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No.169 ギガ・スタンピード/試練

【お年玉】本日3話目

お参りの待ち時間に読んでけれ



 死神の鎌が目視不可能な速さで空を切る。

 人の首と魂が仲良く飛び立ち、再びポリゴン片の噴水ができ上がった。


 戦士も、魔法使いも、盗賊も、僧侶も、テイマーも、みんな気づけば視点が地面に落ちて暗転し死に戻っている。


「一体何がいるんだ……!?」

「誰か網とか持ってないか!?」

「持ってる訳ねぇだろ!」

「生産組はでっち上げられないのか!」

「みんな手一杯でそれどこじゃッ」


 また10近くの首が一斉に飛ぶ。

 沢山の命の輝きを強欲に貪った鎌がより危険な光を放ちながら高みへと登っていく。


 正門、東門では意思を獲得したウイルスの様な化け物どもが暴れ狂いプレイヤー達を地獄の底に突き落とした。

 一方西門はやたら静かだった。

 パニックというよりは、そもそも今の状況に誰もついていけてなかった。突拍子もなさすぎる光景に思考が停止しかけていたのだ。


「一瞬見えた。両腕に蟷螂みたいな鎌をつけた般若みてぇな化け物の仮面をつけた化け物が。途轍もないスピードで動いてるぞ」


 稲光のエフェクトが視界を横切ったと思った次の瞬間には自分の首が飛んでいるという攻撃速度。

 そしてあらゆるものを断ち切ってしまう圧倒的な攻撃力。


 如何なる妨害をも易々と擦り抜け、どんな武器も防具もアイテムでさえも破壊して対象を確実に殺す。

 牙も毛皮も、分厚い頭蓋骨も頚椎も、何も意味を成さないとでもいう様に斬り落とす。


 だが、これだけの絶技を続けるのは身体に相応の負担がかかる。全力の一太刀ならプレイヤー達でも何れできるかもしれないが、それを続けてるのは狂気の沙汰。しかし、死霊はその常識にとらわれない。体の感覚の大部分は死んでいるが、逆に疲労や生物的な感覚からも開放されている。生物の限界を超えた動きができる。

 単調な作業を高いスペックに任せてやり続けさせたら死霊に勝る者はそう居ない。


 般若面の人型蟷螂は、召喚された10体の死霊の中で技という観点では最も極地に近い存在だった。



 そもそもオリジナルからして、ほぼ同パラメータの状態でも、人間に於ける双剣使いで世界規模でも上位の実力を持つ某堕天使と競り合う(般若蟷螂人のバフなど込みで)レベルだ。

 技術という観点では死霊という枠のみならず、一般的なMOBという観点でも般若蟷螂人の技術は異常な領域にある。


 それが更に強化されて、殺した存在から力を奪う能力まで発動させて殺戮を続けたらどうなるのか。休むという概念を知らぬ最強の殺戮マシーンは戦場を駆け回り大量の死体の山をたった1人で築き上げる。

 

 ユリンにも似たことはできるが、ユリンも一応なけなしの人間性があるので、ある程度やり続ければ殺しすぎかもしれない、という考えが浮かぶ。同じ作業を繰り返すことで集中力が減り、単純に飽きてきて疲労感も覚えるだろう。

 だが、死霊である般若蟷螂人は躊躇いも無ければ疲労も無い。完成されたキリングマシーンとしての役割を忠実に実行し続ける。


 殺して殺して殺して、般若蟷螂人は蓄え続ける。もっと多くの人がいる場所に斬り込める様に。それこそが自分の設定(在り方)。死霊は常に新鮮な魂を求め続けるならば、歩みを止めることなどあり得ない、余程の事が起きない限り―――

 

 プレイヤーには姿形も捉えられぬ恐ろしい暗殺者。その動きが急に止まった。何か異常な薬品を投与された実験動物の様にガクガクと震え出し、黒い靄が体を包む。

 バキバキと惨たらしい音がして、血の様に赤いポリゴン片が舞い、思わず何人かのプレイヤーは目を背けた。


 それでも膝を地面に突くものかと言わんばかりに彼女は仁王立ちしていた。急激な変化に耐え続けた。

 

 授けられた叡智がより効率の良い肉体の姿を提示する。与えられた意志が背中を押す。


 身体が2mほどに成長し、体はスマートながらも筋肉質に。鎌のような尻尾を生やし、肩甲骨から尻尾の部位にかけて更に4本の鎌腕を生やし、元からあった鎌の腕は肥大化させて破壊力をプラスする。側頭部に顔を増やして視野を増やす。

 見た目は般若面の変則昆虫モチーフ阿修羅像。世にも奇妙な存在でありながらプレイヤーの多くは何か恐ろしい物が生まれてしまった事を本能的に悟った。


『Kooooooo…………』


 とうに空気を吸う意味は失ったが、錆び臭い空気を吸い込んで深く吐き出した。

 芽生えた歓喜を祝福するように。

 荒れ狂う本能を抑え込むために。

 激流を清流で整えるように。


 視界が物理的に拡張された。腕が増えて、尻尾が生えて、一手で出来ることが増大した。


 新たに獲得した魔法を自らにかける。漆黒の稲光と赤い旋風が脚を覆う。一歩踏み出す。その一歩で最も近くにいたプレイヤーの近くまで移動する。


 そして発達した2本の腕をクロスして解き放つ。

 4つに分解される身体。斬撃は貫通し、その後ろにいたプレイヤーの集団までもバラバラにして斬り裂いてしまう。

 その事実に気づき他のプレイヤーが思わず其方へ目を向けた次の瞬間には第二の斬撃が放たれて大量の生首が転がり落ちる。


「このッ!」


 そんな般若蟷螂人の前に立ちはだかった1人のプレイヤー。青い甲冑に身を包み、スタンダードな剣を構える様はまさに剣士。アメリカ人とのハーフなので顔付きも西洋人寄り。騎士の姿はなかなか様になっている。


 プレイヤーネーム、ドラク。彼はゲーム開始早々で頭角を表して『Dragon Sabre Corps』というクランを結成。その後、当時の上位層が集められた野盗討伐戦の中でもリーダーとして動いていたほどの人物である。

 絶対に勝てるはずの戦い。この野盗討伐戦をキッカケにDragon Sabre Corpsの地位は確固たる物になるとメンバーは誰一人として疑わなかったし、ドラクも信じていた。

 それでも尚入念に準備し、油断をせず、あらゆる対策を講じた。彼はプレイヤーとしての強さだけでなく指揮者としての能力もあったプレイヤーだったのだ。


 だが、彼らの目論見は大いなる理不尽によって粉々に破壊された。

 大きな利益を得るどころかメイン武器などのロストをするという多大な損失を被り、冒険者ギルドからは評価を下げられ、野盗討伐戦の報酬で対価を支払うと約束し様々な援助を受けていた生産組からも見放された。

 地位を確固たるものとする為に宣伝していたのも逆効果になった。知名度が上がっていた分、討伐戦が大失敗に終わった事で彼は一転してただの笑い者になった。


 こうなっては彼の求心力もガタ落ち。『Dragon Sabre Corps』は野盗討伐戦直後のPvP大会で全く結果を残せず、主要メンバーが離脱し解散。ピエロマスクの集団にドラクは煮湯どころか濃硫酸を飲まされる様な拷問に近い没落の絶望を味合わされた。

 

 それでも挫けずに、彼は上を向いて踏ん張った。イレギュラーによって計画を破壊されても、彼自身のプレイヤースキルが失われる訳ではない。周囲から揶揄されても自分の価値が勝手に下がったわけではない。

 さぁ、これから立て直そう。彼の地道ながらも堅実なプレイに感化されたプレイヤーが集まり、またパーティーも結成できた。まだサービス開始から数か月、メインシナリオ1章すら終わってない。落ち込むような時じゃない。きっとやり直せる。

 そう頑張る彼に2回目の大きな不幸が訪れる。


 それは、『反船』の不参加。

 突発的に起こった反船という巨大なイベントに彼はリアルの事情で参加しそびれ、あろう事か自分以外のメンバーは全員参加しており、プレイヤースキルの高いドラクが見込んだ者達だけあってしっかりと戦果を上げていた。上げすぎていて、他の有力なクランなどの勧誘に乗ってしまった。


 反船イベントでリーダーが1番低いランクになったことに皆が気づいてしまい、それならばと反船イベントで共に切磋琢磨したプレイヤーと共に動く方がパーティー的にも良いのではないかと考えてしまったのだ。


 こうして、再起を試みていた彼の自慢のパーティーはまたも解散。しかも原因が例のピエロマスクの集団ときた。



 これには何時もは大人の態度が取れるドラクも激怒した。

 何に怒っていたかはもはや彼自身もわからない。薄情な仲間か、自分を見捨てた生産組か、間の悪過ぎる自分の動きか、ピエロマスクの集団なのか、対象がわからなかった。兎に角、彼が激怒していたのは確かで、そして彼は修羅となった。


 人に頼るのを、信じるのを諦め、ピエロマスクの情報を探し求めた。PKプレイヤーが情報を持っているかもしれないと聞けば一人で殴り込み、生産組に有力な情報を持っている奴がいるかもしれないという噂を聞けば法外な報酬を求められてもあらゆる手を使って報酬を支払い、情報を聞き出した。


 彼は皆を見返すべく、一人で牙を研ぎ続けた。強くなる為にはどんな手段を取る事も厭わなかった。

 そして、現在は上位層のプレイヤーとして有名になったかつての仲間のパーティーをたった一人で壊滅させた時、ドラクは自分がPKプレイヤーとしての適性がある事に気付いてしまった。

 PKが何よりも人を成長させる近道だと気づいてしまった。

 彼は数多くの上位プレイヤーを倒す恐ろしきPKプレイヤーとなり、抜身の刀のようにギラギラとした輝きを放ちながら強くなっていった。


 それでも尚、記憶の中の堕天使の速さには追いつけない。勝てるイメージが一ミリも湧かない。

 あの高みへ至れる手段がわからない。

 姿を思い出すだけで沸々と怒りが沸き立つというのに、堕天使の華麗な剣捌きはドラクの脳裏に強く焼き付いていた。


 そして実際に門の上を飛びプレイヤー達を襲撃する堕天使の動きを見た時、ドラクの胸に湧きあがった感情は怒りではなく歓喜だった。

 漸く見つけた。アレは自分の夢や妄想ではなく、本当に堕天使はいるのだ―――散々嘘情報に踊らされた彼にとってはその姿を直接見る事ができた事自体が報いであった。


 故に、ピエロマスクに直接繋がるこのレイドボスを相手に負けるわけにはいかない。きっと何かのイベントを進めなければ会えない類のNPCなのだろう。

 遂に掴んだチャンスは絶対に逃せない。弱者を軽んじる堕天使の言葉は、裏を返せば強者たり得れば関心も得られるという事。この戦いで強くなればきっと何かが起きるに違いないと彼は強く信じている。信じることでしかもはや救いを見出せなかった。


 ――――――これは試練だ。堕天使に会うための試練なのだ。ならば、このボスに勝ってみせる、絶対に。どんな事があろうとも。少なくとも無様に後退する事などあり得ない。


 自己強化を行うバフを発動する。

 剣を低く構え、重心を落としながらも足は軽く着く程度で。

 他のプレイヤーのほぼ全員が目で追えてないようだったが、ランク“9”に到達していたドラクの目には般若蟷螂阿修羅の動きを目で追う事ができていた。


「(…………来ルッ!)」


 目の血管が千切れそうなほど目を見開き相対する。般若蟷螂阿修羅の僅かな動きでも見逃さないようにする。


 今までの般若蟷螂阿修羅の動きは同じだった。横を通過する一瞬で行われる袈裟斬り。軌道が読めているのなら――――――


 般若蟷螂阿修羅の足が微かに力んだ次の瞬間にはドラクは動きだし、剣を横に構えながら勘を頼りに全力で地面にダイブ。頭上をナニカが薙ぎ、真横を風の流れが裂く。

 

「シャー!!」


 泥に塗れながらも受け身を取り即座に立ち上がる。

 振り返れば、自分の後ろにいたプレイヤー達の胴がバラバラになっていた。


 あまりに恐ろしい一撃。しかし彼は神がかった集中力でそれを回避してみせた。奇跡とも偶然だと言われようとも、躱したのは事実だった。彼の執念は化け物に勝った。

 しかも、保険として構えていた剣が掠って化け物に傷がついていた。


『Kyeeeeeeaaaaaaaa!!』


 もしかすれば一矢報いることが出来るかもしれない。強く剣を握り強き意思を瞳に宿し立ち上がる。


 が、急に風景が急速で流れ、女性と虫の鳴き声を強引に混ぜたような不愉快な絶叫が遥か後ろで聞こえた。

 一体何が。まるで何が起きているのかわからないまま彼の意識はブラックアウトした、彼の遥か前方で首を失った自分の身体が地面に倒れたことにも気づく事なく。


 取るに足らぬ雑魚に攻撃を躱された。

 眼中にすらなかった雑魚に、主人が与えてくださった体を傷つけられた。

 

―――――――許せない、コイツだけは、絶対に殺ス


 彼の奮闘は般若蟷螂阿修羅を憤怒させただけだった。

 

 今までならなんとも思わなかっただろう。だが、今の彼女には意思があった。主人から授けられた感情があった。

 感情は自分の技に対する自信を芽生えさせる。その技を躱された事で彼女は激怒した。体を傷つけられたことで自信を穢され、激怒した。



 彼の執念は報われるどころか、阿修羅を激怒させた事で戦況は悪化の一途を辿る。油断の消えた憤怒の化身へと変身した化物が暴れ回り、大量の赤いポリゴン片と生首が舞い続ける惨状が広がる。


 その怒りのまま彼女は辺りに漂うその力の欠片を強引に吸収する。

 ミスは帳消しにしなければ。雑魚に攻撃を躱されたなどという悍ましい過去を拭わなくては。雑魚に傷つけられたという過去を犠牲で塗りつぶさなくては。もっと殺さなくては。


 それに適した場所はもう目に入っている。

 丁度目印になりそうな人間がヘラヘラとした態度で歩いている。



「お、丁度いいくらいの魔物がいるじゃねぇか。こんな犬っころ程度なら俺でも殺せるぜ」


 遠くから見られてるとも気づかず、そのプレイヤーは結界付近にフラフラと寄って来ていた犬型の弱りきった魔物を見つけて剣を構える。


「お前、アレ!」


 しかしその後ろにいたプレイヤーはその先にいたヤバい奴が自分達をロックオンしているように此方を見て鎌を構えているのに気づき警告する。


「お前はひっこんでろ!俺は安全に強くなりたいんだよ。 強くなりゃあ魔物から得られる金も多くなるからな。上位陣は殆ど全滅状態らしいが、とりあえず俺はそこそこの魔物一匹を倒してログアウトする(逃げる)ぜ!」


 だが、そのプレイヤーは全くそのことに気づかず、結界のすぐ外にいた魔物に斬りかかろうとする。


「だめだよせ!!」


 咄嗟に他のプレイヤーが止めるが、やたらいいドヤ顔のまま彼は結界を踏み越えた。


 その瞬間に化け物がスタートダッシュを切った。

 自分の積めるありとあらゆるバフを全部積む、全てはこの一撃の為に。

 一歩で全てを置き去りにし、2歩目で構え、そして3歩目でガラスが大量に割れたような音と共に結界を貫通する。


 結界を直接破壊するのは難しいが、結界を自由に行き来できるプレイヤーが結界と重なっている瞬間、その部分だけは結界の物理反射が無くなっている。

 その瞬間を狙った完璧な一撃。迂闊に結界から出た愚か者ごと結界を斬り裂く。

 結界を割った斬撃の余波が完全に油断していたプレイヤーを吹き飛ばし、結界の一部諸共バラバラのサイコロステーキにしてしまう。

 

 斬撃が結界内を飛び、死に戻ったプレイヤーまでもバラバラにしてリスキルする。

 響き渡る絶叫。般若蟷螂阿修羅で通り抜けた場所には道ができ、そこに魔物が流れ込み、そして結界が壊れた場所から流れ込み遂には安全地帯まで魔物が押し寄せる事態となった。


 これでミスは帳消しにした。

 結界の破壊に成功した般若蟷螂阿修羅は満足そうに辺りを見渡し、刀の血を払うように鎌を振るった。



 こうして召喚者の意図を離れて死霊が大暴れした事で、プレイヤー達は更なる窮地に追い込まれる事なる。

 

 



 

 

 

 

༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽噛ま先輩の呼吸 一の型 サイコロステーキ!(未視聴)


因みに私は参拝した時に数万円の入ったがま口財布を拾った事がある。本人確認できるものが何もなかった上、誰も届け出なかったのでのちに私が全部もらった。(多分お年玉もらった子供の財布だったんだろうなぁ)

その時は今年の運いきなり使い切ったと思ったね

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― 新着の感想 ―
[一言] 高速移動、両腕が鎌、ブリンカー、、うッ頭が、、
[一言] 今後プレイヤー達が腐森で元ネタと出会った時の反応が気になるな〜 過去の中ボスが雑魚敵で出てくる展開とかある意味お約束じゃん?
[一言] >>「お前はひっこんでろ!俺は安全に強くなりたいんだよ。 強くなりゃあ魔物から得られる金も多くなるからな。上位陣は殆ど全滅状態らしいが、とりあえず俺はそこそこの魔物一匹を倒してログアウトする…
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