No.164 ギガ・スタンピード/台頭
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽皆様は既にランク制の危険についてご存知だと思いますが………………
「誰かこのモンスターの情報を持っていないか!?」
「わかんねぇよ!明らかにイベント限定ボスだぞ!?分かるわけがないだろ!!」
百足状の巨大な身をくねらせて暴れ回る鮟鱇型百足死霊。飛び道具は使ってくる事が無いことに早々に気づいたプレイヤー達は一旦距離を置く戦法で被害を減らしたが、彼等の脅威はコイツだけでは無い。
未だ流れ込む数を増やす一般通過魔物。この魔物達も普通にプレイヤーを襲ってくるし、折角プレイヤーが離れても魔物が近づき鮟鱇型百足死霊に喰われて強化してしまう。最初に突撃して来た時に比べて明らかに大きくなっている鮟鱇型百足死霊の姿はプレイヤー達を焦らせて冷静な思考を奪う。
そんな存在がイベントで出現した異常個体ではなく、1プレイヤーが召喚した死霊の1つでしかないとは誰も気付けない。
何故なら鮟鱇型百足死霊は誰もが見紛うごとなきレイド級ボス個体だったからだ。周囲の魔物が襲ってくる状況と其れらの魔物を喰うことで強化されていくという特性もまるでイベント用に用意されたギミックの様に彼等が感じてしまったのも無理はない。
「…………分けるぞ!ランク5以上はこのアンコウと戦う!それ以外は周囲の魔物の接近をなんとか食い止めてくれ!!」
「おいバカ!そこの奴話聞いてんのか!ランク低いやつは前に出過ぎんな!」
「このッ!う、うわぁぁぁ!」
「言わんこっちゃねぇ」
しかし混乱の最中でも正答の一つに辿り着くプレイヤーもいた。
プレイヤー達を大きく2つに分けるのはリスクがある様に感じるが、この鮟鱇型百足死霊は格下相手に圧倒的な強さを誇る弱い物イジメが得意なタイプだ。つまり下手にランクの低い奴は攻撃に加わるより周囲の魔物からの露払いをした方が良いのである。
だが、オンラインゲームとはえてして上から下まで様々な人間がいる。当然人の言う事を聞かない奴、無視する奴はいる。どんなにわかりやすい指示をしても理解しない残念なプレイヤーは一定数存在する。
理由は様々。協調性の無い奴、承認欲求に狂ってる奴、誰の指示も受け入れない俺カッコいいボーイ、勇者くん(笑)、興奮して本当に指示が聞こえてない奴などなど、挙げていけばキリがない。
そしてこう言うプレイヤーが大規模戦闘を掻き乱す。彼のナポレオンが真に恐れた無能な味方だ。
現状、そういった奴らでさえ尻込みしたり敵対を避けたがる上位プレイヤーの数が少ない。故に一部の賢いプレイヤーが最善策を提示してもなかなか上手くいかない。
「死ねぇ!!」
そうこうしているうちに、また1人迂闊に鮟鱇型百足死霊に近づくプレイヤーが現れる。ランク2の駆け出し。突撃して無惨に散った他のプレイヤーを見れば無理な事と理解できるのに、まるで俺だけはできると言わんばかりに愚直に剣を構えて突撃する。
「お前がな」
その頭をドスッ!と貫通した一本の矢。完璧なヘッドショットは致命的一撃となりそのプレイヤーは鮟鱇型百足死霊に丸呑みにされる前にポリゴン片となった。
「邪魔者は消えてもらうよ」
「オラァ!」
続いて自分勝手に突撃をしていた低ランクプレイヤーにデバフ魔法が放たれ、身動きできないところを黒光する大剣を持ったプレイヤーが斬り殺す。
いきなりの内ゲバに動揺するプレイヤー達。だが誰がプレイヤーを殺したかプレイヤー達は気づき、更に動揺する。
その3人組は有名なPKパーティー『DreiGrün』のメンバー。情報スレにも普通に出没する弓使いデス・アロー、豪気な性格の大剣使いドラグノフ、魔術とテイマーの兼業という隙の無い構成のカオスブレイカー。
全員第一級のPKプレイヤーで、格下には手を出さず、格上ばかりを執拗に狙うという武士みたいな性質から知っている人も多いプレイヤーだ。
「お前らァ!」
唐突な蛮行に肩を怒らせて詰め寄るプレイヤーも居たが、リーダーのデス・アローは冷え切った目で冷静に言い返す。
「無能な働き者は要らない。悪戯に敵を強化すれば馬鹿だけじゃなく全員が犠牲になる。それだったら喰われるより先に俺たちが殺す。それも一つの戦略だ。お前達がやらないから俺達がやってるだけだ。犠牲無しでこの状況の中穏便に統制が取れるわけないだろう」
『仲間殺し』はオンラインゲームでは立派な戦略の一つだ。
特に仲間を生き返らせる事ができる魔法があるタイプのオンラインゲームだと、時にHP赤点滅、デバフもりもりのプレイヤーを全回復させるよりも殺して復活させる方が良いという状況が発生する。
そこで仲間をあえて殺すという選択肢が発生する。
ALLFOでは復活・蘇生魔法の類がないのでその手のことができる冷徹なヒーラーを見る事は無いが、別ゲームの経験者なら戦略の一つとして知っている方法だ。
デス・アロー達はもっとシビアな選択を迫られるゲームも幾度と無くプレイしてきた。故に分かる。今は口で言ってもどうこうなる様な状況では無いと。
事実、デス・アロー達の動きによりプレイヤー達の暴走が目に見えて落ち着き出す。先走る勇者(笑)の数が一気に減る。
「このイベントの鍵は魔物とプレイヤーの暴走をどれだけ抑えて、冷静にボスの処理ができるかにかかってる。お前達の仲良しこよしな緩いやり方に付き合って死ぬつもりはない」
「アロー!お前は話が長い!」
「ヘルプお願いしますよー」
声を張り上げていた訳では無いが、その場にいたプレイヤーにはデス・アローの言葉が聞こえ、場が静まり返る。そんな空気を崩す様にドラグノフとカオスブレイカーが叫び、その後に続いて奥に引っ込んでいたPKプレイヤー達が鮟鱇型百足死霊に攻撃を開始した。
平均ランク6オーバー。PKプレイヤー達は他のプレイヤーも圧倒的に高ランクで、見るからに動きが違った。
ALLFOを支配するランク制というシステムにはとある穴がある事を一部のPKプレイヤー達は気づいている。
レベル・経験値制では魔物をたくさん倒せばレベルが上がって強くなれた。プレイヤースキルが雑魚だとしても、とんでもない苦労をしなくても、何れはレベルが上がった。
しかし、ALLFOに於いては“難業を乗り越え無い限り”ランクが上がらない。同じ様な魔物を同じ様にただ処理し続けても目に見えて強くはなれない。
パラメータが上がったとしても、最終的にはランクを上げないといけない。
だが、そこらの魔物程度ではランクは上がらない。ボスも何度も倒してると難業カウントしてもらえなくなる。
では、ランクを上げるのに最も適した存在は何だろうか。
そう、そしてPKプレイヤーは気付いた。
同じプレイヤーこそランク上げに最適な存在である事に。
フィールドにいる魔物は強くならない。だがプレイヤーは違う。プレイヤーは成長する。否が応でも知恵を絞って戦う必要がある。キツい戦闘を強いられる。
故に実はPKプレイヤーの多くは一般的なプレイヤーよりもランクが高い。この事実に気付いているプレイヤーはまだ殆どいない。だがPKプレイヤーは自身の身を以てしてその事実に気付きつつある。
そして更に高みへ登ろうとし、PKプレイヤー同士で殺し合うのもまた彼らの業の深さを体現していた。
PKプレイヤーは対人専門だとしても、一般的なプレイヤーよりも厳しい環境でプレイし、ランクを上げている。いざ動き出せば攻略勢にも見劣りしない動きをする。
PKプレイヤー達の本格的な反撃で多くのプレイヤーにとって図らずして戦線が押し上げられ、徐々にプレイヤー達が体勢を立て直す。
これによりPKプレイヤーはただの害虫的な存在から日本サーバーでは一気に存在感が増し、一勢力として完全に台頭。無視できない存在となる。
それさえもある男の狙い通りの動きなどと誰も気付ける事もなく、日本サーバーはまた外道にとって住み易い環境に整えられていった。
(´・ω・`)実際、ネオン加入時、ヌコォの鬼畜な扱きでネオンのランクが上がってる事でプレイヤー同士の戦闘でもランクが上がることは証明されてるんだなぁ




