No.165 ギガ・スタンピード/冷徹
本日2投目
100万文字が迫る……………
中級死霊が各地で猛威を振るう中、漸く最も目立っていた存在が動き出す。
【素闇芸創:魂写しの影絵】
この能力はただ単純に能力の対象者となる存在の影を幻影として操るだけの能力ではない。実はノートの影響をかなり強く受けており、死霊術のような真似ができる。
グレゴリが魂の代わりに利用するのは『影から回収したエネルギー』。このエネルギーから影の幻影を紡ぎだす。
一番簡単なのは対象の影をそのまま幻影として操る事。しかし、一度倒し、倒した魂の欠片がグレゴリに預けられている場合、グレゴリはその情報から別の影の幻影を紡ぎだせる。
無論、何でもありの能力というわけではなく、強い幻影を紡ごうとするほど大量のリソースが必要になる。回収した影のエネルギーと性質の異なる影を紡ごうとするほど余計にエネルギーを消費する。
能力の対象となるのは『グレゴリの視界にいる影』。そしてグレゴリは『視る』ことにかけては異常に特化した死霊だ。上空から見下ろせばグレゴリはキャンプ内ほぼすべての影を能力の支配下に置ける。
つまり、今グレゴリが操れる影のリソースはプレイヤー、魔物合わせて軽く5万を超える。それらすべての影のリソースを以てして紡がれた影が―――――――
「なんで、なんでヒュディがエリア外にいるんだ!?」
「しかも普通の見た目じゃねぇ!亜種かなにかか!?」
「スタンピードってボス個体まで襲ってくるものなのか!?」
「そんな報告は海外スレでも見たことがないぞ!」
「でも実際に来てるよ!」
現状、グレゴリが紡げる最も派手なヤツの影、それは雲泥の遺児ヒュディの影だ。強さで言えば黒騎士の方が上なのだが、性質があまりに違いすぎてエネルギーが無駄に消耗しすぎるという点、そしてノートがド派手でできるだけインパクトのある影で、というオーダーを出した結果、やはりサイズ感的にも、プレイヤー達に混乱を齎すのにも都合がいいだろうという事でヒュディが選ばれた。
しかも今回のヒュディはノート達を散々苦しめた第三形態。ノート達以外のプレイヤーは初見の形態だ。故にプレイヤー達の動揺は非常に大きくなる。
四本の腕、長方形の平剣、スラリと長い長身は10mに達する。空に影の光輪が出現し、背中に奇妙な記号で描かれた光背が出現する。
『グレゴリ、ゆっくり近づいてまずは威力偵察。右腕薙ぎ祓い、完全に門の周りを破壊して』
『(`⁎⁍̴̆ ω ⁍̴̆ ´)ゞYeah!』
振りかぶられる二本の右腕。上半身を前のめりにして地面と平行に。地面の砂をかき集めるように振るわれた剣が地面を大きく薙ぐ。
「ぎゃー!?」
「こんなのどうやっぐべらッ!?」
「耐えろ!押されるな!」
阿鼻叫喚のキャンプ地正門エリア。ポツリと、冷徹な指示がヌコォから発せられる。
『追撃して』
『卍( ^ω^ )卍ドルルルルル』
『(^ω^) ぶっ飛ばすよ~ん』
「「「うあああああああああああ!!」」」
体を大きく回転させて今度は左腕で大きく地面を薙ぐ。一度は耐えきれたプレイヤーも、予想外の二撃目に吹き飛ばされる。
視界共有したヌコォがグレゴリに指示を出す。気分は音声認識タイプのラジコン操作だ。グレゴリという優秀な機械にヌコォという強力なCPUを積んだヒュディの影はキャンプ地を縦横無尽に動き暴れ回る。
「くそっ!見た目より深刻なダメージは受けないが、ヒュディ側も全然ダメージを受けてる様子がないぞ!」
「なんなんだアレは!本当にヒュディなのか!?」
グレゴリが操るは影の幻影。幻影と言いつつも実態は魔法に近い。故に物理的干渉能力はそこまで高くない。グレゴリは元より物理的干渉能力の低いゴースト型であるが、そもそも戦闘用の死霊ではない。直接的に敵を害するという能力を削ぎ落すことでグレゴリは死霊としての精神バランスを保っている。このバランスを保てなくなった時、グレゴリの思考レベルはメギドのレベルまで落ちてしまう。
死霊という物は本来メギドの在り方の方が精神的には自然だ。むしろタナトス、アテナ、ゴヴニュ、ネモ、特にネモは異常の部類だ。グレゴリはそんな4人の因子を強く引き継いだおかげで通常とは異なる強靭すぎる精神力を保っている。
ふざけているようでグレゴリの精神状態は常に狂気とスレスレ。むしろ精神のバランスを保つために全力でふざけているともいえる。ふざけることで内なる攻撃性を抑えているのだ。
グレゴリの能力には基本的に相手を直接攻撃する能力は殆どない。実は闇魔法を放てる方がおかしいのだが、これは生産関係の魔法に近い魔法という抜け道のようなやり方で使っている。
魂写しの影絵の本質はデコイ。敵を攻撃するための力ではない。モデルとなる影が強力であるが故にある程度の物理的干渉能力をかなり強引に獲得しているに過ぎない。
物理的干渉能力が低いからこそ敵の攻撃にもあまり影響を受けることがないし、反面、有効的なダメージを与えることもできない。タネに気づけばただのこけおどし。
だが、目を背けられない。どこを向いてもヒュディが此方を見つめている。
影の幻影が最も恐ろしいのはそのヘイト吸収率。強制的なヘイト集中で敵の攻撃を全て引き付ける。
ヘイトを集中される能力はタンク系の戦士などが持っているが、魔物に使えば魔物はソイツだけを攻撃するようになる。
だが、攻撃、タゲを引き付けるのは魔物相手のみでプレイヤーには効果があるのか。意識への攻撃が生身のプレイヤー相手にも通じるのか。従来のVRゲームではあまり意味をなさなかった能力だが、ALLFOでは強力な効果を発揮する。
その恐ろしさは実際に味わわない限り分からない。そう、これはVRであるが故にできる表現。
ソイツから目を逸らしたくても、逆方向へ歩いたような気がしても、常にソイツの方を向いてしまう。VRの空間は錯覚の世界。その錯覚を最大限生かしたとき、ヘイト集中系の能力は強烈な効果を発揮する。その能力を発動した者が大きければ大きいほど、その効果は増す。
影のヒュディの大きさは10mオーバー。遮蔽物が殆どないキャンプ地に於いては殆どどこからでも見える。そんな存在がヘイトを集める能力を発動したらどうなるか。
目を逸らせない。逃げられない。逃げようとして走り出しても気づけば影のヒュディの方へ走り出している。一気に数千人以上を自分の空間へとグレゴリは閉じ込める。引くことは許されず、プレイヤー達は進むしかない。
影のヒュディの役割はプレイヤーを倒すことではない。プレイヤー達の視線を自分に引き付けることだ。これをされるだけでプレイヤー達は自分たちの思うように動くことができない。
グレゴリが直接攻撃しなくてもいいのだ。その代わりを務めてくれる奴はたくさん居るのだから。
『GRRrrrrrrrrrr!』
『UOOOOOOOOOO!!』
キャンプ地を駆け回る魔物はヘイト集中を受けない。グレゴリは感知のスキルを利用し対象を全て判別、プレイヤーだけを能力の対象にするという器用さを発揮する。プレイヤーは自由に動けず、魔物は自由に動き回る。実力に差があれど、一方向しか向けなくなってしまってはプレイヤー達のできることは大きく限られてしまう。
簡単に言えば、一人称視点のゲームで視点方向を固定化されてしまったようなものだ。ハッキリ言ってクソゲー状態である。
無論、時間がたつにつれレジストに成功し徐々に影響下から逃れるプレイヤーも出始めるが、そう簡単にレジストできる代物でもない。それもそのはず、一瞬とはいえ遥か格上の黒騎士でさえもグレゴリの影絵に惑わされたのだ。プレイヤー達が簡単にレジストできるわけがない。
そしてその状況に追い討ちをかけるのがノートの放った中級死霊。コイツらもグレゴリの能力の影響を受けず、まともに動けないプレイヤーを次々と殺し強くなっていく。魔物諸共滅ぼし際限なく強化される。
「隊列を組め!見た目からしてアイツは絶対闇属性だ!ならば光・聖属性が効くはずだ!」
そんな中、反船イベント以降勢力を増した僧侶部隊が駆けつける。
『僧侶』、それはRPGに於いて極めてありがちな職業でありながら、ALLFOでは存在しなかった職業。魔法使い派生から教会関連のクエストを進め、本当に筆記試験や洗礼、修行などを積むことで資格を得る職業であり、ノートがばら撒いた『完全品種改良済み高級米(高濃度呪詛済み)』の呪詛を取り除く作業を延々とさせられたことで図らずも実力を伸ばした連中だ。
彼らが得意とするのはALLFOの聖職者(NPC)同様、聖・光属性魔法。
一斉に法儀式済みの錫杖を構え、彼らは影のヒュディへと照準を定める。
「どう考えてもアレは闇・悪属性だ…………!」
「だったら、光はよく効くはずです!」
「それに死霊属性も持ってそうだしな!」
「こっちは全員、〔死者祓い〕持ちですからね!」
「揃えるぞ!」
「早く!攻撃きちゃうよ!!」
集まったその数20人ほど。全員がなんとなく僧侶めいた白い服を着ており、黒い軍服に身を包んだノートとは対照的だ。彼らは僧侶になるために同じ苦しみを味わったいわば同士。その結束力はネットの繋がりでありながら強い。
「3,2,1、今!!」
その様を影のヒュディを通してヌコォは見ていた。だが敢えて攻撃しなかった。彼らが無事にここまでたどり着いたのも、ヌコォがノートにお願いして中級死霊に僧侶たちを攻撃させないように頼んだからだ。彼らはそれを「僧侶だとやはり死霊に対して補正があるにちがいない!」と喜んでいたが、貴重な実験用サンプルを無暗に殺さないためだったなどとは知る由もない。
20以上の杖から一斉に放たれた白い光線。それは混じり合い、巨大な光線となって影のヒュディを襲う。
一定人数以上の同時同一魔法行使による魔法増幅効果。ネオンが反船イベントで起こした『魔法融合』の現象を彼らもまた偶然ながら発生させる。
それはまさしく正義の一撃。悪を撃ち滅ぼす聖なる光。影のヒュディの心臓を貫き、空を軽く白に照らす。
「やった!」
「やったか!?」
胸に大穴が開くという完全な致命傷。グラリと大きくのけぞる影のヒュディの体。
「「「「うぉおおおおおお!」」」」
巨大な歓声。熱狂。興奮。遂に、巨悪の襲来を退ける―――――――――
『∩wwww∩』
『( ◞◔◟艸◞◔◟ )うそぴょーん!』
が、ヒュディはそのまま地面に倒れると思いきや巨体からは想像できない身軽さでバク転。そこからバサリと幻影の翼を広げて空へ飛び上がる。
『なかなかいい演出』
『(照>∀<)/それほどでも~』
中の人はふざけまくっているが、そんなことプレイヤー達にはわかるはずもない。彼らに見えたのは、胸に大穴を開けて死に、倒れたはずのヒュディがむしろ今まで以上の動きで動いて空を飛び始めたことだけだ。
影絵の最も恐ろしいところは、所詮幻影は幻影でしかないという事。攻撃が当たる瞬間に“その部分だけに自分で空間を作り強引に回避する”などという力技も可能なのだ。胸に穴を開けたのは僧侶たちの魔法ではなく、ほぼすべてグレゴリが意図的にそう見えるように開けた物。
実は威力を図るためにあえて少しは当てているので、プレイヤー達からみればヒット判定が出ているのが猶更憎らしい演出となっている。
『(´∇`)御主人様の加護最強!』
『(✧≖‿ゝ≖)我が能力に不覚無し!』
プレイヤー達の推測通り、グレゴリは闇・悪属性だ。光・聖属性には弱い、本来ならば。
だが、ノート達の召喚した死霊は普通の死霊とは異なる。
ネクロノミコンの能力、聖・光属性無効。これは所持者であるノートだけでなく、ノートが召喚した死霊にもこの能力が適用されている。つまり、ノートの召喚する死霊は生まれながらにして弱点属性を潰すことができてるのだ。
故に本来は苦手な属性が当たったとしてもむしろほとんどダメージを受けない。
『データは取れた。あとは適当に間引いていい』
『(๑•̀ㅂ•́)و✧ラジャー!』
わざわざ面倒な手順を踏んで僧侶系プレイヤー達をおびき寄せて攻撃させてみたが、彼らがヌコォの予想を上回ることはなかった。それに対し自分でも少し身勝手だと思いつつもヌコォは軽く失望する。
——————どうして魔法を撃った後にすぐに散開しないのだろう。なぜヒュディを見上げているだけなのだろう。
そんな暇があれば逃げればいいのに。第二射の準備をすればいいのに。あれではいい的だ。
あれでは、ノート兄さんが力説し、望んでいたプレイヤーには足りない。然らずんば、大きな絶望で目を覚まさせよう。
影のヒュディは上空で4つの剣を空に掲げる。わざと雷を纏うようなエフェクトを演出する。漆黒の隕石を騙し絵で描く。
そして空に文字を浮かび上がらせる。
【流落散輝】
それは自分の主人であるノートの命を奪った憎き覚醒ヒュディの技。
今までは余計なリソースを消費を避けるべく手加減していたが、それを解禁し平剣にリソースを捧げる。
影を使った人力流落散輝。空から突撃し、容赦なく振り下ろされた影の平剣は一撃で僧侶組を葬り去る。
見た目から勘違いしやすいが、影の幻影は闇魔法から編み上げた幻影である。その攻撃は物理ではなく、魔法。聖職者は魔術師経由なので精神力が高く魔法防御力は低くないが、光と闇は相克の関係。光。聖属性特化であるが故に、逆に僧侶は闇に弱い。
剣自体は見た目より攻撃性が無いが、ある意味闇魔法の塊のようなものだ。そんな物で殴られたら僧侶は一たまりもない。
死霊は待機状態になっている時は実体化していないが、意識はノートと紐づいている。外界を認識している。グレゴリは誰よりも近くでノートが直撃した【流落散輝】を見ている。
そのグレゴリが模倣した一撃は、プレイヤー達の意思にも大きな罅を入れ、絶望の沼が彼らの足を飲み込みつつあった。
2chの擬人化グレゴリくん
次の更新は暫し待たれよね一気に行くから
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽お年玉を楽しみに待っているのだぁ




