No.155 天遥理虚❾
もう これで (ストックが)終わってもいい
だから ありったけを
This way………(ゲリラ開始)
「全員ガチで頼むぞぉ!」
ポーションや回復薬で凌いではいるが、いよいよノートのHPもMPもキツくなってくる。
切りたくない切り札を切ったのだ。ここはなんとか白星を挙げたいところである。
ノートに召喚された中級死霊達の動きはユリンたちに比べれば若干見劣りするが、火力自体は圧倒的だ。中級死霊達は本能に身を委ねて暴れまわり、遥か格上であるはずの覚醒ヒュディにも微塵も恐れを抱くことなくタコ殴りにする。
「獅膨澱豚は防御崩しを中心に突撃を頼む」
『PGYYYYYYYYYYYYY!』
ノートの命令を受けて咆哮する巨大なゾンビ豚。その首にはライオンのように鬣があり、まるで別物のような獰猛さを剝き出しにしていた。倒れた状態でも振るわれた覚醒ヒュディの平剣をその巨体からは不気味にすら感じる機敏さで回避し、腕に噛みつくとそのまま引き千切りながら走り回る。
中級死霊・獅膨澱豚。赤月の都でノート達を苦しめた豚アメーバの魂を元に、深霊禁山のイノシシなどの因子も詰め込んだ凶悪な豚型の死霊である。性格は異常な凶暴性を誇り、対象を捕食することに特化している。特に相手の肉質を柔らかくするためなのか相手の防御力を下げることに特化した割と悍ましい存在である。
中級死霊だけあって召喚維持MP効率は悪いが、獅膨澱豚は捕食を行うことで自分でMPを補い、召喚維持MP量を下げてくれるという割と使い勝手の良い能力を持っている。故に今回は登用してみた。
「疫銀蝕細赫甲虫は顔面に集中攻撃。後衛の射線を切るなよ」
その獅子豚よりも素早いスピードで動き回るのは非常にシャープな形状の銀色のヘラクレスオオカブト。
水晶洞窟に出没した虫系の魂を捧げて喚び出した死霊であり、攻撃と呪い、速度に特化している。
水晶洞窟の多くの昆虫同様、翅が退化している代わりに後脚が異常発達している。バネを限界まで絞る様に後脚を畳み、一気に解放して突撃する様は巨大な槍に近い。鋭利な角はヒュディの横っ面に刺さり抉っていく。
『白奇霞蝙蝠は脚部分を集中的に狙って食い尽くせ』
白奇霞蝙蝠は寄生タイプの魔物の魂を多く捧げた寄生特化死霊だ。相手の肉だけでなく魂も貪り食う害悪の頂点みたいな存在で、分裂するとヒュディの脚に取り憑くと一気に貪り始めて更に分裂していく。
性質自体は反船で活躍した中級死霊・蠅之王ノ下級眷属に近い。
対象に取り憑いて、個体数を増やし、更なる贄を求める。大きな違いは、蠅之王ノ下級眷属が無秩序に増殖を試みるのに対して白奇霞蝙蝠は増殖を経る度に取り付く対象に対して特化していく点だ。
つまり、ヒュディを土壌に増えれば増えるほどヒュディに対する侵食率が上昇していくという自己学習型ウイルスみたいな恐ろしい性質を兼ね備えているのだ。
因みに強力な性能を持つ代わりに暴走する危険性が非常に高く、普通の死霊術師が召喚してもコントロール出来ずに逆に貪り喰われるほどで召喚自体が禁止されているレベルである。ノートが完全にコントロールできているのは味方NPCを掌握する能力を持つオリジナルスキル【汝、我の奴隷なりや】のお陰だ。
「憤舞螂禍人は前衛援護。関節部分を集中攻撃してヘイトを稼ぎ続けろ」
憤舞螂禍人はノートとユリンには思い出深い死霊である。
腐った森の序盤に出没する番人的モブ、般若面蟷螂人。まだノートとユリンしかメンバーがおらず、腐った森の探索を始めたばかりのノート達を幾度と無く返り討ちにした敵である。
今でこそパーティーメンバーも充実し、装備もランクも上がったことで危なげなく勝てているが、油断をすれば危険な存在には変わりない。
その因縁の相手の魂を捧げて召喚する死霊が憤舞螂禍人である。
此方もスピード攻撃特化型だが、オリジナル同様に賢く回避能力が頭抜けているのでスピリタスやトン2に混じってヒュディを攻撃してカウンターを放たれても危なげなく回避する。
これで更にヘイトを分散し、全体の生存確率を上げる。
そして全体を援護するのはグレゴリ系列とネモ系列とバルバリッチャの吸血鬼系列の合いの子に相当する死霊、黒死撒疾鬼。
全体に回復をばら撒き、ヒュディのヘイトを集めながらデバフを与えて攻撃もしながら逃げ回る。
ノートの召喚できる死霊の中でも、コストと実益の釣り合いに於いてギリギリの強さを誇る死霊で、ポテンシャル自体は上級にも匹敵する凶悪な死霊だ。
それもそのはず、反船でシレッと進化してるバルバリッチャから派生した死霊を元にした死霊だ。弱い訳がない。
反船イベントで活躍した中級死霊・疫病二侵サレシ最下級吸血鬼の上位互換であり、スピリタス達に混じっても遜色ない動きで戦闘をしている。
彼等の動きにはノートが迂闊に中級死霊に頼らない理由が現れていた。
無論、神寵故遺器や極悪御用達原材料自主規制非健康補助超魔剤などあまり使えない手札で強力なブーストがかかってる事が前提の運用ではあるとしても、バランスブレイカーレベルの戦果を挙げている。
死霊術師は本来器用貧乏で采配が難しい職業だ。だが、本体の能力が一気に底上げされてる場合、器用貧乏は万能に昇華される。
突出した一点の才能ではなく、頭の回転の速さを持ってして大量の手札の運用を得意とするノートにとって死霊術師はピッタリなのである。
そう見込んだからこそ、ALLFOは【禁忌書杖・ネクロノミコン】をノートに与えたのだ。
ネクロノミコン“が”、ノートを選んだのだ。
「メギドは…………もう好きに暴れていいぞ」
『Guoooooooooo!!!』
そんな中級死霊達の活躍に見劣りしないどころか、迫力がありすぎて霞ませている奴が1人(?)いた。
今までボス戦でまともに使われてこなかったメギドである。
メイン武器である金属塊の様なハルバードをぶん回すたびにヒュディから激しく紫のポリゴン片が噴き出す。ヒュディのカウンターをスキル併用で大楯ガードで真っ向から受け止め、復讐者の能力で受けたダメージ分だけより凶悪なカウンターを放つ。
今までの鬱憤を晴らす様に猛々しく咆哮してタゲを集め続け、それが結果的にメギド以外の動きを援護していた。
メギドに与えられた仮人格は暴れ狂う獣をコンセプトとしているが、ノート達の指示が理解できる様に完全に獣と化しているわけではない。
メギドはノートの使える手駒の中でも非常に強いが、メインで活躍するのは誰かしらパーティーが予定でログインせずメンバーが欠けている時。強力な火力を持つにも関わらずノートはあくまで穴埋めやバックアップ要員としてメギドを運用していた。
理由は多々あるが、最大の理由は万が一メギドを失った時に再召喚に必要なコストが莫大だからだ。
メギドはリソースがリソースなだけに復活させようとすると中級死霊でもリソースお化けみたいな奴が複数召喚できるレベルの贄を求められるし、ノート自身もランクが下がったりと様々な代償を払う事になる。特にランクダウンなどのデメリットはあまりに大きな代償なだけにノートを躊躇わせた。
しかし、メギドという存在は雑魚を殴ったり露払いをしたりするのでは無く、格上に挑むこそが本望なのである。仮人格はノートの運用方法に歯痒さを感じていた。
そしてその“思い”は、“願い”は、力となる。メギドの願いに“彼女”は応えて最適な形へと進化を促した。
即ちより丈夫で、何があろうとも簡単に死なない様に。狂った様に生を渇望し、彼は進化をすると同時に生存の為の新たな能力を得る。
【狂霊の残滓】、事前に魂を溜め込む事で生命力の上昇やダメージを軽減し、【絶対敢遂・狂繋】でノートとのリンクを強化して復活時のコストを下げる。
ノートにもっと使って欲しくて、もっと闘いたくて、それを叶える為の存在にメギドは進化した。
——————だというのに、黒騎士戦では不甲斐ない結果を残した。
彼に難しい道理は分からない。そういう存在なのだ。結果的にノート達を護ったが、護るつもりで戦ったつもりは微塵も無いのだ。
生きる事に狂い、殺す事に狂い、復讐する為に生きていた。
彼の最も重要な核を形成していた『狂武乱双斧』に息づいていた『復讐』の意が彼を戦闘へと駆り立てていた。
ノートとユリンが野盗狩りをした時に得たこの武器は呪われている。取り憑かれた様に狂乱する暴力の塊に呪われていた。
ノート達は既に知る手立ても無いし忘れているが、その在り方は最近ノート達を壊滅にまで追い込んだとある騎士に似ていた。
『狂武乱双斧』など、深霊禁山などの周辺に出没する敵性MOBが装備している呪われた特殊アイテムを教会に持ち込む事がアラクネ・ラミアの巣の正規攻略ルートのスタートなどとノート達は永久に知る事はない。
その武具は共通してとある騎士の呪いの余波を受けて歪んだ物だったなどと現段階では理解できるはずもない。
メギドの本質は“オリジナル”同様に戦闘特化。ノートに従い主人の仲間を護ったが、彼にとってはどうでもいい事なのだ。黒騎士に一矢報いる事が出来なかった事が何より悔しかった。
その鬱憤を晴らす様にメギドは暴れ狂い、遂に覚醒ヒュディが大きな悲鳴を上げた。
◆
覚醒ヒュディが絶叫しながら滅茶苦茶に暴れ回り前衛組を跳ね除け、星の様に煌めく弾丸を周囲に乱発する。
余裕が無いのはヒュディも同じ。ヒュディとノートの視線が合う。
切り刻まれ、穿たれたヒュディの全身から紫のポリゴン片が舞い散り桜吹雪の様に輝く。
ノートから赤いポリゴン片が吸い出され背後の赤い月がいよいよ不気味な輝きを放ち始める。
赤い月の加護はヒュディにとっては猛毒。でなければ簡単にダメージを負う様な性能はしていない。
殺さなければ。自らを傷付けるに能う加護を持つ者を殺さなければ。
本能が理性を上回り、ヒュディは制限された思考レベルを超えてノートを標的と見定める。
【流落散輝】
ヒュディの持つ宇宙を固めた様な平剣の星々が発光する。ただの飾りかと思われた羽根を羽ばたかせて遂に大きく跳躍する。
その巨体が空まで達すると同時にその身は流星の様に輝き、そのままノートの元へ堕ちた。
自分の命を燃やし攻撃に全リソースを割く一点集中型のヒュディの超大技。
鎌鼬やヌコォが発砲してもネオンが魔法を放ってもスーパーアーマー機能付きなのか全くダメージを受けた様子がない。キャンセル不可、対象を何があろうとも殺さんとする凶悪極まりない能力を前にノートは笑った。
この程度は慣れている。
PKプレイヤーをやってると、もっと理不尽な運営操作のNPCに蹂躙される事だってあるのだ。スーパーアーマーどころか、物理攻撃無効や反射、クールタイム無視に連続転移。挙げていけばキリがない。
「(よう、泣き虫の木偶の棒。お互いチート持ちだ。仲良くしようぜ)」
————————お前も俺も開発のオモチャでしかない。だがそんなの悔しいだろう。オモチャのままでいるのはつまらないだろう。抗がって勝ち誇りたかっただろう。
残念だったなぁ。お前は狙いが分かり易すぎる。
「ツッキー」
『物使いが荒いでごぜぇますねぇ!』
中級死霊の召喚を全キャンセル。とある魔法を代わりに発動し、残りの全リソースをツッキーへ。自分の命と引き換えにツッキーの強化を前衛組へと回し、思い切り空へ向けて旗を投擲する。
『ちょっ、雑ゥ!?』
これで時間切れ。視界が全てひっくり返る程の衝撃が襲いノートの身体は砕け散る。しかし、旗の加護は消えない。ノートは旗の使い手だが、誰かが引き継げばノートが与えた分だけのリソースは残る。
『祭り拍子』という枠で見るならば、ノート自身ですらも手札の一枚でしかない。その手札と引き換えに、凶悪な魔法がヒュディを襲う。
【秘到外道魔法:死奈場諸共】
死霊術師として与えられた外道魔法シリーズの1つ。自らを殺めた対象を共に死の世界へ誘う害悪性能魔法だ。
この魔法は自爆魔法で、発動した瞬間にノート自身はゴーストになり一切の攻撃を封じられる。その代わりに自分自身が討たれる事で強烈なカウンターを発動する。
発動条件は魔法の対象から一定以上のダメージを受けていて、自分自身も相手に一定以上ダメージを与えていて、尚且つ自分自身が瀕死である事。
そして、自分が最もヘイトを集めている事。
緩いようで面倒な発動条件を持つ魔法。ヘイト率は数値で可視化できないので誤爆の恐れもある魔法だ。
だが、ヒュディは安直にノートをマークし、馬鹿正直に真っ直ぐノートを殺しにきた、それもフェイクの疑いもない大技で。
——————大技中のスーパーアーマーは怖い。だが、技が発動してスーパーアーマーが解除された後のお前はどうなる?
ノートが必ずしも生きてる必要はない。『祭り拍子』の勝利がノートの勝利だ。その条件がヒュディとは根本から違う。
霞む視界の中でノートから噴き出した大量の死霊の魂が平剣を振り下ろしたヒュディに纏わりつく。一時的全パラメータダウンと硬直、HPへの直接ダメージ。
ノートの投擲した旗を空中でキャッチした堕天使が一筋の黒の閃光となり、旗の槍でヒュディの頭をブチ抜いた。
特攻効果を持つ武器による致命的一撃。グラリと揺らぐ身体。堕天使は空中で縦回転し地面へ垂直に。
ネオンのバフが飛び、堕天使は稲妻のエフェクトを纏うと旗諸共落雷の様に脳天へ突撃し身体を穿つ。
大爆発を起こした大量の紫色のポリゴン片がフィールドを満たし、細かくなったカケラが霞の様になる。
それはまるで、星が崩壊した後に広がる星雲のようで、思わずユリン達は見惚れる。
斯くして、日本サーバー第一シナリオボス雲泥のヒュディは『祭り拍子』が最速撃破を達成する事となった。
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メギド解説
質問返しより抜粋
Q14:メギドは(召喚に)脳みそを三つしか使っていないのに四つの頭に個性があるのはどうしてなのでしょうか?
A14:メギドが(全略)を生み出す原因になっています。
(更に更に、ここだけの話、本来『犯罪傭兵ギージャ』は“ユニーククエスト”持ちのかなり特殊なNPCで、再戦可能なNPC“でした”。彼は盗賊側に常に付き、負けそうになると撤退。盗賊討伐を繰り返すと何度も出会いフラグが立つと正式に決闘を申し込まれます。
そして彼を撃破すると、彼はあの呪われた斧から解放されます。
その呪われた斧を教会に持ち込み、必要な素材を集め解呪してもらうことで強力な武器に生まれ変わり、それがプレイヤーの報酬となる…………というユニーククエストだったのですが、あまりにもユリンが強かったのでまさかの初戦敗退。
ノートはそんなこと知りもせずに強力な能力を封印しているその斧を召喚に使っちゃったわけです。斧のレアリティがやたら高かったのはこれのせい。メギドがやたら強いのも大体こいつのせい。斧そのものが一つの疑似人格的な物をもともと持っており、それが4つ目の頭の生成を決定づけました。)
メギドの核となった『狂武乱双斧』の持ち主である『犯罪傭兵ギージャ』(No.18登場)は深霊禁山に拠点を構える野盗に味方する特殊な固有NPCであり、重要なクエストのキーマンでもあります。
『狂武乱双斧』は言わば妖刀。ギージャは斧に憑いている意思に呪われており凶暴化しています。
そのギージャと複数回戦闘し『狂武乱双斧』を認めさせる事ができると、呪いが解かれたギージャから『狂武乱双斧』を譲られます。
この『狂武乱双斧』を教会に持ち込む事で発生するユニーククエストを進める&バウンティーハンター関連のクエストを進めている事で漸く『アラクネ・ラミアの巣』及び『赤月の都』への門の解放攻略へのフラグが立ちます。(これが正規ルート。実はバウンティーハンター関連のユニーククエストです)
因みにギージャ以外にもこれら鍵となる特殊な武器を持つ固有NPCが深霊禁山周辺にいます、が、深霊禁山周辺で野盗狩りした時にノート達が知らずに回収した&メギドの進化に使われてるという………
メギドがやたら強かったり黒騎士特攻持ちだったりしたのはそういう事です。
(<●>三<●>) ┌┛ボッ
あぶねー………100万文字いく前にシナリオ一章ボスを殺せたぜ




