No.167 ギガ・スタンピード/斑点
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽新年あけましておめでとうございます(フライング)
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽これからも倫理観ゆるキャラなノートをよろしくお願いします。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽行くぞスケジュール、ストックの貯蔵は十分か……………!
「止まっ、た?」
「バグか?」
「はぁ、はぁ、どのみち助かったぜ」
赤いポリゴン片がそこらじゅうで舞い散る凄惨な戦場の中で佇むのは黒い人型のナニカ。
鑑定不可。名称、属性など一切不明の人型の敵。口から生える二本の牙は吸血鬼を連想させるがそれにしても禍々しい存在だ。
盾持ちを盾だけでなく鎧ごと粉砕して見せる圧倒的なパワー、スピード自慢の軽戦士を超すスピード、魔法使いの魔法を全て押し返せる火力を持つ闇魔法。どれ一つとってもボスとして申し分のない性能。
それに加えて、分身や霧化といった搦手や、吸血などといった攻撃と回復を兼ね添えた攻撃手段を持ち合わせ、近接攻撃を食らうと一定確率で状態異常を起こさせるという隙のない構成。正門正面に陣取ったコイツはたった一体で数百を超えるプレイヤー達を貪っていた。
そしてそれ以上に脅威なのが、周囲にいる魔物をおやつ感覚で食い続けており、全く弱った感じが無いどころかむしろ強くなっている事。その上でその魔物どもから新たな眷属を作り出し、身体中が黒い斑点で覆われた不気味なゾンビの群れで結界を包囲しようとしていた。
その強さはどうやって勝つんだと嘆かれたヒュディを上回る絶望感をプレイヤー達に齎した。それでも幾度となく彼らは特殊結界から死に戻りしてソイツを倒すべく奮闘する。HPの供給源となってしまっている魔物を減らし、数の暴力でいずれは倒せるとばかりに黒い吸血鬼に攻撃を続ける。
その吸血鬼が急に動きを止めた。どれだけデバフ魔法を使ったり道具を使ったり策を練っても足止めできなかった黒い吸血鬼が動きを止めたのだ。
何かのタイムリミットがきたのか。それとも反船イベントの時と同様に強力な助っ人が登場したのか。
冷静なプレイヤーの何人かはそれでも攻撃の手を止めず、動きを止めた黒い吸血鬼に何本も剣が刺さる。魔法がその身を焼く。だが、まるで手ごたえがない。
『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
死ぬわけでもなく、何か起きるわけでもない黒い吸血鬼に言い様も知れない不気味さを感じ、プレイヤー達が若干後ずさった瞬間、黒い吸血鬼の絶叫が響き渡った。
「なんなんだ…………?」
「何が起きてるんだ?」
「もうこのイベントわけわかんねぇ」
「なんかのトリガーを誰か引いたんやないか?よぅ知らんけど」
まるで体の内側から何かに食われるかのように黒い吸血鬼は自分の頭を猛烈な勢いで搔きむしりのたうち回る。赤いポリゴン片が舞い、暴走したように吸血鬼の体が一部霧化したりする。自壊する吸血鬼に呆気に取られていると、今度は膝を突き、天を見上げ、ガクガクと震えだした。見た目は完全にホラー映画の演出。皆がドン引きしていると、黒い吸血鬼の目から、耳から、鼻から、黒い液体が溢れだし、黒いオーラを纏いだした。
『Aa……A… Aaa………わ…た………s……』
天を仰いだまま、彼は両手で顔を覆った。それは何かを嘆くようにも、感激しているようにも見えた。
その真意が何にせよ、その光景を見ていたプレイヤー全員が思った、“吸血鬼の動きが急に人間らしくなった”と。人型ではあったが、今まではどことなく獣っぽい感じが強かった。本能のままに暴れ回るだけの猛獣のような雰囲気があった。だが、今の吸血鬼の動きには何とも言えない人間らしさがあった。
メキリと嫌な音が聞こえる。バキバキと吸血鬼の体が自壊し、そしてそこから触手のような物が突き出ると周囲にいた眷属を捉えて強引に体の中に取り込んで大きくなる。背中がバクリと割れて、ボロボロの蝙蝠のような翼が生えた。
まるで親の危機に駆けつけるように眷属化した魔物が吸血鬼の体に擦り寄っては喰われていく。
膨れ上がる体。強まる寒気。何か恐ろしいことが起きようとしている。本能でそれを感じ取ったプレイヤー達が攻撃を仕掛けるが、眷属化した魔物が割り込んで庇いまともにダメージを与えられない。
やがて無秩序な膨張が止まると、急にぐちゃぐちゃ、バキバキという生々しい音とむせ返るような錆臭さを振りまきながら体が圧縮されていき、そこには毛皮のコートを纏ったような一人の生気の無い青白い顔をした真っ黒な目の男が居た。
『え……さ…………』
ポツリとしゃがれた声で呟いた。ただの獣のような奴が、人の言葉を話した。
次の瞬間、一番近くにいたプレイヤーの首に吸血鬼が齧りついていた。
「え」
そのまま食いちぎられる生首。赤いポリゴン片が大量に噴き出し、吸血鬼の腕の中でその体はバラバラに砕け散る―――――かと思いきや、体が一気に黒い斑点で覆われるとビクビクと震えだし、ひとりでに歩きだした。
「まさか、眷属化の対象は」
「魔物だけじゃ、ないってのかよー――ッ!」
予想外のグロ演出に戸惑うプレイヤーを他所に、今度は一瞬で移動したかと思うとプレイヤーの心臓を手が貫く。再び肌が黒い斑点で覆われ、虚ろな目をしたゾンビが歩き始めた。
そのゾンビがフラフラと別のプレイヤーに歩み寄る。顔が斑点に覆われ、心臓に穴が開いていてもどう見てもそれはプレイヤーで、敵意を感じさせないゆったりとした動きだったが故についそのゾンビを観察してしまう。
そして、ゾンビはそのプレイヤーにいきなり俊敏な動きで噛みついた。
「ぐわ!?く、そ、離れねぇ…………」
原型がプレイヤーなだけに直接攻撃を行うことが躊躇われ、なんとか引きはがそうともみ合いをする。だが、同じプレイヤーとは思えない力強さでゾンビはがっちりつかんで離さない。
「は、離して!!」
そのゾンビに震えながらも他のプレイヤーが吸血鬼の背後から剣を振り下ろす。つかみ合いになりながらも首にかじり続けるゾンビに躱す手段はなく、頭の半分まで剣が刺さった。だが、ビクビクと痙攣しながらも更に強くゾンビが噛みつき、その傷から徐々に黒い斑点が広がっていく。
「う、うわあああああああ!たすけてくれぇぇぇ!!」
絶叫が響き渡る。それと同時に赤いポリゴン片が舞い、噛みつかれたプレイヤーの目が真っ黒に染まっていく。がくがくと震える体。鑑定情報が書き換えられ、そして、また一体、ゾンビが増えた。
「に、逃げろー---!!」
それはまるで、ゾンビパニック映画の始まりの様で。
正門正面は瞬く間にゾンビパニックの惨状が拡大し、まともな対抗手段を持たないプレイヤー達は逃げまどう。
パニックは伝播する。1人が逃げ出すと右へ倣えと言わんばかりに日本人はその習性に従い逃げ出してしまう。これが集団に於けるパニックの恐ろしさだ。合理性を飛び越えて集合意識の選択がなした選択に従ってしまうのだ。
それが吸血鬼の狙いだとも知らずに。
危険な存在から何の対策も無く背中を向けたらどうなるか。彼等は知らなかった。
今の吸血鬼は今までの吸血鬼と性能以外にも非常に大きな差がある事に気付くことなど出来なかった。
『…主………捧……わ………眷……』
ブツブツと不気味に吸血鬼が呟くと、バタバタと今まで増殖していたゾンビ個体の半数が倒れ、ポリゴン片となる。
『黒……病……刺…………地……』
そのポリゴン片を吸い込むと、吸血鬼の手が黒く輝き出す。その輝きを握り締めるように強く手を握ると、ザン!!!と地面から薔薇の棘の様なものが大量に付いた槍と見紛う針がプレイヤーの進行方向に急に出現する。
一斉に動いたせいでプレイヤー達は止まりたくても止まれない。次々と針の棘に引っかかり赤いポリゴン片が舞う。
「あ…………」
「いやだ……助けて…………」
そして、その棘で傷ついた場所から徐々に黒い斑点が広がり始める。
ジワジワと視界に黒い霞がかかり始め、自分の口からひとりでに獣の唸り声の様な声が出て、メニュー画面も開けなくなる。
自分が病魔振り撒く凶悪なゾンビへと変わっていく世にも珍しいプロセスを強制的に体験させられ、プレイヤーは死んでいく。
小さな棘程度の傷による影響はレジストできたプレイヤーもいたが、彼等は度重なる異常な現象を目の当たりにした事で次々と【恐慌】或いは【発狂】の状態異常を発症してしまう。こうなるとゾンビ化とほぼ変わりない。無防備な状態の所を吸血鬼に噛みつかれて仲良くゾンビ化するか、棘から逃れようと暴れて自分で傷を広げてレジストできなくなるかの何れかだ。
一度に眷属が増える事で彼の中に相応のリソースが蓄積され、更なる大技の使用が可能になる。
『…………死……鼠…………喚!』
吸血鬼の足元から黒ずむと急に液状化した様に波打つ。その黒い水から大量のネズミが突如として溢れ出す。
小さいというのは時に大きな武器になる。特にこの大混乱の最中では足元を走り回る鼠に注意を向けることは難しい。鼠はプレイヤー達の下を走り回り腱を噛みちぎるとその場に引き倒して一気に群がり喰いちぎる。その牙から病を流し込み汚染すれば新たな仲間の誕生だ。
こうしてゾンビ化の進行は止まる所を失った。
主人の望み通りの成果を挙げられたことに満足し、主人から叡智と核を授けられた黒死撒疾鬼・大隊長はニタリと不気味な笑みを浮かべて佇んでいた。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽新年ゾンビパーティーじゃい
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽これがALLFOで可能なグロの限界デス
【今日のゲリラ予報】
全国的に(ストックが)大荒れの模様です




