくゴンドラ。だが途中でゾンビがピクッと反応しゴンドラが少し揺れた。
「そこか。グレードゾンビマイナー達よ、採掘開始!」
ノートはそれを見逃さずゾンビ共に即座に命令を下すと、ゾンビ達はゴヴニュに強化されたピッケルを一心不乱に振り回す。ガンガンガンガンと凄まじい音がして、アイテムが手に入った時のように掘っている部分が光る。どうやら作戦はうまくいっているようだ。
「よし、そのまま掘りまくれ」
メギドをゆっくりと下がらせながらゾンビに指示を出していくノート。
ガンガンガンガンガンガンガンガン!と岩が削れていく耳障りな音が響き渡る。ピッケルが本気で振るわれて徐々に傷んでいき、スペアを糸で括ってゆっくりおろしゾンビに渡す。
「いいぞいいぞ、ドンドンやれ!」
切り立った部分の表面がボコボコに削られて、みるも無残な姿に。そしてロープの長さもギリギリの、かなり下の方まで全てボコボコにしていくと『ビキッ!』と嫌な音が響く。次の瞬間、切り立った部分から5m部分の地面がひび割れて滑落した。
メギドは凄まじい反射神経で、バッタ脚を使いビョンと飛ぶと巨体にたがわぬ俊敏さで滑落を回避。そしてそんなことはできないノートはなすすべもなく落下する。
「ノート兄ぃぃぃぃぃぃ!」
だがそこで迷うことなく崖から飛び降り高速で飛翔したユリンは、空中でノートをキャッチしてなんとか上まで帰還する。
「ふぅ………助かった、ありがとう。久々にヒヤッとしたわ」
「ううん、ノート兄がおっこちなくて本当によかった。でも急に崩落するなんて……」
未だに嫌な意味で心臓が跳ねてるノートとホッとしたようなユリン。2人の視線の先にはマイペースに崖を覗き込むヌコォの姿が。
「おお…………凄い。ノート兄さん達も来て」
ヌコォに促され崖を覗き込むノート達。
ノート達も崖を覗き込んで感嘆の声を漏らす。
「これ全部採掘できる感じか」
「綺麗だねぇ〜」
崖の表面に突き出る薄く輝く石の数々。薄暗い森でもそれはしっかりと輝いて見えた。
「これ、ダイナマイトとか魔法で爆破すればもっと楽だったかなぁ?」
ユリンはどう?とノートをみるが、ノートはヌコォに目をやり、ヌコォは首を横に振る。
「このような地形で爆破による採掘は難しい。魔法だと鉱石ごと吹き飛ばしてしまう可能性が高いし、ダイナマイトも威力を計算して等間隔で配置しないと鉱石ごと吹っ飛ぶ。
もしダイナマイトやその計算などができたとしても、それだったら掘った方が早い。魔法の場合、魔法の方向性の調整限界は自分の正面90度角。それにALLFOの物理演算では地形にダメージが通る程の威力のある魔法は当たり判定も広いから自分ごと巻き込まれて死ぬ。これが地面に底があって回収可能なら、現実だったらダイナマイトでもいいと思うけど。
あれだけの物が崩落したのに落下した音が聞こえないということは、落っこちたら死ぬか別の場所に飛ばされるか………ユリンが試してくれる?」
「その言い方は本気で試して欲しそうな感じがするんだけど」
ユリンの心底嫌そうな表情を無視して、ヌコォはまとめる。
「それに、前提条件としてダイナマイトは言うほど簡単に作れない。ゴンドラをロストしたのは予想外だけど、あれも言ってみれば只の木だから、設計図を残している現状作り直しは容易。結果論になるけどコスト的にこれで正解」
図らずも大量の採掘ポイントを作り出す方法を発見したノート達はそこのエリアの鉱石を全部回収。続けて同じ手順で他の切り立った部分からも鉱石を採掘。アイテムボックスを満杯にすると、ホクホク顔でノート達はミニホームへ帰還し始める。
―――――のだが、すぐにノート達の表情に陰りが見える。
「なんか、おかしいよな?」
「木が……腐ってるぅ?」
「バルちゃん、探知に何か引っかかってない?」
幽霊馬車で帰還中、御者台に乗っていたノートはふと気付いたのだ。何かラインを引いたように木々が腐り地面が露出していることに。そして他のMOBの気配も一切なく、やたら森が静かなのだ。
「探知範囲内には逆に何もおらんな。だが、確かに妙だ」
キョロキョロするノートとヌコォ。ユリンが少し飛翔して上からあたりを見回し、慌てた表情で戻ってくる。
「バルちゃん、あっちになんかいる!!」
「馬鹿な!探知には何も…………!?」
だがユリンの言葉が気になったのかバルバリッチャの目が赤く光る。自分の持つ能力である『千里眼』を発動したのだ。そして常に傲岸不遜なバルバリッチャにしては珍しく、その美麗な顔はっきりと引き攣らせた。
「主人ら、幽霊馬車を最高速度で帰還させるのだ!後ろから来ておるぞ!」
「何が!?いや、それより聞いたな?全速力で頼む!」
今までノート達が快適に乗れるスピードだった幽霊馬車が、ノートの命令を受けてグングン山を登っていく。
だが、後ろでは木が倒れるような音が聞こえ始めだんだんそれが近づいてきていた。
そして漸くその正体を見ることができたノートは叫ぶ。
「まんま祟り◯じゃねえか!?ここの担当者どんだけジブ◯好きなんだよ!?」
黒い光を放つ両眼が唯一顔を判別できる目印。大量の黒紫色の太い触手で構成された蜘蛛のような形のなにかが、通過した部分の物をドンドン腐らせながらこちらに迫ってきていた。
「例の如く鑑定弾かれたし!あれ絶対戦ったらヤバイタイプのMOBじゃん!」
既にメギドとアテナは待機状態(MPを消費して非実体化する。待機状態の解除にはMPを消費して再召喚するしかない)にしているので守ったり面倒を見るべき者はいないが、それでも死にたくないのがノート達の心情。
ノートは足止めとしてこっちに一直線に迫る化け物の前に壁役のゾンビ・スクラムを3回重ねて召喚するが、化け物はなんの障害物も無いように突っ込みドプンと液体のようなその身体にゾンビが飲まれる。そして化け物が通過した後にはドロドロに溶けてポリゴン片になったゾンビの残骸が。
「Fuーーーーーーーーー◯k!。そんなんありかよ!?バルちゃん、あれなんなの!?」
「あれは善でも悪でも無いナニカだ。自然的な物の怒り、我の探知が通用しないのも当然だ。あれは魔物では無い。ただの自然災害だ」
「どう見ても生きてるんですけど!?」
「大悪魔ですら、自然の全てを支配下に置くことはできぬ。つまり、自然そのものにケチをつける方が愚かなものよ。勿論、我はアレの正体を正確に把握しているがな」
「じゃあその正体を……というのは甘えか」
「ハハハハハ、その心がけがあるだけよしとしよう。その心がけに免じて…………そうだな、ヒントというか、1つ教えておいてやろう。奴の弱点は目だ。目を狙え」
「“原作再現”も大概だなぁオイ!」
ノートは叫んで遠距離攻撃のように魔法を撃ち始め、ユリン達も投げナイフを目に向かって投げまくる。
「これ、目以外ノーダメージかな!?」
「おそらく。HPゲージも見えないからなんとも言えないけど、ダメージを負っているようには見えない」
「マジもんの化け物だな!」
ズンズンズンズンと木を腐らせ薙ぎ倒しながら進んでくる化け物は、その距離をどんどん詰めてくる。だが巨体の割に小さい目にはなかなか攻撃が当たらない。
「ホモォ……みたいな鳴き声しそうな見た目のくせに!すばしっこいな!静まりたまえ!」
その距離が10mを切りそうになった時、ノートの適当に乱射した闇魔法の弾丸が、化け物の目に吸い込まれるように直撃した。
「゛゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
重低音の声にならない悲鳴のような物が上がり、化け物が動きを止める。
「やった!?」
「ユリン、フラグ」
「ま、再現してるならそうなるよな!」
だが化け物からズゾゾゾゾゾゾゾゾ!!!!と凄まじい勢いで触手の塊でできた腕が噴火したように放出され、ノートに迫ってくる。
「何か、何か………これでも喰らえ!」
動転してなにも手段が浮かばずアイテムボックスを漁り始めるノート。その中はほとんど鉱石で埋め尽くされていたが、何故か出発前に整理したはずのアイテムボックスに2の森のエリアボスのドロップ品がいくつか残っていた。
「『樹護の木盾』?エリアボスのドロップか!これでも食らっとけ!」
盾を実体化し触手に投げつけるノート。だが触手はしなるように動いてパンッ!と空気が破裂するような音を立てながら盾を弾き返し、ゴッ!と風を切ってノートの顔を掠める。
直後グアアアン!と凄まじい音がしたので振り返ると、手を硬化させたバルバリッチャがその盾を片手で受け止めてキャッチしていた。
「今」
その一瞬の合間に、潜黒のブーメランを投げたヌコォ。スキルを使って放たれたブーメランはもがき苦しんでいた化け物のもう一方の目に突き刺さった。
「Yes」
ヌコォがガッツポーズを決めた直後、化け物は先程以上に悲鳴をあげ滅茶苦茶に触手を振り回し始めた。
「チャンス!GO!GO!GO!」
だが無秩序に振り回している触手は当たらず、幽霊馬車は距離を突き放していく。そして勢いよくストーンサークルに突っ込み、なんとか逃げ切ることに成功するのだった。
◆
「逃げ切った〜!肝冷えちまったぜ、久しぶりに」
「あれ、もし攻撃食らってたらなんらかの呪いは食らったはず」
「やった!?って思わず口から出るくらいには焦ったねぇ」
極度の緊張から解放され、馬車からフラフラ降りると大の字で寝転ぶノート。その上に覆いかぶさるようにヌコォとユリンが寝転んだ。
「ふん、今回はよく逃げ切ったと言っておこう。それとこの盾、返しておくぞ」
バルバリッチャがノートの頭の近くに置いたのは、ノートが投げて跳ね返され、バルバリッチャが受け止めた元『樹護の盾』。真ん中に緑色の宝石の嵌った金属より硬いのに軽い、月桂樹が彫られた美しい木の盾だったのだが…………真ん中の石はドス黒く、青紫色に仄かに発光しうねる触手が彫られた材質不明な謎の盾になっていた。
「ナニコレ?てか鑑定できねえ」
「我が受け止めた時には既に変化しつつあった。後天的に呪いのかかった武具はこうなるのだ」
「触って大丈夫な奴?」
「呪いなどに強い秘忌人、つまり主人以外は触れない方が賢明、とだけ言っておこう」
「えぇ〜…………怖すぎるわ」
ノートは恐る恐る盾を手に取ると、インベントリにしまった。
「…………(あ、キタコレ)。バルちゃん、今回もありがとう、ほんと助かったわ」
「ふん、本当にな。だが、今回ばかりは…………相手が悪い。暫し休め」
バルバリッチャは尊大に言い放つと、ミニホームに戻っていった。
◆
「結局、あれはなんだったのぉ?」
バルバリッチャが去った後、ノートの腹の上で転がりながらユリンが問うと、ヌコォが答えた。
「バルちゃんは、自然的な物の怒り、と言った。そしてHPゲージもなかった。ノート兄さんの考えてるものがアレのモデルだとしたら、アレは森の祟りそのもの」
「なんでボク達が祟られるのさ?」
「おそらく、崖の崩落を何度も起こしたから、じゃないか?自然破壊による祟り」
ノートは答えを引き継ぐが、ヌコォは違うと思う、とノートの意見を否定した。
「物を落とすとそのまま消えるあの崖、私だったらいらないアイテムを捨てる時に便利だと思う。そうやっていらないものとかをあそこにドンドンと落とすとあの化け物は出てくる、そんな気がする」
「希少種の件……次は自然破壊、不法投棄への啓発か。見事な罠だな。言われてみれば、あそこはゴミを捨てるのに結構便利なのか、デスポーンまでの時間経過なくすぐにアイテムの破棄ができる。
俺たちは幽霊馬車があったから良かったが、初めて来たプレイヤーはあそこの希少金属に目がくらみ、少しでもインベントリを開けようとアイテムを投棄。それがトリガーになる、と。崩落で落ちた土木が投棄物にカウントされてたのかね」
「ステータスを見てみるといい。証拠に、称号に『秘森を穢す者』『大自然の憤怨』が追加されてる」
「…………本当だ。『秘森を穢す者』は森林の中の生物からのヘイト値上昇・極大、『大自然の憤怨』は森林の中の敵性MOBの全ステータス上昇・極大、か。痛いペナルティだな、これ。あ、しかも原初付きだから称号効果が上がるのか。これは痛い、痛すぎるな」
「ALLFOは世界相手にこのゲームを作る上で、色々な配慮をしたと言っていた。これも、一種の警告、なのかも。森林破壊や不法投棄への大きなペナルティ、たかがゲームと思うな、と。21世紀の人類への反省なのかも」
「はっ、上等だ。悪役ロールにいよいよ磨きがかかってきたな。悪役ロールしてれば、人類史の大罪を全部追憶するんじゃないか?」
ALLFO、本当に良くできてんな。
ノートはそう呟き、不意打ちのようなペナルティに不満げな感じのヌコォとユリンの頭を撫でる。
「逆境上等、次の壁を勝手に作ってくれたんだ。飛び越えてやろうぜ」
ニッと笑うノート、その楽しげな笑みにユリンも微笑み、ヌコォも頷き闘志の炎を瞳に揺らめかせた、ように見えた。
ノートの強みは舌戦だけじゃなく、すぐに物をポジティブに捉えなおせること。




